家には帰れる、でもすぐには働けない―統合失調症の退院後支援を「住まい・日中活動・就労」で選ぶ
第103回医師国家試験 G問題 第53問
国試問題にチャレンジ
30歳の男性。18歳時に統合失調症を発症し,過去に2回の入院歴がある。ここ数年は症状が安定し就労していたが29歳時に妄想が再燃し,3回目の入院となった。入院から6か月が経過し状態は安定し,日常生活も自立していることから,主治医は自宅への退院を考えている。患者は対人関係をうまくとることができないため,主治医は一般社会ですぐに働くのは困難と判断している。 退院後,患者が利用するのに適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.援護寮
- b.デイケア
- c.福祉工場
- d.グループホーム
- e.訪問リハビリテーション
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
統合失調症患者の退院後の支援は、「住まい」「日中の活動」「就労」に分けて、本人に足りないものを補う資源を選ぶのが基本です。自宅へ退院し日常生活が自立していれば、援護寮やグループホームのような居住型資源は不要で、身体機能訓練が中心の訪問リハビリテーションも目的に合いません。対人関係の課題には集団活動やSSTを行う精神科デイケアが、すぐの一般就労が難しい場合には配慮された環境で雇用される福祉工場(現在の就労継続支援A型など)が適しています。援護寮・福祉工場は旧制度の名称で、現在は障害者総合支援法のサービスに再編されている点も押さえておきましょう。服薬継続や家族の感情表出への配慮を含めた再発予防の視点とあわせ、地域で生活を続けるための支援を組み立てる力は、精神科に限らず臨床全般で求められます。
解答・解説
正解はb, cです
患者の状況の整理
・30歳男性。18歳で統合失調症を発症し、今回が3回目の入院である。 ・入院6か月で精神症状は安定し、日常生活(食事、身の回りのこと、金銭管理など)も自立している。 ・主治医は「自宅」への退院を予定している。 ・対人関係をうまく築けず、すぐに一般企業などで働くことは難しいと判断されている。
設問の考え方
退院後の社会資源を選ぶときは、「住まい」「日中の活動」「就労」「医療」のそれぞれで、本人に何が足りていて何が足りないかを見極める。 ・住まい: 自宅へ退院し、日常生活も自立しているので、生活の場を提供したり生活訓練を行ったりする入所・居住型の施設は必要ない。 ・日中の活動と対人関係: 対人関係の苦手さが課題であり、集団の中でコミュニケーションや社会生活技能を練習できる通所型のリハビリテーションが適している。これがデイケアである。デイケアは通院を続けて服薬を守り、再発の兆候を早く見つけることにも役立つ。 ・就労: いきなり一般就労は難しいが、就労への意欲と能力はある(数年間就労していた実績がある)。そこで、配慮のある環境で働きながら技能や作業習慣を身につけ、一定の収入も得られる福祉的就労の場が適している。福祉工場がこれに当たる。 つまり、通所で対人関係・社会生活技能を訓練する場(デイケア)と、保護的な環境で働く場(福祉工場)を組み合わせ、段階的に一般就労を目指すのが本例に合った支援である。
選択肢考察
- ×a. 援護寮
援護寮(精神障害者生活訓練施設)は、家庭環境や住宅事情などの理由で住む場所がなく、独立した日常生活を送ることが難しい精神障害者が一定期間入所し、生活技能の訓練や助言を受ける施設であった。本例は自宅へ退院する予定で、日常生活も自立しているため、入所して生活訓練を受ける必要はない。なお援護寮は障害者自立支援法の施行に伴い、自立訓練(生活訓練)の宿泊型などへ移行している。
- ○b. デイケア
