Point and Shoot―神経・静脈・ホルモンで押さえる男性生殖器の基本
第103回医師国家試験 G問題 第31問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.勃起は副交感神経支配である。
- b.射精は交感神経支配である。
- c.左精巣静脈は下大静脈に流入する。
- d.LHはSertoli細胞に作用する。
- e.Leydig細胞はテストステロンを分泌する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
勃起は仙髄由来の骨盤内臓神経(副交感神経)が担い、NO‐cGMP系によって陰茎海綿体の平滑筋が弛緩することで起こります。射精は泌精と膀胱頸部の閉鎖を交感神経(下腹神経)が担い、「Point and Shoot」で整理でき、α1遮断薬や後腹膜リンパ節郭清による射精障害の理解につながります。精巣静脈は右が下大静脈、左が左腎静脈へ直角に流入するため、精索静脈瘤は左側に多くみられます。ホルモン調節では、LHがLeydig細胞に作用してテストステロンを分泌させ、FSHはSertoli細胞に作用して精子形成を支え、インヒビンでFSHが抑制されます。こうした解剖・生理の基本は、男性不妊、勃起障害、薬剤の副作用、術後合併症を理解するための土台となります。
解答・解説
正解はa, b, eです
本問は男性生殖器について、(1) 勃起・射精の神経支配、(2) 精巣の静脈還流、(3) 精巣の内分泌調節という三つの基本事項をまとめて問うている。 (1) 神経支配は「Point and Shoot」(Point=勃起は Parasympathetic=副交感神経、Shoot=射精は Sympathetic=交感神経)の語呂で整理するとよい。勃起は仙髄(S2〜S4)から出る骨盤内臓神経(勃起神経)が担い、射精のうち精液を後部尿道へ送り出す過程は胸腰髄(T10〜L2付近)から出る下腹神経(交感神経)が担う。 (2) 精巣静脈(蔓状静脈叢から続く)は左右で還流先が異なる。右は下大静脈に斜めに直接注ぐが、左は左腎静脈にほぼ直角に注ぐ。この左右差が、精索静脈瘤が左側に多い理由につながる。 (3) 精巣の内分泌は視床下部‐下垂体‐精巣系で調節される。視床下部のGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)が下垂体前葉からLH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)を分泌させ、LHは間質のLeydig細胞に作用してテストステロン産生を促し、FSHは精細管内のSertoli細胞に作用して精子形成を支える。LHとFSHの標的細胞の組み合わせを取り違えないことが重要である。 以上から、正しいのは勃起=副交感神経、射精=交感神経、Leydig細胞=テストステロン分泌の3つである。
選択肢考察
- ○a. 勃起は副交感神経支配である。
勃起は仙髄(S2〜S4)由来の副交感神経である骨盤内臓神経(勃起神経)によって起こる。性的刺激により副交感神経終末からアセチルコリンが放出され、血管内皮や非アドレナリン非コリン作動性(NANC)神経から一酸化窒素(NO)が遊離する。NOはグアニル酸シクラーゼを活性化してcGMP(環状グアノシン一リン酸)を増やし、陰茎海綿体の平滑筋と動脈を弛緩させる。これにより海綿体洞に血液が流れ込んで膨張し、白膜下の静脈が圧迫されて流出が妨げられることで勃起が維持される。VIP(血管作動性腸管ペプチド)も平滑筋弛緩に関与する。
- ○b. 射精は交感神経支配である。
射精は、精管・精嚢・前立腺の平滑筋が収縮して精液を後部尿道へ送り出す泌精(emission)と、後部尿道に溜まった精液を外尿道口から体外へ押し出す狭義の射出(ejaculation, expulsion)から成る。泌精は胸腰髄(T10〜L2付近)由来の交感神経(下腹神経)が担い、このとき同じく交感神経(α1受容体)の働きで膀胱頸部が閉じ、精液の膀胱への逆流が防がれる。射出は球海綿体筋などの横紋筋が律動的に収縮して起こり、体性神経である陰部神経も関与するが、射精全体の開始と泌精は交感神経が主体であるため「射精は交感神経支配」とされる。このため、α1遮断薬(特にα1A選択性の高いシロドシン)では射精障害(逆行性射精など)が起こりやすく、交感神経を損傷しうる後腹膜リンパ節郭清の後にも射精障害が生じることがある。
