StudyMed医師国家試験

「やせ薬をください」にどう応える?―最初の一言は開かれた質問から

第103回医師国家試験 C問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第103回 C問題 第18問

19歳の女性。肥満を主訴にやせ薬の処方を希望して来院した。身長156cm,体重72kg。幼児期から肥満で,小学生の時にも肥満に対する指導を受けていたが,どうしてもやせることができなかった。今では自分の力だけではやせることは到底無理だと思うようになっている。  医師の発言として最も適切なのはどれか。

  1. a.「私はやせ薬の処方はしません」
  2. b.「薬でやせようなんてもってのほかです」
  3. c.「やせようという気持ちがあればやせられるはずです」
  4. d.「どういうことで今回やせたいと思うようになったのですか」
  5. e.「このまま肥満が続くと生活習慣病を発症するのは間違いありません」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肥満に悩む若い女性が「やせ薬」を求めて来院した場面で、医師の最初の一言を選ぶ問題だ。医学知識というより医療面接の姿勢が問われている。注目してほしいのは、幼い頃から何度も失敗して、自力では無理だと感じている患者さんの気持ちだよ。まず体格から確認しよう。BMIはどのくらいかな。
医学生医学生
72を1.56の2乗で割って、約29.6です。日本肥満学会の基準だと肥満1度ですね。
ドクタードクター
その通り。BMI 25以上が肥満で、35以上が高度肥満。この方はまだ高度肥満ではない。では、ここで医師はすぐに薬を出すべきだと思う?
医学生医学生
正直、本人が希望しているなら出してもいい気もしますが…まだ何も検査していないですよね。
ドクタードクター
そこが大事なポイント。この時点では、生活習慣による原発性肥満なのか、甲状腺機能低下症やCushing症候群、薬剤などによる二次性肥満なのかもわからない。高血圧や耐糖能異常、月経異常といった健康障害があるかも不明だ。だから最初の面接で薬を出すかどうかを決めることはできないんだ。
医学生医学生
かといって、断るのも違う気がします。
ドクタードクター
そう。選択肢の中には「私はやせ薬の処方はしません」というものがあるけれど、これは医師の方針を一方的に告げて患者さんを突き放す言い方だ。話も聞かずに拒否すれば、信頼関係が崩れて受診そのものをやめてしまうかもしれない。
医学生医学生
「薬でやせようなんてもってのほか」も同じく頭ごなしの否定ですね。
ドクタードクター
うん。しかも内容としても不正確なんだ。健康障害を伴う肥満症では、食事・運動・行動療法に上乗せする形で薬物療法が検討される場合もある。一律に否定するのは適切でない。
医学生医学生
「やせようという気持ちがあればやせられるはず」は、OSCEの医療面接の練習でも絶対NGと言われそうな精神論です。
ドクタードクター
まさに。この方はすでに努力して失敗を重ね、自信をなくしている。そこに精神論をぶつけると「やせられないのは意志が弱いから」と責めることになる。それに、もし二次性肥満なら原因疾患を治さない限り意志だけではやせられない。
医学生医学生
「このまま肥満が続くと生活習慣病を発症するのは間違いありません」は、リスクの説明としては正しいのでは?
ドクタードクター
肥満が生活習慣病のリスクを高めるのは事実だけど、「間違いなく発症する」と断定する根拠はない。医学的に不正確だし、やせたくて来た人の不安をあおるだけだ。リスクの説明は、状態を評価したうえで正確に、配慮をもって行うべきなんだ。
医学生医学生
そうすると、「どういうことで今回やせたいと思うようになったのですか」が正解ですね。開かれた質問です。
ドクタードクター
正解。開かれた質問で、なぜ今やせたいのか、何に困っているのかを本人の言葉で語ってもらう。容姿の悩みかもしれないし、就職や恋愛といった生活上のきっかけ、あるいは体調の変化かもしれない。それを知ることで共感的な関係が築けるし、治療への動機づけや二次性肥満・合併症の評価にもつながるんだ。
医学生医学生
要望を否定するのでも、そのまま受け入れるのでもなく、まず背景を理解する、ということですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、「肥満」と「肥満症」の違いも押さえておこう。肥満症とは、肥満に起因する健康障害を合併しているか、内臓脂肪型肥満である場合を指し、減量治療が必要な疾患として扱う。治療の基本は食事・運動・行動療法で、まずは現体重の3〜5%減を当面の目標にすることが多い。
医学生医学生
行動療法って、具体的にはどんなことをするんですか。
ドクタードクター
体重や食事を記録するセルフモニタリング、食べ方の工夫、達成可能な目標設定などだね。長く続けるには本人の動機が欠かせない。だからこそ、最初の面接で「なぜやせたいのか」を聞くことが、治療全体の土台になるんだ。
医学生医学生
内科の実習で、指導医の先生が患者さんの解釈モデルや期待を必ず聞いていた理由がよくわかりました。
ドクタードクター
いい気づきだね。医療面接の問題では、否定・説教・精神論・脅し・根拠のない断定を避け、開かれた質問で患者さんの思いを引き出す選択肢を選ぶ。これは試験だけでなく、明日からの診療でもそのまま役立つ考え方だよ。

