StudyMed医師国家試験

妻を亡くした78歳、寝たきりの入り口で―施設入所より「介護予防」を選ぶ理由

第103回医師国家試験 G問題 第54問

国試問題にチャレンジ

第103回 G問題 第54問

78歳の男性。寝たきりになることを心配した娘に伴われて来院した。3か月前に妻が急死し1人暮らしとなった。一日中テレビを見ており食事も不規則になった。お茶を飲むときに咳き込むことが増えた。最近つまずきやすくなり,杖を使うようになった。かかってきた電話には受け答えはできる。排泄は自力でできる。意識は清明。言葉は不明瞭で内容がわかりにくい。体温36.1℃。血圧138/90mmHg。皮膚はやや乾燥している。血液生化学所見:血糖88mg/dL,HbA1c4.0%,総蛋白6.1g/dL,アルブミン3.7g/dL。  指導として誤っているのはどれか。

  1. a.口腔ケア
  2. b.栄養改善
  3. c.筋力トレーニング
  4. d.地域社会活動への参加
  5. e.特別養護老人ホームへの入所

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、生活が崩れ始めた独居高齢者への指導を考える問題だ。注目してほしいのは、どんな機能が落ちてきていて、どんな機能がまだ保たれているか。その差から、今この人に必要な支援の方向性が見えてくるよ。
医学生医学生
娘さんが寝たきりを心配しているので、早めに施設で見てもらったほうが安全なのかな、と最初は思いました。
ドクタードクター
家族の不安としては自然な発想だね。でも、まずは状態を整理しよう。落ちている機能は、水分でのむせに表れる嚥下機能、つまずきやすさに表れる下肢筋力やバランス、そして不規則な食事による栄養状態だ。総蛋白やアルブミンが基準をやや下回り、HbA1cが低めなのも、食べる量の不足を反映している可能性がある。皮膚の乾燥は脱水傾向を示唆するね。
医学生医学生
お茶でむせるのは、水分がサラサラで速く流れるからですよね。摂食嚥下の講義で、液体が一番誤嚥しやすいと習いました。
ドクタードクター
その通り。水分でのむせは嚥下機能低下の早いサインなんだ。一方で保たれている機能は何かな。
医学生医学生
意識は清明で、電話の受け答えができて、排泄も自力でできます。杖を使えば歩けてもいますね。
ドクタードクター
そう。つまり常に介護が必要な状態ではない。妻との死別のあと閉じこもり、活動が減り、食事も乱れて、筋力や栄養が落ちていく。これは加齢で心身の予備能が下がったフレイルや、筋肉量と筋力が落ちるサルコペニアが進みつつある状態で、放っておくと廃用が進んで寝たきりに向かう悪循環になる。
医学生医学生
フレイルは可逆的、というのがポイントでしたよね。だから今は、戻す方向の支援をするべきということですか。
ドクタードクター
まさにそれ。指導の目標は、残っている力を維持・向上させて在宅生活を続け、寝たきりを防ぐ介護予防だ。では選択肢を見ていこう。まず口腔ケアはどう考える?
医学生医学生
むせがあるので誤嚥性肺炎の予防ですね。口の中の細菌を減らしておけば、誤嚥しても肺炎になりにくい。
ドクタードクター
正解。歯みがきや義歯の清掃で口腔内を清潔に保つことは誤嚥性肺炎の予防に有効とされている。嚥下体操、とろみ付けなど食形態の工夫、食事時の姿勢の調整もあわせて指導したい。栄養改善と筋力トレーニングはどうかな。
医学生医学生
低栄養は筋肉を減らすので、両方セットで取り組むのがよさそうです。でも78歳で筋トレは負担になりませんか。
ドクタードクター
いい疑問だね。高齢者でも適切な負荷のトレーニングで筋力は向上し、転倒予防や歩行能力の維持に役立つことがわかっている。たんぱく質とエネルギーを十分にとる食事、水分補給、必要なら配食サービスも利用して、栄養と運動を組み合わせると効果が高まるよ。
医学生医学生
地域社会活動への参加は、歩くのが不安定な人には少し酷な気もしました。
ドクタードクター
そう感じる人もいるだろうね。でも閉じこもりそのものが活動量の低下や認知機能の低下、抑うつにつながる。住民主体の通いの場や介護予防教室、通所サービスで外出と交流の機会を増やすことは、心身両面の機能維持に役立つ。移動手段や見守りに配慮しながら勧めればいいんだ。
医学生医学生
そうすると、誤っている指導は特別養護老人ホームへの入所ですね。
ドクタードクター
その通り。特別養護老人ホームは介護保険法上の介護老人福祉施設で、常時介護が必要で在宅生活が難しい要介護者のための生活の場だ。現在は新規入所が原則要介護3以上に限られている。排泄が自立し杖で歩けるこの人は対象にならないし、今入所を勧めると残っている力を使う機会を奪い、かえって廃用を進めるおそれがある。
医学生医学生
地域実習で地域包括支援センターを見学したとき、まずは相談して要介護認定を申請するところから始まると教わりました。
ドクタードクター
それが現実的な流れだね。要支援なら介護予防サービスや総合事業、要介護なら介護サービスを使える。もう一つ臨床で大切なのは、嚥下障害・構音障害・歩行障害がそろっている点だ。高齢者では両側の多発性脳梗塞による偽性球麻痺やパーキンソン症候群も鑑別に挙がるから、神経学的診察や頭部MRIで評価する価値がある。死別後の意欲低下については、うつ病の評価も忘れずにね。
医学生医学生
生活指導だけで終わらせず、背景にある病気や心の状態も確かめる必要があるんですね。

