StudyMed医師国家試験

「どこから始まり、どこへ着くか」―胸部解剖を立体的に組み立て直す

第104回医師国家試験 B問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第8問

胸部の解剖について正しいのはどれか。

  1. a.大胸筋は上腕骨に付着する。
  2. b.奇静脈は腕頭静脈に流入する。
  3. c.縦隔上縁は鎖骨で形成される。
  4. d.横隔膜の辺縁部は腱膜である。
  5. e.肋骨は背側で肋軟骨に移行する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胸部の肉眼解剖の基本を横断的に問う問題だ。筋、静脈、縦隔、横隔膜、肋骨と対象はばらばらだけど、共通する着眼点は「どこから起こってどこに着くのか」「どちらが前でどちらが後ろか、どこが筋でどこが腱か」という位置関係を正確にイメージできるかどうか。順に組み立てていこう。まずは大胸筋から。どこから起こる筋だったかな。
医学生医学生
解剖実習で剖出しました。鎖骨と胸骨、肋軟骨のあたりから扇形に広がっていた記憶があります。
ドクタードクター
そうだね。鎖骨の内側半分から起こる鎖骨部、胸骨前面と上位の肋軟骨付近から起こる胸肋部、そして腹直筋鞘前葉から起こる腹部の3つに分けられる。それらの線維が集まって腋窩の前壁、いわゆる前腋窩ヒダをつくり、どこに停止する?
医学生医学生
腕を動かす筋なので、上腕骨ですよね。
ドクタードクター
正解。上腕骨の大結節稜に停止する。だから肩関節の内転・内旋、そして屈曲に働くんだ。支配神経は内側・外側胸筋神経。これが今回の正しい記述だよ。
医学生医学生
次の奇静脈は、腕頭静脈に注ぐと言われると、なんとなくそんな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが狙われるポイントだね。奇静脈は胸椎の右前方を上行して右の肋間静脈などを集め、第4胸椎の高さで右主気管支の上を後ろから前へ弓のように乗り越えて、上大静脈の後面に流入する。これが奇静脈弓だ。腕頭静脈ではない。
医学生医学生
では、腕頭静脈に注ぐ静脈と混同しているんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だ。左上肋間静脈は左腕頭静脈に注ぐので、これと取り違えやすい。ちなみに左側の肋間静脈は半奇静脈と副半奇静脈が集めて、胸椎の前を横切って奇静脈に合流する。奇静脈系は上大静脈と下大静脈をつなぐ側副路にもなるから、下大静脈が閉塞したときには重要な迂回路になるんだ。
医学生医学生
縦隔の上縁は鎖骨、というのはどうでしょう。体表から触れると、鎖骨の高さが首と胸の境目に感じます。
ドクタードクター
体表の感覚としては自然だけど、解剖学的には違う。縦隔の上縁は胸郭上口で、後ろは第1胸椎、左右は第1肋骨、前は胸骨柄の上縁で囲まれる面だ。鎖骨は胸郭の外にあって、胸骨柄と肩甲骨をつなぐ骨だから、縦隔の境界には入らない。ちなみに縦隔の下縁は横隔膜、左右は縦隔胸膜、前は胸骨、後ろは胸椎だよ。
医学生医学生
横隔膜の辺縁部が腱膜、という記述は逆な気がします。真ん中が腱中心ですよね。
ドクタードクター
その通り。横隔膜は周辺が骨格筋の筋性部、中央が三つ葉状の腱中心だ。筋性部は起始によって、剣状突起後面から起こる胸骨部、下位の肋軟骨・肋骨内面から起こる肋骨部、腰椎前面から脚として起こる腰椎部に分けられ、全部が中央の腱中心に集まる。周りの筋が縮むと腱中心が引き下げられて、胸腔が広がるわけだ。
医学生医学生
筋は周りから引っ張る側、腱は引っ張られる側、と考えると覚えやすいですね。最後の肋骨も、背側と腹側が逆になっていませんか。
ドクタードクター
よく気づいたね。肋骨は背側で胸椎と関節し、肋骨頭は椎体と、肋骨結節は横突起と関節する。そして腹側で肋軟骨に移行する。第1〜7肋骨は肋軟骨を介して直接胸骨に結合する真肋、第8〜10肋骨は上位の肋軟骨に連なって肋骨弓をつくる仮肋、第11・12肋骨は前端が遊離した浮遊肋だ。
医学生医学生
臨床実習で胸腔ドレーンの挿入を見学したとき、指導医の先生が胸骨角から肋骨を数えていました。
ドクタードクター
いいところを見ていたね。胸骨柄と胸骨体の結合部である胸骨角は第2肋軟骨の付着部に一致するから、肋骨や肋間を数える目印になる。ドレーンや胸腔穿刺では、肋間動静脈と神経が肋骨下縁を走るので、肋骨上縁に沿って刺入するのが原則だ。解剖の知識がそのまま手技の安全につながるんだよ。
医学生医学生
横隔膜にも大事な孔がありましたよね。
ドクタードクター
そう、発展として押さえておこう。目安として、第8胸椎の高さで腱中心を貫く大静脈孔、第10胸椎の高さで右脚に囲まれる食道裂孔、第12胸椎の高さの大動脈裂孔がある。大動脈裂孔には胸管も通る。横隔膜の運動を支配するのは横隔神経で、C3〜C5由来だから、頸髄損傷のレベルによっては自発呼吸に影響が出ることも覚えておきたいね。

