かかとの4つの血痕が守る未来―新生児マススクリーニングでフェニルケトン尿症を見つける
第103回医師国家試験 G問題 第4問
国試問題にチャレンジ
検査を別に示す。 診断できるのはどれか。

- a.血友病
- b.乳糖不耐症
- c.高ビリルビン血症
- d.ビタミンK欠乏症
- e.フェニルケトン尿症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
上半分に哺乳状況や在胎週数の記入欄、下半分に丸い血痕がある用紙は、新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)の乾燥血液濾紙で、日齢4〜6に踵から採血して作ります。対象は、新生児期には無症状でも早期治療で知的障害や死亡を防げる疾患で、フェニルケトン尿症はその代表であり、フェニルアラニン制限食によりほぼ正常な発達が期待できます。現在はタンデムマス法によりアミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症、ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症などおよそ20疾患が対象です。血友病は凝固因子活性、乳糖不耐症は便や呼気の検査、新生児黄疸は血清・経皮ビリルビン、ビタミンK欠乏症はPTやPIVKA-IIで評価し、いずれも濾紙血スクリーニングの対象ではありません。どの疾患がなぜ対象になるのかを理解することは、スクリーニングという公衆衛生の考え方そのものを学ぶことにつながります。
解答・解説
正解はeです
画像の読み取り
提示されているのは、上半分に医療機関名・母氏名・児氏名・性別・出生日・採血日・哺乳開始日・哺乳状況・出生時体重・在胎週数・抗菌薬使用の有無などを記入する欄があり、下半分に血液をしみ込ませた4つの円形の血痕がある専用の濾紙(ろし)である。「下の丸印を越えるくらいに充分に、しかも裏表にしみとおるように採血してください」という注意書きもある。これは新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)に用いる乾燥血液濾紙(ガスリー濾紙)である。
記入項目の意味
哺乳開始日・哺乳状況が問われるのは、アミノ酸やガラクトースなどの測定値が哺乳量(たんぱく質・乳糖の摂取量)に左右されるためである。哺乳が不十分な時期に採血するとフェニルアラニンなどが上昇しきらず偽陰性となりうる。抗菌薬使用の有無は、かつての細菌発育阻止法(ガスリー法)では抗菌薬が判定に干渉したことに由来する項目である。在胎週数・出生時体重は、早産児・低出生体重児で甲状腺刺激ホルモン(TSH)や17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)の値の解釈が変わるために記入する。
考え方
設問は「この検査で診断(スクリーニング)できる疾患はどれか」を問うている。新生児マススクリーニングは、日齢4〜6(生後4〜6日)ごろに踵(かかと)から少量採血し、濾紙に染み込ませて乾燥させた検体を検査機関に送り、アミノ酸・アシルカルニチン・ガラクトース・ホルモンなどを測定する仕組みである。対象は、無症状のうちに発見して治療を始めれば知的障害や死亡などの重い障害を防げる疾患であり、選択肢の中ではフェニルケトン尿症がこれに該当する。他の選択肢は、この濾紙を用いたスクリーニングの対象疾患ではなく、別の検査で評価する。
選択肢考察
- ×a. 血友病
血友病Aは凝固第VIII因子、血友病Bは第IX因子の先天的欠乏によるX連鎖潜性(劣性)遺伝の出血性疾患である。診断は、クエン酸加血漿を用いた活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長の確認と、各凝固因子活性の測定による。凝固因子活性は新鮮な血漿で測る必要があり、乾燥血液濾紙による新生児マススクリーニングの対象疾患ではない。家族歴がある場合には出生時に個別に検査する。
- ×b. 乳糖不耐症
乳糖不耐症は、小腸刷子縁の乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性低下により、乳糖が消化されずに大腸へ届き、浸透圧性下痢・腹部膨満・酸臭のある便などをきたす病態である。診断は、症状と乳糖除去による改善、便のpH低下や便中還元糖の検出、乳糖負荷試験、呼気水素試験などによる。血中の代謝物を測る濾紙スクリーニングでは評価できない。なお、名前の似た「ガラクトース血症」(ガラクトース代謝酵素の欠損)はマススクリーニングの対象であり、混同しないよう注意する。
- ×c. 高ビリルビン血症
新生児の高ビリルビン血症(新生児黄疸)は、経皮ビリルビン測定器による皮膚でのスクリーニングと、血清総ビリルビン値・直接ビリルビン値の測定で評価し、日齢・出生体重・在胎週数ごとの基準に照らして光線療法や交換輸血の適応を判断する。ビリルビンは光で分解されやすく、日単位で急速に変化するため、濾紙血を検査機関に郵送して後日測定するマススクリーニングにはなじまない。したがって本検査の対象ではない。