まとめ

独居高齢者にみられる活動量低下、低栄養、水分でのむせ、歩行の不安定さは、フレイルやサルコペニアを経て寝たきりへ向かう危険信号です。排泄の自立や杖歩行など自立度が保たれている段階では、口腔ケアによる誤嚥性肺炎予防、栄養改善、筋力トレーニング、地域社会活動への参加といった介護予防で在宅生活の継続を目指します。特別養護老人ホームは常時介護を要し在宅生活が困難な要介護者の施設で、新規入所は原則要介護3以上であり、この段階での入所はかえって廃用を進めかねません。嚥下障害・構音障害・歩行障害の組み合わせからは偽性球麻痺などの神経疾患を、配偶者との死別後の閉じこもりからは抑うつを評価する視点も重要です。「落ちた機能」と「残っている機能」を見極めて支援の方向を決める考え方は、高齢者医療と地域包括ケアの基本になります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・78歳男性。3か月前に妻を亡くし、1人暮らしになった。 ・生活: 一日中テレビを見て過ごし、食事は不規則。活動量が低下し、閉じこもり傾向にある。配偶者との死別後であり、意欲低下や抑うつ状態も懸念される。 ・嚥下: お茶(水分)を飲むときにむせることが増えた。水分は流れが速く、嚥下機能が低下すると最初にむせやすい。誤嚥性肺炎の危険がある。 ・運動: つまずきやすく杖を使うようになった。下肢筋力やバランス能力の低下が考えられ、転倒・骨折の危険がある。 ・言語: 言葉が不明瞭で内容がわかりにくい。構音障害(発音の障害)が主体と考えられる。 ・保たれている機能: 意識は清明で、電話の受け答えができ、排泄も自立している。 ・身体所見・検査: 皮膚の乾燥は脱水傾向を示唆する。総蛋白6.1 g/dL、アルブミン3.7 g/dLはいずれも基準値をやや下回り、軽度の低栄養を示す。血糖88 mg/dLは正常だが、HbA1c 4.0%は低値で、糖質を含む食事摂取量の低下を反映している可能性がある。

病態の捉え方

嚥下障害・構音障害・歩行障害がそろっており、背景に脳血管障害(多発性ラクナ梗塞など)の関与を考えて精査する価値がある。そこに、死別後の活動量低下、不規則な食事による低栄養、閉じこもりが重なり、加齢に伴う心身の予備能低下(フレイル)や筋肉量・筋力の低下(サルコペニア)が進みつつある。この悪循環が続けば、廃用が進んで最終的に寝たきりに至る。娘が心配しているのはまさにこの点である。

設問の考え方

現時点で、本例は排泄が自立し、杖を使って歩くことができ、電話の応対もできる。常時介護が必要な状態ではない。したがって指導の目標は、残っている能力を維持・向上させて在宅生活を継続し、寝たきりを予防すること(介護予防)である。具体的には、誤嚥の予防(口腔ケア)、低栄養の改善、筋力・バランスの向上、社会的交流の回復が柱になる。逆に、生活の場を施設へ移して介護を受ける方向の対応は、現在の状態に見合わない。

選択肢考察

  1. ×a.  口腔ケア

    指導として適切である。水分でむせることから嚥下機能の低下がうかがわれ、口腔内の細菌を含む唾液や食物の誤嚥による誤嚥性肺炎の危険が高い。歯みがきや義歯の清掃などで口腔内を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎の予防に有効であることが示されている。あわせて、嚥下体操などの口腔機能訓練、とろみ付けなど食形態の工夫、食事時の姿勢の調整も役立つ。