精神科デイケアは、在宅の患者が日中に医療機関などへ通い(1日6時間程度が標準)、集団活動、作業療法、社会生活技能訓練(SST)、心理教育などを受ける通所型のリハビリテーションである。仲間やスタッフとの交流を通じて対人関係の技能を練習でき、生活リズムの維持、服薬継続の支援、再発の早期発見にもつながる。対人関係に課題を残して自宅へ退院する本例にふさわしい。
- ○c. 福祉工場
福祉工場は、作業能力はあるものの対人関係や職場環境などの理由で一般企業への就職が難しい障害者を雇用し、配慮された環境で働く機会を提供する施設であった。雇用契約に基づいて働くため一定の賃金が得られ、作業を通じて技能や職業習慣を身につけることもできる。かつて就労していた実績があり、すぐの一般就労は困難とされた本例が、次の段階として利用するのに適している。現在の制度では、就労継続支援A型事業などに移行している。
- ×d. グループホーム
グループホーム(共同生活援助)は、少人数の障害者が共同で暮らし、世話人から食事・家事・服薬・健康管理などの支援や相談を受ける住まいの場である。自宅へ退院し、日常生活も自立している本例では、住まいとしてグループホームを利用する必要はない。
- ×e. 訪問リハビリテーション
訪問リハビリテーションは、通院が困難な患者の自宅を理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が訪問し、歩行・動作訓練や日常生活動作の練習などを行うもので、主に身体障害や要介護高齢者が対象である。本例は日常生活が自立し通所が可能であり、課題は対人関係や就労であるため、自宅での訓練よりも集団の中で練習できる通所型の支援が適している。
精神障害者の社会復帰に用いられる主な社会資源
1. 医療系の通所・訪問サービス ・精神科デイケア: 日中6時間程度。集団活動、SST、作業療法、心理教育など。 ・ナイトケア(夕方以降4時間程度)、デイ・ナイトケア(10時間程度)、ショートケア(3時間程度)もある。 ・精神科訪問看護: 看護師や作業療法士などが自宅を訪問し、服薬支援、生活上の相談、症状の観察などを行う。 2. 住まいの場 ・グループホーム(共同生活援助) ・かつての援護寮(生活訓練施設)、福祉ホームなど 3. 就労支援 ・一般就労: 障害者雇用率制度などによる企業での雇用 ・就労移行支援: 一般就労を目指し、一定期間(原則2年)訓練を受ける。 ・就労継続支援A型: 事業所と雇用契約を結んで働く(旧福祉工場の多くが移行)。 ・就労継続支援B型: 雇用契約を結ばず、自分のペースで作業を行い工賃を受け取る(旧授産施設の多くが移行)。 ・就労定着支援: 一般就労後の職場定着を支える。
制度の変遷
本問の選択肢にある援護寮や福祉工場は、精神保健福祉法に基づいて設けられていた精神障害者社会復帰施設の名称である。2006年施行の障害者自立支援法(2013年から障害者総合支援法)により、身体・知的・精神の障害種別にかかわらない共通のサービス体系に再編され、生活訓練の場は自立訓練(生活訓練)へ、福祉的就労の場は就労継続支援などへ移行した。
統合失調症の再発予防
再発の大きな要因は服薬の中断と、家族の高い感情表出(EE: expressed emotion、患者への批判・敵意・過度の巻き込まれ)である。退院後は、通院・服薬の継続、デイケアなどの利用による生活リズムの安定、家族への心理教育が再発予防に重要である。
POINT
・退院後の支援は「住まい」「日中活動」「就労」に分けて、本人に足りないものを補う資源を選ぶ。 ・自宅へ退院し日常生活が自立していれば、援護寮やグループホームなどの居住型資源は不要である。 ・対人関係の訓練には精神科デイケア(集団活動、SSTなど)が適している。 ・すぐの一般就労が難しい場合は、福祉的就労(旧福祉工場、現在の就労継続支援A型など)から段階的に進める。 ・援護寮・福祉工場・授産施設は旧制度の名称で、現在は障害者総合支援法の自立訓練・就労継続支援などに再編されている。
