似ているけれど正体は別物―「異型リンパ球」と「芽球」を分ける細胞表面抗原
第103回医師国家試験 I問題 第28問
国試問題にチャレンジ
伝染性単核球症と急性リンパ性白血病の鑑別に有用なのはどれか。
- a.リンパ節腫脹
- b.白血球数
- c.血小板数
- d.血清LD〈LDH〉値
- e.細胞表面抗原
対話形式の解説
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ドクターまとめ
伝染性単核球症と急性リンパ性白血病は、ともに若年者に多く、発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫や末梢血の異常リンパ球様細胞を呈するため鑑別が重要です。伝染性単核球症で増える異型リンパ球は主にCD8陽性の活性化T細胞による多クローン性の反応性増殖であり、ALLはTdTやCD34陽性の未熟なリンパ芽球による単クローン性の腫瘍性増殖です。この違いはフローサイトメトリーによる細胞表面抗原の解析で客観的に示せ、系統・分化段階・クローン性を評価できます。リンパ節腫脹、白血球数、血小板数、LD値はいずれの疾患でも同様の異常を示しうるため決め手になりません。塗抹標本での形態観察やEBV抗体検査(VCA-IgM陽性、EBNA抗体陰性)も併せて活用し、「反応性か腫瘍性か」を見極める視点を身につけることがリンパ系疾患の診療の基本になります。
解答・解説
正解はeです
伝染性単核球症と急性リンパ性白血病(ALL)は、いずれも小児〜若年者に多く、発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫を呈し、末梢血に「見慣れないリンパ球様の細胞」が出現するという点で臨床像が似ている。そのため両者の鑑別は臨床上重要である。 両者の本質的な違いは、増えている細胞の性質にある。 ・伝染性単核球症:主にEpstein-Barrウイルス(EBV)の初感染によって起こる。EBVはB細胞に感染し、これを排除しようとして細胞傷害性T細胞(主にCD8陽性T細胞)が反応性に活性化・増殖する。末梢血に出現する異型リンパ球の多くはこの活性化T細胞であり、多数のクローンから成る多クローン性(ポリクローナル)の反応性増殖である。 ・ALL:分化途中で成熟を止めた未熟なリンパ系細胞(リンパ芽球)が、単一の細胞に由来して腫瘍性に増殖する単クローン性(モノクローナル)の病態である。 この違いを客観的に示せるのが、フローサイトメトリーなどで細胞表面抗原(CD抗原など)を調べる検査である。これに対し、リンパ節腫脹、白血球数、血小板数、LD値は両疾患で同じような異常を示しうるため、鑑別の決め手にならない。 実際の臨床では、末梢血・骨髄の塗抹標本で異型リンパ球か芽球かを形態的に見分けること、EBV抗体検査(VCA-IgM陽性、EBNA抗体陰性など)で初感染を確認することも鑑別に用いられる。
選択肢考察
- ×a. リンパ節腫脹
伝染性単核球症では、特に後頸部を中心とした両側性の頸部リンパ節腫脹が典型的で、発熱・咽頭扁桃炎とともに三主徴をなす。一方、ALLでも白血病細胞がリンパ節に浸潤して全身性のリンパ節腫脹をきたすことが多い。どちらでもみられる所見であり、鑑別には有用でない。
- ×b. 白血球数
伝染性単核球症では、リンパ球と異型リンパ球の増加により白血球数が増加することが多いが、病初期には正常〜軽度減少のこともある。ALLでは白血病細胞の増加により著明な白血球増多を示す例がある一方、末梢血に芽球がほとんど出ず白血球数が正常ないし減少する例(白血病細胞が骨髄にとどまる場合)も少なくない。いずれの疾患でも白血球数は一定しないため、数値だけでは鑑別できない。
- ×c. 血小板数