まとめ

胸部解剖では、各構造の起始・停止や流入先、前後や筋と腱の位置関係を立体的に理解することが重要です。大胸筋は鎖骨・胸骨・肋軟骨・腹直筋鞘から起こり、腋窩前壁をつくって上腕骨大結節稜に停止します。奇静脈は右主気管支をまたぐ奇静脈弓を経て上大静脈に注ぎ、縦隔上縁は第1胸椎・第1肋骨・胸骨柄上縁からなる胸郭上口で鎖骨は含まれません。横隔膜は辺縁が筋性部、中央が腱中心であり、肋骨は背側で胸椎と関節し腹側で肋軟骨に移行します。こうした基本構造の理解は、胸骨角を目印にした肋間の同定や胸腔ドレーン挿入など、臨床手技を安全に行うための土台となります。

解答・解説

正解はaです

胸壁の筋・静脈・縦隔・横隔膜・肋骨という、胸部の肉眼解剖の基本事項を横断的に問う問題である。 解くうえでは、各構造の「どこから始まりどこへ着くか(起始・停止、流入先)」と「どこが筋でどこが腱か、どちらが前でどちらが後ろか」という位置関係を正確にイメージできるかが鍵となる。 ・大胸筋:胸郭前面から起こり、腋窩の前壁をつくって上腕骨に停止する。 ・奇静脈:胸郭後壁を上行し、右主気管支の上をまたいで上大静脈に注ぐ。 ・縦隔上縁:胸郭上口(第1胸椎・第1肋骨・胸骨柄上縁)で頸部と境される。 ・横隔膜:中央が腱中心、周辺が筋性部。 ・肋骨:後方で胸椎と関節し、前方で肋軟骨に移行する。 これらを正しく覚えていれば、a のみが正しいと判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  大胸筋は上腕骨に付着する。

    大胸筋は鎖骨部(鎖骨内側半分)、胸肋部(胸骨前面と第1〜6肋軟骨付近)、腹部(腹直筋鞘前葉)から起始し、線維が集まって腋窩の前壁(前腋窩ヒダ)をつくり、上腕骨の大結節稜に停止する。支配神経は内側・外側胸筋神経で、肩関節の内転・内旋および屈曲に働く。停止部が上腕骨であるため、記述は正しい。

