学校健診に腹囲と血圧がない理由―子どもの健康診断は「何を見逃したくないか」で決まる
第103回医師国家試験 E問題 第36問
国試問題にチャレンジ
学校保健法で定められている健康診断の項目はどれか。3つ選べ。
- a.腹囲
- b.血圧
- c.検尿
- d.視力
- e.心電図
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
学校保健安全法(出題当時は学校保健法)に基づく児童生徒の定期健康診断は、成長期の子どもに特有で見逃すと学業や生活に影響する異常や、突然死につながる心疾患の早期発見を目的としています。視力と尿検査は幼稚園から高校まで毎年行われ、近視・弱視、無症候性の糸球体腎炎やネフローゼ症候群、小児糖尿病を拾い上げます。心電図は小・中・高の各1年生で実施され、肥大型心筋症やQT延長症候群、WPW症候群などを見つけて運動管理につなげます。腹囲や血圧は特定健診や職員の健康診断の項目であり、児童生徒の必須項目ではありません。2016年度から座高・寄生虫卵検査が削除され運動器検診が加わった変遷も含め、各項目の目的とともに理解しておくと、学校医としての実務にも役立ちます。
解答・解説
正解はc, d, eです
学校で行う児童生徒の定期健康診断の検査項目を問う問題である。学校の健康診断は、出題当時は学校保健法、2009年の改正以降は学校保健安全法とその施行規則に基づいて行われている。 考え方のポイントは、「成長期の子どもに特有の、見逃すと学業や生活に支障が出る異常」あるいは「突然死につながりうる異常」を早期に拾い上げる項目が選ばれている、という点である。視力低下(近視など)は学習に直結し、尿検査は無症状の腎炎・ネフローゼなどの腎疾患や糖尿病を、心電図は運動中の突然死の原因となりうる心筋症・QT延長症候群・Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群などの不整脈を見つける目的で行われる。 一方、腹囲や血圧は内臓脂肪型肥満や高血圧といった生活習慣病のスクリーニング指標であり、中高年を対象とする特定健康診査(メタボ健診)や職員の健康診断では重要だが、児童生徒の定期健康診断の必須項目には含まれていない。この区別がつけば、自分が受けてきた学校健診を思い出すことでも正答できる。
選択肢考察
- ×a. 腹囲
腹囲は内臓脂肪蓄積の指標であり、メタボリックシンドロームの診断や特定健康診査で測定される項目である。児童生徒の定期健康診断では身長・体重などで栄養状態や肥満を評価するが、腹囲測定は定められていない。なお、学校の教職員を対象とする職員の健康診断には腹囲が含まれており、児童生徒の健診と混同しないよう注意する。
- ×b. 血圧
血圧測定は高血圧のスクリーニングとして成人の健診では基本項目であるが、小児では本態性高血圧の頻度が低く、児童生徒の定期健康診断の必須項目にはなっていない。職員の健康診断には血圧測定が含まれる。心疾患や腎疾患の疑いがある場合に個別に測定されることはあるが、全員に行う規定の項目ではない。
- ○c. 検尿
尿検査は幼稚園から高等学校まで毎年実施される項目である。試験紙法で尿蛋白・尿潜血・尿糖などを調べ、自覚症状の乏しい慢性糸球体腎炎(IgA腎症など)やネフローゼ症候群、糖尿病(特に小児2型糖尿病)を早期に発見することを目的とする。日本の学校検尿は小児腎疾患の早期発見に大きく貢献してきた。
- ○d. 視力
視力検査は幼稚園から高等学校まで毎年行われる。近視をはじめとする屈折異常や弱視は、学習(黒板の文字が見えにくいなど)や日常生活に直接影響するため、早期に発見して眼科受診や矯正につなげることが目的である。学校では通常、裸眼視力(眼鏡使用者は矯正視力も)をA〜Dの区分で判定する方法が用いられる。
- ○e. 心電図
心臓の検診として、小学校・中学校・高等学校の各1年生(入学時の学年)に心電図検査が行われる。肥大型心筋症、QT延長症候群、WPW症候群、Brugada症候群などは運動中の失神や突然死の原因となりうるが、無症状のことが多い。心電図でこれらを拾い上げ、精密検査と学校生活管理指導表による運動制限の指導につなげることが目的である。
学校で行われる健康診断の種類
学校保健安全法(旧学校保健法)に基づく健康診断には、次の3つがある。 ・就学時の健康診断:小学校入学前に市町村の教育委員会が実施する。 ・児童生徒等の健康診断:毎学年定期(6月30日まで)に行うものと、感染症の流行時などに必要に応じて行う臨時のものがある。学校医・学校歯科医が関与する。 ・職員の健康診断:学校の設置者が教職員に対して行う。
児童生徒の定期健康診断の主な項目
・身長、体重、栄養状態 ・脊柱・胸郭の疾病や異常の有無(側弯症の発見など)、四肢の状態 ・視力、聴力 ・眼の疾病・異常の有無 ・耳鼻咽喉疾患、皮膚疾患の有無 ・歯および口腔の疾病・異常の有無 ・結核の有無(小・中学校は問診を中心とし必要に応じて精密検査、高校・大学の1年生は胸部X線検査) ・心臓の疾病・異常の有無(臨床医学的検査、心電図は小・中・高の1年生) ・尿(幼稚園〜高校で毎年) ・その他の疾病・異常の有無
制度の変遷
2009年に学校保健法は学校保健安全法に改称された。さらに2016年度からの施行規則改正で、座高の測定と寄生虫卵検査が必須項目から削除され、運動器(四肢の状態)の検査が加えられた。古い資料では座高や寄生虫卵検査が項目に挙がっていることがあるが、現在は必須ではない。
職員の健康診断との違い
職員の健康診断は労働安全衛生法の一般健康診断に準じた内容であり、腹囲、血圧、貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、心電図などが含まれる。腹囲や血圧が「学校の健診」に含まれるのはこちらである。
POINT
・児童生徒の定期健康診断で毎年行う:視力、尿検査(幼稚園〜高校)など。 ・心電図は小・中・高の各1年生で実施し、突然死の原因となる心疾患を拾い上げる。 ・腹囲・血圧は児童生徒の必須項目ではない(職員の健康診断や特定健診の項目)。 ・学校保健法は2009年に学校保健安全法へ改称。2016年度から座高・寄生虫卵検査は必須項目から削除された。
