StudyMed医師国家試験

「刺して抜く」か「入れたまま」か―中心静脈カテーテルが院内感染の最大リスクになる理由

第103回医師国家試験 H問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第103回 H問題 第19問

院内感染のリスクが最も高いのはどれか。

  1. a.出血時間検査
  2. b.末梢静脈からの採血
  3. c.末梢静脈での点滴針留置
  4. d.中心静脈栄養カテーテル留置
  5. e.血液ガス分析のための動脈穿刺

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、日常的な処置のうち院内感染のリスクが最も高いものを選ぶ問題だ。どれも病棟でよく見る手技だけど、比べるための「物差し」を持っているかどうかが問われている。どんな視点で比べればいいと思う?
医学生医学生
侵襲が大きいほど危ない、でしょうか。動脈穿刺は痛いし深いので、リスクが高そうに思えます。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、そこが落とし穴なんだ。感染のリスクで大事なのは、針の深さよりも「皮膚というバリアを越える通り道が、どれだけ長く開いているか」なんだよ。具体的には、異物が体内に留置されるか、その期間はどのくらいか、中心循環に近いか、そして中に流す輸液が菌の増えやすいものか、という点を考える。
医学生医学生
なるほど。そうすると、採血や動脈穿刺は刺してすぐ抜くので、通り道は一瞬しか開かないですね。
ドクタードクター
その通り。出血時間検査も皮膚にごく小さな傷をつけるだけで、血管内に何も残らない。ちなみにこの検査は再現性が乏しく、術前の出血リスク予測にも役立たないので、今はほとんど行われていないんだ。どれも適切に消毒すれば、問題となる感染はきわめてまれだよ。
医学生医学生
動脈穿刺は血腫とかのほうが問題になりそうですね。ICUで見た動脈ラインは別物ですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。動脈ラインのように留置すれば感染リスクは問題になるけれど、血液ガスのための単回穿刺は一過性の手技だ。リスクを分けるのは「留置するかどうか」なんだ。
医学生医学生
では、留置するものとして末梢静脈の点滴針と中心静脈カテーテルが残ります。どちらも入れたままですよね。
ドクタードクター
そう。末梢静脈カテーテルも異物だから、刺入部からの菌の侵入や静脈炎、まれに血流感染を起こしうる。ただ留置期間が短く、中心循環にも達しない。一方、中心静脈カテーテルは内頸静脈や鎖骨下静脈などから入れて先端を上大静脈付近に置き、長期間留置される。だから正解は中心静脈栄養カテーテル留置だ。
医学生医学生
「栄養」と付いているのにも意味がありますか。
ドクタードクター
大ありだよ。高カロリー輸液は高濃度のブドウ糖やアミノ酸、脂肪乳剤を含み、細菌や真菌、特にCandidaが増えやすい。しかも連日投与するから接続部や回路を何度も操作する。カテーテル表面には菌がバイオフィルムをつくって、抗菌薬や免疫が効きにくくなる。こうした条件が重なって、カテーテル関連血流感染、いわゆるCRBSIのリスクが最も高くなるんだ。
医学生医学生
菌はどこから入ってくるんでしょう。
ドクタードクター
主な経路は、刺入部の皮膚常在菌がカテーテルの外側を伝って入る経路と、接続部や三方活栓の汚染から内腔を通って入る経路だ。前者は短期留置、後者は長期留置で多い。輸液そのものの汚染や、他の感染巣からの血行性の付着もある。原因菌としてはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、MRSAを含む黄色ブドウ球菌、腸球菌、グラム陰性桿菌、Candidaなどが重要だ。
医学生医学生
整理すると、一過性の穿刺より末梢静脈カテーテル、さらに中心静脈カテーテルの順でリスクが上がる、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。では臨床での注意点を。中心静脈カテーテルが入っている患者さんに、ほかに明らかな感染源のない発熱や悪寒戦慄が出たら、まずCRBSIを疑う。末梢静脈とカテーテルの両方から血液培養をとり、原則としてカテーテルを抜去して、適切な抗菌薬や抗真菌薬を投与する。
医学生医学生
内科の臨床実習で、Candida血症の患者さんが眼科受診していたのはそのためですか。
ドクタードクター
そう、Candidaによる血流感染では眼内炎を起こすことがあるから、眼科で必ず確認する。予防も大事で、挿入時は帽子・マスク・滅菌ガウン・滅菌手袋と全身を覆う大きな滅菌ドレープを使う高度バリアプリコーション、アルコール含有クロルヘキシジンでの皮膚消毒、成人では汚染されやすい大腿静脈をできるだけ避けることが推奨されている。
医学生医学生
感染対策の講義で、手指衛生と「不要になったら早く抜く」が強調されていました。
ドクタードクター
それが一番効く対策かもしれないね。留置期間が長いほどリスクは増すから、「このカテーテル、まだ必要?」と毎日問い直す習慣をつけてほしい。尿道カテーテル関連尿路感染や人工呼吸器関連肺炎も、「体内に留置された器具」が危険因子という点で同じ構図なんだ。

