StudyMed医師国家試験

夏の咳とツ反陰性―IgGとツベルクリン反応の裏にいる2種類のリンパ球

第103回医師国家試験 E問題 第45問

国試問題にチャレンジ

第103回 E問題 第45問

48歳の女性。主婦。咳と息切れとを主訴に8月中旬に来院した。3週前から乾性の咳と階段を昇る際の息切れとが出現した。近医で抗菌薬の投与を受けたが改善せず,さらに症状は悪化している。喫煙歴はない。白血球5,200(好中球52%,好酸球3%,好塩基球1%,単球6%,リンパ球38%)。IgG 2,300mg/dL(基準960~1,960)。ツベルクリン反応陰性。  この検査所見に直接関与する細胞はどれか。2つ選べ。

  1. a.マスト細胞
  2. b.類上皮細胞
  3. c.Tリンパ球
  4. d.Bリンパ球
  5. e.マクロファージ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は呼吸器の症例を入り口にして、実は免疫学の基本を問う問題だ。まず背景にある疾患をイメージし、そのうえで「IgG高値」と「ツベルクリン反応陰性」という2つの検査所見を、それぞれどの細胞が担っているかを考えてみよう。
医学生医学生
抗菌薬が効かない咳なので、マイコプラズマのような非定型肺炎かなと最初は思いました。
ドクタードクター
その発想は悪くないね。ただ、8月中旬という季節、自宅で長く過ごす主婦、非喫煙者、白血球増多なし、という組み合わせに注目してほしい。これは日本で最も多い過敏性肺炎、夏型過敏性肺炎を強く疑わせる経過なんだ。高温多湿の家屋の台所や浴室に繁殖する真菌、トリコスポロンを繰り返し吸い込むことで起こる。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、入院すると良くなって、帰宅するとまた悪くなる患者さんがいると聞きました。
ドクタードクター
それがまさに夏型過敏性肺炎の特徴だよ。抗原から離れると改善し、戻ると再燃する。では過敏性肺炎は、何型のアレルギーで起こるか覚えているかな。
医学生医学生
アレルギーというとI型のイメージですが……過敏性肺炎はIII型とIV型でしたっけ。
ドクタードクター
正解。吸入した抗原に対するIgG抗体ができて、抗原と結びついた免疫複合体が炎症を起こすIII型と、感作されたTリンパ球による遅延型過敏反応のIV型が組み合わさっているとされる。喘息のようなI型が主体の病気とは違うんだ。好酸球が増えていないのも、その裏付けの一つだね。
医学生医学生
だからIgGが高いんですね。IgGを作るのはBリンパ球ですか。
ドクタードクター
そう。Bリンパ球が抗原刺激を受けて形質細胞に分化し、IgGを産生・分泌する。夏型ならトリコスポロンに対する特異的IgG、いわゆる沈降抗体が作られる。今回のIgG高値は液性免疫が亢進していることを反映していて、直接関与する細胞はBリンパ球だ。
医学生医学生
ツベルクリン反応はIV型の代表例でしたよね。基礎の免疫学の試験で必ず出ました。
ドクタードクター
その通り。ツベルクリン反応は、結核菌感染やBCG接種で感作された記憶Tリンパ球、主にCD4陽性のTh1細胞がPPDを認識して、インターフェロンγなどのサイトカインを放出する。それで炎症細胞が集まり、48時間前後で発赤や硬結が出るんだ。陰性ということは、Tリンパ球を中心とした細胞性免疫の反応が皮膚で起こりにくくなっていることを示している。
医学生医学生
でも肺ではTリンパ球が働いているのに、ツベルクリン反応は陰性になるんですか。少し矛盾しているように感じます。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。過敏性肺炎では肺局所にTリンパ球が集まる一方で、末梢でのツベルクリン反応が陰性化することがある。サルコイドーシスでも似た現象が知られているね。機序には定説がないけれど、この問題で大事なのは、ツベルクリン反応の陽性・陰性を決めているのはTリンパ球だという点だ。だからTリンパ球とBリンパ球の2つが答えになる。
医学生医学生
マクロファージや類上皮細胞も、肉芽腫に関係するので迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。マクロファージは抗原提示や、Tリンパ球のサイトカインで活性化されて炎症を担う細胞だし、類上皮細胞はマクロファージが変化したもので、過敏性肺炎の組織では境界不明瞭な小型の類上皮細胞肉芽腫をつくる。ただ、それは組織所見の話であって、血清IgG値やツベルクリン反応という検査所見を直接決めている細胞ではないんだ。
医学生医学生
マスト細胞はIgEを介したI型アレルギーの細胞なので、今回は関係ないですね。
ドクタードクター
その通り。マスト細胞は表面のFcεRIにIgEを結合し、抗原が来るとヒスタミンなどを放出して即時型反応を起こす。IgG産生にもIV型反応にも直接は関わらない。問われているのが「病態に関わる細胞」ではなく「検査所見に直接関与する細胞」だという点を読み落とさないことが大切だよ。
医学生医学生
IgGは液性免疫でB細胞、ツ反は細胞性免疫でT細胞、と所見ごとに担い手を対応させればいいんですね。
ドクタードクター
そういうこと。最後に臨床的な知識も補っておこう。過敏性肺炎の胸部CTでは両側びまん性の小葉中心性粒状影やすりガラス影がみられ、KL-6も上がる。気管支肺胞洗浄液ではリンパ球が著明に増え、夏型ではCD4/CD8比が低下することが多い。治療で最も重要なのは抗原回避で、家屋の清掃や改修、場合によっては転居も検討し、重症ならステロイドを使う。
医学生医学生
抗菌薬が効かない肺炎を見たら、季節や住環境、鳥の飼育歴まで聞くことが大事なんですね。OSCEの医療面接で生活歴を聞く意味がよくわかりました。
ドクタードクター
まさにそこが臨床のポイントだ。農夫肺のカビた干し草、鳥関連過敏性肺炎の羽毛や排泄物、加湿器肺など、原因抗原は生活の中にある。問診で環境を聞き出せるかどうかが、診断と再発予防の分かれ目になるんだよ。

