StudyMed医師国家試験

お酒で治まる手のふるえ―本態性振戦とParkinson病を分ける「いつふるえるか」

第104回医師国家試験 A問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第104回 A問題 第41問

36歳の男性。手指のふるえを主訴に来院した。数年前から書字の際に手がふるえることに気付いた。特に緊張時に悪化する。ふるえのため,食事の時にお椀の味噌汁をこぼすこともあった。ふるえは飲酒時に軽減する。歩行障害や安静時の振戦は認めない。  治療薬として適切なのはどれか。

  1. a.L-dopa
  2. b.β遮断薬
  3. c.抗コリン薬
  4. d.副腎皮質ステロイド
  5. e.アマンタジン塩酸塩

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は手のふるえ、つまり振戦の患者さんの治療薬を選ぶ問題だ。ポイントは、ふるえが「どんな場面で出るか」と「何で良くなり、何で悪くなるか」。この2つで診断が決まれば、治療薬はおのずと決まってくる。
医学生医学生
ふるえと聞くと、まずParkinson病が思い浮かびます。
ドクタードクター
国試でも臨床でもよく出てくるから、そう考えるのは自然だね。ただ、振戦はまず安静時振戦と、動作時・姿勢時振戦に分けて考えるのが基本なんだ。この患者さんのふるえはどちらだろう。
医学生医学生
字を書くときや、お椀を持って口に運ぶときにふるえているので、動作時や姿勢を保っているときのふるえですね。
ドクタードクター
その通り。安静時振戦は、力を抜いて手を膝に置いているようなときに目立って、動かすとむしろ軽くなる。Parkinson病の典型だ。一方、この患者さんは筋肉に力が入っている場面でふるえていて、安静時振戦も歩行障害もない。Parkinson病は考えにくいね。
医学生医学生
神経内科の実習で、Parkinson病の患者さんが診察室で座っているときに、丸薬をまるめるような動きをしていたのを思い出しました。確かにこの人とは違います。
ドクタードクター
いい観察経験だね。では、動作時・姿勢時振戦を起こす原因には何があるだろう。
医学生医学生
甲状腺機能亢進症や、薬剤性の振戦でしょうか。小脳の企図振戦もありますよね。
ドクタードクター
よく挙がったね。ほかに緊張やカフェインで強まる生理的振戦、アルコール離脱もある。そのなかで、数年かけて他の神経症状を伴わずに経過し、緊張で悪化して、少量の飲酒で軽くなるというのは本態性振戦に特徴的な病歴なんだ。
医学生医学生
飲酒で軽くなるというのは、アルコール離脱の振戦とは逆の話になりますか。
ドクタードクター
そこは混同しやすいね。離脱の振戦は、飲酒をやめた後に出てくるもので、他の離脱症状も伴う。本態性振戦は、飲むと一時的にふるえが和らぐという点が特徴だ。ただし、飲酒で抑えようとするとアルコール依存につながるおそれがあるから、治療としては勧められない。
医学生医学生
では治療薬はβ遮断薬ですね。薬理学の講義で、プロプラノロールが本態性振戦に使われると習いました。
ドクタードクター
正解。β遮断薬は本態性振戦の第一選択で、代表がプロプラノロール、わが国ではアロチノロールが本態性振戦に保険適用をもっている。末梢のβ受容体を遮断することなどで、ふるえの振幅を小さくすると考えられている。緊張で悪化するタイプなら、人前で字を書く前などに頓用で使うこともできるんだ。
医学生医学生
β遮断薬だと、気管支喘息の人には使えないですよね。
ドクタードクター
そう。喘息では気管支収縮を誘発するから禁忌で、高度の徐脈や房室ブロック、非代償性心不全でも注意が必要だ。その場合は抗てんかん薬のプリミドンなどを検討する。では、残りの選択肢も確認しよう。L-dopa、抗コリン薬、アマンタジンには共通点があるね。
医学生医学生
3つともParkinson病の治療薬です。L-dopaはドパミンを補って、抗コリン薬は相対的に強くなったアセチルコリン系を抑えて、アマンタジンはドパミン放出を促すんでしたよね。
ドクタードクター
よく整理できているね。本態性振戦はドパミン神経系の障害による病気ではないから、これらは基本的に効果が期待できない。抗コリン薬は口渇や尿閉、認知機能低下などの副作用も問題になる。副腎皮質ステロイドは多発性硬化症の急性増悪など炎症や免疫が関わる病気に使う薬で、本態性振戦は炎症性疾患ではないから使わない。
医学生医学生
ふるえのタイプで病気を分けて、病気ごとに薬を選ぶという流れですね。書字でも、Parkinson病は字が小さくなる小字症、本態性振戦は字がふるえて乱れる、と区別できそうです。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。最後に発展知識を。本態性振戦は約半数に家族歴があり、家族例は常染色体顕性遺伝の形をとることが多い。手だけでなく頭部や声にふるえが出ることもある。生命予後は良好で、生活に支障がなければ経過観察でもいい。薬で十分に抑えられず生活への支障が大きい場合には、視床のVim核を標的にした脳深部刺激療法や、MRIガイド下集束超音波治療といった選択肢もあるんだ。
医学生医学生
命に関わらない病気でも、食事や仕事に困るなら治療する意味が大きいということですね。
ドクタードクター
その通り。味噌汁をこぼすというのは、本人にとってはかなりつらいことだ。生活の困りごとに目を向けて治療を考える姿勢を大切にしてほしい。

