StudyMed医師国家試験

網目状の紅斑、流産、若年の脳梗塞―3つの点を結ぶ抗リン脂質抗体症候群

第103回医師国家試験 D問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第103回 D問題 第30問

30歳の女性。下肢の皮疹を主訴に来院した。3か月前から両側下肢に網目状の紅斑が出現し,1週前から小潰瘍が多発してきた。2度の流産を経験している。25歳時に脳梗塞の既往がある。  診断に有用なのはどれか。

  1. a.抗RNP抗体
  2. b.抗Jo-1抗体
  3. c.抗SS-B抗体
  4. d.抗Scl-70抗体
  5. e.抗カルジオリピン抗体

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、一見ばらばらな皮膚・産科・神経の病歴を1つの病態でまとめ上げ、診断に役立つ自己抗体を選ぶ問題だ。着眼点は「若いのに血栓ができている」「流産を繰り返している」「皮膚の小さな血管の血流障害」の3つ。これらに共通するキーワードは何だと思う?
医学生医学生
全部「血の巡りが悪くなる」話に見えます。でも皮膚の紅斑と潰瘍だけなら、血管炎も考えてしまいます。
ドクタードクター
いいところに目をつけたね。網目状の紅斑は網状皮斑、リベドと呼ばれ、皮膚の細い血管で血流が滞ると生じる。血管炎でも出るけれど、そこに流産と若年の脳梗塞が加わると、血管の炎症よりも「血液が固まりやすい体質」、つまり血栓性素因を疑うのが自然なんだ。
医学生医学生
25歳の脳梗塞は、確かに動脈硬化では説明しにくいですね。神経内科の実習でも、若年性脳梗塞では血栓性素因や心原性塞栓、解離を調べると教わりました。
ドクタードクター
その通り。そして流産を繰り返す女性で血栓症もある、となれば真っ先に挙がるのが抗リン脂質抗体症候群だ。リン脂質やそれに結合するβ2-グリコプロテインIなどに対する自己抗体ができて、動脈・静脈の血栓症や、胎盤の血流障害による流産・死産を起こす後天性の血栓性素因なんだ。
医学生医学生
流産は胎盤に血栓ができて、赤ちゃんへの血流が足りなくなるから、という理解でいいですか。
ドクタードクター
主な機序としてはそう考えられている。では本題。診断に使う抗リン脂質抗体は何があったかな。
医学生医学生
ループスアンチコアグラントと、抗カルジオリピン抗体と……あと1つが思い出せません。
ドクタードクター
抗β2-グリコプロテインI抗体だね。この3つが診断の検査項目で、選択肢の中では抗カルジオリピン抗体が該当する。これが正解だ。ポイントは、1回陽性になるだけでは不十分で、12週以上あけて2回以上陽性、つまり持続陽性を確認すること。感染症などで一過性に陽性になることがあるからなんだ。
医学生医学生
ほかの選択肢は、CBTの前に必死で覚えた「抗体と疾患の対応表」に出てくるものばかりですね。抗RNP抗体は混合性結合組織病でしたっけ。
ドクタードクター
そう。抗U1-RNP抗体は混合性結合組織病で高力価陽性になり、Raynaud現象や手指の腫脹、肺高血圧症が特徴だ。抗Jo-1抗体は多発性筋炎・皮膚筋炎の抗ARS抗体の代表で、間質性肺炎や機械工の手を伴う。抗Scl-70抗体はびまん皮膚硬化型の全身性強皮症に特異的で、間質性肺疾患と関連する。今回はいずれの病像とも合わないね。
医学生医学生
抗SS-B抗体は妊娠と関係があると聞いた気がして、少し迷いました。
ドクタードクター
鋭い迷い方だね。Sjögren症候群の抗SS-A・SS-B抗体は胎盤を通って胎児に移行し、新生児ループスや先天性完全房室ブロックの原因になりうる。妊娠と関係するのは確かだけれど、母体の血栓症や流産を繰り返す病態を説明する抗体ではないんだ。
医学生医学生
妊娠に関係する抗体でも、「赤ちゃんの心臓」なのか「母体の血栓と胎盤」なのかで区別すればいいんですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。ここから発展知識。抗リン脂質抗体症候群では、APTTが延長しているのに実際は血栓傾向という逆説的な所見が出る。ループスアンチコアグラントが試験管内のリン脂質依存性の凝固反応を邪魔するからなんだ。
医学生医学生
出血しやすそうな検査値なのに、体の中では固まりやすい、というのは引っかけに出そうです。梅毒の検査で偽陽性になるのも、この病気でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。STS法の抗原にカルジオリピンが使われているので、STS陽性・TPHA陰性の生物学的偽陽性になる。血小板減少もしばしばみられる。また、SLEに合併する二次性と、基礎疾患のない原発性があるから、SLEの評価も忘れずに。
医学生医学生
治療はワルファリンですか。この方はまた妊娠を希望されるかもしれませんが。
ドクタードクター
そこが臨床の大事なところ。血栓症の既往があれば再発予防にワルファリンなどで抗凝固療法を行うけれど、ワルファリンは催奇形性があるので妊娠中は使わない。妊娠時には低用量アスピリンとヘパリンの皮下注射を併用するんだ。また、3種類の抗体がすべて陽性の高リスク例では、直接経口抗凝固薬は血栓再発が多く推奨されない点も押さえておこう。産婦人科と神経内科、膠原病内科が連携して診る病気だね。