まとめ

夏季に自宅で過ごす時間の長い非喫煙者に、抗菌薬が無効な乾性咳嗽と労作時呼吸困難が生じた場合は、トリコスポロンを原因とする夏型過敏性肺炎を考えます。過敏性肺炎はIII型(免疫複合体型)とIV型(遅延型)アレルギーが組み合わさった疾患で、血清IgG高値は形質細胞に分化したBリンパ球による液性免疫の亢進を、ツベルクリン反応陰性はTリンパ球(主にCD4陽性Th1細胞)が担う細胞性免疫反応の低下を反映しています。マスト細胞はIgEを介するI型アレルギー、マクロファージや類上皮細胞は肉芽腫などの組織反応に関わる細胞であり、検査所見を直接担う細胞ではありません。治療の基本は抗原回避であり、問診で住環境や生活歴を丁寧に聞き取ることが診断の鍵です。検査所見ごとにその担い手となる免疫細胞を対応づける考え方は、アレルギーや免疫疾患全般を理解するための土台になります。

解答・解説

正解はc, dです

所見の整理

・48歳の女性、主婦、非喫煙者 ・8月中旬(夏季)に受診、3週前からの乾性咳嗽と労作時の息切れ ・抗菌薬が無効で、症状は進行している ・白血球5,200で増多はなく、分画も好酸球3%と増加なし。リンパ球38%はやや多め ・IgG 2,300 mg/dLと基準上限(1,960 mg/dL)を超える軽度高値 ・ツベルクリン反応陰性

診断へのプロセス

夏季に発症し、自宅で長時間過ごす主婦に生じた乾性咳嗽と労作時呼吸困難で、細菌感染を想定した抗菌薬が効かず、白血球増多もない。これは細菌性肺炎よりも、環境中の抗原の反復吸入によって起こる過敏性肺炎、とくにわが国で最も多い夏型過敏性肺炎(高温多湿の家屋に繁殖する真菌トリコスポロンが原因)を強く示唆する経過である。好酸球増多がないことは好酸球性肺炎を考えにくくする。 過敏性肺炎は、吸入抗原に対するIII型アレルギー(抗原とIgG抗体による免疫複合体が関与)とIV型アレルギー(感作T細胞による遅延型過敏反応)が組み合わさって肺胞・細気管支に炎症を起こす疾患である。本例のIgG高値は抗原に対する液性免疫の亢進を反映し、ツベルクリン反応陰性は過敏性肺炎でしばしばみられる末梢での細胞性免疫反応の低下(ツベルクリン反応の陰性化)を反映していると解釈できる。

設問の考え方

問われているのは「この検査所見(IgG高値とツベルクリン反応陰性)に直接関与する細胞」である。 ・IgG(免疫グロブリンG)を産生するのはBリンパ球(が分化した形質細胞)である。 ・ツベルクリン反応は結核菌由来の精製ツベルクリン(PPD)に対する遅延型過敏反応(IV型アレルギー)で、その成立を担うのは抗原特異的な記憶Tリンパ球(主にCD4陽性Th1細胞)である。 したがって、液性免疫の担い手であるBリンパ球と、細胞性免疫の担い手であるTリンパ球の2つが答えとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  マスト細胞

    マスト細胞(肥満細胞)は表面の高親和性受容体(FcεRI)にIgEを結合し、抗原が結合するとヒスタミンやロイコトリエンなどを放出してI型(即時型)アレルギーを引き起こす。IgGの産生にもツベルクリン反応(IV型)にも直接関与しない。また過敏性肺炎は喘息のようなI型アレルギーを主体とする疾患ではなく、本例では好酸球増多もみられない。

