StudyMed医師国家試験

「わかっているけど、できない」患者に何を言う?―関心期を動かすのは説得より傾聴

第103回医師国家試験 H問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第103回 H問題 第5問

食事療法において,関心はあるが現実の行動が変容していない患者に対するアプローチとして最も適切なのはどれか。

  1. a.頑張るように促す。
  2. b.食事の問題点を指摘する。
  3. c.家族のサポートを強化する。
  4. d.食事療法についての考えを聞く。
  5. e.食事療法の重要性を繰り返し説明する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、食事療法をめぐる行動変容の支援を問う問題だ。患者が「行動を変える過程のどの段階にいるのか」を見極めて、その段階に合った関わり方を選べるかがポイントになる。
医学生医学生
行動変容ステージモデルですね。公衆衛生の講義で、無関心期から維持期までの5段階を習いました。
ドクタードクター
そう、Prochaskaらが提唱したモデルだ。無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期と進んでいく。では「関心はあるが行動は変わっていない」患者はどこに当たるかな。
医学生医学生
関心期だと思います。でも、それなら背中を押してあげればいいので、頑張るように励ますのがよさそうに感じます。
ドクタードクター
そう考える人は多いんだ。でも関心期の患者は、「変えたほうがいい」という気持ちと「今の食生活を続けたい」「どうせ続かない」という気持ちの間で揺れている。これを両価性、アンビバレンスというんだ。何が障壁なのかわからないまま漠然と励ましても、具体的な行動にはつながらないし、「頑張れていない自分」を意識させて自信を削ぐこともある。
医学生医学生
なるほど。では、食事の問題点をはっきり指摘したほうが、気づきになりませんか。
ドクタードクター
信頼関係も動機づけも固まっていない段階で問題点を突きつけると、患者は責められたと感じて言い訳や反発、つまり抵抗を強めやすい。問題点の共有は、患者自身が食事を振り返る準備ができてから、本人の気づきを引き出す形で行うほうがいいんだ。
医学生医学生
食事療法がどれだけ大事かを繰り返し説明するのも、同じ理由でよくないのでしょうか。
ドクタードクター
そうだね。この患者はすでに関心をもっていて、重要性はおおむね理解していると考えられる。そこに説明を重ねると押し付けられている感覚が生まれて、かえって遠ざかってしまう。重要性やリスクの情報提供が中心になるのは、まだ問題に気づいていない無関心期なんだ。
医学生医学生
家族のサポートを強化するのはどうですか。糖尿病内科の実習で、奥さんが食事を作っている患者さんがいて、家族の協力は大事だと感じました。
ドクタードクター
家族の協力や食環境の調整は、どの段階でも役に立つ有用な支援だよ。特に行動を始めた実行期や維持期で、継続を支える力になる。ただ関心期でいちばん必要なのは本人の動機づけを固めること。本人の考えを確かめないまま周囲だけを固めても、主体的な変化にはつながりにくい。
医学生医学生
そうすると、正解は食事療法についての考えを聞く、ということですね。
ドクタードクター
その通り。食事療法をどう捉えているか、何が実行を妨げているか、どんなことならできそうかを開かれた質問で尋ね、共感的に聴く。患者が自分の言葉で変わる理由や方法を語ることで動機が高まり、そこから実現可能な小さな目標を一緒に立てられる。これが準備期・実行期への橋渡しになるんだ。
医学生医学生
OSCEの医療面接で練習した開放型質問や共感的態度が、ここでも生きるんですね。
ドクタードクター
まさにそう。この関わり方を体系化したのが動機づけ面接だ。開かれた質問、是認、聞き返し、要約といった技法で、患者から「変わりたい」という発言、チェンジトークを引き出していく。医療者がつい正したくなる気持ちは「正したい反射」と呼ばれていて、それを抑えることが大切なんだ。
医学生医学生
段階ごとに、何を優先するかが変わるということですね。無関心期は情報提供、関心期は傾聴、準備期は具体的な計画づくり、実行期と維持期は賞賛や環境調整、という感じでしょうか。
ドクタードクター
よく整理できているね。もう一つ注意したいのは、段階は一方向に進むとは限らず、逆戻りを繰り返しながら螺旋状に進むことが多いという点だ。逆戻りしても失敗と責めずに、今いる段階を見直して関わり方を調整すればいい。
医学生医学生
外来で「また体重が増えてしまって」と話す患者さんに、叱るより理由を一緒に考えるほうがいいということですね。
ドクタードクター
その姿勢が、長い付き合いになる生活習慣病の診療ではとても大切なんだ。食習慣は人間の本能的な好みとも結びついていて、知識だけでは変わりにくい。だからこそ行動科学に基づいた関わり方が求められるんだよ。

まとめ

「関心はあるが行動が変わっていない」患者は、行動変容ステージモデルの関心期にあたり、変わりたい気持ちと変わりたくない気持ちの両価性を抱えています。この段階では、漠然とした励まし、問題点の指摘、重要性の繰り返し説明はいずれも抵抗を強めやすく、まずは患者が食事療法をどう考え、何が障壁になっているかを開かれた質問で聴くことが最も適切です。情報提供は主に無関心期、具体的な計画づくりは準備期、賞賛や家族の支援・環境調整は実行期・維持期で重視されるなど、段階に応じて関わり方を変えることが基本です。動機づけ面接の技法を用いて患者自身から変化への言葉を引き出し、小さな目標を一緒に設定していく姿勢は、糖尿病や肥満など生活習慣病の長期的な診療を支える重要な臨床能力です。

