マーカーの「出身地」をたどれ―腫瘍マーカーと癌を正しく結ぶコツ
第103回医師国家試験 G問題 第3問
国試問題にチャレンジ
組合せで正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.食道癌 ―― AFP
- b.大腸癌 ―― CEA
- c.前立腺癌 ―― PSA
- d.肝細胞癌 ―― hCG-β
- e.神経芽細胞腫 ―― NSE
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腫瘍マーカーは、そのマーカーを作る細胞や組織の「出身地」から考えると整理しやすくなります。CEAは胎児消化管由来で大腸癌などの消化器腺癌、PSAは前立腺上皮由来で前立腺癌、NSEは神経・神経内分泌細胞由来で神経芽腫や肺小細胞癌のマーカーです。一方、AFPは胎児肝・卵黄嚢由来で肝細胞癌や卵黄嚢腫瘍、hCGは絨毛細胞由来で絨毛癌や胞状奇胎のマーカーであり、食道癌(扁平上皮癌)ではSCC抗原やCYFRA21-1、肝細胞癌ではAFP・AFP-L3分画・PIVKA-IIが用いられます。多くのマーカーは早期癌での感度が低く良性疾患でも上昇するため、スクリーニングよりも治療効果判定や再発監視に使われ、例外的にPSAは検診にも用いられます。由来と限界を理解したうえで値の推移を追う姿勢は、日常診療で腫瘍マーカーを正しく活用するための基本です。
解答・解説
正解はb, c, eです
テーマ
代表的な悪性腫瘍と、その腫瘍マーカーの組合せを問う問題である。腫瘍マーカーは、腫瘍細胞が作る物質、または腫瘍に反応して体が作る物質で、血液や尿で測定できる。癌の存在や量の目安になる。
腫瘍マーカーの使い方
多くの腫瘍マーカーは、早期癌では上がりにくい(感度が低い)。また、良性疾患や喫煙などでも上がることがある(特異度が低い)。そのため、健康な人から癌を見つけるスクリーニングには向かないものが多い。主な用途は、癌と診断されたあとの治療効果の判定と、再発の監視である。例外的にPSA(前立腺特異抗原)は、前立腺癌の検診に広く使われている。
考え方
各マーカーがどの細胞・組織に由来するかを押さえると、組合せを判断しやすい。 ・CEA(がん胎児性抗原):胎児の消化管に多い糖蛋白で、腺癌、特に大腸癌などの消化器腺癌で上がる。 ・PSA:前立腺上皮だけが作る蛋白分解酵素である。 ・NSE(神経特異エノラーゼ):神経細胞や神経内分泌細胞にある解糖系の酵素で、神経芽腫や肺小細胞癌で上がる。 ・AFP(α-フェトプロテイン):胎児の肝臓と卵黄嚢が作る蛋白で、肝細胞癌や卵黄嚢腫瘍で上がる。 ・hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン):胎盤の絨毛(栄養膜)細胞が作るホルモンで、絨毛癌などで上がる。 このため、食道癌―AFP、肝細胞癌―hCG-βは組合せとして誤りである。
選択肢考察
- ×a. 食道癌 ―― AFP
我が国の食道癌の大部分は扁平上皮癌で、腫瘍マーカーとしてはSCC抗原(扁平上皮癌関連抗原)、CYFRA21-1(サイトケラチン19フラグメント)、CEAが使われる。AFPは胎児の肝臓や卵黄嚢が作る蛋白で、肝細胞癌、肝芽腫、卵黄嚢腫瘍のマーカーである。食道癌の一般的なマーカーではない。なお、ごくまれにAFPを作る胃癌(AFP産生胃癌)がある。
- ○b. 大腸癌 ―― CEA
CEAは胎児の消化管の粘膜に多い糖蛋白で、大腸癌をはじめ胃癌、膵癌、肺腺癌、乳癌などの腺癌で上がる。大腸癌では代表的な腫瘍マーカーで、CA19-9(糖鎖抗原19-9)と組み合わせて使われる。早期癌では上がることが少ないため、主な用途は手術後の再発の監視と、化学療法の効果判定である。喫煙者、高齢者、肝硬変、炎症性腸疾患、甲状腺機能低下症などでも軽く上がることがあり、癌に特有の物質ではない。
