眠る赤ちゃんを守る「仰向け寝」―乳幼児突然死症候群は除外診断である
第103回医師国家試験 G問題 第5問
国試問題にチャレンジ
乳幼児突然死症候群〈SIDS〉について正しいのはどれか。
- a.生後1か月以内に好発する。
- b.夜間よりも昼間に起こりやすい。
- c.上気道閉塞によって起こる。
- d.剖検を行わずに診断できる。
- e.「うつ伏せ寝をやめよう」キャンペーンによって減少した。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
乳幼児突然死症候群(SIDS)は、予測できなかった原則1歳未満の乳児の突然死のうち、死亡状況調査と剖検を尽くしても死因を特定できないものを指す除外診断であり、剖検は必須です。窒息など原因が特定できた死亡はSIDSに含まれず、好発は生後2〜6か月、睡眠中、特に夜間に多く、冬や男児にやや多い傾向があります。主なリスク因子はうつ伏せ寝、喫煙、人工栄養で、仰向け寝を勧めるキャンペーンにより各国でSIDSは大きく減少しました。機序は未解明ですが、脳幹の覚醒反応の未熟さを含むトリプルリスクモデルが理解の助けになります。乳児の突然死では虐待、不整脈、代謝異常などの鑑別を意識することが、正確な診断と再発予防、家族支援の基盤となります。
解答・解説
正解はeです
テーマの要点
乳幼児突然死症候群(sudden infant death syndrome:SIDS)は、厚生労働省研究班の診断ガイドラインにおいて、おおむね次のように定義される。すなわち、生前の健康状態や既往歴からは死を予見できなかった乳児(原則として1歳未満)が突然死亡し、死亡時の状況調査と解剖を尽くしても死因を突き止められなかったものをいう。要点は次の3つである。 ・予測できない突然死であること ・死亡状況の調査と解剖(剖検)を行っても死因が見つからないこと(除外診断) ・原則として1歳未満であること
正解を導く考え方
定義から、窒息・感染症・先天異常・代謝異常・虐待など、原因が特定できた死亡はSIDSに含まれない。このため、「上気道閉塞で起こる」「剖検なしで診断できる」はいずれも定義と矛盾する。疫学では、好発時期(生後2〜6か月)と、睡眠中、特に夜間に多いことを押さえる。予防では、うつ伏せ寝・保護者の喫煙・人工栄養(母乳でないこと)が主なリスク因子であり、1980年代後半以降に各国で「仰向け寝」を勧めるキャンペーンを行ったところ、SIDSが大きく減った。これが正解の根拠である。
選択肢考察
- ×a. 生後1か月以内に好発する。
SIDSの好発時期は生後2〜6か月であり、生後1か月以内の新生児期には少ない。新生児期の突然死では、先天性心疾患、感染症、先天代謝異常症、分娩に関連する障害など、原因となる疾患がないかをまず考える。なお、SIDSは1歳を過ぎるとまれになるため、定義は「原則として1歳未満」となっている。
- ×b. 夜間よりも昼間に起こりやすい。
SIDSは睡眠中に起こり、特に夜間から早朝に多い。保護者も眠っている時間帯のため、異変に気づくのが遅れ、朝になって呼吸していない状態で見つかることが多い。季節では冬に多い傾向があり、男児にやや多いとされる。
- ×c. 上気道閉塞によって起こる。
SIDSは、剖検などで死因が特定できないことが定義の条件である。吐物の誤嚥、寝具による鼻や口の閉塞、添い寝で覆いかぶさることなどによる上気道閉塞(窒息)が死因と判断されれば、窒息死と診断し、SIDSとは呼ばない。SIDSの機序ははっきりしていないが、脳幹の呼吸・覚醒を調節する機能が未熟なため、低酸素や高二酸化炭素の状態になっても目を覚まして呼吸を回復させる反応(覚醒反応)が起こりにくい、という仮説が有力である。
- ×d. 剖検を行わずに診断できる。
SIDSはほかの死因を否定したうえで下す除外診断であり、診断には剖検が必須である。日本のガイドラインでも、解剖が行われず死亡状況調査も不十分な場合はSIDSと診断せず、「診断不能」や「分類不能の突然死」として扱うとされている。剖検により、感染症(心筋炎・肺炎など)、先天性心疾患、代謝異常症、虐待による損傷などを除外する。
- ○e. 「うつ伏せ寝をやめよう」キャンペーンによって減少した。
疫学研究でうつ伏せ寝がSIDSの重要なリスク因子であると分かり、1980年代後半から欧米、オセアニアなどで乳児を仰向けに寝かせるよう勧めるキャンペーン(米国の Back to Sleep など)が行われ、SIDSによる死亡は半分以下に減った。日本でも1990年代後半から、旧厚生省がうつ伏せ寝を避ける、たばこをやめる、できるだけ母乳で育てる、という3点を呼びかけ、SIDSの死亡数は大きく減っている。
SIDSのリスク因子
・うつ伏せ寝(最も重要。寝返りを打てない時期の側臥位も不安定なため勧められない) ・妊娠中・出生後の喫煙(能動・受動喫煙のいずれも) ・人工栄養(母乳栄養の児はリスクが低い) ・早産児・低出生体重児 ・男児、冬季 ・柔らかい寝具、かけ物のかけすぎ(体が温まりすぎる)
予防のための睡眠環境
1歳になるまでは仰向けに寝かせる。敷布団は硬めにし、顔の周りにぬいぐるみや柔らかい枕などを置かない。たばこを吸わない。できるだけ母乳で育てる。日本では毎年11月を「乳幼児突然死症候群(SIDS)対策強化月間」とし、啓発活動を行っている。
機序についての考え方
原因はまだ明らかではない。有力な考え方として「トリプルリスクモデル」がある。これは、(1) 脳幹の呼吸・覚醒調節機能が未熟など、児が生まれつき弱さを持っている、(2) 生後2〜6か月という発達上の不安定な時期にある、(3) うつ伏せ寝や喫煙などの外的なストレスが加わる、の3つが重なったときにSIDSが起こるとするものである。
SIDSと鑑別すべきもの
窒息などの事故、虐待(揺さぶられっ子症候群を含む)、感染症(敗血症、心筋炎)、先天性心疾患・不整脈(QT延長症候群など)、先天代謝異常症(脂肪酸代謝異常症など)がある。このため、乳児の突然死では死亡状況の調査と剖検が欠かせない。
関連する概念
乳幼児突発性危急事態(ALTE)は、呼吸停止・チアノーゼ・筋緊張の変化などが突然起こり、観察者に死を予感させた状態を指す。近年は、より限定した概念である BRUE(brief resolved unexplained event:短時間で消失した原因不明の事象)も用いられる。
POINT
・SIDSは、予測できず、死亡状況調査と剖検を行っても原因が特定できない、原則1歳未満の突然死である(除外診断のため剖検が必須)。 ・好発時期は生後2〜6か月で、睡眠中、特に夜間に多い。冬と男児にやや多い。 ・窒息など死因が特定できたものはSIDSに含まれない。 ・リスク因子はうつ伏せ寝、喫煙、人工栄養である。 ・仰向け寝キャンペーンで、SIDSは大きく減った。
