StudyMed医師国家試験

「よく食べるのにやせる」―代謝の炎で読み解く甲状腺機能亢進症の症候

第103回医師国家試験 G問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第103回 G問題 第30問

甲状腺機能亢進症でみられるのはどれか。

  1. a.徐脈
  2. b.硬便
  3. c.眼振
  4. d.脈圧減少
  5. e.体重減少

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、甲状腺機能亢進症で何が起こるかを問う問題だ。症状を丸暗記するより、甲状腺ホルモンが体に何をしているかという「機序」から考えると迷わない。キーワードは「代謝亢進」と「交感神経刺激様症状」の2つだよ。
医学生医学生
甲状腺ホルモンは基礎代謝を上げるホルモン、と生理学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。T3やT4は全身の細胞の代謝を高めるうえに、βアドレナリン受容体の数や感受性を増やすので、交感神経が優位になったような状態をつくる。だから亢進症では、エンジンを空ぶかししているような症状が出るんだ。では、正解はどれだと思う?
医学生医学生
代謝が上がってエネルギーを使いすぎるなら、体重減少でしょうか。
ドクタードクター
正解。熱産生が増えて暑がり・多汗になり、エネルギー消費が摂取を上回るので体重が減る。しかも食欲はむしろ亢進することが多いから、「よく食べるのにやせる」という病歴が典型なんだ。
医学生医学生
食欲が落ちてやせるのとは逆なんですね。問診で「食欲はありますか」と聞く意味がわかりました。
ドクタードクター
そこが鑑別の大事な手がかりになる。ただし若い人では食べる量が勝って、かえって体重が増えることもあるので、例外として頭の片隅に置いておこう。では徐脈はどうかな。
医学生医学生
交感神経が優位なら、むしろ脈は速くなりそうです。
ドクタードクター
そう。甲状腺ホルモンは洞結節の自動能を高めるので、安静時でも洞性頻脈になる。高齢者では心房細動を合併しやすいのも重要だ。徐脈は機能低下症側の所見だね。
医学生医学生
循環器内科の実習で、心房細動の原因検索に甲状腺機能を測っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験だね。新規の心房細動ではTSHを確認するのが定石だ。次に硬便。腸の動きはどうなると思う?
医学生医学生
蠕動が速まって、軟便や下痢になるはずです。硬便、つまり便秘は低下症ですね。
ドクタードクター
その通り。通過時間が短くなって水分が吸収しきれず、排便回数が増える。では脈圧減少はどうだろう。ここは少し引っかかりやすい。
医学生医学生
血圧が上がるなら脈圧も…あれ、拡張期はどうなるんでしょう。
ドクタードクター
いい疑問だ。心拍出量が増えて収縮期血圧は上がる。一方で熱を逃がすために末梢血管が拡張して、拡張期血圧は下がる。上が上がって下が下がるから、脈圧は増大するんだ。脈圧減少は、末梢血管抵抗が上がって拡張期血圧が高くなる機能低下症で見られやすい。
医学生医学生
眼振はBasedow病の眼症状とまぎらわしいですね。
ドクタードクター
確かに名前の雰囲気は似ているけど、眼振は前庭系や小脳、脳幹の障害で出る所見で、甲状腺とは直接関係しない。Basedow病の眼症状は眼球突出、眼瞼後退、下方視で上眼瞼の下降が遅れるGraefe徴候、外眼筋の肥大による複視などだ。
医学生医学生
つまり、徐脈・便秘・脈圧減少は低下症の裏返しで、眼振は無関係というわけですね。
ドクタードクター
そういう整理でばっちりだ。最後に発展知識を。血中の甲状腺ホルモンが過剰な状態を広く「甲状腺中毒症」と呼び、甲状腺がホルモンを過剰に産生しているものだけを「機能亢進症」という。代表はTSH受容体抗体によるBasedow病だ。一方、亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎は、甲状腺が壊れて貯蔵ホルモンが漏れ出す破壊性のもので、症状は似ていても治療方針が違う。
医学生医学生
症状だけでは区別しにくいなら、抗体や画像で見分けるんですね。
ドクタードクター
そう。ほかにも手指振戦、腱反射亢進、近位筋の筋力低下、アジア人男性での周期性四肢麻痺、総コレステロール低下なども亢進症側の所見だ。どれも「代謝が速く、交感神経が優位」で説明できるから、低下症と対にして覚えると忘れにくいよ。

まとめ

甲状腺機能亢進症の症状は、甲状腺ホルモンによる「代謝亢進」と、β受容体の感受性増加による「交感神経刺激様症状」の2軸で理解できます。食欲が亢進しているのに体重が減る、暑がり・多汗、頻脈や心房細動、軟便・排便回数増加、収縮期血圧上昇と拡張期血圧低下による脈圧増大が典型です。反対に、徐脈・便秘・脈圧減少・体重増加は機能低下症側の所見であり、眼振は甲状腺疾患とは関係なく、Basedow病の眼症状は眼球突出や眼瞼後退などです。また、甲状腺中毒症には産生過剰による機能亢進症と、甲状腺破壊による破壊性甲状腺中毒症があることも押さえておきましょう。症状を機序から亢進症・低下症の対で整理しておくことが、問診や身体診察から甲状腺疾患を拾い上げる力につながります。

