押す場所、離す瞬間、息を吸うタイミング―腹部診察の「名前つき徴候」を疾患と結びつける
第103回医師国家試験 I問題 第22問
国試問題にチャレンジ
組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.Lanz圧痛点 ―― 虫垂炎
- b.Murphy徴候 ―― 急性膵炎
- c.Blumberg徴候 ―― 腹膜炎
- d.McBurney圧痛点 ―― 虚血性大腸炎
- e.Courvoisier徴候 ―― 劇症肝炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腹部診察の人名つき徴候は、診察手技と痛みが生じる仕組みをセットで覚えると整理しやすくなります。McBurney点(臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3)とLanz点(左右上前腸骨棘を結ぶ線の右1/3)は急性虫垂炎の圧痛点であり、Blumberg徴候(反跳痛)は炎症が壁側腹膜に及んだ腹膜刺激徴候として腹膜炎を示します。Murphy徴候は吸気時に炎症胆嚢が指に当たって痛む急性胆嚢炎の所見で、急性膵炎ではGrey-Turner徴候やCullen徴候が知られています。Courvoisier徴候は閉塞性黄疸に無痛性の胆嚢腫大を伴うもので、膵頭部癌や下部胆管癌など悪性閉塞を示唆し、肝萎縮をきたす劇症肝炎とは結びつきません。これらの徴候を正しく使いこなすことは、画像検査の前に病変の部位と重症度を推定する急性腹症診療の基本になります。
解答・解説
正解はa, cです
本問は、腹部診察で用いられる代表的な圧痛点・徴候の「名前」と「それが示唆する病態・疾患」の対応を問う知識問題である。 急性腹症の診察では、どこを押すと痛むか(圧痛点)、押して離したときに痛むか(腹膜刺激徴候)、呼吸に伴って痛みが誘発されるか、腫大した臓器を触れるか、といった所見が、画像検査の前に病変の部位と重症度を推定する手がかりになる。 整理すると次のようになる。 ・虫垂炎の圧痛点:McBurney点、Lanz点 ・腹膜刺激徴候:Blumberg徴候(反跳痛)、筋性防御など ・急性胆嚢炎:Murphy徴候 ・下部胆管の悪性腫瘍による閉塞:Courvoisier徴候 この対応を正しく覚えていれば、Lanz圧痛点―虫垂炎、Blumberg徴候―腹膜炎の2つが正しい組合せであり、残りは疾患の対応が誤っていると判断できる。
選択肢考察
- ○a. Lanz圧痛点 ―― 虫垂炎
Lanz(ランツ)圧痛点は、左右の上前腸骨棘を結ぶ線を3等分したときの右側1/3の点(右外側1/3と中央1/3の境界点)である。急性虫垂炎で圧痛を示す代表的な点であり、McBurney点と並んで虫垂の位置を体表から推定するための指標となる。組合せは正しい。
- ×b. Murphy徴候 ―― 急性膵炎
Murphy(マーフィー)徴候は、右季肋部(胆嚢の位置)を指で圧迫したまま患者に深く息を吸わせると、下降してきた炎症胆嚢が指に当たって痛みが生じ、吸気が途中で止まる現象である。急性胆嚢炎に特徴的な所見であり、急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン(Tokyo Guidelines)でも急性胆嚢炎の局所の炎症所見の一つに挙げられている。急性膵炎の所見ではない。急性膵炎では上腹部痛・背部痛のほか、重症例で側腹部の皮下出血斑(Grey-Turner徴候)や臍周囲の皮下出血斑(Cullen徴候)がみられることがある。
- ○c. Blumberg徴候 ―― 腹膜炎
Blumberg(ブルンベルグ)徴候は反跳痛のことで、腹壁をゆっくり圧迫してから急に手を離したとき、圧迫時よりも強い痛みが生じる所見である。手を離した瞬間に腹壁と炎症を起こした壁側腹膜が急に動くことで痛みが出るため、炎症が腹膜に及んでいること(腹膜刺激徴候)を示す。虫垂炎や消化管穿孔などで炎症が腹膜に波及した腹膜炎でみられ、組合せは正しい。
- ×d. McBurney圧痛点 ―― 虚血性大腸炎
McBurney(マックバーニー)圧痛点は、臍と右上前腸骨棘を結ぶ線を3等分したときの外側1/3の点(右上前腸骨棘から1/3の点)であり、急性虫垂炎の圧痛点である。虚血性大腸炎は、主に高齢者や便秘のある人に突然の左下腹部痛と下痢・血便で発症することが多く、好発部位は下行結腸〜S状結腸である。右下腹部のMcBurney点とは対応しない。
- ×e. Courvoisier徴候 ―― 劇症肝炎
Courvoisier(クールボアジェ)徴候は、閉塞性黄疸があり、腫大した胆嚢を圧痛なく触知する所見である。胆嚢管合流部より下流(十二指腸側)の胆管が徐々に閉塞して胆嚢内に胆汁がたまることで生じ、膵頭部癌、下部胆管癌、十二指腸乳頭部癌など悪性腫瘍による閉塞を示唆する。胆石症では慢性炎症で胆嚢壁が線維化し拡張しにくいため、この徴候は起こりにくいとされる。劇症肝炎(急性肝不全)は肝細胞の広範な壊死によるもので、胆道閉塞はなく、むしろ肝萎縮が特徴であり、Courvoisier徴候とは結び付かない。
急性虫垂炎の身体所見
・McBurney点の圧痛:臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3の点。 ・Lanz点の圧痛:左右上前腸骨棘を結ぶ線の右1/3の点。 ・Rovsing徴候:左下腹部を圧迫すると右下腹部(回盲部)に痛みが生じる。 ・Rosenstein徴候:左側臥位にしてMcBurney点を押すと、仰臥位より圧痛が強くなる。 ・腸腰筋徴候(psoas sign):右股関節を伸展させると右下腹部痛が増強する(後腹膜側の虫垂炎で陽性になりやすい)。 ・炎症が腹膜に及ぶと、Blumberg徴候、筋性防御、板状硬などの腹膜刺激徴候が加わる。 ・典型的には、心窩部痛・臍周囲痛で始まり、悪心・嘔吐を伴い、数時間後に右下腹部に痛みが移動する。
腹膜刺激徴候
・反跳痛(Blumberg徴候):押して急に離すと痛む。 ・筋性防御:触診時に腹壁の筋が反射的に緊張する。 ・板状硬:汎発性腹膜炎で腹壁全体が板のように硬くなる。 ・咳嗽や踵落とし(heel drop)で痛みが響くことも、腹膜刺激を示す所見として用いられる。
胆道・膵疾患に関連する徴候
・Murphy徴候:急性胆嚢炎。 ・Courvoisier徴候:無痛性の胆嚢腫大+閉塞性黄疸。膵頭部癌、下部胆管癌、十二指腸乳頭部癌を示唆する。 ・Grey-Turner徴候(側腹部)、Cullen徴候(臍周囲):後腹膜や腹腔内の出血を示す皮下出血斑で、重症急性膵炎などでみられる。
POINT
・McBurney点(臍―右上前腸骨棘の外側1/3)とLanz点(左右上前腸骨棘間の右1/3)はいずれも虫垂炎の圧痛点である。 ・Blumberg徴候=反跳痛=腹膜刺激徴候であり、腹膜炎を示す。 ・Murphy徴候は急性胆嚢炎の所見である(急性膵炎ではない)。 ・Courvoisier徴候は無痛性胆嚢腫大+黄疸で、膵頭部癌など下部胆道の悪性閉塞を示唆する。
