StudyMed医師国家試験

鼻血はどこから出る?―鼻中隔の「キーゼルバッハ部位」に答えがある

第103回医師国家試験 H問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第103回 H問題 第4問

鼻出血の頻度が最も高いのはどれか。

  1. a.鼻前庭
  2. b.鼻中隔
  3. c.上鼻甲介
  4. d.中鼻甲介
  5. e.下鼻甲介

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、鼻出血がどこから起こりやすいかを問う基本問題だ。鼻腔の解剖と血管の分布を思い浮かべながら、「なぜそこから出血しやすいのか」まで説明できるようにしよう。
医学生医学生
子どものころ、鼻をいじって鼻血を出したことがあります。指が届く範囲、つまり鼻の入り口のあたりが多いのでしょうか。
ドクタードクター
いい着眼点だね。実際、鼻出血の大部分は鼻腔の前方から起こる。ただ、選択肢の鼻前庭そのものではなく、そのすぐ奥の鼻中隔前下部、Kiesselbach部位が最も多い出血点なんだ。
医学生医学生
解剖の講義で名前は聞きました。いくつかの動脈が集まっている場所でしたよね。
ドクタードクター
そう。前篩骨動脈、蝶口蓋動脈の中隔枝、大口蓋動脈、上唇動脈の中隔枝の終末枝が吻合して、粘膜下に細かい血管網をつくっている。前篩骨動脈は眼動脈の枝だから内頸動脈系、残りの3本は外頸動脈系で、両方の系統が関わるのがポイントだ。
医学生医学生
血管が密集しているだけで、そんなに出血しやすくなるものですか。
ドクタードクター
血管の多さに加えて、条件が重なっているんだ。粘膜が薄く、下の軟骨に密着していて伸びにくい。しかも外鼻孔に近いから、吸った空気で乾燥しやすく、鼻いじりや鼻かみ、くしゃみの刺激も直接受ける。全体の7〜9割がここからとされるのはそのためだよ。
医学生医学生
では鼻前庭はどう違うのでしょう。入り口という点では一番前ですよね。
ドクタードクター
鼻前庭は皮膚、つまり重層扁平上皮に覆われていて、鼻毛や皮脂腺がある部分なんだ。鼻癤や湿疹の好発部位ではあるけれど、鼻出血の最多部位ではない。鼻前庭から粘膜に移行したすぐ先がKiesselbach部位、と位置関係で覚えておくと混同しにくい。
医学生医学生
鼻甲介はどうですか。下鼻甲介はアレルギー性鼻炎で腫れるところなので、血流は多そうです。
ドクタードクター
鋭いね。下鼻甲介は粘膜下に海綿静脈叢が発達していて、鼻閉の原因になる。後端付近には蝶口蓋動脈の枝が分布し、高齢者の止血しにくい後方出血の原因になることもある。ただ頻度は鼻中隔前方よりずっと少ない。上鼻甲介は嗅上皮のある奥まった場所、中鼻甲介は副鼻腔の開口部が集まる中鼻道の目印で、どちらも自然な鼻出血の好発部位ではないよ。
医学生医学生
中鼻甲介は、耳鼻咽喉科の実習で内視鏡下副鼻腔手術を見学したときに、ランドマークとして説明されました。
ドクタードクター
そうだね、手術では大事な構造だ。整理すると、「前方の鼻中隔は頻度が高く止めやすい、後方は頻度は低いが止めにくい」という対比になる。
医学生医学生
前方出血は鼻鏡で直接見えるので、処置もしやすいということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点だ。鼻出血の多くは原因のはっきりしない特発性で、乾燥する冬に増える。一方で、高血圧や抗血栓薬の内服、白血病や特発性血小板減少性紫斑病などの血液疾患、肝疾患、Osler病が背景にあることもあるから、繰り返す人や止まりにくい人では全身の評価も忘れないこと。
医学生医学生
救急外来で見学したとき、上を向かせずに前かがみで座らせていました。
ドクタードクター
正しい対応だね。上を向くと血液を飲み込んで吐き気を誘い、出血量も把握しにくくなる。座位でやや前かがみにして、鼻翼を両側から10分ほどつまんで圧迫するのが基本だ。止まらなければ血管収縮薬を浸したガーゼ、出血点の電気凝固や硝酸銀による焼灼を行う。後方出血ではバルーンカテーテルなどによる後鼻孔タンポンや、蝶口蓋動脈の焼灼・塞栓術まで考慮するよ。
医学生医学生
キーゼルバッハ部位の解剖が、そのまま圧迫止血の理屈につながっているんですね。
ドクタードクター
そう、鼻翼をつまむと鼻中隔の前方がちょうど圧迫される。解剖を理解すると、処置の意味も自然に見えてくるんだ。

まとめ

鼻出血の最好発部位は鼻中隔前下部のKiesselbach部位で、全体の大部分を占めるとされます。ここは内頸動脈系の前篩骨動脈と、外頸動脈系の蝶口蓋動脈・大口蓋動脈・上唇動脈が吻合する血管網で、粘膜が薄く、乾燥や鼻いじりなどの刺激を受けやすいことが出血しやすさの理由です。鼻前庭は皮膚に覆われた部分で出血源としては少なく、鼻甲介からの出血も頻度は低いものの、下鼻甲介後端付近などの後方出血は高齢者や高血圧患者で止血困難になりやすく注意が必要です。前方出血はまず前かがみの座位で鼻翼を圧迫して止血し、繰り返す場合は高血圧・抗血栓薬・血液疾患などの背景を検索します。出血部位の解剖を理解しておくことは、救急や外来での適切な初期対応に直結します。