まとめ

若年での脳梗塞などの血栓症、流産の反復、網状皮斑や皮膚潰瘍がそろえば、抗リン脂質抗体症候群を疑います。診断には臨床所見に加え、ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2-グリコプロテインI抗体のいずれかが12週以上の間隔で持続陽性であることを確認します。APTT延長なのに血栓傾向、梅毒血清反応の生物学的偽陽性、血小板減少は特徴的な検査所見で、SLEに合併する二次性もあります。治療は血栓症既往があれば抗凝固療法ですが、妊娠中はワルファリンを避けて低用量アスピリンとヘパリンを用います。抗RNP、抗Jo-1、抗SS-B、抗Scl-70など自己抗体と疾患の対応を整理しておくことは、膠原病全般の診断の基礎になります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

30歳の女性で、次の3つの要素がそろっている。 1. 皮膚所見:3か月前から両下肢に網目状の紅斑があり、1週前から小潰瘍が多発している。網目状の紅斑は網状皮斑(リベド、livedo)と呼ばれ、皮膚の細い血管の血流が滞ることで生じる。血流障害が強まると皮膚が壊死して潰瘍を形成する。 2. 妊娠合併症:2回の流産を経験している。流産を2回以上繰り返すものを反復流産、3回以上連続するものを習慣流産といい、いずれも不育症の原因検索の対象となる。 3. 若年での動脈血栓症:25歳という若さで脳梗塞を発症している。動脈硬化の危険因子が乏しい若年者の脳梗塞では、血液が固まりやすくなる素因(血栓性素因)の存在を疑う。

診断へのプロセス

「若年性の血栓症」「流産を繰り返す」「網状皮斑・皮膚潰瘍」という組み合わせは、抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)の典型像である。APSは、リン脂質やリン脂質に結合する蛋白(β2-グリコプロテインⅠなど)に対する自己抗体(抗リン脂質抗体)によって、動脈・静脈の血栓症や胎盤の血栓・循環障害による流産・死産を繰り返す自己免疫性の後天性血栓性素因である。流産は、胎盤の血管に血栓ができて胎児への血流が障害されることが主な機序と考えられている。

設問の考え方

APSの診断には、臨床所見(血栓症または妊娠合併症)に加えて、抗リン脂質抗体が持続的に陽性であることを示す必要がある。検査項目として用いられる抗リン脂質抗体は、ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2-グリコプロテインⅠ抗体の3つであり、選択肢の中では抗カルジオリピン抗体がこれに当たる。他の選択肢はいずれも別の膠原病に関連する自己抗体である。

選択肢考察

  1. ×a.  抗RNP抗体

    抗RNP抗体(抗U1-RNP抗体)は、混合性結合組織病(mixed connective tissue disease:MCTD)で高力価陽性となり、その診断に必須の抗体である。SLEや全身性強皮症でも陽性になることがある。MCTDではRaynaud現象、手指の腫脹、肺高血圧症などが特徴であり、本例の血栓症と流産の組み合わせとは合致しない。

  2. ×b.  抗Jo-1抗体

    抗Jo-1抗体は、ヒスチジルtRNA合成酵素に対する抗体で、多発性筋炎・皮膚筋炎で検出される抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体の代表である。筋炎に間質性肺炎、多関節炎、機械工の手(mechanic's hand)、発熱などを伴う抗ARS抗体症候群と関連する。本例には筋力低下や筋症状の記載はなく、診断には役立たない。

  3. ×c.  抗SS-B抗体

    抗SS-B抗体(抗La抗体)はSjögren症候群で検出され、抗SS-A抗体よりも陽性率は低いが特異度が高い。SLEでも陽性となることがある。母体が抗SS-A/SS-B抗体陽性の場合、胎盤を通じて胎児に移行し、新生児ループスや先天性完全房室ブロックの原因となることがある点で妊娠と関係するが、流産や血栓症を繰り返す病態を説明する抗体ではない。

  4. ×d.  抗Scl-70抗体

    抗Scl-70抗体(抗トポイソメラーゼⅠ抗体)は全身性強皮症に特異的な抗体で、皮膚硬化が体幹にまで及ぶびまん皮膚硬化型に多く、間質性肺疾患の合併と関連する。強皮症ではRaynaud現象や指尖部の潰瘍がみられるが、本例は皮膚硬化の記載がなく、若年性脳梗塞や反復流産は強皮症では説明しにくい。

