痛み・音・心電図―3つのサインで見抜く急性心膜炎
第104回医師国家試験 A問題 第12問
国試問題にチャレンジ
急性心膜炎でみられるのはどれか。3つ選べ。
- a.胸痛
- b.ST上昇
- c.左心不全
- d.心房細動
- e.心膜摩擦音
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
急性心膜炎は心膜の急性炎症で、特発性(ウイルス感染の関与が多い)が最多です。診断の柱は、仰臥位や吸気で増悪し座位前傾で軽快する胸痛、機関車様と表現される心膜摩擦音、aVRとV1を除く広範な誘導の凹型ST上昇(PR低下)、心膜液貯留の4つです。ST上昇が冠動脈領域に一致せず鏡像変化や異常Q波を伴わない点は、急性心筋梗塞との重要な鑑別点になります。炎症は心膜にとどまるため左室収縮は保たれ、左心不全は典型的ではなく、心房細動も特徴的所見ではありません。治療はNSAIDs/アスピリンとコルヒチンが基本で、心タンポナーデでは心膜穿刺を行うことまで含めて理解しておくと、胸痛の鑑別に強くなれます。
解答・解説
正解はa, b, eです
テーマ
急性心膜炎は、心臓を包む心膜(壁側心膜と臓側心膜)に急性の炎症が起こる病態である。原因は特発性(多くはウイルス感染が関与すると考えられる)が最も多く、そのほかに細菌・結核感染、心筋梗塞後、心臓手術後、膠原病、尿毒症、悪性腫瘍、放射線照射などがある。
正解を導く考え方
急性心膜炎の診断では、次の4つが柱となる。 1)心膜炎に特徴的な胸痛 2)心膜摩擦音 3)心電図での広範な誘導のST上昇(またはPR低下) 4)心膜液貯留 このうち2項目以上を満たせば急性心膜炎と診断するのが、欧州心臓病学会(ESC)ガイドラインで示されている基準である。本問の選択肢では、胸痛・ST上昇・心膜摩擦音がこれにそのまま該当する。 一方、心膜炎の炎症は心臓の表面にとどまるため、心筋そのものの収縮力は基本的に保たれる。そのため、左心不全は心膜炎の典型所見ではない(心筋にまで炎症が及ぶ心筋炎・心筋心膜炎とは区別する)。また、心房細動も心膜炎を特徴づける所見ではない。
選択肢考察
- ○a. 胸痛
最も頻度の高い症状である。前胸部の鋭い痛みで、深吸気・咳・仰臥位で増強し、座って上体を前に傾けると軽くなるのが特徴である。炎症を起こした心膜同士が呼吸や体位によってこすれたり引き伸ばされたりするためと考えられる。僧帽筋の稜線(首から肩にかけて)に放散することもある。狭心症や心筋梗塞の痛みと異なり、体位や呼吸で変化する点が鑑別の手がかりとなる。
- ○b. ST上昇
心外膜直下の心筋に炎症が及ぶことで傷害電流が生じ、aVRとV1を除くほぼすべての誘導で、下に凸(凹型)のST上昇がみられる。特定の冠動脈の支配領域に限られず、対側誘導の鏡像的ST低下を伴わない点が、急性心筋梗塞との重要な鑑別点である。PR部分の低下(aVRではPR上昇)も心膜炎に特徴的である。経過とともにSTは基線に戻り、その後T波が陰転化し、やがて正常化する。異常Q波は通常出現しない。
- ×c. 左心不全
心膜炎の炎症は心膜にとどまり、心筋の収縮機能は通常保たれるため、左心不全は典型的な所見ではない。心膜液が大量に、あるいは急速に貯留すると心タンポナーデとなり、心室の拡張が妨げられて心拍出量が低下するが、これは心臓の外からの圧迫による拡張障害であり、左室収縮力低下による左心不全とは病態が異なる。タンポナーデでは肺うっ血は目立たず、頸静脈怒張・低血圧・奇脈などがみられる。左心不全を伴う場合は、心筋にも炎症が及ぶ心筋炎(心筋心膜炎)を考える。
- ×d. 心房細動
急性心膜炎を特徴づける所見ではない。心膜炎で心房細動などの不整脈が起こることはあるが頻度は低く、合併した場合は心筋への炎症の波及や基礎心疾患の存在を疑う。心房細動をきたしやすいのは、僧帽弁狭窄症などで左房に慢性的な負荷がかかる状態、高血圧、甲状腺機能亢進症、加齢などである。
- ○e. 心膜摩擦音
炎症で表面が粗くなった壁側心膜と臓側心膜がこすれ合って生じる、ひっかくような高調の雑音である。典型的には心房収縮期・心室収縮期・心室拡張期早期の3成分からなり、「機関車様雑音」とも表現される。胸骨左縁下部で、座位・前傾姿勢として呼気で息を止めると聴取しやすい。聴こえ方が時間とともに変化するため、繰り返し聴診することが大切である。心膜液が大量に貯留して両膜が離れると、かえって聴こえなくなることがある。
急性心膜炎の検査所見
・心電図:広範な誘導の凹型ST上昇、PR低下。経過とともにST正常化→T波陰転化→正常化と変化する。心膜液が多量に貯留すると低電位や電気的交互脈(QRS波の高さが1拍ごとに変わる)がみられる。 ・血液検査:白血球増加、CRP上昇、赤沈亢進。心筋にも炎症が及ぶとトロポニンやCK-MBが上昇する。 ・心エコー:心膜液貯留の有無・量、心タンポナーデ所見(右房・右室の拡張期虚脱など)の評価に有用である。 ・胸部X線:心膜液が多いと心陰影が左右対称に拡大し、水が入った袋を置いたような形(巾着型・氷嚢型)になる。肺うっ血は目立たない。
治療
特発性・ウイルス性では、アスピリンまたはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)にコルヒチンを併用するのが基本である。コルヒチンは再発予防にも有効である。副腎皮質ステロイドは再発を増やしうるため、第一選択とはしない。心タンポナーデでは心膜穿刺を行う。心不全ではないので、ジギタリスなどの強心薬の適応はない。
鑑別:急性心筋梗塞との違い
心筋梗塞では、ST上昇が冠動脈の支配領域に一致し、対側誘導に鏡像的ST低下を伴い、上に凸の形をとることが多い。異常Q波の出現や、局所の壁運動異常を伴う。痛みは体位や呼吸であまり変化しない。
POINT
・急性心膜炎の4徴:体位・呼吸で変化する胸痛、心膜摩擦音、広範な誘導のST上昇(PR低下)、心膜液貯留。 ・胸痛は仰臥位・吸気で増悪し、座位前傾で軽快する。 ・ST上昇は下に凸で、鏡像変化を伴わない(心筋梗塞との鑑別)。 ・心筋の収縮は保たれ、左心不全は典型的ではない。左心不全があれば心筋炎を考える。 ・治療はNSAIDs/アスピリン+コルヒチンが基本。
