数mmの窓から関節をのぞく―関節鏡が活躍する疾患、しない疾患
第104回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
手術で用いられる器具を別に示す。 この器具を用いるのはどれか。2つ選べ。

- a.反復性肩関節脱臼
- b.腰椎分離症
- c.半月板障害
- d.脛骨疲労骨折
- e.アキレス腱断裂
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
細い硬性鏡にカメラヘッド、ライトガイドケーブル、灌流用の活栓とチューブが付いた器具は関節鏡であり、小さな切開から関節腔内を観察・処置するために用います。適応は関節腔内に病変がある疾患で、膝の半月板障害(鏡視下縫合術・部分切除術)や反復性肩関節脱臼(鏡視下Bankart修復術)が代表です。腰椎分離症・脛骨疲労骨折・アキレス腱断裂は関節外の病変であり、保存療法や固定術、腱縫合術などで治療し、関節鏡は用いません。関節鏡はほかにも前十字靱帯再建や腱板修復など幅広く使われ、低侵襲で早期回復が得られる一方、感染や深部静脈血栓症などの合併症にも注意が必要です。器具の機能から「どこを治療できるか」を考える姿勢は、整形外科に限らず外科系の器具問題全般に応用できます。
解答・解説
正解はa, cです
器具の読み取り
写真には、細長い金属製の筒(直径数mm程度の硬性鏡とその外套管)の手元側に、灌流液を出し入れするための活栓(コック)と灌流チューブ、光源からの光を導くライトガイドケーブル、そして画像をモニターに映すためのカメラヘッドが接続された器具が写っている。これは関節鏡(arthroscope)である。
関節鏡手術の概要
関節鏡手術(鏡視下手術)では、関節の周囲に数mm〜1cm程度の小さな皮膚切開(ポータル)を数か所作り、そこから関節鏡と専用の手術器具を関節腔内に挿入する。生理食塩水などの灌流液で関節腔を膨らませ、視野を確保しながらモニターを見て関節内を観察・処置する。関節を大きく切開しないため、術後の痛みが少なく、回復やスポーツ復帰が早いという利点がある。
考え方
関節鏡を使うのは、病変が関節の内部(関節腔内)にあり、関節鏡で見て処置できる疾患である。選択肢の中では、肩関節の関節唇や関節包を修復する反復性肩関節脱臼と、膝関節内の半月板を扱う半月板障害がこれにあたる。腰椎分離症・脛骨疲労骨折・アキレス腱断裂は、病変が関節腔内にないため関節鏡の適応にはならない。
選択肢考察
- ○a. 反復性肩関節脱臼
外傷性の肩関節前方脱臼では、関節窩の前下方で関節唇と下関節上腕靱帯が剝がれる損傷(Bankart病変)が生じやすく、これが治らずに残ると脱臼を繰り返す(反復性肩関節脱臼)。手術では剝がれた関節唇・関節包を関節窩に縫い付けて修復するBankart修復術が基本であり、現在では関節鏡視下で行うのが一般的である。骨欠損が大きい場合などは烏口突起を移行する手術(Bristow法・Latarjet法)が選択されるが、これも鏡視下で行われることがある。
- ×b. 腰椎分離症
腰椎分離症は、成長期のスポーツ選手などで腰椎の椎弓の関節突起間部に疲労骨折が起こる病態で、第5腰椎に多い。病変は骨(椎弓)にあり関節腔内ではないため、関節鏡は用いない。早期であればコルセット固定と運動の中止による保存療法で骨癒合を目指すのが基本である。保存療法で改善しない場合は、分離部の骨移植とスクリューやフックなどによる固定術(分離部修復術)が行われ、顕微鏡や脊椎内視鏡が使われることはあるが、写真のような関節鏡は使わない。
- ○c. 半月板障害
半月板は膝関節の大腿骨と脛骨の間にある線維軟骨で、荷重の分散や関節の安定性に関わる。スポーツ外傷や加齢による変性で損傷し、疼痛、引っかかり感、ロッキング(膝が一定の角度で動かなくなる)などを起こす。症状が続く場合の手術は、関節鏡視下での半月板縫合術または半月板部分切除術が標準であり、ほぼ全例で関節鏡が用いられる。半月板を切除すると将来の変形性膝関節症のリスクが高まるため、可能であれば縫合して温存する方針がとられる。
- ×d. 脛骨疲労骨折
脛骨疲労骨折は、ランニングやジャンプの反復で骨に小さな負荷が繰り返しかかって生じる骨折である。脛骨の骨幹部に起こり関節内の病変ではないため、関節鏡は用いない。多くは運動の中止による保存療法で治癒する。ただし、ジャンプ動作で脛骨の前方中央部に生じる跳躍型は難治性で完全骨折に至ることもあり、髄内釘固定などの手術が行われることがあるが、それも関節鏡は用いない。
- ×e. アキレス腱断裂
アキレス腱断裂は、踏み込みやジャンプなどでふくらはぎの筋肉が急激に収縮して起こり、踵骨付着部より数cm近位での断裂が多い。アキレス腱は関節外の組織であるため関節鏡の適応はない。治療は、ギプスや装具で足関節を底屈位に固定する保存療法か、切開して断裂した腱を縫合する手術療法が選択される。手術は直視下で行うか、小さな切開から経皮的に縫合する。
関節鏡の構成
・硬性鏡:直径4mm程度の細い棒状の光学系で、先端の角度は30°が主に使われる。外套管(シース)の中に入れて関節内に挿入する。 ・光源とライトガイドケーブル:関節内を照らす光を送る。 ・カメラヘッド:関節内の画像をモニターに映す。 ・灌流系:生理食塩水などを流して関節腔を膨らませ、出血や組織片を洗い流して視野を保つ。
関節鏡手術の主な対象
・膝関節:半月板損傷(縫合術・部分切除術)、前十字靱帯損傷(再建術)、離断性骨軟骨炎、関節内遊離体(関節ねずみ)の摘出、滑膜切除 ・肩関節:反復性肩関節脱臼(Bankart修復術)、腱板断裂(腱板修復術)、肩峰下インピンジメント(肩峰下除圧術)、凍結肩(関節包解離術) ・その他:股関節(関節唇損傷、大腿骨寛骨臼インピンジメント)、肘関節(離断性骨軟骨炎、遊離体)、足関節、手関節(三角線維軟骨複合体損傷)など
関節鏡手術の利点と注意点
・利点:皮膚切開が小さく、痛みが少なく、術後の回復が早い。関節内を拡大して詳しく観察できる。 ・注意点:関節内の感染(化膿性関節炎)、灌流液が周囲の組織に漏れることによる腫脹、深部静脈血栓症などの合併症がありうる。
POINT
・細い硬性鏡にカメラヘッド、ライトガイドケーブル、灌流用の活栓・チューブが付いた器具は関節鏡 ・関節鏡を使うのは関節腔内に病変がある疾患 ・膝:半月板損傷、前十字靱帯損傷など ・肩:反復性肩関節脱臼(鏡視下Bankart修復術)、腱板断裂など ・腰椎分離症・脛骨疲労骨折・アキレス腱断裂は関節外の病変であり、関節鏡は使わない
