StudyMed医師国家試験

エストロゲンにさらされ続けた内膜―子宮体癌の危険因子は「プロゲステロン不足」で読み解く

第104回医師国家試験 B問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第35問

子宮体癌の危険因子はどれか。3つ選べ。

  1. a.肥満
  2. b.糖尿病
  3. c.未経産
  4. d.経口避妊薬服用
  5. e.ヒトパピローマウイルス感染

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は子宮体癌の危険因子を選ぶ問題だ。丸暗記で挑むと子宮頸癌の危険因子と混ざりやすいテーマだけど、ひとつの原理さえ押さえれば全部説明がつく。キーワードは「プロゲステロンに拮抗されないエストロゲン刺激」だ。
医学生医学生
婦人科の講義で、体癌はエストロゲン依存性だと習いました。でも、なぜエストロゲンで癌になるのかまではあまり意識していませんでした。
ドクタードクター
そこから整理しよう。子宮内膜は月経周期の前半、エストロゲンによって増殖する。排卵後は黄体から出るプロゲステロンが内膜を分泌期へと分化させ、増殖にブレーキをかける。このブレーキがかからないままエストロゲンの増殖刺激が長く続くと、子宮内膜増殖症、さらに異型増殖症を経て類内膜癌が生じる。これがいわゆるⅠ型の子宮体癌だ。
医学生医学生
アクセルだけ踏み続けている状態ということですね。そうすると、エストロゲンが多い状態、プロゲステロンが少ない状態、さらされる期間が長い状態が危険因子になる、と考えればいいでしょうか。
ドクタードクター
完璧な整理だね。では肥満から考えよう。閉経後の女性では卵巣からのエストロゲン分泌はほぼ止まっているはずなのに、なぜ肥満がリスクになると思う?
医学生医学生
脂肪組織でエストロゲンが作られるから、でしたっけ。生化学でアロマターゼを習った記憶があります。
ドクタードクター
その通り。脂肪組織のアロマターゼが副腎由来のアンドロステンジオンをエストロンに変換するので、肥満女性では閉経後もエストロゲンが供給され続ける。さらにインスリン抵抗性や性ホルモン結合グロブリンの低下で、活性のあるエストロゲンが増える。肥満は子宮体癌の最も重要な危険因子のひとつで、高度肥満ではリスクが数倍以上になるとされているよ。
医学生医学生
糖尿病も同じ流れですか。肥満と合併しやすいイメージがあります。
ドクタードクター
合併しやすいのは確かだけど、糖尿病そのものにも理由がある。2型糖尿病では高インスリン血症を伴うことが多く、インスリンやIGF-1が内膜細胞の増殖を促すと考えられている。肥満・高血圧・糖尿病の3つは、体癌の危険因子として昔からセットで挙げられてきたんだ。
医学生医学生
未経産はどうでしょう。妊娠していないことが、なぜ不利になるのかピンときません。
ドクタードクター
妊娠中は胎盤から大量のプロゲステロンが出て、内膜はエストロゲン刺激から守られている。未経産ではその保護期間がない。それに、未経産や不妊の背景には多嚢胞性卵巣症候群などの無排卵があることが多い。排卵しなければ黄体ができず、プロゲステロンが不足する。まさにブレーキ不在の状態だね。
医学生医学生
ということは、経口避妊薬もエストロゲンが入っているので危険因子になりそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の引っかけだ。経口避妊薬はエストロゲンとプロゲスチン、つまり合成黄体ホルモンの配合剤。プロゲスチンが内膜の増殖を抑えるので、体癌のリスクはむしろ下がり、その効果は中止後も長く続くとされる。卵巣癌のリスクも下げるよ。
医学生医学生
なるほど、ブレーキ付きなんですね。逆に更年期のホルモン補充療法でエストロゲンだけを使うと危ない、ということですか。
ドクタードクター
その通り。エストロゲン単独の長期投与は体癌のリスクを上げるから、子宮のある女性には必ずプロゲスチンを併用する。「エストロゲン単独」か「プロゲスチン併用」かを区別するのが大事なポイントだ。最後にヒトパピローマウイルス感染はどうかな。
医学生医学生
HPVは子宮頸癌の原因ですよね。CBTの勉強でも、頸癌と体癌の対比表を作りました。
ドクタードクター
いいね。HPV、特に16型・18型など高リスク型の持続感染は子宮頸癌の原因で、体癌の危険因子ではない。頸癌は性交開始の早さ、性的パートナーの多さ、喫煙が危険因子で、経産婦にも多い。体癌は未経産、肥満、閉経前後から閉経後に多い。対照的だから、セットで覚えると混同しにくいよ。
医学生医学生
つまり正解は肥満、糖尿病、未経産の3つで、経口避妊薬はリスク低下、HPVは頸癌側、ということですね。
ドクタードクター
正解。発展として、ほかの危険因子も原理で説明できることを確認しておこう。早い初経と遅い閉経はエストロゲンにさらされる期間が長い。卵巣の顆粒膜細胞腫のようなエストロゲン産生腫瘍も危険因子だ。乳癌治療に使うタモキシフェンは乳腺では抗エストロゲン作用を示すけれど、内膜にはエストロゲン様に働くのでリスクを上げる。それから遺伝性のLynch症候群では子宮体癌の発生率が高い。
医学生医学生
Ⅱ型の体癌もありましたよね。漿液性癌でしたっけ。
ドクタードクター
そう。Ⅱ型はエストロゲン非依存性で、漿液性癌や明細胞癌が代表。萎縮した内膜を背景に高齢者に発生し、TP53変異が多く予後不良だ。今日の危険因子の話は主にⅠ型にあてはまると理解しておこう。
医学生医学生
臨床実習の婦人科外来で、閉経後の不正出血の患者さんに内膜細胞診をしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれが臨床での一番の注意点だ。子宮体癌の主症状は不正性器出血、特に閉経後出血。閉経後の出血を診たら必ず体癌を鑑別に挙げて、経腟超音波で内膜の厚さを確認し、内膜細胞診や組織診につなげる。肥満や糖尿病のある女性ならなおさら意識してほしいね。