ALLでは骨髄が白血病細胞で占拠されて正常な造血が抑制されるため、血小板減少(および貧血、正常好中球の減少)が高頻度にみられる。一方、伝染性単核球症でも、脾腫による血小板の脾臓への取り込み(脾機能亢進)や免疫学的機序によって、軽度の血小板減少がしばしばみられる。両者に共通しうる所見であり、鑑別には有用でない。ただし、高度の血小板減少に貧血や好中球減少を伴う場合は骨髄での造血障害を疑い、骨髄検査を検討する契機となる。
- ×d. 血清LD〈LDH〉値
LD(乳酸脱水素酵素)はほぼすべての細胞に含まれる酵素で、細胞の破壊や代謝回転の亢進を反映して上昇する非特異的な指標である。ALLでは腫瘍細胞の増殖・崩壊によって上昇し、伝染性単核球症でも肝炎(トランスアミナーゼ上昇を伴う)やリンパ球の活発な増殖によって上昇する。両疾患で共通して上昇しうるため、鑑別には有用でない。
- ○e. 細胞表面抗原
細胞表面抗原の解析(フローサイトメトリーによる免疫表現型検査)では、増えている細胞の系統(B細胞系かT細胞系か)、分化段階(未熟か成熟か)、そしてクローン性を評価できる。ALLでは、単一クローン由来の未熟なリンパ芽球が均一な抗原パターンを示し、多くはB前駆細胞型(CD19、CD10、CD79aなど陽性)であり、未熟性の指標であるTdT(ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ)やCD34陽性の細胞が大部分を占める。一方、伝染性単核球症で増加するのは主にCD8陽性の活性化した成熟T細胞であり、多数のクローンが混在する反応性の増殖で、未熟性マーカーは陰性である。このように、細胞表面抗原は腫瘍性・単クローン性の未熟細胞の増殖か、反応性・多クローン性の成熟リンパ球の増殖かを区別でき、両者の鑑別に有用である。
伝染性単核球症
・病因:主にEBVの初感染(唾液を介して感染するためkissing diseaseとも呼ばれる)。サイトメガロウイルスなどでも類似の病像を呈する。 ・症状:発熱、咽頭扁桃炎(白苔を伴う)、頸部リンパ節腫脹の三主徴に加え、肝脾腫、眼瞼浮腫、発疹など。 ・検査:リンパ球増加と異型リンパ球の出現(白血球の10%以上が目安)、AST・ALT・LDの上昇。EBV特異抗体では、VCA-IgM抗体陽性、EBNA抗体陰性であれば初感染と判断できる(EBNA抗体は感染後数週〜数か月以降に陽性化する)。 ・注意点:アンピシリンなどのアミノペニシリン投与で高率に皮疹が出るため避ける。脾腫がある間は脾破裂予防のため激しい運動を控える。 ・治療:対症療法が基本で、多くは数週間で自然軽快する。
急性リンパ性白血病(ALL)
・小児で最も多い悪性腫瘍(小児がん)であり、発症のピークは2〜5歳頃。 ・未熟なリンパ系細胞(リンパ芽球)が骨髄で単クローン性に増殖し、正常造血を抑制する。 ・症状:貧血(顔色不良、易疲労)、血小板減少による出血傾向、好中球減少による感染・発熱、骨痛、リンパ節腫脹、肝脾腫、中枢神経浸潤。 ・診断:骨髄検査で芽球の増加を確認し、細胞表面抗原(免疫表現型)、染色体・遺伝子検査(t(9;22)〈Philadelphia染色体〉、t(12;21)、高二倍体など)で病型と予後を分類する。 ・病型:B前駆細胞型が大部分を占め、ほかにT細胞型などがある。
反応性増殖と腫瘍性増殖の見分け方
反応性(感染などへの正常な免疫応答)では多種類のクローンが増えるため多クローン性、腫瘍性では1個の異常細胞から増えるため単クローン性となる。クローン性の評価には、細胞表面抗原の解析のほか、B細胞ではκ/λ軽鎖の偏り、T細胞ではT細胞受容体遺伝子の再構成解析、B細胞では免疫グロブリン遺伝子再構成解析などが用いられる。
POINT
・伝染性単核球症の異型リンパ球は主にCD8陽性の活性化T細胞で、多クローン性の反応性増殖 ・ALLは未熟なリンパ芽球の単クローン性の腫瘍性増殖(TdT陽性など) ・細胞表面抗原の解析(フローサイトメトリー)で系統・分化段階・クローン性を評価でき、両者の鑑別に有用 ・リンパ節腫脹、白血球数、血小板減少、LD上昇はいずれの疾患でもみられうるため鑑別の決め手にならない ・伝染性単核球症の確認にはEBV抗体(VCA-IgM陽性、EBNA抗体陰性)