まとめ

院内感染のリスクは、手技の痛さや深さではなく、皮膚バリアを越える異物が体内に留置されるか、その期間の長さ、中心循環への近さ、投与する輸液の性質によって決まります。採血、動脈穿刺、出血時間検査は刺してすぐ抜く一過性の手技で感染はまれですが、末梢静脈カテーテル、さらに中心静脈カテーテルと留置型になるほどリスクは高くなります。中心静脈栄養カテーテルは長期留置、高カロリー輸液、頻回の回路操作、バイオフィルム形成が重なり、Candidaを含むカテーテル関連血流感染の最大の原因となります。予防には高度バリアプリコーション、クロルヘキシジンアルコールによる皮膚消毒、大腿静脈の回避、手指衛生、不要なカテーテルの早期抜去が重要です。デバイス関連感染の考え方は、尿道カテーテルや人工呼吸器にも共通する医療安全の基本です。

解答・解説

正解はdです

院内感染(医療関連感染)のリスクを比べる際の主な視点は、①皮膚という防御バリアを越えて異物や微生物が体内に入る経路ができるか、②その経路がどのくらいの時間持続するか、③到達する部位(血管の太さや中心循環に近いか)、④そこへ入る輸液などの内容が微生物の増殖に適しているか、である。 選択肢のうち、出血時間検査、採血、動脈穿刺は、針を刺して数秒〜数分で抜去する一過性の手技である。皮膚をきちんと消毒して行えば、問題となる感染はきわめてまれである。これに対して、カテーテルや留置針は体内に留まり続ける異物であり、皮膚の刺入部から血管内へ微生物が侵入する通り道が留置している間ずっと存在する。カテーテル表面には細菌が付着してバイオフィルム(菌が産生する粘液性の膜で、抗菌薬や免疫が効きにくい)を形成しやすい。 留置型の器具のなかでも、中心静脈カテーテルは、上大静脈など心臓に近い太い静脈まで達し、留置期間が長く、しかも高濃度のブドウ糖やアミノ酸、脂肪乳剤など菌が増殖しやすい栄養輸液を連日投与するために、何度も回路の操作が行われる。そのため、カテーテル関連血流感染(CRBSI:catheter-related bloodstream infection)の頻度は末梢静脈カテーテルよりも明らかに高く、重症化すると敗血症や感染性心内膜炎、真菌性眼内炎などにつながる。以上より、最もリスクが高いのは中心静脈栄養カテーテル留置である。

選択肢考察

  1. ×a.  出血時間検査

    出血時間検査は、耳朶や前腕の皮膚に小さな切創・穿刺をつくり、止血までの時間を測る検査である(Duke法、Ivy法)。皮膚表層にごく小さな傷をつくるだけで、血管内に器具が留置されることもないため、院内感染のリスクは選択肢の中で最も低い部類である。なお、再現性に乏しく術前の出血リスク予測にも役立たないことから、現在の臨床ではほとんど行われていない。

  2. ×b.  末梢静脈からの採血

    静脈に針を刺して血液を採取したらすぐに抜去する一過性の手技である。穿刺部位を適切に消毒すれば、感染が起こることはきわめてまれである。医療従事者側の針刺し事故には注意が必要だが、患者の院内感染リスクとしては中心静脈カテーテルに比べて格段に低い。

