StudyMed医師国家試験

キスの病気は日本では赤ちゃんの病気?―EBウイルスの素性をヘルペス一家から読み解く

第104回医師国家試験 A問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第104回 A問題 第8問

EBウイルスについて正しいのはどれか。

  1. a.赤血球に感染する。
  2. b.突発性発疹の原因である。
  3. c.ヘルペスウイルス科に属する。
  4. d.我が国では思春期以降の感染が多い。
  5. e.オセルタミビルによって増殖が抑制される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はEBウイルスの基本的な性格を問う問題だ。押さえるべきポイントは「何の仲間か」「どの細胞に感染するか」「いつ感染するか」「どんな薬が効くか」の4つ。一つずつ整理していけば迷わず解けるよ。まず、EBウイルスはどんなウイルスの仲間だと思う?
医学生医学生
微生物学の講義で、ヒトヘルペスウイルスの4型だと習った記憶があります。
ドクタードクター
その通り。EBウイルスはヘルペスウイルス科のγヘルペスウイルス亜科に属する2本鎖DNAウイルスで、HHV-4ともよばれる。だから「ヘルペスウイルス科に属する」が正解だ。ヘルペスウイルス科に共通する大事な性質は何だったかな。
医学生医学生
一度感染すると体の中にずっと潜み続ける、潜伏感染ですよね。
ドクタードクター
そう。EBウイルスの場合はB細胞の中に生涯潜伏する。免疫が落ちると再活性化したり、B細胞の増殖を促してリンパ増殖性疾患を起こしたりすることがあるんだ。では、感染する細胞について。赤血球に感染するという記述はどうだろう。
医学生医学生
B細胞に感染するのは覚えているんですが、受容体までは自信がありません。
ドクタードクター
B細胞表面のCD21、つまり補体受容体2型(CR2)を足がかりにして入り込む。咽頭などの上皮細胞にも感染するし、まれにT細胞やNK細胞にも感染して慢性活動性EBウイルス感染症の原因になる。一方、赤血球には核がないから、ウイルスが増殖する場にならない。赤血球系で思い浮かべてほしいのはパルボウイルスB19だね。赤芽球前駆細胞に感染して、伝染性紅斑や溶血性貧血の患者での無形成発作を起こす。
医学生医学生
突発性発疹もヘルペスウイルスの仲間が原因だったので、EBウイルスかと一瞬迷いました。
ドクタードクター
混同しやすいところだね。突発性発疹の原因はHHV-6で、一部はHHV-7。乳児に3日ほど高熱が続き、熱が下がると同時に体幹中心の発疹が出る病気だ。EBウイルスの初感染で起こる代表的な病気は何かな。
医学生医学生
伝染性単核球症です。小児科実習で、発熱と咽頭痛で受診した高校生の血液像で異型リンパ球が増えているのを見ました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。発熱、白苔を伴う扁桃炎、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫が典型で、異型リンパ球の多くはウイルス感染B細胞を攻撃する活性化した細胞傷害性T細胞なんだ。次に感染年齢。日本では思春期以降の感染が多い、という記述はどうだろう。
医学生医学生
伝染性単核球症は「kissing disease」とよばれるので、思春期以降に多いのかなと思ってしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけだ。kissing diseaseという呼び名は、衛生環境のよい欧米で思春期以降の初感染が多いことに由来する。日本では乳幼児期に家族の唾液などを介して感染することが多く、2〜3歳までに約7割が感染し、成人のほとんどが抗体をもっているとされる。乳幼児期の初感染は不顕性か軽症で済むことが多いんだ。近年は日本でも初感染年齢が上がる傾向が指摘されているけれど、思春期以降が主体とまではいえない。
医学生医学生
思春期以降に初めて感染すると、典型的な伝染性単核球症になりやすいということですね。
ドクタードクター
その理解でいい。最後にオセルタミビル。これは何の薬?
医学生医学生
インフルエンザの薬です。ノイラミニダーゼ阻害薬だったと思います。
ドクタードクター
正解。インフルエンザウイルスが感染細胞から遊離するのを妨げる薬で、ノイラミニダーゼをもたないEBウイルスには効かない。EBウイルス感染症には確立した特異的な抗ウイルス薬がなく、伝染性単核球症は安静や解熱鎮痛薬などの対症療法が基本になる。
医学生医学生
扁桃に白苔があると、溶連菌感染と思って抗菌薬を出したくなりそうです。
ドクタードクター
そこが臨床での大きな注意点だ。伝染性単核球症の患者にアンピシリンなどのアミノペニシリン系抗菌薬を投与すると、高い頻度で薬疹が出る。それから脾腫がある時期は脾破裂のリスクがあるので、激しい運動や接触スポーツは控えてもらう。診断にはVCA-IgM抗体陽性、EBNA抗体陰性の組み合わせが初感染を示す、というのも覚えておこう。
医学生医学生
EBウイルスは腫瘍とも関係が深かったですよね。病理の講義でBurkittリンパ腫や上咽頭癌が出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。そのほかHodgkinリンパ腫の一部、移植後リンパ増殖性疾患、胃癌の一部にも関与する。同じγヘルペスウイルス亜科のHHV-8がKaposi肉腫の原因になることもセットで押さえると、ヘルペス一家の全体像がきれいに整理できるよ。

