StudyMed医師国家試験

鱗屑ひとかけらで真菌を捕まえる―KOH直接検鏡法が光る癜風の診断

第103回医師国家試験 I問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第21問

苛性カリ〈KOH〉直接検鏡法が診断に有用なのはどれか。

  1. a.癜風
  2. b.単純疱疹
  3. c.伝染性軟属腫
  4. d.伝染性膿痂疹
  5. e.尖圭コンジローマ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚科外来で最もよく行われる検査の一つ、苛性カリ直接検鏡法がどんな疾患に役立つかを問う問題だ。ポイントは、この検査で「何が見えるのか」を理解しておくこと。そうすれば選択肢を病原体ごとに整理するだけで答えが出る。まず、KOH法の原理を説明できるかな。
医学生医学生
鱗屑をスライドガラスにのせてKOH液を垂らし、顕微鏡で見る検査ですよね。でも、なぜKOHを使うのかまでは自信がありません。
ドクタードクター
KOHは角質のケラチンを溶かして透明にするけれど、真菌の細胞壁はキチンなどでできていて溶けにくい。だから角質の中に潜んでいる菌糸や胞子だけが浮かび上がって見えるんだ。簡便で迅速、費用もほとんどかからない。
医学生医学生
つまり、この問題は「真菌が原因の疾患はどれか」と言い換えられるわけですね。
ドクタードクター
その通り。では選択肢を病原体で分けてみよう。
医学生医学生
癜風は真菌、単純疱疹と伝染性軟属腫と尖圭コンジローマはウイルス、伝染性膿痂疹は細菌…なので癜風でしょうか。
ドクタードクター
正解だ。癜風は皮膚の常在真菌である好脂性酵母マラセチアが、角層内で菌糸形に転じて増殖する表在性真菌症だ。胸や背部、頸部など皮脂の多い部位に、こすると粉のようにはがれる細かい鱗屑を伴った褐色斑や脱色素斑が多発する。
医学生医学生
微生物学の講義で、マラセチアは脂が好きだと習いました。夏に多いのもそのためですか。
ドクタードクター
高温多湿の季節や汗をかきやすい人に多いのは確かだね。鱗屑をKOH法で見ると、短く太い菌糸と丸い胞子の集まりが混在していて、「スパゲッティ・アンド・ミートボール」と呼ばれる像になる。これが見つかれば診断が確定する。
医学生医学生
単純疱疹ではTzanck試験を使うと聞きました。KOH法とは違うんですね。
ドクタードクター
そう。単純疱疹は単純ヘルペスウイルスによるもので、ウイルスはKOH法では見えない。水疱底の細胞をギムザ染色して多核巨細胞を探すTzanck試験や、蛍光抗体法、イムノクロマト法、PCR法などで確認する。
医学生医学生
伝染性軟属腫は、小児科の実習で水いぼを摘除しているのを見ました。中から白いものが出てきて、それを顕微鏡で見ると言われた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。伝染性軟属腫はポックスウイルス科のウイルスによる疾患で、中心がへこんだ光沢のある小丘疹が特徴だ。摘除した白い粥状物を鏡検すると封入体をもつ変性表皮細胞、いわゆる軟属腫小体が見える。ただ、これは真菌を探すKOH法とは目的が違うし、診断は主に臨床像で行う。
医学生医学生
伝染性膿痂疹は細菌なので、グラム染色や培養ですね。
ドクタードクター
そう。水疱性膿痂疹は主に黄色ブドウ球菌、痂皮性膿痂疹は主にA群β溶血性レンサ球菌が原因だ。尖圭コンジローマはHPVの6型・11型などによる性感染症で、外陰部や肛囲に乳頭状の疣贅をつくる。診断は臨床像が中心で、必要なら生検でコイロサイトを確認する。いずれもKOH法の対象ではない。
医学生医学生
病原体ごとに「何で見るか」を対応させて覚えればいいんですね。KOH法の対象になるのは、ほかにどんな疾患がありますか。
ドクタードクター
代表は白癬で、隔壁のある分岐した長い菌糸が見える。皮膚カンジダ症では仮性菌糸と出芽した酵母。それから、真菌ではないけれど疥癬もKOH法でヒゼンダニの虫体や虫卵を検出できる。CBTでも国試でもよく出るので一緒に覚えておこう。
医学生医学生
検査を実際にするときのコツはありますか。
ドクタードクター
病変の辺縁、活動性の高い部分の鱗屑や水疱蓋、爪なら濁った部分を採ると陽性率が上がる。抗真菌薬を外用中だと偽陰性になりやすいので注意が必要だ。また、KOH法では菌種までは分からないから、同定が必要なら真菌培養を行う。臨床で特に気をつけたいのは、「湿疹」と思ってステロイドを塗ったら悪化した、という例が実は白癬だったというパターンだ。
医学生医学生
鱗屑のある紅斑を見たら、まずKOH法で真菌を否定するべきなんですね。
ドクタードクター
その習慣が誤診を防ぐ。癜風ではWood灯で黄色〜黄橙色の蛍光を示すことがあり、治療はイミダゾール系などの抗真菌薬外用が中心だ。再発しやすいことも患者さんに伝えておくといいね。

