靴も指輪も合わなくなった―先端巨大症で「上がる」ホルモンはどれか
第120回医師国家試験 A問題 第35問
国試問題にチャレンジ
54歳の男性。口腔内の違和感を主訴に来院した。2年前から口唇の肥厚と下顎の突出を自覚し,その後,靴のサイズが約1cm大きくなり,指輪が外れなくなった。既往歴に高血圧症があり内服治療中である。また,睡眠時無呼吸症候群で通院中である。意識は清明。身長162cm,体重72kg。体温36.5℃。脈拍96/分,整。血圧120/90mmHg。矯正視力は右1.5左0.2。顔面は,眉弓突出,口唇肥大および下顎突出を認め,口腔内は舌の腫大を認める。血液所見:赤血球366万,白血球4,200,血小板20万。血液生化学所見:総蛋白7.6g/dL,アルブミン4.4g/dL,総ビリルビン0.6mg/dL,AST 18U/L,ALT 15U/L,尿素窒素22mg/dL,クレアチニン0.7mg/dL,空腹時血糖111mg/dL,HbA1c 6.3%(基準4.9~6.0),Na 140mEq/L,K 4.1mEq/L,Cl 104mEq/L。頭部造影MRIのT1強調矢状断像(A)と頭部単純MRIのT2強調冠状断像(B)とを下に示す。 この患者の内分泌検査所見で異常高値を認めるのはどれか。

- a.ACTH
- b.FT3
- c.インスリン様成長因子-Ⅰ〈IGF-Ⅰ〉
- d.LH
- e.TSH
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
眉弓突出・口唇肥大・下顎突出・巨大舌、靴や指輪のサイズ変化といった末端肥大の徴候に、高血圧・耐糖能異常・睡眠時無呼吸が加わり、下垂体マクロアデノーマを認めれば、成長ホルモン産生下垂体腺腫による先端巨大症を考えます。成長ホルモンは脈動的に分泌されるため単回測定では評価しにくい一方、その作用を仲介するIGF-Ⅰは血中濃度が安定しており、先端巨大症では年齢・性別の基準を超えて異常高値を示します。腫瘍が産生しないACTH・TSH・LHは上昇せず、むしろ大きな腺腫による正常下垂体の圧迫で低下しうること、特にゴナドトロピンが早期に障害されやすいことも重要です。確定診断の補助には75g経口ブドウ糖負荷試験で成長ホルモンが抑制されないことを確認し、治療は経蝶形骨洞手術が第一選択、効果判定にはIGF-Ⅰを用います。「腫瘍が作るホルモンは上がり、圧迫されたホルモンは下がる」という考え方は、下垂体腫瘍全般を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・54歳男性。2年前から口唇の肥厚・下顎の突出を自覚し、靴のサイズが約1cm大きくなり、指輪が外れなくなった。いずれも骨・軟部組織が徐々に肥大していることを示し、手足の末端肥大を本人や家族が気づく典型的なエピソードである。 ・身体所見:眉弓突出、口唇肥大、下顎突出、巨大舌。先端巨大症に特徴的な顔貌(末端肥大様顔貌)である。主訴の「口腔内の違和感」も巨大舌や咬合不全(下顎突出による噛み合わせのずれ)で説明できる。 ・合併症:高血圧症、睡眠時無呼吸症候群(舌・咽頭軟部組織の肥大による上気道狭窄が主な原因)、耐糖能異常(空腹時血糖111mg/dL:空腹時血糖異常の範囲、HbA1c 6.3%:糖尿病の診断基準6.5%には満たない境界域)。いずれも成長ホルモン(GH)過剰でよくみられる合併症である。 ・視力:矯正視力が左0.2と左眼のみ低下している。下垂体腫瘍が上方に進展して視神経・視交叉を圧迫している可能性を考える。 ・画像:造影T1強調矢状断像(A)ではトルコ鞍内から鞍上部へ伸びる腫瘤を認め、T2強調冠状断像(B)でもトルコ鞍から鞍上部へ進展する腫瘤があり、内部に嚢胞変性とみられる高信号域を伴う。視交叉・視神経の圧迫が疑われる下垂体腫瘍(マクロアデノーマ、すなわち最大径10mm以上の腺腫)の所見である。
診断
特徴的な身体所見、GH過剰に伴う合併症、下垂体腫瘍の存在から、GH産生下垂体腺腫による先端巨大症と診断できる。現在の分類では下垂体腺腫は「下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)」とも呼ばれる。
設問の考え方
GHは主に肝臓に作用してインスリン様成長因子-Ⅰ(IGF-Ⅰ)を産生させ、組織の成長作用の多くはIGF-Ⅰを介して発揮される。GHは脈動的に分泌され、1回の測定では評価しにくいのに対し、IGF-Ⅰは血中濃度が安定しており、GHの過剰分泌を反映して持続的に高値となる。したがって先端巨大症では、IGF-Ⅰが年齢・性別の基準範囲を超えて異常高値を示す。他の下垂体ホルモンは、腫瘍が特に産生しない限り上昇せず、むしろ大きな腺腫による正常下垂体の圧迫で低下することがある点を押さえておく。
選択肢考察
- ×a. ACTH