解答・解説

正解はeです

甲状腺ホルモン(サイロキシン T4、トリヨードサイロニン T3)は全身の細胞の代謝を高め、さらにβアドレナリン受容体の数や感受性を増やして交感神経が優位になったような状態をつくる。そのため甲状腺ホルモンが過剰になると、「代謝亢進」と「交感神経刺激様症状」の二つを軸にした症状が現れる。 代謝亢進の結果、熱産生が増えて暑がり・多汗・微熱となり、エネルギー消費が摂取を上回るため食欲があるのに体重が減る。交感神経刺激様の作用としては頻脈・動悸・手指振戦・いらいら感などがみられる。消化管の運動も速まり排便回数が増える。循環系では心拍出量が増えて収縮期血圧が上がる一方、末梢血管が拡張して拡張期血圧は下がるため、脈圧が大きくなる。 本問の選択肢のうち、徐脈・硬便(便秘)・脈圧減少は代謝が低下した甲状腺機能低下症側の所見であり、眼振は甲状腺疾患と直接の関係がない神経所見である。代謝亢進の帰結として素直に説明できるのは体重減少であり、これが正解となる。「亢進症なら何が増え、何が減るか」を機序から整理しておけば、機能低下症との取り違えを防げる。

選択肢考察

  1. ×a.  徐脈

    甲状腺ホルモンは洞結節の自動能を高め、心筋のβ受容体の感受性も上げるため、甲状腺機能亢進症では安静時でも頻脈(洞性頻脈)になる。高齢者では心房細動を合併しやすい点も重要である。徐脈はむしろ甲状腺機能低下症でみられる所見である。

  2. ×b.  硬便

    甲状腺機能亢進症では腸管の蠕動運動が速まり、腸内容物の通過時間が短くなる。その結果、水分の吸収が十分に行われず、軟便や排便回数の増加(ときに下痢)となる。硬便・便秘は腸管運動が低下する甲状腺機能低下症の症状である。

  3. ×c.  眼振

    眼振(眼球が不随意にリズミカルに揺れる現象)は前庭系・小脳・脳幹などの障害でみられる所見であり、甲状腺機能亢進症の症状ではない。甲状腺疾患に関連する眼症状は、Basedow病(Graves病)に伴う眼球突出、眼瞼後退(上眼瞼が上がって白目が見える)、眼瞼浮腫、外眼筋の肥大による複視などであり、眼振とは区別して覚える必要がある。

  4. ×d.  脈圧減少

    脈圧は収縮期血圧と拡張期血圧の差である。甲状腺機能亢進症では心拍出量の増加により収縮期血圧が上昇し、代謝亢進に伴う熱放散のため末梢血管が拡張して拡張期血圧は低下する。このため脈圧は増大する。脈圧の減少(拡張期血圧の上昇)は、末梢血管抵抗が高まる甲状腺機能低下症でみられやすい所見である。

  5. ○e.  体重減少

    甲状腺ホルモン過剰により基礎代謝が亢進し、脂肪や筋蛋白の分解が進んでエネルギー消費が大きく増える。食欲は亢進して食事量が増えることが多いが、消費がそれを上回るため体重は減少する。「よく食べるのにやせる」は甲状腺機能亢進症の典型的な病歴であり、代表的な症候の一つである。なお、若年者では食事量の増加が上回り、体重がかえって増えることもある。

甲状腺中毒症と甲状腺機能亢進症

血中甲状腺ホルモンが過剰な状態を広く甲状腺中毒症といい、そのうち甲状腺がホルモンを過剰に「産生」しているものを甲状腺機能亢進症という。機能亢進症の代表はBasedow病(TSH受容体を刺激する自己抗体による)で、ほかに中毒性多結節性甲状腺腫や機能性甲状腺結節(Plummer病)がある。一方、亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎は、甲状腺が破壊されて貯蔵ホルモンが漏れ出す破壊性甲状腺中毒症であり、産生は増えていない。症状自体はどちらも似ている。

亢進症と低下症の症状対比

・心拍: 亢進症=頻脈・動悸・心房細動/低下症=徐脈 ・血圧: 亢進症=収縮期上昇・拡張期低下で脈圧増大/低下症=拡張期上昇で脈圧減少 ・体温・発汗: 亢進症=暑がり・多汗・微熱/低下症=寒がり・皮膚乾燥 ・体重: 亢進症=食欲亢進にもかかわらず減少/低下症=食欲低下にもかかわらず増加(粘液水腫による) ・消化管: 亢進症=軟便・排便回数増加/低下症=便秘 ・神経・精神: 亢進症=手指振戦・いらいら・不眠・腱反射亢進/低下症=無気力・動作緩慢・腱反射の弛緩相遅延 ・筋: 亢進症=近位筋の筋力低下(甲状腺中毒性ミオパチー)、アジア人男性では周期性四肢麻痺/低下症=筋痛・CK上昇 ・月経: 亢進症=過少月経・無月経/低下症=過多月経 ・検査: 亢進症=総コレステロール低下、ALP上昇/低下症=総コレステロール上昇、CK上昇

Basedow病の眼症状

眼球突出、眼瞼後退、Graefe徴候(下方視で上眼瞼の下降が遅れる)、外眼筋肥大による複視などがある。眼振は含まれない。

POINT

・甲状腺機能亢進症の症状は「代謝亢進」と「交感神経刺激様症状」で理解する。 ・食欲亢進にもかかわらず体重減少、頻脈、多汗、手指振戦、軟便・排便回数増加、脈圧増大が典型である。 ・徐脈、便秘、脈圧減少、体重増加は甲状腺機能低下症側の所見である。 ・Basedow病の眼症状は眼球突出・眼瞼後退などであり、眼振ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。