まとめ

苛性カリ直接検鏡法は、KOHで角質のケラチンを溶かし、溶けにくい真菌の菌糸や胞子を直接観察する簡便な検査です。対象は白癬、皮膚カンジダ症、癜風などの表在性真菌症と、角層に寄生するヒゼンダニを検出する疥癬であり、癜風では短く太い菌糸と球形胞子の集簇が混在する特徴的な像がみられます。単純疱疹・伝染性軟属腫・尖圭コンジローマはウイルス、伝染性膿痂疹は細菌が原因で、それぞれTzanck試験やPCR、臨床像や生検、グラム染色・培養などで診断します。鱗屑を伴う紅斑では安易にステロイドを使わず、まずKOH法で真菌を確認する習慣が誤診防止につながります。病原体ごとに適した検査を対応させて理解することは、皮膚感染症の診断を効率よく進める基本です。

解答・解説

正解はaです

苛性カリ〈KOH〉直接検鏡法は、皮膚の鱗屑(表皮の角層がはがれたもの)・爪・毛などをスライドガラスにのせ、10〜30%程度の水酸化カリウム溶液を滴下して角質を溶かし、顕微鏡で観察する検査である。KOHはケラチンを溶解・透明化するが、真菌の細胞壁(キチンなど)は溶けにくいため、角質中にひそむ菌糸や胞子(酵母形)を直接見つけることができる。簡便・迅速で費用もかからず、皮膚科外来で最も頻繁に行われる検査の一つである。 したがって本問は、「選択肢のうち真菌(または角層内に寄生する虫体)が原因の疾患はどれか」を問うていると言い換えられる。各選択肢の病原体を整理すると、癜風は真菌(マラセチア)、単純疱疹・伝染性軟属腫・尖圭コンジローマはウイルス、伝染性膿痂疹は細菌であり、KOH直接検鏡法で病原体を確認できるのは癜風のみである。

選択肢考察

  1. ○a.  癜風

    癜風は、皮膚の常在真菌である好脂性酵母マラセチア(Malassezia属、主にM. globosaなど)が角層内で菌糸形に転じて増殖することで生じる表在性真菌症である。胸・背部・頸部など皮脂の多い部位に、細かい鱗屑(こすると粉状にはがれる)を伴う褐色斑(黒色癜風)または脱色素斑(白色癜風)が多発する。鱗屑をKOH直接検鏡すると、短く太い菌糸と球形の胞子の集簇が混在する像(いわゆる「スパゲッティ・アンド・ミートボール」)がみられ、これで確定できる。したがってKOH直接検鏡法が診断に直結する疾患である。

  2. ×b.  単純疱疹

    単純疱疹は単純ヘルペスウイルス(HSV-1、HSV-2)による感染症で、口唇や外陰部に小水疱が集簇して生じる。ウイルスはKOH直接検鏡法では確認できない。補助診断としては、水疱底の細胞をギムザ染色して多核巨細胞(ウイルス性巨細胞)を探すTzanck(ツァンク)試験、蛍光抗体法によるウイルス抗原の検出、PCR法などが用いられる。