  2. ×b.  奇静脈は腕頭静脈に流入する。

    奇静脈は右上行腰静脈と右肋下静脈の合流に始まり、胸椎の右前方を上行して右肋間静脈や半奇静脈・副半奇静脈の血液を集める。第4胸椎の高さで右主気管支(右肺門)の上を後方から前方へ弓状に乗り越え(奇静脈弓)、上大静脈の後面に流入する。腕頭静脈には注がない。なお、左上肋間静脈は左腕頭静脈に注ぐため、これと混同しないようにする。よって誤り。

  3. ×c.  縦隔上縁は鎖骨で形成される。

    縦隔の上縁は胸郭上口であり、後方の第1胸椎、左右の第1肋骨、前方の胸骨柄上縁で囲まれる面で頸部と境される。鎖骨は胸郭の外にあって胸骨柄および肩甲骨と関節する骨であり、縦隔の境界を構成しない。なお縦隔の下縁は横隔膜、左右は縦隔胸膜、前方は胸骨、後方は胸椎である。よって誤り。

  4. ×d.  横隔膜の辺縁部は腱膜である。

    横隔膜は、周辺部が骨格筋(筋性部)で、中央部が腱膜(腱中心)という構造をもつ。筋性部は起始部位によって胸骨部(剣状突起後面)、肋骨部(第7〜12肋軟骨・肋骨内面)、腰椎部(左右の脚として腰椎前面から起こる)に分けられ、いずれの線維も中央の三つ葉状の腱中心に集まって停止する。記述は辺縁と中心が逆である。よって誤り。

  5. ×e.  肋骨は背側で肋軟骨に移行する。

    肋骨は背側(後方)で胸椎と関節し(肋骨頭は椎体と、肋骨結節は横突起と関節する)、腹側(前方)で肋軟骨に移行する。第1〜7肋骨(真肋)は肋軟骨を介して直接胸骨に結合し、第8〜10肋骨(仮肋)は肋軟骨が上位の肋軟骨に連なって肋骨弓をつくり、第11・12肋骨(浮遊肋)は前端が遊離している。背側と腹側が逆であり誤り。

横隔膜の主な孔(高さは目安)

・大静脈孔:第8胸椎の高さ、腱中心を貫く。下大静脈と右横隔神経の枝が通る。 ・食道裂孔:第10胸椎の高さ、筋性部(右脚)に囲まれる。食道と迷走神経幹が通る。 ・大動脈裂孔:第12胸椎の高さ、左右の脚と正中弓状靱帯に囲まれる。大動脈、胸管、奇静脈(ときに)が通る。 横隔膜の運動神経支配は横隔神経(C3〜C5)である。

奇静脈系

右側:奇静脈(右肋間静脈を集め、奇静脈弓を経て上大静脈へ)。 左側:半奇静脈(下部)・副半奇静脈(上部)が左肋間静脈を集め、胸椎前面を横切って奇静脈に注ぐ。 奇静脈系は上大静脈と下大静脈を結ぶ側副路となり、下大静脈閉塞時には重要な迂回路になる。

縦隔の区分

胸骨角と第4・5胸椎間を結ぶ面で上縦隔と下縦隔に分け、下縦隔は心膜を基準に前・中・後縦隔に分ける(従来の解剖学的区分)。

胸郭の骨格

胸椎12個、肋骨12対、胸骨1個からなる。胸骨は胸骨柄・胸骨体・剣状突起に分かれ、胸骨柄と胸骨体の結合部(胸骨角)は第2肋軟骨の付着部に一致し、肋骨を数える目印となる。

POINT

・大胸筋:鎖骨・胸骨・肋軟骨・腹直筋鞘から起こり、上腕骨大結節稜に停止する。 ・奇静脈:右主気管支の上をまたいで上大静脈に注ぐ(腕頭静脈ではない)。 ・縦隔上縁(胸郭上口):第1胸椎・第1肋骨・胸骨柄上縁。鎖骨は含まない。 ・横隔膜:中心が腱中心(腱膜)、辺縁が筋性部。 ・肋骨:背側で胸椎と関節し、腹側で肋軟骨に移行する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。