  5. ○e.  抗カルジオリピン抗体

    抗カルジオリピン抗体は、ループスアンチコアグラント、抗β2-グリコプロテインⅠ抗体とともにAPSの診断基準に含まれる抗リン脂質抗体である。特にβ2-グリコプロテインⅠに依存して結合するタイプ(抗カルジオリピン・β2-グリコプロテインⅠ複合体抗体)が血栓症との関連が強い。中等度以上の力価のIgGまたはIgM抗体が、12週以上の間隔をあけて2回以上陽性であることが確認されれば、臨床所見と合わせてAPSと診断できる。

抗リン脂質抗体症候群(APS)の概要

抗リン脂質抗体が持続的に存在し、動静脈の血栓症や妊娠合併症を繰り返す自己免疫疾患である。基礎疾患のない原発性APSと、SLEなどの膠原病に合併する二次性(続発性)APSがある。若年女性に多い。

主な臨床像

・動脈血栓症:脳梗塞・一過性脳虚血発作が最も多い。心筋梗塞、網膜動脈閉塞症なども。 ・静脈血栓症:下肢の深部静脈血栓症と、それに続く肺血栓塞栓症が多い。 ・妊娠合併症:流産・死産、妊娠高血圧症候群、胎盤機能不全による胎児発育不全や早産。 ・その他:網状皮斑、皮膚潰瘍、血小板減少、心臓弁膜病変(弁の肥厚・疣贅)、腎血栓性微小血管症、舞踏病・てんかんなどの神経症状。 ・劇症型(catastrophic APS):短期間に多臓器で微小血栓が多発する重症型。

分類基準(2006年改訂Sapporo基準、いわゆるSydney基準)

臨床所見1項目以上+検査所見1項目以上でAPSと分類する。 臨床所見: ・血管血栓症:動脈・静脈・小血管の血栓症(画像または病理で確認)。 ・妊娠合併症:妊娠10週以降の原因不明の胎児死亡1回以上/重症妊娠高血圧腎症や胎盤機能不全による妊娠34週未満の早産1回以上/妊娠10週未満の原因不明の連続3回以上の自然流産。 検査所見(12週以上の間隔で2回以上陽性): ・ループスアンチコアグラント陽性 ・抗カルジオリピン抗体(IgGまたはIgM)中等度以上の力価で陽性 ・抗β2-グリコプロテインⅠ抗体(IgGまたはIgM)陽性 なお2023年にはACR/EULAR(米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会)による新しい分類基準も発表され、臨床・検査項目を点数化して評価する方式となっている。

特徴的な検査所見

・APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)延長:ループスアンチコアグラントが試験管内でリン脂質依存性の凝固反応を阻害するためで、生体内ではむしろ血栓傾向を示す(検査上は出血傾向に見えるのに実際は血栓ができるという逆説)。 ・血小板減少 ・梅毒血清反応の生物学的偽陽性(STS法陽性・TPHA陰性):STS法の抗原にカルジオリピンが使われているため。 ・SLE合併例では抗核抗体・抗二本鎖DNA抗体陽性。

治療

・血栓症の既往がある場合:再発予防として抗凝固療法(ワルファリン)。動脈血栓症では抗血小板薬を併用することもある。直接経口抗凝固薬(DOAC)は、特に3種類の抗体がすべて陽性の高リスク例では血栓再発が多いため推奨されない。 ・妊娠時:ワルファリンは催奇形性があるため使わず、低用量アスピリンとヘパリン(未分画ヘパリンの皮下注射)を併用する。

主な自己抗体と疾患の対応

・抗二本鎖DNA抗体・抗Sm抗体:SLE ・抗U1-RNP抗体:MCTD ・抗SS-A抗体・抗SS-B抗体:Sjögren症候群 ・抗Scl-70抗体:全身性強皮症(びまん皮膚硬化型)、抗セントロメア抗体:限局皮膚硬化型 ・抗Jo-1抗体(抗ARS抗体):多発性筋炎・皮膚筋炎 ・抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体など):APS

POINT

・若年性の血栓症(脳梗塞・深部静脈血栓症)+流産を繰り返す+網状皮斑 → 抗リン脂質抗体症候群(APS)を疑う。 ・診断に用いる抗リン脂質抗体:ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2-グリコプロテインⅠ抗体(12週以上あけて2回陽性)。 ・APTT延長・血小板減少があるのに血栓傾向、梅毒反応の生物学的偽陽性が特徴。 ・妊娠中の治療は低用量アスピリン+ヘパリン(ワルファリンは禁忌)。 ・自己抗体と疾患の対応(抗RNP:MCTD、抗Jo-1:多発性筋炎・皮膚筋炎、抗SS-B:Sjögren症候群、抗Scl-70:全身性強皮症)を整理しておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。