StudyMed医師国家試験

夏の昼下がり、目がチカチカしたら―光化学オキシダントの正体を「成り立ち」から読み解く

第104回医師国家試験 B問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第7問

光化学オキシダントについて正しいのはどれか。3つ選べ。

  1. a.粘膜刺激作用がある。
  2. b.オゾンが主成分である。
  3. c.冬の早朝に発生しやすい。
  4. d.環境基準が設定されている。
  5. e.大気中の二酸化硫黄から生成される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は大気汚染物質のひとつ、光化学オキシダントの性質を問う問題だ。丸暗記で挑むと混乱しやすいけれど、「何から、どんな条件で、どうやってできるのか」という成り立ちを押さえれば、選択肢はほぼ自動的に判定できる。まずは名前に注目してみよう。「光化学」という言葉から何が想像できるかな。
医学生医学生
光、つまり日光が関わる化学反応でできる物質、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。工場や自動車から出た窒素酸化物と、炭化水素などの揮発性有機化合物が、太陽光の紫外線を受けて反応し、新たに生じる酸化性物質の総称なんだ。排出源から直接出る一次汚染物質ではなく、大気中の反応でできる二次汚染物質だというのが大事なポイントだよ。
医学生医学生
二次汚染物質という言葉は、公衆衛生学の講義で聞いた覚えがあります。でも原料が何だったか、二酸化硫黄だったか二酸化窒素だったか、いつも曖昧になってしまって。
ドクタードクター
そこはよく混同されるところだね。光化学オキシダントの原料は窒素酸化物と炭化水素で、二酸化硫黄は関与しない。二酸化硫黄は石炭や重油など硫黄分を含む燃料の燃焼で出る物質で、四日市ぜんそくや酸性雨の原因として有名だ。「硫黄」と「窒素」を取り違えないようにしよう。
医学生医学生
では、成分としては何が中心なんですか。
ドクタードクター
大部分、一般に9割以上とされるのがオゾンだ。残りはパーオキシアセチルナイトレート、略してPANなどだね。実際の濃度測定でも、オゾンが主な測定対象になっている。だから「オゾンが主成分」という記述は正しい。
医学生医学生
オゾンは強い酸化力がありますよね。だとすると、体には刺激が強そうです。
ドクタードクター
いい推論だ。強い酸化力のせいで、眼の結膜や鼻、咽頭、気道の粘膜を刺激する。光化学スモッグが出た日には、目がチカチカする、涙が出る、のどが痛い、咳が出るといった訴えが増えるし、重いと息苦しさや頭痛を訴えることもある。喘息など呼吸器疾患をもつ人は特に悪化しやすい。だから粘膜刺激作用も正しい。
医学生医学生
小学生のころ、夏に光化学スモッグ注意報が出て校庭で遊べなかったことがあります。冬に出た記憶はないですね。
ドクタードクター
まさにその体験が答えだよ。反応に強い紫外線が必要だから、日射が強く気温が高く、風が弱くて汚染物質がたまりやすい夏の晴れた日中、特に昼過ぎに濃度が上がる。冬の早朝というのは条件が逆なんだ。
医学生医学生
冬の早朝に起こるスモッグもあった気がします。あれは別物ですか。
ドクタードクター
それはロンドン型スモッグだね。石炭燃焼による二酸化硫黄やばいじんが、霧と気温逆転層のもとで地表付近に滞留して起こる。1952年のロンドンでは多数の死者が出た。一方、光化学スモッグは自動車排ガスが主因のロサンゼルス型で、酸化型スモッグとも呼ばれる。ロンドン型は還元型だ。原因物質も季節も時間帯も対照的だから、セットで覚えるといい。
医学生医学生
ということは、二酸化硫黄から生成されるという記述も、冬の早朝という記述も、ロンドン型の特徴を混ぜたひっかけなんですね。
ドクタードクター
鋭いね、その見方で整理できる。最後に法的な位置づけだ。光化学オキシダントには環境基本法に基づく環境基準があって、「1時間値が0.06ppm以下」と定められている。
医学生医学生
基準があるなら、もうだいぶ改善しているんでしょうか。
ドクタードクター
そこが面白いところで、二酸化硫黄や一酸化炭素の環境基準はほぼすべての測定局で達成されているのに、光化学オキシダントの達成率は今も極めて低い。だから大気汚染防止法に基づいて、濃度が高くなると都道府県知事が注意報などを発令し、住民への周知や工場の排出抑制を求める仕組みがあるんだ。正解は粘膜刺激作用、オゾンが主成分、環境基準ありの3つだね。
医学生医学生
環境基準のある物質を整理しておきたいです。CBTのときも、どれが入っていたか迷いました。
ドクタードクター
環境基本法に基づく大気の環境基準は、二酸化硫黄、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、二酸化窒素、光化学オキシダント、そして2009年に追加された微小粒子状物質、いわゆるPM2.5が柱だ。ほかにベンゼンなどの有害大気汚染物質や、別の法律に基づくダイオキシン類にも基準がある。臨床では、夏場に喘息やCOPDの患者さんが急に悪化したとき、注意報の発令状況を確認して外出を控えるよう指導するのも大切な視点だよ。
医学生医学生
検査値だけでなく、その日の大気環境まで想像して問診する、ということですね。
ドクタードクター
その通り。環境と健康を結びつけて考えるのが公衆衛生の醍醐味だよ。