まとめ

EBウイルスはヘルペスウイルス科γヘルペスウイルス亜科に属する2本鎖DNAウイルス(HHV-4)で、B細胞表面のCD21を受容体として感染し、生涯潜伏感染します。日本では乳幼児期に唾液を介して不顕性感染することが多く、欧米のように思春期以降の初感染が主体ではありません。初感染で伝染性単核球症を起こし、Burkittリンパ腫や上咽頭癌などの腫瘍にも関与する一方、突発性発疹はHHV-6/7、赤血球系への感染はパルボウイルスB19が原因です。特異的な抗ウイルス薬はなく対症療法が基本で、アミノペニシリン系抗菌薬による薬疹や脾破裂に注意が必要です。ヒトヘルペスウイルス1〜8型を疾患と対応づけて整理しておくことが、感染症・血液・腫瘍の幅広い問題に対応する土台になります。

解答・解説

正解はcです

EBウイルス(Epstein-Barr virus: EBV)の基本事項を問う問題である。EBVの分類、感染する細胞、感染する年齢、関連疾患を整理しておけば解ける。

EBVの要点

・分類:ヘルペスウイルス科γヘルペスウイルス亜科に属する2本鎖DNAウイルスで、ヒトヘルペスウイルス4型(HHV-4)ともよばれる。 ・標的細胞:B細胞表面のCD21(補体受容体2型、CR2)を受容体として感染する。咽頭などの上皮細胞にも感染する。 ・感染経路:主に唾液を介する。 ・潜伏感染:初感染後、B細胞内に生涯潜伏し続ける。これはヘルペスウイルス科に共通する性質である。 ・感染年齢:日本では乳幼児期に不顕性感染することが多く、成人の大部分がすでに抗体を持っている。 以上から、ヘルペスウイルス科に属するという記述が正しい。赤血球への感染、突発性発疹の原因、思春期以降に多い感染、オセルタミビルの有効性はいずれもEBVに当てはまらない。

選択肢考察

  1. ×a.  赤血球に感染する。

    EBVが主に感染するのはB細胞で、B細胞表面のCD21(CR2)に結合して細胞内に入る。咽頭上皮などの上皮細胞にも感染し、まれにT細胞やNK細胞にも感染する(慢性活動性EBウイルス感染症などの原因となる)。赤血球には核がなくウイルスが増殖できないため、EBVの標的ではない。赤血球系の細胞に感染するウイルスとしては、赤芽球前駆細胞に感染し伝染性紅斑や無形成発作(aplastic crisis)を起こすパルボウイルスB19が代表的である。

  2. ×b.  突発性発疹の原因である。

    突発性発疹の原因はヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)で、一部は7型(HHV-7)による。同じヘルペスウイルス科なので混同しやすいが、EBVとは別のウイルスである。突発性発疹は乳児に3日前後の高熱が続き、解熱と同時に体幹を中心とする発疹が現れる。EBVの初感染で起こる代表的な疾患は伝染性単核球症(発熱・咽頭扁桃炎・頸部リンパ節腫脹・肝脾腫・異型リンパ球の増加)である。

