黒く変わった大転子部の潰瘍―褥瘡は「まず壊死を取る」から始まる
第103回医師国家試験 D問題 第36問
国試問題にチャレンジ
74歳の男性。腰部の皮疹のため搬入された。2か月前から脳梗塞のため他院に入院していた。1か月前に右大転子部に紅斑が生じたが放置していた。2週前から急速に潰瘍化し黒色に変色してきた。右大転子部の写真を別に示す。 まず行うのはどれか。

- a.デブリドマン
- b.抗凝固薬投与
- c.抗真菌薬塗布
- d.副腎皮質ステロイド塗布
- e.非ステロイド性抗炎症薬投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
麻痺などで自力での体位変換が難しい患者の骨突出部(仙骨部、大転子部、踵部など)に、紅斑から潰瘍、黒色壊死へと進む病変が生じた場合は褥瘡を考えます。黒色期の褥瘡では、壊死組織が感染の温床となり肉芽形成も妨げるため、局所治療としてまずデブリドマンで壊死組織を除去します。褥瘡は血栓ではなく圧迫による虚血が本態であり、抗凝固薬は無効で、ステロイド外用は創傷治癒を遅らせるため用いません。黄色期・赤色期・白色期と創面の色に応じて治療を切り替え、全期間を通じて除圧・栄養改善・スキンケアを並行することが治癒の条件です。褥瘡の病態と治療の考え方は、高齢化が進む医療現場のどの診療科でも求められる基本的な知識です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・74歳の高齢男性で、2か月前から脳梗塞のため入院中である。麻痺などにより自力での寝返り(体位変換)が難しく、長時間同じ姿勢で臥床していたと推測できる。 ・病変部位は右大転子部である。大転子部は側臥位でベッド面に強く押し付けられる骨突出部で、仙骨部と並ぶ代表的な褥瘡の好発部位である。 ・経過は「紅斑(1か月前)→ 急速な潰瘍化 → 黒色に変色(2週前から)」であり、皮膚・皮下組織が虚血に陥って壊死していく過程をそのまま示している。 ・写真では、潰瘍面に黒色の硬い壊死組織(エスカー、焼痂)が付着し、その周囲に黄色調の壊死組織(スラフ)もみられる。
診断
骨突出部への持続的な圧迫による虚血性の皮膚・軟部組織壊死、すなわち褥瘡(圧迫創傷)であり、創面の色調による病期分類では黒色期にあたる。感染症(真菌症など)や炎症性皮膚疾患、血栓症を主体とする病態を示唆する所見はない。
設問の考え方
黒色期の褥瘡では、創面を覆う壊死組織が細菌の温床となって感染を助長し、また肉芽組織の形成や上皮化を物理的に妨げる。したがって、全身管理や除圧(体位変換、体圧分散寝具の使用)と並行して、局所治療としてまず壊死組織を除去すること(デブリドマン)が必要である。ほかの選択肢は、いずれも褥瘡の病態に対して効果がないか、むしろ創傷治癒を妨げるものである。
選択肢考察
- ○a. デブリドマン
デブリドマン(debridement)とは、創の治癒を妨げる壊死組織や異物、感染組織を取り除く処置である。黒色期の褥瘡では、壊死組織が残っている限り感染のリスクが続き、肉芽形成へ進めない。そこで、外科的(メスや剪刀による切除)あるいは化学的(蛋白分解酵素を含む外用薬)な方法で壊死組織を除去し、創を黄色期・赤色期へと移行させる。本症例で局所に対してまず行うべき処置である。なお、壊死組織の下に膿がたまっていたり、周囲に発赤・腫脹・熱感などの感染徴候を伴ったりする場合には、切開・排膿を含めた外科的デブリドマンを急ぐ。
- ×b. 抗凝固薬投与