まとめ

振戦はまず、安静時に目立つか、動作時・姿勢保持時に目立つかで分けて考えるのが基本です。書字や食事の際に出る動作時・姿勢時振戦が、他の神経症状を伴わずに年単位で続き、緊張で悪化し少量の飲酒で軽減する場合は本態性振戦が考えられます。治療の第一選択はプロプラノロールやアロチノロールなどのβ遮断薬で、気管支喘息などで使えない場合はプリミドンが選択肢となり、薬物抵抗例には視床Vim核の脳深部刺激療法や集束超音波治療もあります。一方、L-dopa、抗コリン薬、アマンタジンは安静時振戦を示すParkinson病の治療薬であり、本態性振戦には基本的に用いません。振戦の性状から病態を見極めて薬を選ぶ考え方は、外来でよく出会う「ふるえ」の診療に直結する重要な知識です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・36歳男性。数年前から緩徐に進行する手指のふるえ。 ・書字や、お椀を持って口に運ぶといった動作・姿勢保持の際にふるえる(動作時振戦・姿勢時振戦)。 ・緊張で悪化し、飲酒で軽減する。 ・安静時振戦や歩行障害はなく、他の神経症状の記載もない。

診断へのプロセス

振戦(ふるえ)は、どのような状況で出現するかによって、安静時振戦と、動作時振戦・姿勢時振戦とに大別される。安静時振戦は力を抜いて手を膝に置いているときなどに目立ち、手を動かすと軽減するもので、Parkinson病に典型的である。一方、本例のように字を書く、コップや椀を持つなど、筋肉に力が入っている場面で出るふるえは動作時・姿勢時振戦である。 動作時・姿勢時振戦を示す疾患には、本態性振戦、生理的振戦の増強(緊張・疲労・カフェインなど)、甲状腺機能亢進症、アルコール離脱、薬剤性振戦(気管支拡張薬、バルプロ酸、リチウムなど)、小脳疾患(企図振戦)などがある。本例は数年にわたり他の神経学的異常を伴わずに経過しており、精神的緊張で悪化し、少量の飲酒で軽減するという本態性振戦に特徴的な病歴を示すことから、本態性振戦と診断できる。安静時振戦や歩行障害がないことはParkinson病を否定する方向の情報である。

設問の考え方

本態性振戦に対する薬物療法を問う問題である。本態性振戦の第一選択薬はβ遮断薬(プロプラノロール、アロチノロールなど)であり、抗てんかん薬のプリミドンも有効性が確立している。Parkinson病の治療薬(L-dopa、抗コリン薬、アマンタジン)は本態性振戦には基本的に効果がないことを押さえておく。

選択肢考察

  1. ×a.  L-dopa

    L-dopa(レボドパ)はドパミンの前駆物質で、脳内で不足したドパミンを補うParkinson病治療の中心となる薬である。本態性振戦はドパミン神経系の障害による疾患ではないため、L-dopaは無効である。本例は安静時振戦・歩行障害などのParkinson症状を欠いており、適応とならない。