- ×d. ビタミンK欠乏症
新生児・乳児のビタミンK欠乏症は、ビタミンK依存性凝固因子(II・VII・IX・X)の低下によって消化管出血(新生児メレナ)や頭蓋内出血をきたす。診断はプロトロンビン時間(PT)・APTTの延長、ヘパプラスチンテスト、PIVKA-II(ビタミンK欠乏時に出現する異常プロトロンビン)の測定による。濾紙血マススクリーニングの対象ではなく、予防としてビタミンK2シロップの経口投与(出生時・産科退院時・1か月健診時の3回法、あるいは生後3か月まで週1回投与する方法)が行われている。
- ○e. フェニルケトン尿症
フェニルケトン尿症(PKU)は、フェニルアラニン水酸化酵素の欠損により、フェニルアラニンがチロシンに変換されず血中に蓄積する常染色体潜性(劣性)遺伝のアミノ酸代謝異常症である。未治療では知的障害、けいれん、メラニン合成低下による色白・赤毛、ネズミ尿様の体臭などが現れるが、新生児期にはほぼ無症状である。濾紙血中のフェニルアラニン濃度を測定すれば発症前に発見でき、早期からフェニルアラニン制限食を始めればほぼ正常な発達が期待できるため、新生児マススクリーニングの代表的な対象疾患となっている。以前はガスリー法(細菌の発育を利用した測定法)で測定したが、現在はタンデムマス法で測定している。
新生児マススクリーニングの概要
日本では1977年に公費による新生児マススクリーニングが始まった。当初はガスリー法などでフェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ヒスチジン血症、ガラクトース血症の5疾患を対象とし、のちに先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)と先天性副腎過形成症が加わった。ヒスチジン血症は治療の必要性が乏しいとして対象から外れた。2014年ごろまでに全国でタンデム質量分析法(タンデムマス法)が導入され、1回の濾紙血で多くのアミノ酸やアシルカルニチンを同時に測定できるようになった。これにより、現在はおよそ20疾患が対象となっている。
主な対象疾患と測定する指標
・アミノ酸代謝異常症:フェニルケトン尿症(フェニルアラニン)、メープルシロップ尿症(ロイシン・バリン)、ホモシスチン尿症(メチオニン)、シトルリン血症1型、アルギニノコハク酸尿症 ・有機酸代謝異常症:メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、イソ吉草酸血症、グルタル酸血症1型など(アシルカルニチン) ・脂肪酸代謝異常症:中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症、極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症など(アシルカルニチン) ・糖代謝異常症:ガラクトース血症(ガラクトース、酵素活性) ・内分泌疾患:先天性甲状腺機能低下症(TSH)、先天性副腎過形成症(17-OHP) 近年は、重症複合免疫不全症(SCID)や脊髄性筋萎縮症(SMA)などを対象とする拡大スクリーニングも一部の地域で行われている。
採血と検体
日齢4〜6に足の踵から採血し、濾紙の丸印を越えて裏まで十分にしみ込むように血液をつける。自然乾燥させて検査機関に送る。哺乳が確立してから採血するのは、アミノ酸やガラクトースの負荷がかかってから測らないと偽陰性になりうるためである。早産児・低出生体重児では、甲状腺機能の未熟さなどを考え、再採血が必要になることがある。
かつて行われていたスクリーニング
生後6か月ごろの尿中バニリルマンデル酸(VMA)・ホモバニリン酸(HVA)を測定する神経芽腫マススクリーニングが行われていたが、死亡率の低下効果がはっきりせず、自然に退縮する腫瘍まで見つけて過剰な治療につながるという問題から、2004年に休止された。
新生児聴覚スクリーニング
濾紙血とは別に、自動聴性脳幹反応(自動ABR)や耳音響放射(OAE)による新生児聴覚スクリーニングも行われている。
POINT
・提示された画像は新生児マススクリーニング用の乾燥血液濾紙であり、日齢4〜6に踵から採血する。 ・対象は、アミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症、ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症など約20疾患で、現在はタンデムマス法が中心である。 ・フェニルケトン尿症は代表的な対象疾患で、早期からフェニルアラニン制限食を始めれば知的障害を防げる。 ・血友病、乳糖不耐症、新生児黄疸、ビタミンK欠乏症は濾紙血スクリーニングの対象ではない(乳糖不耐症とガラクトース血症の混同に注意)。 ・神経芽腫マススクリーニングは2004年に休止されている。