まとめ

光化学オキシダントは、窒素酸化物と炭化水素などの揮発性有機化合物が紫外線を受けて光化学反応を起こし生じる二次汚染物質で、主成分はオゾン(ほかにPANなど)です。強い酸化力により眼や気道の粘膜を刺激し、日射が強く高温・弱風の夏の晴れた日中に発生しやすい点が特徴です。冬の早朝に二酸化硫黄やばいじんが滞留して起こるのはロンドン型スモッグであり、原因物質と発生条件を対比して覚えると混同を防げます。環境基本法に基づく環境基準(1時間値0.06ppm以下)が設定されていますが達成率は極めて低く、注意報が発令される年も続いています。成り立ちから性質を理解しておくと、試験対策だけでなく、呼吸器疾患をもつ患者への生活指導にも役立ちます。

解答・解説

正解はa, b, dです

光化学オキシダントの成因・主成分・発生条件・健康影響・法的規制を問う基本問題である。

光化学オキシダントとは

工場や自動車から大気中に排出された窒素酸化物(NOx)と揮発性有機化合物(VOC、炭化水素類など)が、太陽光に含まれる紫外線を受けて光化学反応を起こし、新たに生じる酸化性物質の総称である。排出源から直接出る「一次汚染物質」ではなく、大気中の反応で生成する「二次汚染物質」である点が特徴である。成分の大部分はオゾン(O3)で、ほかにパーオキシアセチルナイトレート(PAN)などが含まれる。

正解を導く考え方

・原料は NOx と炭化水素であり、二酸化硫黄(SO2)ではない。 ・紫外線が強く、気温が高く、風が弱い夏の晴れた日中(特に昼過ぎ)に濃度が上がる。冬の早朝ではない。 ・強い酸化力によって眼や咽頭の粘膜を刺激する。 ・環境基本法に基づく大気汚染に係る環境基準が定められている。 この4点を押さえれば、a・b・d が正しく、c・e が誤りと判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  粘膜刺激作用がある。

    オゾンをはじめとする光化学オキシダントは強い酸化力をもち、眼の結膜や鼻・咽頭・気道の粘膜を刺激する。そのため光化学スモッグ発生時には、目がチカチカする・涙が出る・のどが痛む・咳が出るといった症状が現れ、重い場合には息苦しさや頭痛を訴えることもある。喘息など呼吸器疾患をもつ人では症状が悪化しやすい。よって正しい。

  2. ○b.  オゾンが主成分である。

    光化学反応で生じる酸化性物質の大部分(9割以上とされる)はオゾンであり、残りはパーオキシアセチルナイトレート(PAN)などである。実際、光化学オキシダントの濃度測定ではオゾンが主な測定対象となっている。よって正しい。

  3. ×c.  冬の早朝に発生しやすい。

    光化学反応には強い紫外線が必要なため、日射が強く気温が高い夏季の晴天で、風が弱く汚染物質が拡散しにくい日の日中(特に昼過ぎ)に濃度が高くなる。冬の早朝に発生しやすいのは、石炭燃焼に由来する二酸化硫黄やばいじんが霧と逆転層のもとで滞留するロンドン型スモッグであり、光化学スモッグ(ロサンゼルス型スモッグ)とは発生条件が異なる。よって誤り。

  4. ○d.  環境基準が設定されている。

    環境基本法に基づく大気汚染に係る環境基準の対象物質の一つであり、「1時間値が0.06ppm以下であること」と定められている。なお、この基準の達成率は現在でも極めて低く、ほとんどの測定局で未達成の状態が続いている。また大気汚染防止法に基づき、濃度が高くなった場合には都道府県知事が光化学オキシダント注意報などを発令し、住民への周知や工場の排出抑制を求める仕組みがある。よって正しい。

  5. ×e.  大気中の二酸化硫黄から生成される。

    光化学オキシダントの原因物質(前駆物質)は窒素酸化物(NOx)と炭化水素類(揮発性有機化合物)である。二酸化硫黄は石炭・重油など硫黄分を含む燃料の燃焼で生じ、四日市ぜんそくの原因となったことや、酸性雨の原因物質であることで知られるが、光化学オキシダントの生成には関与しない。二酸化窒素と取り違えないよう注意する。よって誤り。

二つのスモッグの比較

・ロンドン型スモッグ:主因は石炭燃焼による二酸化硫黄とばいじん。冬の早朝、霧・気温逆転層のもとで発生しやすい。還元型スモッグとも呼ばれる。1952年のロンドンで多数の死者を出した。 ・ロサンゼルス型スモッグ(光化学スモッグ):主因は自動車排ガスなどの窒素酸化物と炭化水素。夏の日中、強い日射・高温・弱風のもとで発生しやすい。酸化型スモッグとも呼ばれる。

大気汚染に係る環境基準の対象物質

環境基本法に基づくもの:二酸化硫黄、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、二酸化窒素、光化学オキシダント、微小粒子状物質(PM2.5、2009年に追加)。さらに有害大気汚染物質としてベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタンにも環境基準がある。 ダイオキシン類対策特別措置法に基づくもの:ダイオキシン類。

一次汚染物質と二次汚染物質

一次汚染物質は発生源から直接排出されるもの(二酸化硫黄、一酸化窒素、一酸化炭素、ばいじんなど)、二次汚染物質は大気中の化学反応で新たに生成されるもの(光化学オキシダント、二次生成粒子など)である。

我が国の状況

二酸化硫黄や一酸化炭素の環境基準はほぼすべての測定局で達成されているが、光化学オキシダントの環境基準達成率は極めて低いままであり、現在も注意報が発令される年がある。

POINT

・光化学オキシダントは NOx と炭化水素が紫外線で反応してできる二次汚染物質で、主成分はオゾン。 ・夏の晴れた日中、高温・弱風時に発生しやすい(冬の早朝はロンドン型スモッグ)。 ・眼・気道の粘膜刺激症状を起こす。 ・環境基準あり(1時間値0.06ppm以下)、ただし達成率は極めて低い。 ・二酸化硫黄は光化学オキシダントの原料ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。