褥瘡の本態は、外からの圧迫で毛細血管が閉塞することによる局所の虚血であり、血管内の血栓形成が原因ではない。抗凝固薬で血流が改善することは期待できず、壊死組織は残ったままである。むしろデブリドマン時の出血を増やすおそれがある。本症例の治療として投与する理由はない。
- ×c. 抗真菌薬塗布
本症例の皮膚病変は圧迫による虚血性壊死であり、真菌感染症を示唆する所見(鱗屑を伴う環状紅斑、辺縁の小膿疱、衛星病変など)はない。抗真菌薬は真菌感染が確認された場合にのみ用いるもので、壊死組織を取り除く効果もない。
- ×d. 副腎皮質ステロイド塗布
副腎皮質ステロイドは、線維芽細胞の増殖やコラーゲン合成、血管新生を抑えるため、肉芽形成と上皮化を遅らせる。さらに局所の免疫を抑えて創感染を起こしやすくする。褥瘡のような潰瘍・壊死を伴う創には原則として用いない。
- ×e. 非ステロイド性抗炎症薬投与
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は鎮痛・解熱を目的とする対症療法薬であり、壊死組織の除去や創傷治癒の促進にはつながらない。褥瘡は感覚障害や意識障害を背景に生じることが多く、痛みを訴えないこともまれではない。痛みが強い場合に鎮痛目的で併用することはあり得るが、根本的な治療ではなく、「まず行う」処置としては不適切である。
褥瘡とは
体重などによる外力が骨と皮膚表面の間の軟部組織に持続的にかかり、血流が低下・途絶することで組織が不可逆的な阻血性障害に陥った状態である。長期臥床の高齢者、脳血管障害や脊髄損傷による麻痺のある患者、意識障害のある患者に多い。
危険因子
・自力での体位変換ができない(麻痺、鎮静、意識障害) ・骨突出が目立つ(るいそう) ・低栄養(低アルブミン血症など) ・皮膚の湿潤(失禁、発汗) ・ずれ・摩擦(ベッドの頭側挙上時など) ・関節拘縮、浮腫
好発部位
仰臥位では仙骨部(最多)、踵部、肩甲骨部、後頭部。側臥位では大転子部、腸骨稜部、外果部。座位では坐骨結節部。
創面の色調による病期分類と治療方針
・黒色期:黒色の壊死組織(エスカー)が付着。外科的・化学的デブリドマンで壊死組織を除去し、感染を制御する。 ・黄色期:黄色の壊死組織(スラフ)や滲出液が多い。デブリドマンの継続、洗浄、感染対策(抗菌作用のある外用薬など)。 ・赤色期:良好な肉芽が増生する。湿潤環境を保つ創傷被覆材などで肉芽形成を促す。 ・白色期:創縁から上皮化が進む。湿潤環境を保ち、上皮化を促進する。
深達度分類
NPIAP(米国褥瘡諮問委員会)分類では、ステージ1(消退しない発赤)、ステージ2(真皮までの部分欠損)、ステージ3(皮下脂肪組織に及ぶ全層欠損)、ステージ4(筋・腱・骨に及ぶ全層欠損)に分け、壊死組織で覆われて深さが判定できないものを「判定不能」、皮膚が保たれたまま深部に損傷があるものを「深部組織損傷(DTI)」とする。日本褥瘡学会はDESIGN-R(深さ、滲出液、大きさ、炎症/感染、肉芽組織、壊死組織、ポケット)という評価ツールで重症度と経過を評価している。
治療・予防の基本
局所治療と同時に、原因の除去(体圧分散マットレス、少なくとも2時間ごとを目安とした体位変換、ずれの防止)、栄養状態の改善、スキンケア(失禁対策)といった全身的・環境的な対策を行わなければ治癒しない。
POINT
・長期臥床患者の骨突出部(仙骨部、大転子部、踵部など)に生じた紅斑→潰瘍→黒色壊死は褥瘡である。 ・黒色期・黄色期の褥瘡では、まず壊死組織のデブリドマンを行い、感染を制御する。 ・赤色期・白色期では湿潤環境を保って肉芽形成・上皮化を促す。 ・副腎皮質ステロイド外用は創傷治癒を遅らせるため、褥瘡には用いない。 ・すべての病期を通じて、除圧・栄養改善・スキンケアが治療と予防の土台である。