まとめ

子宮体癌の大部分を占めるⅠ型(類内膜癌)は、プロゲステロンに拮抗されないエストロゲン刺激が長く続くことで、子宮内膜増殖症を経て発生します。そのため、肥満(脂肪組織のアロマターゼによるエストロゲン産生)、糖尿病(高インスリン血症)、未経産・無排卵(プロゲステロン不足)、早発初経・閉経遅延、エストロゲン単独補充、タモキシフェン、Lynch症候群などが危険因子となります。一方、プロゲスチンを含む経口避妊薬はリスクを下げ、HPV感染は子宮頸癌の原因であって体癌とは関係しません。閉経後出血を診たら体癌を疑い、内膜の評価を行うことが臨床上の要点です。「エストロゲンのアクセルとプロゲステロンのブレーキ」という原理で考えれば、個々の危険因子を暗記に頼らず理解でき、頸癌との対比も明確になります。

解答・解説

正解はa, b, cです

子宮体癌(子宮内膜癌)の大部分を占める類内膜癌(Ⅰ型)は、エストロゲン依存性に発生する。子宮内膜はエストロゲンによって増殖し、プロゲステロン(黄体ホルモン)によって分泌期内膜へと分化し、増殖が抑えられる。したがって「プロゲステロンによる拮抗を受けないエストロゲン刺激(unopposed estrogen)」に長期間さらされる状態が、子宮内膜増殖症を経て子宮体癌の発生につながる。 この原理に沿って考えると、危険因子は次のように整理できる。 ・エストロゲンが過剰になる状態: 肥満(脂肪組織でのアンドロゲンからエストロゲンへの変換)、エストロゲン単独投与、エストロゲン産生腫瘍(顆粒膜細胞腫など) ・プロゲステロンが不足する状態: 無排卵(多嚢胞性卵巣症候群など)、未経産・不妊 ・エストロゲンにさらされる期間が長い状態: 早い初経、遅い閉経 ・代謝異常: 糖尿病(高インスリン血症)、高血圧 一方、プロゲスチンを含む経口避妊薬は内膜の増殖を抑えるためリスクを下げる方向に働き、HPV(ヒトパピローマウイルス)感染は子宮体癌ではなく子宮頸癌の原因である。子宮頸癌と子宮体癌の危険因子を対比して覚えることが、本問を解く鍵である。

選択肢考察

  1. ○a.  肥満

    肥満は子宮体癌の最も重要な危険因子の一つである。閉経後は卵巣からのエストロゲン分泌がほぼ止まるが、脂肪組織に存在するアロマターゼが副腎由来のアンドロゲン(アンドロステンジオン)をエストロン(エストロゲンの一種)に変換するため、肥満女性では閉経後もエストロゲンが持続的に供給される。さらに肥満ではインスリン抵抗性・高インスリン血症や性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の低下により、生物学的に活性なエストロゲンが増える。体重が増えるほどリスクは大きく上昇し、標準体重を大きく超える高度肥満では数倍以上になるとされる。

