「両眼の上外側が見えない」―冠状断MRIで視交叉を探せ
第104回医師国家試験 A問題 第11問
国試問題にチャレンジ
両眼ともに上外側が見えにくいことを訴える患者の頭部単純MRIのT2強調冠状断像を別に示す。 視野障害に関与する構造はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
両眼の上外側が見えにくい状態は両耳側上四分盲に相当し、鼻側網膜由来の交叉線維が集まる視交叉正中部の障害を示します。耳側上方の視野を担う鼻側下方網膜の線維は視交叉の下側を通るため、トルコ鞍から上方へ伸びる下垂体腺腫などに下から押し上げられると、耳側上方から欠損が始まります。T2強調冠状断像では、鞍上部へ膨らむ腫瘤の上縁に乗る帯状構造が視交叉であり、両外側の海綿静脈洞とその中の内頸動脈(flow void)、髄液と同じ高信号の側脳室、外側へ走る中大脳動脈と区別して読み取ります。海綿静脈洞への進展では複視、下垂体卒中では急激な頭痛と視力障害など、周囲構造との関係で症状が変わる点も重要です。視野障害のパターンから病変部位を予測して画像を読む姿勢は、神経診断学全般に通じる基本となります。
解答・解説
正解はbです
症状から障害部位を推定する
「両眼とも上外側が見えにくい」とは、右眼では右上、左眼では左上、つまり両眼の耳側上方の視野が欠けている状態であり、両耳側上四分盲(不完全な両耳側半盲)に相当する。両耳側の視野を担うのは両眼の鼻側網膜であり、鼻側網膜からの線維は視交叉で交叉する。したがって、両耳側の視野障害は視交叉の正中部(交叉線維)の障害を意味する。 さらに、耳側上方の視野は鼻側下方の網膜が担当し、その線維は視交叉の下方(腹側)を通って交叉する。このため、視交叉を下から押し上げる病変、すなわちトルコ鞍(下垂体窩)から上方へ伸びる腫瘍では、まず耳側上方の視野から欠損が始まり、進行すると耳側下方にも及んで完全な両耳側半盲となる。
画像の読み方
T2強調冠状断像では、トルコ鞍内から鞍上部へ大きく膨らむ腫瘤があり、下垂体腺腫などの鞍部腫瘍が考えられる。その腫瘤の上面に薄く引き伸ばされて乗っている帯状の構造が視交叉である。腫瘤の両側には海綿静脈洞と、その中を走る内頸動脈(血流が速いためT2強調像で無信号=flow voidとして黒く抜ける)がみえる。上方には髄液と同じ高信号を示す側脳室があり、外側へ枝分かれしていく黒い線状構造は中大脳動脈である。 以上から、視野障害に直接関与するのは腫瘤に圧迫された視交叉(②)である。
選択肢考察
- ×a. ①
①は側脳室である。T2強調像で脳表の脳脊髄液(髄液)と同程度の高信号を示すことから、髄液で満たされた腔と判断できる。腫瘍が大きくなって第三脳室やMonro孔を圧排すれば水頭症を起こしうるが、側脳室そのものは視覚路ではなく、両耳側の視野障害の原因とはならない。
- ○b. ②
②は視交叉である。鞍上部へ伸展した腫瘤の上縁に接し、上方へ押し上げられている。視交叉では両眼の鼻側網膜由来の線維が交叉するため、ここが下方から圧迫されると両耳側の視野が障害される。特に鼻側下方網膜の線維は視交叉の下部を走るので、下からの圧迫では耳側上方の視野から欠け始め、本例の「両眼の上外側が見えにくい」という訴えに一致する。
- ×c. ③
③は中大脳動脈である。T2強調像で黒く抜ける(無信号の)線状構造で、内頸動脈の終末部から外側のシルビウス裂方向へ走行している。流れの速い血液は信号を出さず黒く描出される(flow void)。視覚路そのものではなく、視野障害の原因構造とはいえない。
- ×d. ④
④は海綿静脈洞である。トルコ鞍の両外側に位置し、内部を内頸動脈、動眼神経・滑車神経・外転神経、三叉神経第1・2枝が通る。腫瘍が側方へ浸潤すると眼球運動障害(複視)や顔面の感覚障害をきたしうるが、両耳側の視野障害を説明する構造ではない。
- ×e. ⑤
⑤は内頸動脈である。③と同様にT2強調像で無信号を示し、左右ほぼ対称にトルコ鞍の側方(海綿静脈洞部から床上部)にみられる。視交叉の外側を走るため、内頸動脈瘤などで視交叉の外側部が圧迫されると同側の鼻側視野が障害されることはあるが、本例の両耳側上方の視野障害に関与する構造ではない。
視覚路の障害部位と視野欠損
・視神経:障害側の片眼の視力低下・視野欠損(中心暗点など) ・視交叉正中部:両耳側半盲(下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、鞍結節髄膜腫など) ・視交叉外側部:同側の鼻側半盲(内頸動脈瘤、動脈硬化の強い内頸動脈など) ・視索:反対側の同名半盲(左右の視野の欠け方が一致しにくい) ・側頭葉のMeyer係蹄(視放線下部):反対側の同名上四分盲 ・頭頂葉の視放線上部:反対側の同名下四分盲 ・後頭葉視覚野:反対側の同名半盲(黄斑回避を伴いやすい)
下からの圧迫と上からの圧迫
視交叉の下方には鼻側下方網膜(耳側上方視野)の線維、上方には鼻側上方網膜(耳側下方視野)の線維が走る。そのため、下垂体腺腫のように下から押し上げる病変では耳側上方から、頭蓋咽頭腫のように上方(第三脳室側)から圧迫する病変では耳側下方から欠損が始まりやすい。
下垂体腺腫の補足
下垂体腺腫は通常ゆっくり増大し、視野障害や頭痛、ホルモン過剰症状(先端巨大症、Cushing病、プロラクチノーマによる無月経・乳汁漏出など)あるいは下垂体機能低下で気づかれる。ただし、腫瘍内に出血や梗塞が起こると(下垂体卒中)、突然の激しい頭痛、急激な視力・視野障害、眼球運動障害、意識障害、急性副腎不全を起こし、緊急の対応が必要となる。
MRIで黒く見えるもの
T2強調像で低信号を示すものには、流れの速い血液(flow void)、血腫やヘモジデリン・鉄沈着などの磁化率効果、骨や密な石灰化、空気、蛋白濃度の高い嚢胞内容などがある。
POINT
・両耳側半盲は視交叉正中部の障害で起こり、まず下垂体腺腫を考える。 ・下から圧迫すると耳側上方の視野から欠け始める(上外側が見えにくい)。 ・冠状断MRIでは、鞍上部に伸びた腫瘤の上に乗る帯状構造が視交叉である。 ・トルコ鞍の両外側は海綿静脈洞で、内部の内頸動脈はT2強調像でflow void(黒)として見える。
