ハンマーはどこを叩く?―「腱の場所」から導く上腕二頭筋反射
第103回医師国家試験 H問題 第18問
国試問題にチャレンジ
反射の診察において,ハンマーの叩打部位を別に示す。 上腕二頭筋反射の誘発に適切な部位はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腱反射は、腱を叩いて筋を急に伸ばすことで筋紡錘から脊髄を介して起こる単シナプス性の伸張反射であり、叩打部位は「目的の筋の腱が触れる場所」として導けます。上腕二頭筋反射は、肘を軽く曲げた肢位で肘窩の上腕二頭筋腱に検者の母指を当て、その上から叩打して誘発し、反射弓は筋皮神経・C5〜C6です。肘頭近位を叩けば上腕三頭筋反射(主にC7、橈骨神経)、橈骨遠位端を叩けば腕橈骨筋反射(C5〜C6、橈骨神経)、腋窩前方なら大胸筋反射となります。反射の亢進は上位運動ニューロン障害、減弱・消失は反射弓の障害を示唆し、各反射の髄節と組み合わせることで病変の高さを推定できます。左右差の比較や増強法も含め、正確な手技は神経診察の土台となる技能です。
解答・解説
正解はbです
腱反射(深部腱反射)は、腱をハンマーで叩いて筋を急に引き伸ばし、筋紡錘からの求心性信号が脊髄の同じ髄節で運動ニューロンを興奮させて筋が反射的に収縮する現象である(単シナプス性の伸張反射)。したがって、どの反射を誘発したいかが決まれば、叩くべき部位は「その筋の腱が体表から触れる場所」として導ける。 上腕二頭筋は肘を曲げる(屈曲させる)筋であり、上腕の前面を走って、遠位では肘の前面(肘窩)で腱となり、橈骨粗面に付着する。肘を軽く曲げると肘窩の中央やや外側に索状の上腕二頭筋腱を触れる。この腱の上に検者が自分の母指を置き、その母指の上をハンマーで叩くのが標準的な方法である。反射が正常に起これば上腕二頭筋が収縮し、肘がわずかに屈曲する。 図では、①は前腕遠位の上縁側(橈骨遠位端付近)、②は肘の屈側(肘窩)、③は腋窩の前方(大胸筋の腱の付近)、④は肘の伸側(肘頭の近位)、⑤は前腕遠位の下縁側を指している。上腕二頭筋腱が存在するのは肘の屈側であり、②が正解となる。各部位でどの反射が誘発されるかは、筋と腱の走行を思い浮かべれば判断できる。
選択肢考察
- ×a. ①
前腕遠位の橈側、橈骨茎状突起の近くを指している。ここは腕橈骨筋の腱の付着部にあたり、叩打すると腕橈骨筋が収縮して肘が屈曲する(腕橈骨筋反射、橈骨反射ともいう。C5〜C6、橈骨神経)。上腕二頭筋の腱はこの部位にはないため、上腕二頭筋反射の誘発部位としては不適切である。
- ○b. ②
肘の屈側(肘窩)を指しており、上腕二頭筋の遠位腱が橈骨粗面へ向かって走る部位である。肘を軽度屈曲・前腕を軽く回外させた位置で腱に母指を当て、その上を叩打すると上腕二頭筋が収縮して肘が屈曲する。これが上腕二頭筋反射であり、反射弓は筋皮神経とC5〜C6髄節である。したがって上腕二頭筋反射の誘発に適切な部位である。
- ×c. ③
腋窩前方、大胸筋の腱が上腕骨に向かう付近を指している。この部位を叩くと大胸筋が収縮して上腕が内転・内旋する(大胸筋反射、胸筋反射。C5〜T1、内側・外側胸筋神経)。腋窩には上腕二頭筋の遠位腱はなく、上腕二頭筋反射は誘発できない。
- ×d. ④
肘の伸側、肘頭のすぐ近位を指している。ここには肘を伸ばす上腕三頭筋の腱があり、叩打すると肘が伸展する(上腕三頭筋反射。C6〜C8、主にC7、橈骨神経)。上腕二頭筋とは拮抗する筋の反射部位であり、上腕二頭筋反射の誘発部位ではない。
- ×e. ⑤
前腕遠位の①とは反対側(掌側〜尺側)を指している。前腕遠位の掌側を叩打して前腕の回内を誘発する回内筋反射(C6〜C7、正中神経)などに用いられる部位であり、上腕二頭筋の腱は存在しない。上腕二頭筋反射の誘発部位としては不適切である。
反射の種類
神経診察で調べる反射には、腱を叩いて起こす深部腱反射(下顎反射、上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射、腕橈骨筋反射、膝蓋腱反射、アキレス腱反射など)、皮膚や粘膜への刺激で起こる表在反射(腹壁反射、角膜反射、挙睾筋反射など)、正常では出現せず錐体路障害で現れる病的反射(Babinski徴候、Hoffmann反射、Trömner反射など)がある。
上肢の主な腱反射と髄節・末梢神経
・上腕二頭筋反射:肘窩の上腕二頭筋腱を叩く。C5〜C6、筋皮神経。 ・腕橈骨筋反射:橈骨遠位端(茎状突起付近)を叩く。C5〜C6、橈骨神経。 ・上腕三頭筋反射:肘頭近位の上腕三頭筋腱を叩く。C6〜C8(主にC7)、橈骨神経。 ・回内筋反射:前腕遠位掌側を叩く。C6〜C7、正中神経。 ・大胸筋反射:腋窩前方の大胸筋腱を叩く。C5〜T1、胸筋神経。
腱反射の臨床的意義
腱反射の亢進は、その反射弓より上位の錐体路(上位運動ニューロン)障害を示唆する。一方、減弱・消失は反射弓そのもの(感覚神経、脊髄髄節・前角細胞、運動神経、筋)の障害を示唆する。どの反射が異常かを組み合わせることで、障害が中枢か末梢か、脊髄ならどの高さかを推定できる。例えばC5〜C6レベルの障害では、上腕二頭筋反射や腕橈骨筋反射が低下する一方、それより下位の髄節が関わる上腕三頭筋反射や下肢の反射が亢進することがある。
診察のコツ
腱反射は、筋を軽く伸ばした楽な肢位で、患者が力を抜いた状態で調べる。反射が出にくいときは、歯を食いしばらせたり、両手を組んで引き合わせたりする増強法(Jendrassik法)を用いる。必ず左右差を比較することが重要である。
POINT
・上腕二頭筋反射は肘窩(肘の屈側)の上腕二頭筋腱を、検者の母指越しに叩打して誘発する。 ・反射弓:上腕二頭筋反射 C5〜C6・筋皮神経、腕橈骨筋反射 C5〜C6・橈骨神経、上腕三頭筋反射 C6〜C8(主にC7)・橈骨神経。 ・叩打部位は「その筋の腱が触れる場所」と考えれば導ける:肘屈側=上腕二頭筋、肘伸側=上腕三頭筋、橈骨遠位端=腕橈骨筋。 ・腱反射亢進は上位運動ニューロン障害、減弱・消失は反射弓(下位運動ニューロン・末梢神経・筋)の障害を示唆する。
