運転席の「眠気」は事故の予兆―運転士の健診で見逃せない睡眠時無呼吸
第103回医師国家試験 G問題 第33問
国試問題にチャレンジ
電車の運転士を対象にした健康診断で重要な問診項目はどれか。2つ選べ。
- a.鼻声
- b.嗄声
- c.いびき
- d.胸やけ
- e.日中の眠気
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクターまとめ
電車やバスなどの運転業務従事者の健康診断では、居眠りや意識低下による重大事故を防ぐ観点から、日中の過度の眠気をもたらす睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングが重要です。閉塞性睡眠時無呼吸では上気道の閉塞によっていびきと無呼吸が繰り返され、睡眠が分断されて日中の眠気や集中力低下をきたすため、家族から指摘される「いびき」と本人が自覚しやすい「日中の眠気」が要となる問診項目です。鼻声、嗄声、胸やけはOSAとの間接的な関連はあっても、運転の安全に直結する症状ではありません。疑わしい場合は簡易睡眠検査や終夜睡眠ポリグラフ検査でAHIを評価し、中等症以上ではCPAPが第一選択となります。業務に特有のリスクから逆算して健診項目を選ぶ考え方は、産業保健全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はc, eです
職業に関連した健康診断では、「その業務で問題になる健康障害は何か」を考えて問診項目を選ぶ。電車・バス・トラックなどの運転業務では、運転中に居眠りや意識低下が起こると、本人だけでなく乗客や周囲の多数の人命に関わる重大事故につながる。したがって、日中に強い眠気をもたらす疾患の拾い上げが重要であり、その代表が睡眠時無呼吸症候群(SAS: sleep apnea syndrome)、特に閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)である。日本では2003年に新幹線の運転士が運転中に居眠りをして駅の手前で停車した事例があり、その運転士がSASと診断されたことを契機に、運輸業界でのSASスクリーニングが広く意識されるようになった。 OSAでは、睡眠中に上気道(咽頭)が狭くなったり閉塞したりして、いびきと呼吸停止を繰り返す。そのたびに低酸素と覚醒反応が起こって睡眠が細切れになり、熟睡感が得られず、日中の過度の眠気や集中力低下をきたす。本人は夜間の無呼吸に気付かないことが多いため、健康診断の問診では、家族やベッドパートナーから指摘される「いびき」「睡眠中の呼吸停止」と、本人が自覚しやすい「日中の眠気」を尋ねることがスクリーニングの要となる。 よって、選択肢の中ではSASの主要症状である「いびき」と「日中の眠気」が重要な問診項目となる。
選択肢考察
- ×a. 鼻声
鼻声は、鼻腔の通りが悪くなって鼻に響かない声になる閉鼻声(鼻炎、鼻茸、アデノイド増殖症など)と、呼気が鼻に漏れる開鼻声(口蓋裂、鼻咽腔閉鎖不全など)に分けられ、主に耳鼻咽喉科・口腔領域の疾患でみられる。鼻閉はいびきやOSAを悪化させる因子の一つではあるが、鼻声そのものは運転業務の安全性に直結する症状ではなく、運転士の健康診断で重視すべき問診項目とはいえない。
- ×b. 嗄声
嗄声(かすれ声)は声帯の振動の異常によって生じ、声帯ポリープ・声帯結節・喉頭炎・喉頭癌などの喉頭疾患や、肺癌・大動脈瘤・甲状腺癌・術後などによる反回神経麻痺でみられる。重要な症状ではあるが、運転中の居眠り・意識低下とは関係がなく、運転士に特有の重要な問診項目ではない。
- ○c. いびき
いびきは、睡眠中に狭くなった上気道を空気が通るときに軟口蓋や咽頭の組織が振動して生じる音であり、OSAの最も頻度の高い症状である。大きないびきが毎晩続く場合や、いびきが途切れて呼吸が止まり、その後あえぐように再開するというパターンが見られる場合はOSAが強く疑われる。本人は自覚していないことが多いため、家族などから指摘されたことがあるかを尋ねるのが有用である。いびきのある人がすべてOSAというわけではないが、スクリーニングの入り口として欠かせない問診項目である。
- ×d. 胸やけ
胸やけは胃酸などが食道へ逆流することで生じる胸骨の裏の灼熱感であり、胃食道逆流症(GERD)の代表的症状である。肥満を共通の背景としてOSAとGERDが合併することはあるが、胸やけ自体は運転中の居眠り事故の危険を示す症状ではなく、運転士の健康診断で特に重要な問診項目とはいえない。
- ○e. 日中の眠気
日中の過度の眠気は、OSAで夜間に無呼吸と覚醒反応が繰り返され、睡眠が分断されて質が低下することによって生じる。運転中の居眠りや注意力低下を招き、交通事故の危険を高めるため、運転業務従事者では最も重視すべき症状である。眠気の程度は、日常の8場面での居眠りのしやすさを点数化するEpworth眠気尺度(ESS)で評価でき、11点以上で過度の眠気ありと判断するのが一般的である。なお、日中の眠気はOSAのほか、ナルコレプシー、睡眠不足、交代勤務による睡眠障害、薬剤(抗ヒスタミン薬、睡眠薬など)でも起こるため、その原因も含めて評価する。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の概要
・定義: 睡眠中の10秒以上の気流停止を無呼吸、気流の減少と酸素飽和度低下または覚醒反応を伴うものを低呼吸とし、睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を無呼吸低呼吸指数(AHI)という。AHI 5以上で日中の眠気などの症状を伴う場合、または症状がなくてもAHI 15以上の場合にOSAと診断される。重症度はAHI 5〜15未満が軽症、15〜30未満が中等症、30以上が重症である。 ・危険因子: 肥満、男性、加齢、小顎・下顎後退、扁桃肥大、巨舌、鼻閉、飲酒、睡眠薬の使用など。 ・症状: いびき、目撃された無呼吸、日中の過度の眠気、起床時の頭痛、熟睡感の欠如、夜間頻尿、集中力低下。 ・合併症: 高血圧(特に治療抵抗性高血圧)、心房細動、心不全、脳卒中、2型糖尿病など。交通事故のリスクも高い。
診断と治療
・スクリーニング: 問診(いびき、無呼吸の指摘、日中の眠気)、ESS、簡易睡眠検査(パルスオキシメトリや鼻の気流センサーを用いた在宅検査)。 ・確定診断: 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で脳波・呼吸・酸素飽和度などを同時に記録する。 ・治療: 減量、飲酒制限、側臥位での睡眠などの生活指導に加え、中等症〜重症では経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)が第一選択となる。軽症〜中等症では口腔内装置(マウスピース)も用いられる。扁桃肥大など解剖学的原因が明らかな場合は手術も考慮する。CPAPなどの治療により日中の眠気は改善し、運転業務への復帰も可能となる。
職業と健康診断
職業上の健康管理では、業務に特有のリスクを踏まえて問診・検査項目を選ぶ。運転業務では居眠りや意識障害を起こしうる疾患(SAS、てんかん、低血糖を起こしうる糖尿病治療、不整脈など)の把握が重要となる。
POINT
・運転業務従事者の健康診断では、居眠り事故につながる睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングが重要である。 ・SASの主要症状は、いびき、睡眠中の無呼吸(家族からの指摘)、日中の過度の眠気である。 ・OSAの確定診断は終夜睡眠ポリグラフ検査で行い、AHIで重症度を評価する。 ・中等症以上のOSAの治療はCPAPが第一選択である。