  3. ×c.  末梢静脈での点滴針留置

    末梢静脈カテーテルも血管内に留置される異物であり、刺入部からの菌の侵入や静脈炎、まれに血流感染を起こしうるため、一過性の穿刺手技よりはリスクが高い。しかし、留置期間が短く、中心循環にも達しないため、中心静脈カテーテルに比べるとカテーテル関連血流感染の頻度は明らかに低い。成人では、静脈炎や感染の徴候がないか毎日観察し、臨床的に必要がなくなれば速やかに抜去することが勧められている。

  4. ○d.  中心静脈栄養カテーテル留置

    中心静脈カテーテルは、内頸静脈・鎖骨下静脈・大腿静脈などから挿入され、先端を上大静脈など中心静脈に置いて長期間留置される。刺入部の皮膚常在菌がカテーテルの外側を伝って血管内へ入る経路(最も多い)と、接続部(ハブ)や輸液ラインの操作に伴ってカテーテルの内腔側から入る経路、さらに輸液そのものの汚染がある。高カロリー輸液は菌や真菌(特にCandida)が増殖しやすく、留置期間も長いため、選択肢中で院内感染のリスクが最も高い。原因菌としてはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)、腸球菌、グラム陰性桿菌、Candidaなどが重要である。

  5. ×e.  血液ガス分析のための動脈穿刺

    橈骨動脈や大腿動脈などを穿刺して動脈血を採取する手技である。静脈採血より手技の侵襲は大きく、血腫や動脈損傷には注意を要するが、採取後すぐに抜針する一過性の手技であり、器具が留置されないため感染のリスクは低い。なお、集中治療で用いる動脈ラインの留置では感染のリスクが問題となるが、本選択肢は単回の穿刺である。

カテーテル関連血流感染(CRBSI)

院内で発生する血流感染の多くは、血管内カテーテルに関連して起こる。末梢静脈カテーテルと中心静脈カテーテルでは、後者のほうが明らかに発生率が高い。発症経路は、①刺入部の皮膚から菌がカテーテルの外表面を伝って侵入する経路(短期留置で多い)、②接続部や三方活栓の汚染からカテーテル内腔を通って侵入する経路(長期留置で多い)、③輸液製剤そのものの汚染、④他の感染巣からの血行性の付着、がある。

診断の考え方

カテーテル留置中の患者に、他に明らかな感染源のない発熱や悪寒戦慄がみられたら疑う。末梢静脈とカテーテルの両方から血液培養を採取し、同じ菌が検出されることや、カテーテル抜去後に先端を培養して同一菌が検出されることなどで判断する。原則としてカテーテルを抜去し、適切な抗菌薬(真菌であれば抗真菌薬)を投与する。Candidaによる血流感染では、眼内炎の有無を眼科で確認する。

予防策

・挿入時の高度バリアプリコーション:帽子、マスク、滅菌ガウン、滅菌手袋を着用し、患者を全身を覆う大きな滅菌ドレープで覆う。 ・皮膚消毒:アルコール含有クロルヘキシジンなどを用いる。 ・挿入部位の選択:成人では、汚染されやすい大腿静脈をできるだけ避ける。 ・手指衛生の徹底と、接続部・注入口を操作する前の消毒。 ・輸液ラインの定期的な交換(脂肪乳剤や血液製剤を投与したラインは24時間以内に交換)。 ・不要になったカテーテルは速やかに抜去する(留置期間が長いほどリスクが増す)。

その他の代表的な医療関連感染

カテーテル関連血流感染のほか、尿道カテーテル関連尿路感染、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、手術部位感染(SSI)がデバイス・処置に関連する主要な医療関連感染である。いずれも「体内に留置された器具」や「侵襲的処置」が危険因子となる点が共通している。

POINT

・院内感染リスクは、体内に異物が留置されるか、留置期間が長いか、中心循環に達するか、で考える。 ・中心静脈カテーテル>末梢静脈カテーテル>一過性の穿刺手技(採血・動脈穿刺・出血時間検査)。 ・中心静脈カテーテルはカテーテル関連血流感染(CRBSI)の最大の原因であり、高カロリー輸液ではCandidaにも注意する。 ・予防:高度バリアプリコーション、クロルヘキシジンアルコールでの皮膚消毒、大腿静脈を避ける、不要なカテーテルの早期抜去。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。