その検査、本当に膵臓を見ている?―検査の「本来の目的」から解く膵疾患の組合せ問題
第104回医師国家試験 A問題 第10問
国試問題にチャレンジ
疾患と検査法の組合せで正しいのはどれか。
- a.急性膵炎 ―― ICG試験
- b.慢性膵炎 ―― ウレアーゼ試験
- c.自己免疫性膵炎 ―― 内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉
- d.嚢胞性膵疾患 ―― 線維化マーカー
- e.膵内分泌腫瘍 ―― 細胞表面抗原
対話形式の解説
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ドクターまとめ
この問題は、各検査が本来どの臓器の何を評価するかを押さえていれば解けます。ICG試験は肝予備能、ウレアーゼ試験はピロリ菌感染、線維化マーカーは肝線維化、細胞表面抗原の解析は白血病・悪性リンパ腫の細胞系統判定に用いる検査で、いずれも組み合わされた膵疾患の診断には使いません。自己免疫性膵炎ではERCPで主膵管の不整狭細像がみられ、膵のびまん性腫大や血清IgG4高値とともに診断の手がかりとなりますが、膵癌との鑑別が最も重要で、癌を否定せずにステロイドを投与してはいけません。ERCPは後膵炎のリスクがあるため、診断目的ではMRCPで代用することも増えています。疾患ごとに適切な検査を選べることは、無駄な検査を避け、正確な診断へ最短でたどり着くための基本となります。
解答・解説
正解はcです
膵疾患と、その診断・評価に用いる検査法の対応を問う問題である。各選択肢の検査が本来何を調べる検査かを確認し、組み合わされた膵疾患の診断に役立つかどうかを判断すればよい。
各検査が本来調べるもの
・ICG(インドシアニングリーン)試験:肝臓の色素排泄能から肝予備能(肝臓の余力)を評価する。 ・ウレアーゼ試験:Helicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ)感染の有無を調べる。 ・内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP: endoscopic retrograde cholangiopancreatography):十二指腸乳頭から造影剤を注入して胆管・膵管の形態を直接描出する。 ・線維化マーカー(ヒアルロン酸、IV型コラーゲン、Mac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体〈M2BPGi〉など):主に慢性肝疾患で肝線維化の程度を推定する。 ・細胞表面抗原(CD抗原)の解析:フローサイトメトリーにより、主に白血病や悪性リンパ腫など血液腫瘍の細胞系統を判定する。 このうち膵疾患の診断に直接用いられるのはERCPであり、自己免疫性膵炎に特徴的な主膵管の不整狭細像を描出できる。
選択肢考察
- ×a. 急性膵炎 ―― ICG試験
ICG試験は、静注したICGが肝臓から胆汁中に排泄される速さを測定し、肝予備能を評価する検査である。15分後の血中停滞率(ICG R15)の基準値は10%以下で、肝切除の範囲を決める際などに用いられる。急性膵炎の診断には用いない。急性膵炎の診断は、上腹部の急性腹痛と圧痛、血中または尿中の膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)の上昇、画像検査(超音波、CT、MRI)での膵の異常所見のうち2項目以上を満たすことで行い、重症度判定には造影CTが重要である。
- ×b. 慢性膵炎 ―― ウレアーゼ試験
ウレアーゼ試験は、H. pyloriが持つウレアーゼ(尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する酵素)の活性を利用して感染を診断する検査である。胃粘膜生検組織を用いる迅速ウレアーゼ試験と、13Cで標識した尿素を飲んで呼気中の13CO2を測る尿素呼気試験がある。慢性膵炎の診断とは関係しない。慢性膵炎では、CTでの膵石・膵内の石灰化、ERCPやMRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)・超音波内視鏡(EUS)での主膵管の不整な拡張や分枝膵管の異常などの画像所見が重視される。膵外分泌機能の評価には、かつてBT-PABA試験(PFD試験)が用いられた。
- ○c. 自己免疫性膵炎 ―― 内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉
自己免疫性膵炎(主に1型、IgG4関連疾患の膵病変)では、膵がびまん性あるいは限局性に腫大し、ERCPで主膵管がびまん性または限局性に細く不整に狭くなる像(主膵管不整狭細像)が認められる。この所見は、膵癌でみられる限局性の途絶や狭窄後の上流膵管の著明な拡張と異なり、狭細部より上流の膵管の拡張が軽いことが多い。膵癌との鑑別が特に重要であるため、ERCPによる膵管像は日本の診断基準の画像所見に含まれている。胆管にも狭窄(IgG4関連硬化性胆管炎)を伴うことがあり、ERCPで同時に評価できる。
- ×d. 嚢胞性膵疾患 ―― 線維化マーカー
線維化マーカーは、慢性肝炎や肝硬変で肝臓の線維化がどの程度進んでいるかを推定するために用いる血液検査であり、嚢胞性膵疾患の診断には用いない。嚢胞性膵疾患には、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、漿液性嚢胞腫瘍(SCN)、膵炎後の仮性嚢胞などがある。これらの鑑別や悪性化の評価には、造影CT、MRI・MRCP、超音波内視鏡(EUS)による嚢胞の形態、壁在結節の有無、主膵管との交通や主膵管径の評価が中心となる。
- ×e. 膵内分泌腫瘍 ―― 細胞表面抗原
細胞表面抗原(CD抗原)の解析は、主に白血病や悪性リンパ腫などの血液腫瘍で、腫瘍細胞の系統(B細胞・T細胞・骨髄系など)を決めるために用いる。膵内分泌腫瘍(現在は膵神経内分泌腫瘍〈膵NEN〉とよばれる)の診断では用いない。膵神経内分泌腫瘍の診断には、腫瘍が産生するホルモン(インスリン、ガストリン、グルカゴンなど)の血中濃度測定、造影CT・MRI・EUSによる腫瘍の局在診断、ソマトスタチン受容体シンチグラフィ、インスリノーマやガストリノーマでの選択的動脈内カルシウム注入試験が用いられる。病理ではクロモグラニンAやシナプトフィジンの免疫染色で神経内分泌分化を確認し、Ki-67指数などで悪性度を分類する。
自己免疫性膵炎
・1型(リンパ形質細胞性硬化性膵炎):IgG4関連疾患の膵病変である。日本では大部分が1型で、中高年の男性に多い。血清IgG4の高値(135mg/dL以上)、膵へのIgG4陽性形質細胞の浸潤、花むしろ状線維化、閉塞性静脈炎が特徴である。硬化性胆管炎、涙腺・唾液腺炎、後腹膜線維症などの膵外病変を合併することがある。 ・2型(特発性膵管中心性膵炎):顆粒球上皮病変(膵管上皮への好中球浸潤)が特徴で、IgG4とは関係しない。欧米に多く、炎症性腸疾患を合併することがある。 ・画像所見:膵のびまん性腫大は「ソーセージ様」と表現され、膵周囲に被膜様の低吸収域(capsule-like rim)を伴うことがある。ERCPでは主膵管の不整狭細像がみられる。 ・症状:閉塞性黄疸で発見されることが多く、腹痛は軽い。糖尿病を合併することがある。 ・治療:ステロイドがよく効く。ただし膵癌を否定しないままステロイドを投与してはならない。必要に応じて超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)で組織を採取し、膵癌を除外する。
膵疾患の主な検査
・急性膵炎:血中・尿中の膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)、腹部超音波、造影CT(重症度判定) ・慢性膵炎:CT(膵石・石灰化)、MRCP、ERCP、EUS、膵外分泌・内分泌機能検査 ・膵癌:造影CT、MRI、EUS、EUS-FNA、腫瘍マーカー(CA19-9など) ・嚢胞性膵疾患:造影CT、MRI・MRCP、EUS ・膵神経内分泌腫瘍:ホルモン測定、造影CT・MRI・EUS、ソマトスタチン受容体シンチグラフィ、選択的動脈内カルシウム注入試験
ERCPの注意点
ERCPは膵管・胆管の形態を詳しく描出でき、胆管ステント留置などの治療も同時に行えるが、検査後に急性膵炎(ERCP後膵炎)を起こすことがある。そのため、診断のみが目的の場合は非侵襲的なMRCPで代用することも増えている。
POINT
・自己免疫性膵炎:ERCPで主膵管の不整狭細像、膵のびまん性腫大、血清IgG4高値、ステロイドが有効。膵癌との鑑別が最重要 ・ICG試験は肝予備能を評価する(ICG R15の基準値は10%以下) ・ウレアーゼ試験はH. pylori感染を診断する ・線維化マーカーは慢性肝疾患で肝線維化を評価する ・細胞表面抗原(CD抗原)の解析は白血病・悪性リンパ腫の細胞系統を判定する