  2. ○b.  糖尿病

    糖尿病は子宮体癌の危険因子である。2型糖尿病では高インスリン血症を伴うことが多く、インスリンやインスリン様成長因子(IGF-1)が内膜細胞の増殖を促進すると考えられている。糖尿病は肥満・高血圧と合併しやすく、肥満・高血圧・糖尿病の3つは子宮体癌の危険因子として古くから併記されてきた。

  3. ○c.  未経産

    妊娠中は胎盤から大量のプロゲステロンが分泌され、内膜はエストロゲンの増殖刺激から保護される。未経産の女性ではこの保護期間がなく、生涯を通じて内膜がエストロゲンにさらされる期間が長くなる。また、未経産の背景には無排卵性周期や多嚢胞性卵巣症候群などの排卵障害(黄体が形成されずプロゲステロンが不足する状態)が含まれることが多い。このため未経産・不妊は子宮体癌の危険因子とされる。

  4. ×d.  経口避妊薬服用

    経口避妊薬はエストロゲンとプロゲスチン(合成黄体ホルモン)の配合剤である。プロゲスチンが内膜の増殖を抑え、エストロゲン単独による刺激を打ち消すため、服用により子宮体癌のリスクはむしろ低下し、その効果は服用中止後も長く続くとされる(卵巣癌のリスクも低下する)。これに対し、更年期のホルモン補充療法でエストロゲンを単独で長期投与すると子宮体癌のリスクは上昇するため、子宮を有する女性には必ずプロゲスチンを併用する。「エストロゲン単独」と「プロゲスチン併用」を区別することが重要である。

  5. ×e.  ヒトパピローマウイルス感染

    ヒトパピローマウイルス(HPV)、特に16型・18型などの高リスク型の持続感染は、子宮頸癌(主に扁平上皮癌、および頸部腺癌の多く)の発生原因であり、子宮体癌の危険因子ではない。子宮頸癌は性交渉によるHPV感染が契機となるため、性交開始年齢が早い、性的パートナーが多い、喫煙などが危険因子となり、経産婦にも多い。HPV感染の予防にはHPVワクチンが用いられ、日本では2009年に承認され、2013年に定期接種化された(その後の積極的勧奨の差し控えを経て、2022年に勧奨が再開されている)。

子宮体癌の分類

・Ⅰ型: エストロゲン依存性。類内膜癌(高〜中分化)が代表で、子宮内膜増殖症(特に子宮内膜異型増殖症)を前駆病変とする。閉経前後の比較的若い年齢層にも発生し、肥満・糖尿病・未経産などを背景にもつことが多い。予後は比較的良好。 ・Ⅱ型: エストロゲン非依存性。漿液性癌、明細胞癌などで、萎縮した内膜を背景に高齢者に発生する。TP53遺伝子変異が多く、予後不良。

子宮体癌の主な危険因子(Ⅰ型)

・肥満 ・未経産、不妊 ・無排卵性月経、多嚢胞性卵巣症候群、続発性無月経 ・早発初経、閉経遅延 ・糖尿病、高血圧 ・エストロゲン単独のホルモン補充療法 ・乳癌の既往(乳癌治療で用いるタモキシフェンは内膜に対してはエストロゲン様作用を示し、リスクを上昇させる) ・エストロゲン産生腫瘍(卵巣の顆粒膜細胞腫、莢膜細胞腫) ・遺伝性: Lynch症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌)では子宮体癌の発生率が高い

リスクを下げる因子

・経口避妊薬(エストロゲン・プロゲスチン配合剤)の使用 ・多産 ・喫煙はリスク低下と関連するとの報告があるが、他の害が大きいため予防策とはならない

子宮頸癌との対比

・子宮頸癌: HPV持続感染が原因。若年〜中年、経産婦に多い。性交開始の早さ、多数の性的パートナー、喫煙、免疫抑制が危険因子。 ・子宮体癌: エストロゲン過剰が背景。閉経前後〜閉経後、未経産に多い。肥満・糖尿病・高血圧が危険因子。

臨床像

・主症状は不正性器出血(特に閉経後出血)。閉経後の不正出血では子宮体癌を必ず鑑別に挙げ、経腟超音波での内膜肥厚の確認や子宮内膜細胞診・組織診を行う。

POINT

・子宮体癌(Ⅰ型)はエストロゲン依存性。「プロゲステロンの拮抗を受けないエストロゲン刺激」が発癌の背景。 ・危険因子: 肥満、糖尿病、高血圧、未経産・不妊、無排卵、閉経遅延、エストロゲン単独補充、タモキシフェン、Lynch症候群。 ・経口避妊薬(プロゲスチン含有)はリスクを低下させる。 ・HPV感染は子宮頸癌の原因であり、体癌とは無関係。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。