  3. ○c.  ヘルペスウイルス科に属する。

    EBVはヘルペスウイルス科γヘルペスウイルス亜科に属する2本鎖DNAウイルスで、ヒトヘルペスウイルス4型(HHV-4)にあたる。同じγヘルペスウイルス亜科には、Kaposi肉腫の原因となるHHV-8がある。ヘルペスウイルス科に共通して、初感染の後に宿主の体内に生涯潜伏感染する。EBVはB細胞に潜伏し、免疫が低下すると再活性化したり、B細胞の増殖を促してリンパ増殖性疾患を起こしたりすることがある。

  4. ×d.  我が国では思春期以降の感染が多い。

    日本では乳幼児期に家族などの唾液を介して感染することが多く、2〜3歳までに約70%が感染し、成人ではほとんどの人が抗体を持っている。乳幼児期の初感染は不顕性か軽い症状で済むことが多い。一方、衛生環境の良い欧米では思春期以降に初感染する人が多く、キスで感染することから伝染性単核球症は「kissing disease」ともよばれる。思春期以降の初感染では典型的な伝染性単核球症を発症しやすい。近年は日本でも初感染年齢が上昇する傾向があるとされるが、思春期以降が主体とはいえない。

  5. ×e.  オセルタミビルによって増殖が抑制される。

    オセルタミビルはノイラミニダーゼ阻害薬であり、A型・B型インフルエンザウイルスが感染細胞から遊離するのを妨げる抗インフルエンザ薬である。EBVはノイラミニダーゼを持たないため効果はない。EBV感染症に確立した特異的な抗ウイルス薬はなく、伝染性単核球症の治療は安静や解熱鎮痛などの対症療法が基本である。なお、伝染性単核球症の患者にアンピシリンなどのアミノペニシリン系抗菌薬を投与すると高い頻度で薬疹が出現するため、細菌性扁桃炎と誤って投与しないよう注意する。

ヒトヘルペスウイルスの整理

・HHV-1(単純ヘルペスウイルス1型):口唇ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、ヘルペス脳炎 ・HHV-2(単純ヘルペスウイルス2型):性器ヘルペス、新生児ヘルペス ・HHV-3(水痘・帯状疱疹ウイルス):水痘、帯状疱疹 ・HHV-4(EBウイルス):伝染性単核球症、Burkitt(バーキット)リンパ腫、上咽頭癌、Hodgkinリンパ腫の一部、移植後リンパ増殖性疾患、胃癌の一部、慢性活動性EBウイルス感染症、EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症 ・HHV-5(サイトメガロウイルス):先天性サイトメガロウイルス感染症、免疫不全者の網膜炎・肺炎 ・HHV-6、HHV-7:突発性発疹 ・HHV-8:Kaposi肉腫、原発性体腔液リンパ腫、多中心性Castleman病

伝染性単核球症

・症状:発熱、咽頭扁桃炎(白苔を伴うことが多い)、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、眼瞼浮腫 ・検査:末梢血でリンパ球が増え、異型リンパ球(主に活性化した細胞傷害性T細胞)が出現する。肝逸脱酵素(AST・ALT)が上昇することが多い。 ・血清診断:VCA(ウイルスカプシド抗原)-IgM抗体陽性、EBNA(EBV核抗原)抗体陰性なら初感染と判断できる。EBNA抗体は感染後しばらくしてから陽性化するため、陽性なら既感染を示す。 ・注意点:脾腫がある時期は脾破裂を避けるため激しい運動を控える。アミノペニシリン系抗菌薬で高率に発疹が出る。

POINT

・EBV=ヘルペスウイルス科γヘルペスウイルス亜科のHHV-4(2本鎖DNAウイルス) ・CD21(CR2)を受容体としてB細胞に感染し、生涯潜伏感染する ・日本では乳幼児期に不顕性感染することが多い(2〜3歳までに約70%)。欧米では思春期以降の初感染が多い ・初感染で伝染性単核球症を起こす。Burkittリンパ腫・上咽頭癌などの腫瘍にも関与する ・突発性発疹はHHV-6/7による ・特異的な抗ウイルス薬はなく対症療法が基本。アミノペニシリン系抗菌薬で薬疹が出やすい

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。