解答・解説

正解はbです

鼻出血がどこから起こりやすいかを問う基本問題である。 鼻出血の大部分は鼻腔の前方から生じ、その中心は鼻中隔の前下部にあるKiesselbach(キーゼルバッハ)部位である。この部位は複数の動脈の終末枝が吻合して粘膜下に細かな血管網をつくっており、しかも粘膜が薄く、軟骨に密着しているため伸展性に乏しい。さらに外鼻孔に近いため、吸気による乾燥や指による鼻いじり(鼻をほじる行為)、くしゃみ・鼻かみなどの機械的刺激を受けやすい。こうした解剖学的・環境的条件が重なるため、鼻出血の出血点は鼻中隔前方に集中する。 一方、鼻甲介(上・中・下)は鼻腔外側壁から張り出したひだであり、出血源となることはあるが頻度は鼻中隔に比べてはるかに低い。後方の出血(下鼻道後端付近の蝶口蓋動脈領域など)は頻度は低いが、高齢者や高血圧・動脈硬化のある患者で起こりやすく、止血が難しく出血量も多くなりやすい点で臨床的には重要である。 したがって、頻度が最も高い部位としては鼻中隔(Kiesselbach部位)を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  鼻前庭

    鼻前庭は外鼻孔のすぐ内側で、皮膚(重層扁平上皮)に覆われ鼻毛や皮脂腺をもつ部分である。鼻癤(毛包の化膿性炎症)や湿疹などの好発部位ではあるが、鼻出血の出血源として最も多い部位ではない。鼻前庭のすぐ奥で鼻中隔粘膜に移行したところがKiesselbach部位であり、両者を混同しないようにする。

  2. ○b.  鼻中隔

    鼻中隔前下部のKiesselbach部位は、前篩骨動脈(眼動脈の枝で内頸動脈系)、蝶口蓋動脈の中隔枝、大口蓋動脈、上唇動脈の中隔枝(後三者は外頸動脈系)が吻合してできる血管網で、粘膜が薄く外力や乾燥の影響を受けやすい。このため鼻出血の大部分(成書により約70〜90%とされる)がこの部位から起こる。前方にあるため鼻鏡で直接確認でき、圧迫止血や焼灼などで対処しやすい。

  3. ×c.  上鼻甲介

    上鼻甲介は篩骨の一部で鼻腔の上後方に位置し、その周辺には嗅覚をつかさどる嗅上皮が分布する。外からの刺激を受けにくい奥まった部位であり、鼻出血の出血源となることはまれである。

  4. ×d.  中鼻甲介

    中鼻甲介は篩骨の一部で、その下の中鼻道には上顎洞・前篩骨洞・前頭洞が開口する。副鼻腔手術(内視鏡下鼻副鼻腔手術)の重要な指標となる構造であるが、自然に起こる鼻出血の好発部位ではない。

  5. ×e.  下鼻甲介

    下鼻甲介は独立した骨を芯にもち、粘膜下に海綿静脈叢が発達していて鼻閉やアレルギー性鼻炎の腫脹に関与する。後端付近(下鼻道後部)は蝶口蓋動脈の枝が分布し、高齢者の止血困難な後方出血の出血源となることがあるが、頻度としては鼻中隔前方に比べて少ない。

Kiesselbach部位の血管構成

・前篩骨動脈(眼動脈の枝=内頸動脈系) ・蝶口蓋動脈の中隔枝(顎動脈の枝=外頸動脈系) ・大口蓋動脈(顎動脈の枝=外頸動脈系) ・上唇動脈の中隔枝(顔面動脈の枝=外頸動脈系) 内頸動脈系と外頸動脈系の両方が関与する点が重要である。

鼻出血の分類と原因

・特発性(原因のはっきりしないもの)が多く、全体の約8割前後を占めるとされる。局所の機械的刺激(鼻いじり、鼻かみ)、空気の乾燥が主な誘因で、暖房で空気が乾燥する冬季に多い。 ・症候性:局所要因として外傷、鼻腔・副鼻腔の腫瘍(若年男性の上咽頭血管線維腫、悪性腫瘍など)、全身要因として高血圧、血液疾患(白血病、特発性血小板減少性紫斑病、血友病など)、抗血栓薬の内服、肝疾患、遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler病)などがある。

治療の基本

・前方出血:座位でやや前かがみにし、鼻翼を両側から10分程度つまんで圧迫する。血液を飲み込ませないようにする。止まらなければ血管収縮薬・表面麻酔薬を浸したガーゼの挿入、出血点の電気凝固や化学焼灼(硝酸銀など)を行う。 ・後方出血:ベロックタンポンやバルーンカテーテルによる後鼻孔タンポン、内視鏡下の蝶口蓋動脈焼灼・結紮、血管塞栓術などを考慮する。

POINT

・鼻出血の最好発部位は鼻中隔前下部のKiesselbach部位である。 ・Kiesselbach部位は内頸動脈系(前篩骨動脈)と外頸動脈系(蝶口蓋動脈・大口蓋動脈・上唇動脈)の吻合部で、粘膜が薄く刺激を受けやすい。 ・多くは特発性で、乾燥・機械的刺激が誘因となり冬季に多い。 ・前方出血はまず鼻翼の圧迫で止血する。後方出血は高齢者・高血圧で多く、止血困難になりやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。