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が高値となるのは、ACTH産生下垂体腺腫によるCushing病、異所性ACTH症候群、原発性副腎不全(Addison病)などである。本症例は満月様顔貌・中心性肥満・皮膚線条などのコルチゾール過剰の徴候を認めず、下垂体腫瘍はGH産生性と考えられるため、ACTHの異常高値は考えにくい。むしろマクロアデノーマの圧迫によって分泌が低下する可能性がある。
- ×b. FT3
遊離トリヨードサイロニン(FT3)が高値となるのは、Basedow病などの甲状腺中毒症や、まれなTSH産生下垂体腺腫である。先端巨大症ではGH過剰そのものによってFT3が上昇することはない。本症例には体重減少・発汗過多・振戦などの甲状腺中毒症状もなく、異常高値は考えにくい。
- ○c. インスリン様成長因子-Ⅰ〈IGF-Ⅰ〉
GH産生下垂体腺腫から過剰に分泌されたGHが肝臓などでのIGF-Ⅰ産生を促すため、先端巨大症では血中IGF-Ⅰが年齢・性別の基準範囲を超えて持続的に高値となる。骨・軟部組織の肥大や巨大舌、耐糖能異常などの症状はGHとIGF-Ⅰの過剰によるものである。IGF-Ⅰは日内変動が小さく、スクリーニング・確定診断の補助・治療効果判定(病勢の指標)のいずれにも用いられる。
- ×d. LH
黄体形成ホルモン(LH)は先端巨大症で上昇するホルモンではない。むしろマクロアデノーマが正常下垂体を圧迫すると、ゴナドトロピン(LH・FSH)は下垂体前葉ホルモンの中でも早期に分泌が低下しやすく、男性では性欲低下や勃起障害、女性では月経異常の原因となる。また、GH産生腺腫はプロラクチンを同時に産生することがあり、高プロラクチン血症もLH分泌を抑制する。
- ×e. TSH
甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高値となる代表は、原発性甲状腺機能低下症(橋本病など)であり、まれにTSH産生下垂体腺腫でも高値〜不適切に正常となる。先端巨大症ではTSHは上昇せず、マクロアデノーマによる下垂体機能低下があればむしろ低下しうる(中枢性甲状腺機能低下症)。
先端巨大症の概要
・原因:ほとんどがGH産生下垂体腺腫である。骨端線が閉じる前に発症すると高身長を主体とする下垂体性巨人症、閉鎖後に発症すると先端巨大症となる。 ・症状(GH・IGF-Ⅰ過剰によるもの):手足の容積増大、眉弓部の突出、鼻・口唇の肥大、下顎の突出(咬合不全)、巨大舌、発汗過多、頭痛、手根管症候群、関節痛、皮膚の肥厚など。 ・合併症:高血圧、耐糖能異常・糖尿病(GHはインスリン抵抗性を高める)、睡眠時無呼吸症候群、脂質異常症、心肥大・心筋症、大腸ポリープ・大腸癌など。生命予後を規定するのは主に心血管系合併症である。 ・腫瘍による局所症状:上方進展による視交叉圧迫で両耳側半盲が典型だが、腫瘍の位置によって本症例のように一側の視神経を圧迫し片眼の視力低下をきたすこともある。頭痛、正常下垂体の圧迫による下垂体機能低下症を伴うこともある。
診断のための内分泌検査
・血中IGF-Ⅰ:年齢・性別の基準範囲を超えて高値。 ・75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT):健常者では血糖上昇によりGHが抑制されるが、先端巨大症ではGHが十分に抑制されない(GH底値が基準値未満まで下がらない)。 ・TRH試験などでのGHの奇異性上昇、ドパミン作動薬投与によるGHの奇異性低下がみられることがある。 ・プロラクチンの同時測定(GH・プロラクチン同時産生腺腫の有無)、下垂体前葉機能の評価も行う。 ・画像:下垂体MRIで腺腫を確認する。
治療
・第一選択は経蝶形骨洞手術(内視鏡下経鼻手術を含む)による腺腫摘出。 ・手術で寛解しない場合や手術困難例では薬物療法:ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチド、パシレオチド)、GH受容体拮抗薬(ペグビソマント)、ドパミン作動薬(カベルゴリン)。 ・必要に応じて放射線治療(定位放射線照射など)。 ・治療効果は血中IGF-Ⅰの正常化とGH値の低下で評価する。
GH-IGF-Ⅰ系の基本
視床下部のGHRH(成長ホルモン放出ホルモン)がGH分泌を促進し、ソマトスタチンが抑制する。GHは肝臓でIGF-Ⅰ産生を促し、IGF-Ⅰは下垂体・視床下部に負のフィードバックをかける。GH自体は脂肪分解促進・抗インスリン作用(血糖上昇)を示す。
POINT
・先端巨大症:眉弓突出・口唇肥大・下顎突出・巨大舌、手足の肥大(靴・指輪のサイズが合わなくなる)が典型。 ・合併症:高血圧、耐糖能異常、睡眠時無呼吸症候群、心疾患、大腸腫瘍。 ・内分泌検査ではIGF-Ⅰが異常高値、75gOGTTでGHが抑制されない。IGF-Ⅰは変動が小さく、診断と治療効果判定に用いる。 ・マクロアデノーマでは他の下垂体前葉ホルモン(特にLH・FSH)は低下しうるが、上昇はしない。 ・治療の第一選択は経蝶形骨洞手術、次いでソマトスタチンアナログなどの薬物療法。