  3. ×c.  伝染性軟属腫

    伝染性軟属腫(いわゆる水いぼ)は伝染性軟属腫ウイルス(ポックスウイルス科)による感染症で、小児に好発する。中心が臍のようにくぼんだ(中心臍窩)光沢のある小丘疹が特徴で、診断は主に臨床像による。ピンセットで摘除すると白色の粥状物が出てきて、これを鏡検すると封入体を含んだ変性表皮細胞(軟属腫小体、molluscum body)が観察されるが、これはKOHで真菌を探す検査とは目的が異なる。ウイルス性疾患であり、KOH直接検鏡法の対象ではない。

  4. ×d.  伝染性膿痂疹

    伝染性膿痂疹(とびひ)は細菌感染症であり、水疱性膿痂疹は主に黄色ブドウ球菌(表皮剥脱毒素による)、痂皮性膿痂疹は主にA群β溶血性レンサ球菌(黄色ブドウ球菌の混合感染もある)が原因となる。診断は臨床像に加え、病変部の細菌培養・グラム染色で行い、KOH直接検鏡法は用いない。

  5. ×e.  尖圭コンジローマ

    尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス(HPV)、主に低リスク型の6型・11型の感染による性感染症で、外陰部・肛囲に乳頭状・鶏冠状の疣贅を生じる。診断は臨床像が中心で、必要に応じて生検(コイロサイトと呼ばれる空胞化細胞の確認)やHPV検査を行う。ウイルス性疾患であり、KOH直接検鏡法で診断するものではない。

KOH直接検鏡法の対象となる主な疾患

・白癬(皮膚糸状菌症):足白癬、爪白癬、体部白癬、股部白癬、頭部白癬など。隔壁をもつ分岐した長い菌糸がみられる。 ・皮膚カンジダ症:間擦疹型カンジダ症、カンジダ性指趾間びらん症、爪囲爪炎など。仮性菌糸と出芽した酵母がみられる。 ・癜風・マラセチア毛包炎:短く太い菌糸と球形の胞子の集簇がみられる。 ・疥癬:真菌ではないが、角層内に寄生するヒゼンダニ(疥癬虫)の虫体・虫卵をKOH法(またはダーモスコピー)で検出できる。

検査の実際と注意点

・病変の辺縁(活動性の高い部分)の鱗屑や、水疱蓋、爪の混濁部を採取すると陽性率が上がる。 ・抗真菌薬の外用中は偽陰性となりやすいため、外用をしばらく中止してから再検査することがある。 ・KOH法で陽性でも菌種(白癬菌の種類など)は判別できないため、同定が必要な場合は真菌培養を行う。 ・ステロイド外用で悪化した「湿疹」が実は白癬だった、という誤診を防ぐためにも、鱗屑を伴う紅斑では積極的にKOH法を行うことが重要である。

癜風の補足

・高温多湿の夏季、多汗の若年〜中年成人に多い。 ・Wood灯(長波長紫外線)照射で黄色〜黄橙色の蛍光を示すことがある。 ・治療はイミダゾール系などの抗真菌薬外用。再発しやすい。

病原体別の主な迅速診断法

・真菌:KOH直接検鏡法 ・ヘルペスウイルス(単純疱疹・水痘・帯状疱疹):Tzanck試験、蛍光抗体法、イムノクロマト法、PCR法 ・細菌:グラム染色、培養

POINT

・KOH直接検鏡法は角質を溶かして真菌の菌糸・胞子を直接観察する検査である。 ・対象は白癬、カンジダ症、癜風(マラセチア)などの表在性真菌症と、疥癬(ヒゼンダニ)である。 ・ウイルス性疾患(単純疱疹、伝染性軟属腫、尖圭コンジローマ)や細菌性疾患(伝染性膿痂疹)には用いない。 ・癜風ではKOH法で短い菌糸と胞子の集簇(スパゲッティ・アンド・ミートボール像)がみられる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。