沈黙の臓器に潜む最難関の癌―膵癌の疫学を「頭」から整理する
第104回医師国家試験 D問題 第18問
国試問題にチャレンジ
膵癌について正しいのはどれか。
- a.女性に多い。
- b.膵頭部に多い。
- c.肝癌よりも予後が良い。
- d.罹患率が低下している。
- e.ウイルス感染と関連が深い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
膵癌の大部分は浸潤性膵管癌で、やや男性・高齢者に多く、好発部位は膵頭部(6割以上)であるため閉塞性黄疸やCourvoisier徴候を来しやすいのが特徴です。早期発見が難しく切除可能例が少ないことから、5年生存率は約1割と主要な固形癌の中で最も予後不良であり、肝細胞癌よりも予後は悪いとされます。日本では罹患数・死亡数ともに増加が続いており、胃癌や肝癌の年齢調整罹患率が低下しているのとは対照的です。危険因子は喫煙、家族歴、糖尿病、慢性膵炎、IPMN、肥満などで、ウイルス感染が深く関わる肝細胞癌とは区別して覚える必要があります。疫学の各軸を他の癌と対比しながら整理することは、国試対策だけでなく、糖尿病の新規発症や膵管拡張といった早期発見のサインに気づく臨床力にもつながります。
解答・解説
正解はbです
膵癌の疫学・好発部位・予後・危険因子に関する基本問題である。ここでいう膵癌は、膵癌の大部分(約9割)を占める浸潤性膵管癌(膵管上皮から発生する腺癌)を指すと考えてよい。 押さえるべき骨格は次のとおりである。 ・性差:やや男性に多い。 ・年齢:高齢者に多く、60〜70歳代が中心。 ・部位:膵頭部が最も多い。 ・動向:日本では罹患数・死亡数ともに増加が続いている。 ・予後:早期発見が難しく、診断時に切除不能であることが多いため、主要な固形癌の中で最も予後不良である。 ・危険因子:喫煙、膵癌の家族歴、糖尿病、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、肥満など。肝癌とは異なり、肝炎ウイルスのようなウイルス感染は主要な危険因子ではない。 この骨格に照らすと、「膵頭部に多い」が正しい記述であり、正解はbである。
選択肢考察
- ×a. 女性に多い。
膵癌はやや男性に多い(男女比はおおむね1.1〜1.3:1程度)。差は大きくないが、「女性に多い」は誤りである。男性に多い背景の一つとして、主要な危険因子である喫煙の頻度が男性で高いことが挙げられる。なお、女性に比較的多い膵腫瘍としては、中年女性に好発する粘液性嚢胞腫瘍(MCN)や、若年女性に多い充実性偽乳頭状腫瘍(SPN)があり、通常の膵管癌と区別して覚えておくとよい。
- ○b. 膵頭部に多い。
膵癌の発生部位は膵頭部が最も多く、全体の約6割以上を占め、体尾部がそれに続く。膵頭部には総胆管の下部が貫通しているため、膵頭部癌では胆管が閉塞して閉塞性黄疸を来しやすい。胆嚢が腫大して無痛性に触知される所見(Courvoisier徴候)も膵頭部癌を示唆する。一方、体尾部癌は黄疸などの早期症状に乏しく、腹痛・背部痛で見つかるころには進行していることが多い。
- ×c. 肝癌よりも予後が良い。
膵癌は消化器癌の中でも最も予後不良な癌であり、5年相対生存率は約1割にとどまる。肝癌(肝細胞癌)の5年生存率は膵癌より明らかに高く、「肝癌よりも予後が良い」は誤りである。膵癌の予後が悪い理由として、①早期には症状が乏しく、見つかった時点で遠隔転移や主要血管への浸潤があり切除できない例が多い(切除可能例は2〜3割程度)、②周囲の神経・リンパ管・血管に浸潤しやすい、③切除後も再発が多い、④抗癌薬や放射線への反応が乏しい、などが挙げられる。
- ×d. 罹患率が低下している。
日本では膵癌の罹患数・死亡数はいずれも増加傾向が続いている。高齢化の影響に加え、年齢調整をしても増加傾向にある。膵癌は罹患数と死亡数の差が小さく、死亡数では肺癌・大腸癌・胃癌と並ぶ上位の癌となっている。したがって「低下している」は誤りである。これに対して、胃癌や肝癌は年齢調整罹患率が低下傾向にある。
- ×e. ウイルス感染と関連が深い。
ウイルス感染と深く関連するのは肝細胞癌(B型・C型肝炎ウイルス)であり、膵癌ではウイルス感染は主要な危険因子とはされていない。膵癌の危険因子として確立しているのは、喫煙、膵癌の家族歴、遺伝性症候群(遺伝性乳癌卵巣癌症候群〈BRCA1/2〉、Peutz-Jeghers症候群、遺伝性膵炎、Lynch症候群など)、糖尿病、慢性膵炎、IPMN、膵嚢胞、肥満、大量飲酒などである。ウイルス感染が関わる癌の例としては、肝細胞癌のほか、子宮頸癌(ヒトパピローマウイルス)、成人T細胞白血病(HTLV-1)、上咽頭癌やBurkittリンパ腫(EBウイルス)がある。
膵癌の病理
膵臓の悪性腫瘍の大部分は膵管上皮由来の浸潤性膵管癌(腺癌)である。そのほか、膵神経内分泌腫瘍、腺房細胞癌、IPMN由来の浸潤癌などがある。遺伝子変化としてはKRAS遺伝子変異がほぼ全例にみられ、CDKN2A、TP53、SMAD4の異常も高頻度である。
症状
早期は無症状のことが多い。進行すると腹痛、背部痛(腹腔神経叢への浸潤による)、体重減少、黄疸(膵頭部癌)などが出現する。糖尿病の新規発症や急な悪化が膵癌発見のきっかけとなることがある。
検査
・血液:腫瘍マーカーCA19-9が代表的だが、早期では陽性率が低く、閉塞性黄疸や良性疾患でも上昇するため、スクリーニングには不十分である。CEA、DUPAN-2、SPan-1なども用いられる。 ・画像:腹部超音波検査で主膵管拡張や膵嚢胞などの間接所見を拾い上げ、造影CT(乏血性腫瘤として描出)、MRI/MRCP、超音波内視鏡(EUS)で精査する。病理診断にはEUS下穿刺吸引(EUS-FNA)が用いられる。
治療
根治が期待できるのは外科切除のみである。膵頭部癌には膵頭十二指腸切除術、体尾部癌には膵体尾部切除術が行われ、術後は補助化学療法(S-1など)を行う。切除可能性は主要動脈(腹腔動脈、上腸間膜動脈、総肝動脈)や門脈への浸潤の程度で判定される。切除不能例では化学療法(FOLFIRINOX療法、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法など)や化学放射線療法を行い、閉塞性黄疸には胆道ステント留置で対処する。
POINT
・膵癌はやや男性に多く、高齢者に多い。 ・好発部位は膵頭部(約6割以上)→閉塞性黄疸、Courvoisier徴候。 ・罹患数・死亡数とも増加傾向。 ・5年生存率は約1割で、消化器癌の中で最も予後不良(肝癌より悪い)。 ・危険因子は喫煙、家族歴、糖尿病、慢性膵炎、IPMN、肥満など。ウイルス感染は主要な危険因子ではない(ウイルスと関連が深いのは肝細胞癌)。