- ×c. 左精巣静脈は下大静脈に流入する。
下大静脈に直接流入するのは右精巣静脈であり、左精巣静脈は左腎静脈にほぼ直角に流入する。左精巣静脈は右より長く、直角に合流するため静脈圧が上がりやすく、さらに左腎静脈が大動脈と上腸間膜動脈の間で圧迫されること(ナットクラッカー現象)もあって、血液がうっ滞・逆流しやすい。このため精索静脈瘤の大部分は左側に生じる。なお、右側のみの精索静脈瘤や急に出現した精索静脈瘤では、後腹膜腫瘍などによる静脈の圧迫を疑う必要がある。
- ×d. LHはSertoli細胞に作用する。
LHの標的は精細管の間質にあるLeydig細胞であり、テストステロンの産生を促す。Sertoli細胞に作用するのはFSHである。FSHはSertoli細胞に働きかけ、アンドロゲン結合蛋白(ABP)の産生などを通じて精細管内のテストステロン濃度を高く保ち、精子形成を支える。つまり精子形成にはFSHと、LHにより作られた局所の高濃度テストステロンの両方が必要である。
- ○e. Leydig細胞はテストステロンを分泌する。
Leydig細胞(間質細胞)はLHの刺激を受けてコレステロールからテストステロンを合成・分泌する。テストステロンは二次性徴の発現、精子形成の維持、筋肉・骨量の維持などに働き、視床下部と下垂体に対して負のフィードバックをかけてGnRHやLHの分泌を抑える。一方、Sertoli細胞はインヒビンを分泌してFSH分泌を選択的に抑制しており、両細胞がそれぞれ別の経路でフィードバックを担っている。
精巣の構造と細胞
精巣は精細管とその間を埋める間質から成る。精細管の壁には精子形成を担う生殖細胞と、それを支えるSertoli細胞が並ぶ。Sertoli細胞同士は密着結合で血液精巣関門をつくり、精子形成の場を免疫系から隔離している。間質にはLeydig細胞が存在し、テストステロンを分泌する。
視床下部‐下垂体‐精巣系
・GnRH → 下垂体前葉からLH・FSH分泌 ・LH → Leydig細胞 → テストステロン → 視床下部・下垂体へ負のフィードバック ・FSH → Sertoli細胞 → 精子形成の支持、ABP産生、インヒビン分泌 → 下垂体のFSH分泌を抑制 Sertoli細胞は胎生期に抗Müller管ホルモン(AMH)も分泌し、Müller管(女性内性器の原基)を退縮させる。
勃起・射精の神経支配
・勃起: 副交感神経(骨盤内臓神経、S2〜S4)。NO→cGMP増加→海綿体平滑筋弛緩 ・泌精と膀胱頸部閉鎖: 交感神経(下腹神経、T10〜L2付近) ・射出: 球海綿体筋などの律動的収縮(陰部神経、S2〜S4)
臨床との関連
・PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬(シルデナフィル、タダラフィルなど)は、cGMPを分解する酵素を阻害して勃起を起こりやすくする。硝酸薬との併用は重篤な低血圧を招くため禁忌である。 ・前立腺肥大症に用いるα1遮断薬、特にシロドシンは射精障害の頻度が高い。 ・直腸癌や前立腺癌の手術で骨盤神経叢が損傷されると勃起障害が、後腹膜リンパ節郭清で交感神経が損傷されると射精障害が起こりうる。 ・精索静脈瘤は左側に多く、男性不妊の原因として重要である。
POINT
・勃起は副交感神経(骨盤内臓神経)、射精は交感神経(下腹神経)が主体(Point and Shoot)。 ・右精巣静脈は下大静脈へ、左精巣静脈は左腎静脈へ流入し、精索静脈瘤は左に多い。 ・LH → Leydig細胞 → テストステロン、FSH → Sertoli細胞 → 精子形成支持・インヒビン。 ・勃起のメディエーターはNO‐cGMP系であり、PDE5阻害薬はcGMPの分解を防ぐ。
