StudyMed医師国家試験

声帯の下、喉ぼとけの下の「くぼみ」―命をつなぐ輪状甲状靱帯穿刺

第104回医師国家試験 B問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第6問

穿刺針による緊急気道確保を行う部位はどれか。

第104回 B問題 第6問の問題画像
  1. a.
  2. b.
  3. c.
  4. d.
  5. e.

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は救急の問題で、頸部前面の図から、穿刺針を使って緊急に気道を確保する部位を選ぶ。考えるポイントは3つ。閉塞を迂回できる高さか、皮膚から気道まで浅いか、危険な構造物が少ないか。まずは図の解剖を上から順に確認しよう。
医学生医学生
一番上の横長の骨が舌骨で、その下の上縁に切れ込みのある大きな軟骨が甲状軟骨、いわゆる喉ぼとけですね。その下に輪状軟骨、さらに気管軟骨が並んでいます。
ドクタードクター
完璧だ。選択肢の位置は、舌骨より上、舌骨と甲状軟骨の間、甲状軟骨と輪状軟骨の間、輪状軟骨より下の気管前面、そして気管の外側、の5か所になる。では、どういう場面でこの手技が必要になると思う?
医学生医学生
気管挿管ができないときでしょうか。
ドクタードクター
そう。特に挿管もできず、バッグバルブマスクでの換気もできない状況をCICV、最近はCICOと呼ぶ。アナフィラキシーや急性喉頭蓋炎、熱傷による気道の浮腫、異物、顔面の高度な外傷などが原因になる。こうした上気道の閉塞は、多くが声門か、それより上で起きるんだ。
医学生医学生
だとすると、閉塞部位よりも肺側、つまり声帯より下で穴を開けないと意味がないということですね。
ドクタードクター
その通り。そこで正解は甲状軟骨と輪状軟骨の間、輪状甲状靱帯の部位だ。輪状甲状膜とも呼ばれる。声帯のすぐ下にあるので閉塞を迂回でき、皮膚の直下で薄い膜があるだけだから浅く、正中には太い血管や甲状腺がほとんどない。
医学生医学生
OSCEの救急の練習で、喉ぼとけから指を下に滑らせて最初に触れるくぼみ、と教わりました。
ドクタードクター
まさにそれが実践での同定法だ。一刻を争う場面では、すぐに触れて見つけられること自体が大きな利点になる。では、舌骨より上の部位はどうかな。
医学生医学生
そこは顎の下、口腔底あたりなので、気道の中に入らない気がします。
ドクタードクター
正解。喉頭や気管の外だから気道に到達しないし、仮に咽頭に届いても声帯より口側だから閉塞を迂回できない。舌骨と甲状軟骨の間も同じ理屈で、甲状舌骨膜のあたりは声帯より上にあたる。しかも上喉頭神経や上喉頭動脈が膜を貫いて走っているから、損傷の危険もあるんだ。
医学生医学生
輪状軟骨より下の気管前面は、気管切開の部位ですよね。気道には確実に入りそうですが、なぜ緊急時には使わないのでしょう。
ドクタードクター
いい疑問だね。気管切開は第2〜3気管軟骨輪の高さで行うのが一般的で、長期の気道管理には向いている。でも前面を甲状腺峡部が覆っていて、皮膚から気管まで深く、出血もしやすい。手技に時間がかかるから、数分を争う場面の第一選択にはならないんだ。
医学生医学生
気管の外側は、そもそも気道に入らないうえに危なそうです。解剖実習で、すぐ横に総頸動脈や内頸静脈があったのを覚えています。
ドクタードクター
よく覚えているね。反回神経や甲状腺の側葉もあるから、正中を外れた穿刺は重大な合併症につながる。だから正中を確実にとらえることが大事なんだ。
医学生医学生
穿刺すれば、それで換気の問題は解決するんですか。
ドクタードクター
そこが臨床で注意すべき点だ。輪状甲状靱帯穿刺は14Gくらいの太い静脈留置針を尾側へ向けて刺し、酸素を送り込む方法で、手技は簡便だ。ただ針が細いので換気、特に呼気の排出が不十分になりやすく、二酸化炭素がたまってくる。だから、より確実な気道確保までの一時的なつなぎと考えておく必要がある。
医学生医学生
もっと確実にするには、メスで切開してチューブを入れる方法でしょうか。
ドクタードクター
そう、輪状甲状靱帯切開だね。穿刺より確実に換気できる。ただし小児、おおむね12歳未満では原則として切開は避け、穿刺を選ぶ。小児では輪状軟骨の部分が気道で最も狭く、損傷すると声門下狭窄を起こしやすいからなんだ。
医学生医学生
成人と小児で選ぶ方法が変わるんですね。解剖の違いがそのまま手技の選択に関わっているのが面白いです。
ドクタードクター
救急の手技は解剖の理解が前提になる。舌骨、甲状舌骨膜、甲状軟骨、輪状甲状靱帯、輪状軟骨、気管軟骨という並びを、自分の首を触って確かめておくといいよ。いざというときに迷わないためにね。

