「入院はしない」と言われたら―本人の同意・家族の同意・自傷他害で決まる精神科の入院形態
第103回医師国家試験 E問題 第46問
国試問題にチャレンジ
27歳の男性。言動の変化を心配した妻に伴われて来院した。半月前から「盗聴されている」と言って部屋にこもり,仕事に行かず,食事もあまりとらない。精神保健指定医が診察し入院が必要であると診断したが,本人は入院を拒んでいる。妻は入院の必要性をよく理解している。 対応として最も適切なのはどれか。
- a.外来治療
- b.任意入院
- c.医療保護入院
- d.措置入院
- e.応急入院
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
精神保健福祉法に基づく入院形態は、本人の同意の有無、精神保健指定医の判断、家族等の同意の可否、自傷他害のおそれの有無によって決まります。被害妄想で生活が破綻し、指定医が入院を必要と判断したものの本人が拒否している場合、自傷他害のおそれがなく家族等の同意が得られれば医療保護入院が適切です。自傷他害のおそれがあれば指定医2名以上の一致による措置入院、急速を要し家族等の同意が得られなければ72時間を限度とする応急入院となり、本人が同意すれば任意入院が原則です。保護者制度の廃止や2024年施行の改正による入院期間の設定など制度は変化しているため、現行の枠組みで理解しておくことが重要です。入院形態の正確な理解は、患者の人権を守りつつ必要な医療を届けるための基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
27歳の男性が、半月前から「盗聴されている」と訴えて自室にこもり、仕事を休み、食事も十分にとれていない。被害妄想(被害的な内容の妄想)を中心とする精神病症状により社会生活が破綻しており、年齢や経過からは統合失調症などの精神病性障害がまず考えられる。自分が病気であるという認識(病識)に乏しいことは、こうした疾患でしばしばみられる。
入院形態を決める要素
精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)に基づく入院形態は、主に次の点から選ぶ。 1. 本人が入院に同意しているか 2. 精神保健指定医が入院の必要性を判断しているか 3. 家族等の同意が得られるか 4. 自傷他害(自分を傷つけたり他人に害を及ぼしたりすること)のおそれがあるか 5. 急速を要し、家族等の同意を得る時間的余裕があるか
本例への当てはめ
・精神保健指定医が診察し、入院が必要と判断している → 外来治療では不十分 ・本人は入院を拒否している → 任意入院は成立しない ・妻(家族等に該当)が入院の必要性を理解し、同意できる状況にある ・自傷他害のおそれを示す記載はない → 措置入院の要件は満たさない 以上から、本人の同意がなくても、指定医の判断と家族等の同意に基づいて行う医療保護入院が最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 外来治療
精神保健指定医がすでに入院治療が必要と診断している。妄想のため引きこもり、就労も食事も十分にできない状態であり、病識も乏しく外来通院や服薬の継続は期待しにくい。外来治療で経過をみるのは適切でない。
- ×b. 任意入院
任意入院は本人の同意に基づく入院形態で、精神保健福祉法上、精神科病院の管理者はできる限りこの形で入院させるよう努めることとされている。しかし本例では本人が入院を明確に拒否しているため、任意入院は成立しない。
- ○c. 医療保護入院
医療保護入院は、精神保健指定医の診察により、精神障害者であって医療と保護のために入院が必要だが、その精神障害のために本人が任意入院を行う状態にないと判定された者について、家族等のうちいずれかの者の同意があれば、本人の同意なしに入院させることができる制度である。本例は指定医が入院の必要性を判断し、本人は拒否しているが、妻が入院の必要性を理解していて同意が得られる。自傷他害のおそれは示されていないため措置入院の対象ではなく、医療保護入院が最も適切である。
- ×d. 措置入院
措置入院は、精神障害のために自身を傷つけたり他人に害を及ぼしたりするおそれ(自傷他害のおそれ)がある場合に、2名以上の精神保健指定医の診察結果が一致したとき、都道府県知事(または政令指定都市の市長)の権限で行う強制入院である。本例には自殺企図や暴力など自傷他害のおそれを示す記載がなく、要件を満たさない。
- ×e. 応急入院
応急入院は、入院させなければ医療と保護に著しく支障がある精神障害者で、急速を要し家族等の同意を得ることができない場合に、精神保健指定医の診察に基づき、都道府県知事が指定した応急入院指定病院に72時間を限度として入院させる制度である。本例では妻が付き添っており同意を得られるため、応急入院を選ぶ理由はない。
精神保健福祉法に基づく主な入院形態
・任意入院:本人の同意による。指定医の診察は必須ではない。本人から退院の申し出があれば原則退院させるが、指定医が入院継続の必要を認めた場合は72時間に限り退院を制限できる(特定医師の場合は12時間)。 ・医療保護入院:指定医1名の診察+家族等のうちいずれかの者の同意。本人の同意は不要。管理者は入院後10日以内に都道府県知事に届け出る。 ・措置入院:自傷他害のおそれ+指定医2名以上の診察結果の一致。都道府県知事(政令指定都市の市長)の行政処分として行う。入院費は原則公費負担。 ・緊急措置入院:自傷他害のおそれが著しく急速を要し、正規の措置入院の手続きをとれない場合に、指定医1名の診察で72時間を限度として行う。 ・応急入院:急速を要し家族等の同意を得られない場合に、指定医1名の診察で、応急入院指定病院に72時間を限度として行う。
家族等の範囲
配偶者、親権者、扶養義務者、後見人または保佐人が該当する(未成年者や、本人と訴訟をしている者などは除かれる)。かつての「保護者」制度は2014年の法改正で廃止され、医療保護入院の同意者は「家族等のうちいずれかの者」に改められた。さらに2024年施行の改正では、医療保護入院に入院期間(最長6か月、以後更新制)が設けられ、家族等がいない場合に加えて家族等の全員が同意・不同意の意思表示を行わない場合にも、市町村長の同意で入院できるようになった。
精神保健指定医
一定の精神科実務経験と研修を経て厚生労働大臣が指定する医師で、非自発的入院の要否判定や行動制限(隔離・身体的拘束)の判断などを行う。
POINT
・本人の同意あり → 任意入院 ・本人の同意なし+指定医1名が入院必要と判断+家族等の同意あり → 医療保護入院 ・自傷他害のおそれ+指定医2名以上の一致 → 措置入院(都道府県知事による) ・自傷他害のおそれが著しく急速を要する → 緊急措置入院(指定医1名、72時間以内) ・急速を要し家族等の同意が得られない → 応急入院(指定医1名、応急入院指定病院、72時間以内)