  2. ×b.  類上皮細胞

    類上皮細胞はマクロファージが活性化・変化した細胞で、集簇して類上皮細胞肉芽腫を形成する。過敏性肺炎の肺組織では境界不明瞭な小型の類上皮細胞肉芽腫がみられ、サルコイドーシスや結核でも肉芽腫の構成成分となる。しかしこれは組織所見に関わる細胞であり、血清IgG値やツベルクリン反応という本問の検査所見を直接担う細胞ではない。

  3. ○c.  Tリンパ球

    ツベルクリン反応は、過去の結核菌感染やBCG接種で感作された記憶Tリンパ球(主にCD4陽性Th1細胞)がPPDを認識し、インターフェロンγなどのサイトカインを放出して局所に炎症細胞を呼び集めることで48時間前後に発赤・硬結を生じる遅延型過敏反応(IV型アレルギー)である。反応が陰性であることは、Tリンパ球を中心とする細胞性免疫反応が末梢で起こりにくくなっていることを示す。過敏性肺炎では肺局所にTリンパ球が集積してIV型反応を担う一方、ツベルクリン反応が陰性化することがあり、本所見に直接関わる細胞はTリンパ球である。

  4. ○d.  Bリンパ球

    IgGはBリンパ球が抗原刺激を受けて形質細胞に分化し、産生・分泌する抗体である。過敏性肺炎では反復して吸入された抗原(夏型ではトリコスポロン)に対する特異的IgG抗体(沈降抗体)が産生され、抗原と結合して免疫複合体を形成し、III型アレルギーとして肺胞壁の炎症を起こす。本例のIgG高値はこの液性免疫の亢進を反映しており、直接関与する細胞はBリンパ球である。

  5. ×e.  マクロファージ

    マクロファージは抗原提示や、Tリンパ球から出るサイトカインで活性化されて炎症を担う細胞であり、過敏性肺炎の病変形成(免疫複合体の貪食、肉芽腫形成)にも関与する。しかし、IgGを産生するのはBリンパ球であり、ツベルクリン反応の陽性・陰性を規定するのは抗原特異的なTリンパ球の感作状態である。本問の検査所見を直接担う細胞とはいえない。

過敏性肺炎の概要

有機粉塵や真菌・細菌、化学物質などの抗原を繰り返し吸入することで、細気管支から肺胞にかけて免疫反応による炎症が起こる疾患である。III型とIV型アレルギーが関与するとされ、I型アレルギーが主体の気管支喘息とは異なる。

主な病型と原因抗原

・夏型過敏性肺炎:わが国で最も多い。高温多湿な家屋の台所・浴室などに繁殖する真菌トリコスポロン(Trichosporon asahii など)が原因。夏季(6~9月ごろ)に発症し、自宅を離れる(入院など)と改善、帰宅で再燃する。主婦に多い。 ・農夫肺:カビた干し草中の好熱性放線菌 ・鳥関連過敏性肺炎(鳥飼病):鳥の排泄物や羽毛の蛋白 ・加湿器肺:加湿器内で増殖した微生物 ・イソシアネートによるもの(塗装工など)

臨床像と検査所見

・急性型:抗原曝露後数時間で発熱、乾性咳嗽、呼吸困難。聴診で捻髪音(fine crackles) ・胸部CT:両側びまん性の小葉中心性粒状影、すりガラス影 ・血液:抗原特異的IgG(沈降抗体)陽性、血清IgGの上昇、KL-6の上昇 ・気管支肺胞洗浄液(BALF):リンパ球の著明な増加。CD4/CD8比は低下することが多い(夏型で典型的。農夫肺や慢性例では上昇することもある) ・ツベルクリン反応:陰性化することがある ・肺生検:胞隔炎、境界不明瞭な小型類上皮細胞肉芽腫、器質化病変 ・非喫煙者に多いことが知られている

治療

最も重要なのは抗原回避(入院や転居、家屋の清掃・改修、鳥の飼育中止など)である。重症例では副腎皮質ステロイドを用いる。

アレルギーの型と主な担い手

・I型(即時型):IgE、マスト細胞・好塩基球(例:気管支喘息、花粉症、アナフィラキシー) ・II型(細胞傷害型):IgG・IgMが細胞表面抗原に結合(例:自己免疫性溶血性貧血) ・III型(免疫複合体型):抗原とIgGなどの免疫複合体の沈着(例:血清病、ループス腎炎、過敏性肺炎の一部) ・IV型(遅延型):感作Tリンパ球(例:ツベルクリン反応、接触皮膚炎、過敏性肺炎の一部)

POINT

・夏季発症、主婦、抗菌薬無効の乾性咳嗽と息切れ → 夏型過敏性肺炎(トリコスポロン)を想起。 ・過敏性肺炎はIII型+IV型アレルギー。 ・IgG高値=液性免疫 → Bリンパ球(形質細胞)が産生。 ・ツベルクリン反応=IV型(遅延型)アレルギー → Tリンパ球(Th1)が担う。過敏性肺炎では陰性化することがある。 ・マスト細胞はIgEを介するI型アレルギー、類上皮細胞は肉芽腫の構成細胞。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。