まとめ

挿管もマスク換気もできないCICV(CICO)の状況では、緊急の外科的気道確保が必要になり、穿刺針による気道確保は甲状軟骨と輪状軟骨の間の輪状甲状靱帯(輪状甲状膜)で行います。この部位は声帯のすぐ尾側にあって上気道閉塞を迂回でき、皮膚から浅く触知しやすく、正中に大血管や甲状腺が乏しいことが選ばれる理由です。声帯より口側の舌骨上や甲状舌骨膜では閉塞を解除できず、第2〜3気管軟骨輪で行う気管切開は甲状腺峡部や出血のため時間がかかり、緊急時の第一選択にはなりません。針による穿刺は換気が不十分になりやすい一時的な手段であり、成人では輪状甲状靱帯切開も選択肢ですが、小児では声門下狭窄を避けるため原則として穿刺が選ばれます。頸部正中の解剖を手で確かめて覚えておくことが、救急現場で迷わず気道を確保する力につながります。

解答・解説

正解はcです

本問は、頸部前面の図の中から、穿刺針(太い留置針など)を用いて緊急に気道を確保する部位を選ぶ問題である。

図の読み取り

図では上から順に、下顎の下にある横長の骨が舌骨、その下にある上縁に切れ込み(甲状切痕)をもつ大きな軟骨が甲状軟骨(いわゆる喉ぼとけ)、その下の輪状の軟骨が輪状軟骨、さらにその下に気管軟骨が縦に並んでいる。a は舌骨より上、b は舌骨と甲状軟骨上縁の間付近、c は甲状軟骨と輪状軟骨の間、d は輪状軟骨より下の気管前面、e は気管のやや外側に位置する。

考え方

気道閉塞を解除するには、閉塞部位より末梢(肺側)で、かつ皮膚から気道内腔までが最も浅く、太い血管や甲状腺などの危険な構造物が少ない場所から空気の通り道を作る必要がある。上気道閉塞の多くは声門(声帯)より上か声門部で起こるため、穿刺部位は声帯より尾側でなければならない。 甲状軟骨下縁と輪状軟骨上縁の間に張る輪状甲状靱帯(輪状甲状膜、輪状甲状間膜ともいう)は、声帯のすぐ下に位置し、皮膚直下で触知しやすく、薄い膜で覆われているだけで大血管も乏しい。このため、輪状甲状靱帯穿刺(針輪状甲状膜切開)や輪状甲状靱帯切開が、気管挿管もバッグバルブマスク換気もできない状況(CICV:cannot intubate, cannot ventilate、近年は CICO:cannot intubate, cannot oxygenate とも呼ぶ)での緊急外科的気道確保の第一選択となる。図では c がこの部位に相当する。

選択肢考察

  1. ×a.  