  2. ×b.  栄養改善

    指導として適切である。食事が不規則で、総蛋白・アルブミンは軽度低下、HbA1cも低値であり、摂取量不足による低栄養が疑われる。皮膚の乾燥からは水分摂取不足も考えられる。低栄養は筋肉量と筋力を減らしてサルコペニアやフレイルを進め、転倒や感染症のリスクも高める。たんぱく質とエネルギーを十分にとれる規則正しい食事、水分補給、配食サービスの利用などを指導する。

  3. ×c.  筋力トレーニング

    指導として適切である。つまずきやすく杖が必要になっており、下肢筋力やバランス能力の低下が考えられる。高齢者でも適切な負荷の筋力トレーニングで筋力は向上し、転倒予防、歩行能力の維持、廃用の進行防止に役立つ。栄養改善と組み合わせると効果が高まる。

  4. ×d.  地域社会活動への参加

    指導として適切である。妻との死別後、一日中テレビを見て過ごす閉じこもり状態にあり、意欲の低下や抑うつが心配される。閉じこもりは活動量の低下を通じて身体機能の低下を招き、認知機能の低下にもつながる。住民主体の通いの場、介護予防教室、通所サービスなどへの参加は、外出と人との交流の機会を増やし、心身両面の機能維持に役立つ。歩行が不安定なので、移動手段や見守りに配慮しながら勧める。

  5. ○e.  特別養護老人ホームへの入所

    指導として誤っている。特別養護老人ホーム(介護保険法上の介護老人福祉施設)は、常時介護を必要とし、居宅での生活が困難な要介護者が入所する生活施設であり、2015年度以降、新規入所は原則として要介護3以上に限られている。本例は排泄が自立し、杖歩行が可能で、電話の応対もできるため、入所の対象とはならない。現段階で入所を勧めると、残っている能力を使う機会を奪い、かえって廃用を進めるおそれがある。在宅生活を支える介護予防サービスや見守り体制の整備を優先すべきである。

フレイルとサルコペニア

・フレイル: 加齢により心身の予備能が低下し、ストレスに対する脆弱性が高まった状態。健康と要介護の中間段階であり、適切な介入で健常な状態に戻りうる(可逆性がある)。身体的側面だけでなく、精神・心理的側面(うつ、認知機能低下)や社会的側面(独居、閉じこもり)を含む。 ・Friedの基準(日本版はJ-CHS基準): 体重減少、疲労感(倦怠感)、活動量低下、歩行速度低下、握力低下のうち3項目以上でフレイル、1~2項目でプレフレイル。 ・サルコペニア: 加齢に伴う筋肉量の減少と筋力・身体機能の低下。低栄養と活動量低下が大きな要因である。 ・オーラルフレイル: 滑舌の低下、食べこぼし、むせ、噛めない食品の増加など口腔機能の軽微な低下で、低栄養やフレイルの入り口となる。

介護予防の柱

栄養(たんぱく質を含むバランスのよい食事)、運動(筋力トレーニング、バランス訓練)、口腔機能の維持(口腔ケア、口腔体操)、社会参加(閉じこもり予防)が中心となる。

高齢者の主な介護施設(介護保険施設)

・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム): 常時介護を要し在宅生活が困難な要介護者の生活の場。新規入所は原則要介護3以上。 ・介護老人保健施設: 病状が安定した要介護者にリハビリテーションなどを提供し、在宅復帰を目指す中間施設。 ・介護医療院: 長期の療養と医療的管理を要する要介護者のための施設(2018年創設。介護療養型医療施設は2024年3月末で廃止)。

介護保険サービス利用の流れ

市町村に要介護認定を申請し、要支援1~2または要介護1~5に認定される。要支援者は介護予防サービスや介護予防・日常生活支援総合事業、要介護者は介護サービスを利用する。本例のように1人暮らしで機能低下が進みつつある高齢者は、地域包括支援センターに相談し、見守りや配食、通所型サービスなどの利用を検討する。

嚥下障害・構音障害・歩行障害の組み合わせ

高齢者でこれらがそろう場合、両側の大脳半球の多発性脳梗塞による偽性球麻痺(延髄より上位の運動路が両側で障害されて起こる、球麻痺に似た症状)やパーキンソン症候群などを鑑別に挙げ、神経学的診察や頭部MRIで評価する。

POINT

・独居高齢者の活動量低下・低栄養・嚥下機能低下・歩行不安定は、フレイルから寝たきりへ向かう危険信号である。 ・自立度が保たれている段階では、口腔ケア、栄養改善、筋力トレーニング、社会参加による介護予防で在宅生活の継続を目指す。 ・特別養護老人ホームは常時介護を要し在宅生活が困難な要介護者の施設で、新規入所は原則要介護3以上である。 ・水分でむせるのは嚥下機能低下の初期サインであり、誤嚥性肺炎の予防に口腔ケアが有効である。 ・配偶者との死別後の閉じこもり・意欲低下では、抑うつの評価も忘れない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。