  2. ○b.  β遮断薬

    β遮断薬は本態性振戦の第一選択薬である。末梢の筋紡錘などに存在するβ2受容体を遮断することなどにより振戦の振幅を小さくすると考えられている。代表薬はプロプラノロールで、わが国ではアロチノロールが本態性振戦に対して保険適用をもつ。緊張で悪化する振戦に対し、会議や人前での書字の前など必要時に頓用で使うこともできる。気管支喘息(気管支収縮を誘発)、高度の徐脈や房室ブロック、非代償性心不全の患者には禁忌または慎重投与であり、その場合はプリミドンなど他剤を検討する。

  3. ×c.  抗コリン薬

    抗コリン薬(トリヘキシフェニジルなど)は、ドパミン不足により相対的に優位となった線条体のアセチルコリン系を抑える薬で、Parkinson病の振戦や薬剤性パーキンソニズムに用いられる。本態性振戦には有効性が乏しく適応とならない。口渇、便秘、尿閉、認知機能低下などの副作用もあり、閉塞隅角緑内障では禁忌である。

  4. ×d.  副腎皮質ステロイド

    副腎皮質ステロイドは抗炎症・免疫抑制作用をもち、多発性硬化症の急性増悪、重症筋無力症、自己免疫性脳炎など、炎症や免疫が関与する神経疾患に用いられる。本態性振戦は炎症性疾患ではなく、ステロイドは振戦の治療には用いない。

  5. ×e.  アマンタジン塩酸塩

    アマンタジンはドパミン放出促進作用やNMDA型グルタミン酸受容体拮抗作用をもち、Parkinson病の無動・筋強剛の改善や、L-dopa長期投与に伴うジスキネジア(不随意運動)の抑制に用いられる。A型インフルエンザに対する抗ウイルス薬としても開発された薬である。本態性振戦に対する有効性は確立しておらず、適応とならない。

本態性振戦の概要

・振戦以外の神経症状を伴わない、原因の明らかでない振戦を主症状とする疾患で、最も頻度の高い不随意運動の一つである。 ・約半数に家族歴があり、家族例は常染色体顕性(優性)遺伝形式をとることが多い。発症年齢は若年から高齢まで幅広く、加齢とともに頻度が増す。 ・振戦は主に上肢の姿勢時・動作時振戦で、頭部(首を横に振る「いやいや」型、縦に振る「うなずき」型)や声にも現れることがある。周波数はおおむね4〜12 Hz程度。 ・精神的緊張、疲労、カフェインで増悪し、少量の飲酒で一時的に軽減するのが特徴。 ・生命予後は良好だが、書字・食事などの日常動作や社会生活に支障をきたしうる。

治療

・日常生活に支障がなければ経過観察でよい。 ・薬物療法:β遮断薬(プロプラノロール、アロチノロール)、プリミドン(抗てんかん薬)が中心。効果不十分な場合にクロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬やトピラマートなどが試みられることがある。 ・薬物抵抗性で生活への支障が大きい場合:視床腹中間核(Vim核)を標的とした脳深部刺激療法(DBS)、定位的視床破壊術、MRIガイド下集束超音波治療。

Parkinson病の振戦との比較

・Parkinson病:安静時振戦(4〜6 Hz程度、丸薬まるめ様)、動作で軽減、片側から始まることが多い。無動、筋強剛、姿勢反射障害を伴う。書字では小字症がみられる。 ・本態性振戦:姿勢時・動作時振戦、通常両側性、他の神経症状を伴わない。書字では字がふるえて乱れるが小さくはならない。飲酒で軽減。

POINT

・動作時・姿勢時振戦+緊張で増悪+飲酒で軽減+他の神経症状なし → 本態性振戦 ・本態性振戦の第一選択薬:β遮断薬(プロプラノロール、アロチノロール)、プリミドン ・β遮断薬は気管支喘息では禁忌 ・安静時振戦はParkinson病の特徴。L-dopa・抗コリン薬・アマンタジンはParkinson病の治療薬で本態性振戦には用いない ・薬物抵抗例には視床Vim核のDBSや集束超音波治療

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。