    舌骨より上方、すなわち顎下部・口腔底に相当する部位である。ここは気道(喉頭・気管)の外であり、穿刺しても気道内腔には到達しない。仮に咽頭に達したとしても声帯より口側であるため、声門部の閉塞を迂回できず、緊急気道確保の部位として不適切である。

  2. ×b.  

    舌骨と甲状軟骨の上縁の間、甲状舌骨膜付近の部位である。ここは声帯より口側(頭側)にあり、この高さで穿刺しても喉頭蓋周辺や喉頭前庭に達するだけで、声門部やその上方での閉塞を解除できない。また上喉頭神経や上喉頭動脈が甲状舌骨膜を貫いて走るため損傷の危険もある。したがって不適切である。

  3. ○c.  

    甲状軟骨の下縁と輪状軟骨の上縁の間にある輪状甲状靱帯(輪状甲状膜)の部位である。声帯のすぐ尾側に位置するため上気道閉塞を迂回でき、皮膚から気道内腔までの距離が短く、正中には太い血管や甲状腺がほとんどない。甲状軟骨の隆起から指を下へ滑らせたときに触れる最初のくぼみとして同定しやすい点も、一刻を争う場面で有利である。よって穿刺針による緊急気道確保はこの部位で行う。

  4. ×d.  

    輪状軟骨より下方の気管前面で、第2〜3気管軟骨輪付近に相当する。ここは通常の外科的気管切開を行う部位であり、穿刺針による緊急気道確保の部位ではない。前面を甲状腺峡部が覆い、皮膚から気管までが深く、周囲の血管からの出血も起こりやすいため、短時間で確実に気道へ到達することが求められる緊急時には向かない。

  5. ×e.  

    気管の正中から外れた傍気管部である。この部位を穿刺しても気道内腔には入らず、外側を走る総頸動脈・内頸静脈、反回神経、甲状腺側葉などを損傷する危険がある。緊急気道確保の部位として不適切である。

緊急外科的気道確保の適応

気管挿管の失敗(特にマスク換気も困難な場合)、異物・腫瘍・浮腫(アナフィラキシー、急性喉頭蓋炎、熱傷による気道損傷など)による上気道閉塞、顔面・上気道の高度な外傷で経口・経鼻挿管が困難または禁忌な場合などが挙げられる。

主な方法

・輪状甲状靱帯穿刺(針輪状甲状膜切開):太い静脈留置針(14G 程度など)を輪状甲状靱帯から尾側へ向けて刺入し、酸素を送り込む方法。手技は簡便だが、細い針では換気(特に呼気の排出)が不十分になりやすく、二酸化炭素が蓄積するため、より確実な気道確保までの一時的なつなぎとして位置づけられる。 ・輪状甲状靱帯切開:メスで輪状甲状靱帯を切開し、細い気管チューブなどを挿入する方法。穿刺より確実な換気が可能である。小児(おおむね12歳未満)では輪状軟骨が気道で最も狭く損傷により声門下狭窄を起こしやすいため、切開は原則として避け、穿刺が選択される。 ・気管切開:第2〜3気管軟骨輪の高さで気管を開窓する方法。長期の気道管理に適するが、手技に時間を要し出血のリスクもあるため、一刻を争う場面では第一選択とならない。

頸部正中の解剖(上から順に)

舌骨 → 甲状舌骨膜 → 甲状軟骨(内部に声帯)→ 輪状甲状靱帯 → 輪状軟骨 → 気管軟骨(第2〜4輪付近の前面を甲状腺峡部が覆う)。

POINT

・穿刺針による緊急気道確保は、甲状軟骨と輪状軟骨の間の輪状甲状靱帯(輪状甲状膜)で行う。 ・理由:声帯より尾側、皮膚から浅く触知しやすい、大血管・甲状腺が少ない。 ・外科的気管切開は第2〜3気管軟骨輪の高さで行う(緊急時の第一選択ではない)。 ・声帯より口側(舌骨上、甲状舌骨膜)や正中から外れた部位では気道閉塞を解除できない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。