解答・解説

正解はdです

生活習慣の改善を支援する際の、行動変容の考え方を問う問題である。 行動変容を理解する枠組みとして、Prochaska(プロチャスカ)らが提唱した行動変容ステージモデル(変化ステージモデル、トランスセオレティカルモデル)が広く用いられている。このモデルでは、人が行動を変えていく過程を「無関心期(前熟考期)→関心期(熟考期)→準備期→実行期→維持期」の5段階に分け、患者が今どの段階にいるかによって有効な働きかけが異なると考える。 本問の「関心はあるが現実の行動が変容していない」患者は、変える必要性は感じているが実際には踏み出せていない状態であり、関心期(場合により準備期)に相当する。この段階の患者は「変えたほうがよい」という気持ちと「今の食生活を続けたい」「どうせ続かない」という気持ちの間で揺れている(両価性、アンビバレンス)ことが多い。ここで医療者が一方的に指示・説得・批判をすると、患者は責められていると感じて防衛的になり、かえって変化から遠ざかる。 そこで有効なのは、患者自身が食事療法をどう考えているか、何が障壁になっているか、どうすればできそうかを開かれた質問で引き出し、共感的に傾聴することである。患者が自分の言葉で変化の理由や方法を語ることで動機づけが高まり、患者と一緒に達成可能な具体的目標を設定しやすくなる。これは動機づけ面接(motivational interviewing)の基本的な考え方でもある。したがって「食事療法についての考えを聞く」が最も適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  頑張るように促す。

    何をどう変えればよいのか、何が障壁になっているのかが明らかでないまま漠然と励ましても、患者は具体的な行動に移せない。むしろ「頑張れていない自分」を意識させ、自信を失わせることにもなりうる。励ましは、患者が具体的な行動を始めた実行期に、できたことを評価し継続を後押しする場面でより意味をもつ。

  2. ×b.  食事の問題点を指摘する。

    信頼関係が十分に築けておらず、動機づけも固まっていない段階で問題点を指摘すると、患者は非難されたと受け取って反発や言い訳(抵抗)を強めやすい。問題点の具体的な共有は、患者が変化に向けて動き出し、自らの食事を振り返る準備ができた段階で、患者の気づきを引き出す形で行うのが望ましい。

  3. ×c.  家族のサポートを強化する。

    家族の協力や食環境の調整といった社会的支援は、どの段階でも行動変容を助ける有用な手段であり、特に行動を開始した実行期・維持期で継続を支える力となる。しかし関心期の患者にとって最も必要なのは本人の動機づけを固めることであり、本人の考えを確認しないまま周囲の支援だけを強めても、本人の主体的な変化にはつながりにくい。最も適切な対応とはいえない。

  4. ○d.  食事療法についての考えを聞く。

    関心期の患者は変化への意欲と抵抗感の両方を抱えている。食事療法をどう捉えているか、実行を妨げているものは何か、どのようなことならできそうかを開かれた質問で尋ね、共感的に聴くことで、患者自身が変化の必要性と方法に気づき、自己決定に基づく動機づけが高まる。そのうえで患者の問題意識に沿った、実現可能な小さな行動目標を一緒に設定することが、準備期・実行期への移行を促す。

  5. ×e.  食事療法の重要性を繰り返し説明する。

    本問の患者はすでに関心をもっており、重要性自体は理解していると考えられる。行動に移す自信がない時期に重要性ばかりを繰り返し強調すると、押し付けられていると感じて反発心が生じ、抵抗が強まる。情報提供は、そもそも問題を認識していない無関心期に、患者の受け入れに配慮しながら行うのが基本であり、一方的な説得は動機づけ面接では避けるべき対応とされる。

行動変容ステージモデル(Prochaskaら)と各段階での働きかけ

・無関心期(前熟考期):6か月以内に行動を変える意図がない。→ 健康リスクや改善の利点についての情報提供、患者の気持ちへの配慮、関心を引き出す働きかけ。 ・関心期(熟考期):6か月以内に変える意図はあるが、まだ行動していない。→ 患者の考えや迷いを傾聴し、変化によるメリット・デメリットを患者自身に整理してもらう。自信を高める働きかけ。 ・準備期:1か月以内に行動を始める意図があり、小さな取り組みを始めている。→ 具体的で達成可能な目標と計画を一緒に立て、実行を宣言してもらう(自己決定の支援)。 ・実行期:行動を変えてから6か月未満。→ できていることを評価・賞賛し、家族などの社会的支援や環境調整、逆戻りしそうな場面への対処法を準備する。 ・維持期:変化した行動が6か月以上続いている。→ 継続を支援し、再発(逆戻り)予防を行う。 段階は一方向に進むとは限らず、逆戻りを繰り返しながら螺旋状に進むことが多い。

動機づけ面接の基本

患者の両価性(変わりたい気持ちと変わりたくない気持ち)を受け止め、開かれた質問、是認、聞き返し(反映的傾聴)、要約などの技法を用いて、患者自身から変化に向けた発言(チェンジトーク)を引き出す。医療者が説得したり正したりしようとする姿勢(正したい反射)は抵抗を生むため避ける。

背景

食習慣は、高エネルギーで脂肪に富む食物をおいしいと感じ、食べられるときに多く食べたいというヒトに共通する性質と結びついており、知識を与えるだけでは変わりにくい。そのため行動科学に基づくカウンセリングやコーチングの技法が重視される。

POINT

・「関心はあるが行動していない」=行動変容ステージモデルの関心期(〜準備期)である。 ・関心期では、患者の考え・迷い・障壁を傾聴し、自ら変化の理由と方法を見いだせるよう支援する。 ・一方的な説得、重要性の反復説明、問題点の指摘は抵抗を強めるため不適切である。 ・情報提供は主に無関心期、賞賛や社会的支援・環境調整は主に実行期・維持期で重視される。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。