まとめ

肥満を主訴に「やせ薬」を希望する患者に対しては、要望を頭ごなしに否定するのでも、すぐに受け入れるのでもなく、まず開かれた質問で受診動機や困りごとを本人の言葉で語ってもらうことが適切です。初診時には原発性肥満か二次性肥満(甲状腺機能低下症、Cushing症候群、薬剤性など)かも、合併する健康障害の有無もわからないため、薬物療法の是非はその後の評価で判断します。肥満はBMI 25以上で、健康障害を伴うか内臓脂肪型肥満であれば肥満症として治療対象となり、治療の基本は食事・運動・行動療法で、薬物療法は限られた場合に上乗せされます。否定・説教・精神論・脅し・断定を避け、共感的に話を聴く姿勢は、信頼関係を築き治療の動機づけを高める医療面接の基本であり、あらゆる診療場面に通じる大切なスキルです。

解答・解説

正解はdです

状況の整理

・19歳女性。身長156cm、体重72kgで、BMI(体格指数)は72÷(1.56×1.56)≒29.6である。日本肥満学会の基準(BMI 25以上)では肥満(1度、25以上30未満)にあたる。 ・幼児期から肥満が続いている。小学生時代に指導を受けたが改善せず、「自分の力だけでは到底やせられない」と無力感・あきらめを抱いている。 ・受診の目的は「やせ薬の処方」という具体的な要望である。

考え方

この時点では、肥満の原因が生活習慣による原発性(単純性)肥満か、内分泌疾患(甲状腺機能低下症、Cushing症候群など)・遺伝性疾患・薬剤などによる二次性(症候性)肥満かはわからない。また、肥満に伴う健康障害(耐糖能異常、脂質異常症、高血圧、月経異常など)の有無も不明である。したがって、薬を出すかどうかを最初の面接で決めることはできない。 まず必要なのは、医療面接の基本である開かれた質問(患者が自由に答えられる質問)を使うことである。それによって、患者がなぜ今やせたいと思ったのか、何に困っているのか、これまでどのような努力をしてきたのかを本人の言葉で語ってもらう。長年の失敗体験から自信をなくしている患者に対しては、否定や説教、脅しではなく、共感的な態度で受け止めることが重要である。そうすることで信頼関係が生まれ、今後の治療への動機づけにつながる。 本問は、要望を頭ごなしに否定するのでも、そのまま受け入れるのでもなく、まず患者の背景と受診動機を理解しようとする姿勢が問われている。

選択肢考察

  1. ×a.  「私はやせ薬の処方はしません」

    医師個人の方針を一方的に告げるだけで、患者を突き放す発言である。患者の悩みや受診の背景を聞かないまま要望を拒否しており、信頼関係を損ない、受診そのものをやめてしまうおそれがある。また、診察や検査をせずに治療方針を決めている点も不適切である。

  2. ×b.  「薬でやせようなんてもってのほかです」

    患者の希望を頭から否定し、非難するような言い方である。長年悩んでも自力ではやせられなかった患者のつらさを受け止めていない。高度肥満や健康障害を伴う肥満症では、食事・運動・行動療法に加えて薬物療法が選択肢となる場合もあるため、内容としても一律に否定するのは適切でない。