- ○c. 前立腺癌 ―― PSA
PSAは前立腺の上皮細胞だけが作る蛋白分解酵素(セリンプロテアーゼ)で、臓器特異性が非常に高い。一般的な基準値は4.0ng/mL以下で、これを超えると前立腺生検を検討する。前立腺癌の検診、診断、治療効果の判定、再発の監視に使われる。ただし前立腺肥大症、前立腺炎、尿閉、前立腺の触診やカテーテル操作のあとでも上がるため、癌との区別には年齢別の基準値、遊離PSAと総PSAの比(F/T比)、PSA密度、MRIなどを組み合わせて判断する。
- ×d. 肝細胞癌 ―― hCG-β
肝細胞癌の腫瘍マーカーは、AFP、AFPのうちレクチン結合型の割合(AFP-L3分画、癌に特異性が高い)、PIVKA-II(ビタミンK欠乏時または拮抗剤投与時に出現する異常プロトロンビン、DCPとも呼ぶ)である。hCG-β(hCGのβサブユニット)は胎盤の絨毛細胞が作るホルモンの成分で、絨毛癌、胞状奇胎、精巣や卵巣の胚細胞腫瘍(絨毛癌の成分を含むものやセミノーマの一部)のマーカーである。
- ○e. 神経芽細胞腫 ―― NSE
NSEは神経細胞や神経内分泌細胞に多い解糖系の酵素(エノラーゼのγγ型)である。神経堤(胎児期に神経や副腎髄質のもとになる細胞群)に由来する神経芽腫で血中濃度が上がり、診断、病勢の把握、治療効果の判定に使われる。神経芽腫では、カテコールアミンの代謝産物である尿中VMA(バニリルマンデル酸)とHVA(ホモバニリン酸)の上昇も重要な所見である。NSEは肺小細胞癌でも上がり、この場合はProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体)とともに使われる。なお、溶血した検体では赤血球に含まれるNSEが出てきて見かけ上高くなるので注意する。
主な悪性腫瘍と腫瘍マーカー
・食道癌(扁平上皮癌):SCC抗原、CYFRA21-1、CEA ・胃癌:CEA、CA19-9 ・大腸癌:CEA、CA19-9 ・膵癌:CA19-9、CEA、DUPAN-2、SPan-1 ・胆道癌:CA19-9、CEA ・肝細胞癌:AFP、AFP-L3分画、PIVKA-II ・肺腺癌:CEA、SLX ・肺扁平上皮癌:SCC抗原、CYFRA21-1 ・肺小細胞癌:NSE、ProGRP ・乳癌:CA15-3、CEA ・卵巣癌(上皮性):CA125 ・子宮頸癌(扁平上皮癌):SCC抗原 ・絨毛癌・胞状奇胎:hCG ・卵黄嚢腫瘍・肝芽腫:AFP ・前立腺癌:PSA ・神経芽腫:NSE、尿中VMA・HVA ・甲状腺髄様癌:カルシトニン、CEA ・多発性骨髄腫:M蛋白、尿中Bence Jones蛋白
腫瘍マーカーを使うときの注意点
・偽陽性の原因:CA19-9は胆管炎・胆汁うっ滞・糖尿病、CA125は子宮内膜症・妊娠・月経・腹膜炎、CEAは喫煙・加齢、AFPは慢性肝炎・肝硬変・妊娠、PIVKA-IIはワルファリン服用やビタミンK欠乏でも上がる。 ・CA19-9は、Lewis式血液型の抗原を持たない人(日本人の約1割程度)では、癌があっても上がらない。 ・1回の測定値よりも、時間の経過に伴う変化(推移)を見ることが重要である。
POINT
・CEAは大腸癌などの消化器腺癌、PSAは前立腺癌、NSEは神経芽腫・肺小細胞癌のマーカーである。 ・AFPは肝細胞癌・卵黄嚢腫瘍・肝芽腫、hCGは絨毛癌・胞状奇胎のマーカーである。 ・肝細胞癌のマーカーはAFP、AFP-L3分画、PIVKA-IIの3つを押さえる。 ・食道癌(扁平上皮癌)のマーカーはSCC抗原、CYFRA21-1である。 ・腫瘍マーカーの主な用途は治療効果の判定と再発の監視である。スクリーニングに広く使われるのはPSAくらいである。