  3. ×c.  「やせようという気持ちがあればやせられるはずです」

    根拠のない精神論であり、問題の解決にならない。本人はすでに努力しても失敗を重ね、自信をなくしている。このような発言は、「やせられないのは意志が弱いからだ」と責めることになり、自己評価をさらに下げてしまう。また、二次性肥満であれば、原因疾患を治療しない限り意志だけではやせられない。

  4. ○d.  「どういうことで今回やせたいと思うようになったのですか」

    開かれた質問によって、今回の受診動機や背景を患者自身に語ってもらう発言である。例えば、容姿の悩み、就職・恋愛などの生活上のきっかけ、体調の変化などである。患者の思いや困りごとを理解することで、共感的な信頼関係を築ける。さらに、動機を治療への意欲につなげたり、二次性肥満や合併症の評価に必要な情報を得たりできる。最初の対応として最も適切である。

  5. ×e.  「このまま肥満が続くと生活習慣病を発症するのは間違いありません」

    肥満は生活習慣病のリスクを高めるが、必ず発症すると断定する根拠はなく、医学的に不正確である。また、やせたいと思って受診した患者を脅して不安をあおるだけで、患者の話を聞くという流れにも合わない。リスクの説明は、患者の状態を評価したうえで、正確かつ配慮をもって行うべきである。

肥満と肥満症(日本肥満学会)

・肥満:BMI 25以上。肥満1度(25以上30未満)、2度(30以上35未満)、3度(35以上40未満)、4度(40以上)に分類され、BMI 35以上を高度肥満とする。 ・肥満症:肥満に、肥満に起因または関連する健康障害を合併している場合、または健康障害を起こしやすい内臓脂肪型肥満(内臓脂肪面積100cm²以上)である場合をいい、減量治療が必要な疾患として扱う。関連する健康障害には、耐糖能異常、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症、冠動脈疾患、脳梗塞、非アルコール性脂肪性肝疾患、月経異常、睡眠時無呼吸症候群、運動器疾患などがある。

原発性肥満と二次性肥満

・原発性(単純性)肥満:過食や運動不足など生活習慣による肥満で、大部分を占める。 ・二次性(症候性)肥満:内分泌性(Cushing症候群、甲状腺機能低下症、視床下部性など)、遺伝性(Prader-Willi症候群など)、薬剤性(副腎皮質ステロイド、抗精神病薬など)がある。初診時には、これらを除外する必要がある。

肥満症の治療

治療の基本は、食事療法・運動療法・行動療法である。まずは現在の体重から3〜5%程度減らすことを当面の目標とすることが多い。薬物療法や外科療法(減量・代謝改善手術)は、高度肥満や重い健康障害を伴う場合などに限って、基本の治療に上乗せする形で検討される。行動療法には、体重や食事の記録(セルフモニタリング)、食べ方の工夫、目標設定などがある。患者の動機づけを高めることが、治療を続けるうえで重要となる。

医療面接の基本

・開かれた質問:「どうされましたか」「どういうことで〜と思ったのですか」など、自由に語ってもらう質問。面接の初めや、患者の考え・感情を知りたいときに適する。 ・閉じた質問:「はい/いいえ」や単語で答える質問。事実確認に用いる。 ・共感、受容、傾聴、要約・確認などの技法を使い、患者の解釈モデル(病気についての本人の考え)、期待、心配を把握する。 ・否定、説教、脅し、断定的な物言いは、信頼関係を損なうため避ける。

POINT

・医療面接で「最も適切な発言」を問われたら、まず患者の思いや受診動機を開かれた質問で聞き取る選択肢を選ぶ。 ・否定・説教・精神論・脅し・根拠のない断定は不適切である。 ・肥満はBMI 25以上。健康障害を合併するか、内臓脂肪型肥満であれば肥満症として治療対象になる。 ・肥満の診療では、二次性肥満の除外と合併症の評価が必要である。治療の基本は食事・運動・行動療法で、薬物療法は限られた場合に追加する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。