StudyMed医師国家試験

数字を一つずつ照らし合わせる―健診後の栄養指導で「減塩」が後回しになる理由

第103回医師国家試験 C問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第103回 C問題 第17問

47歳の男性。事務職員。健康診断後の保健指導のため社内診療室に来室した。身長165cm,体重70kg,腹囲88cm。脈拍68/分,整。血圧128/82mmHg。喫煙歴はない。飲酒はビール大瓶2本/日を27年間。尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液生化学所見:空腹時血糖105mg/dL,トリグリセリド150mg/dL,HDL-コレステロール40mg/dL,LDL-コレステロール145mg/dL(基準65~139),AST 35IU/L,ALT 20IU/L,γ-GTP 80IU/L(基準8~50)。心電図に異常を認めない。摂取エネルギー量2,800kcal/日,脂質摂取量120g/日,塩分摂取量7.5g/日,食物繊維摂取量10g/日。  栄養指導のうち必要性が低いのはどれか。

  1. a.減塩
  2. b.節酒
  3. c.低脂肪食
  4. d.野菜摂取の奨励
  5. e.摂取エネルギー量制限

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、健康診断後の保健指導で、どの栄養指導が必要かを判断する問題だ。問われているのは「必要性が低いもの」。体格、血圧、血糖、脂質、肝機能、そして食事内容の数字を、一つずつ基準と照らし合わせていくのがコツだよ。まずは体格から評価してみよう。
医学生医学生
BMIを計算すると約25.7なので、日本の基準では肥満1度ですね。腹囲も男性の基準の85cmを超えています。
ドクタードクター
その通り。内臓脂肪の蓄積が疑われる。では、メタボリックシンドロームの診断基準は満たすかな。
医学生医学生
腹囲が必須で、あとは脂質・血圧・血糖のうち2項目以上でしたよね。トリグリセリドが150なので脂質は該当、血圧と血糖は…ちょっと微妙です。
ドクタードクター
確認しよう。血圧は128/82で基準の130/85に届かず、空腹時血糖105も基準の110未満だ。つまり該当は脂質の1項目だけで、メタボリックシンドロームとしては予備群にとどまる。ただ、特定保健指導では空腹時血糖100以上をリスクとして扱うから、油断はできない。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、特定健診は40〜74歳が対象で、リスクの数で動機付け支援と積極的支援に分けると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。今回は社内診療室だから、労働安全衛生法に基づく一般健康診断の事後措置としての保健指導という位置づけだ。では本題の食事内容に移ろう。まずエネルギー量はどうかな。
医学生医学生
2,800kcalは多い気がしますが、正直どれくらいが適量なのか自信がないです。
ドクタードクター
事務職のように身体活動の少ない40歳代男性なら、推定エネルギー必要量はおよそ2,300kcal前後。2,800kcalはそれを大きく超えていて、肥満の原因と考えられる。減量を目指すなら、標準体重約60kgに25〜30kcal/kgを掛けた1,500〜1,800kcal程度を目安にすることが多い。だからエネルギー制限は必要だ。
医学生医学生
脂質120gはどう評価すればいいでしょう。
ドクタードクター
脂質は1gで9kcalだから、120gで約1,080kcal。総エネルギーの約4割にあたり、目標の20〜30%を大きく超えている。LDLコレステロールもトリグリセリドも高いから、特に飽和脂肪酸を減らす低脂肪食の指導が必要だ。
医学生医学生
お酒もかなり飲んでいますよね。γ-GTPだけが上がっているのは、アルコールの影響でしょうか。
ドクタードクター
その読みで合っている。ビール大瓶1本は純アルコール約25gだから、2本で約50g。節度ある適度な飲酒とされる1日平均約20gの倍以上で、生活習慣病のリスクを高める男性の目安40gも超えている。AST・ALTがほぼ正常でγ-GTPが単独で上がっているのは、アルコールの影響を強く示唆する。さらにアルコールは中性脂肪を上げるし、大瓶2本で約500kcalにもなる。節酒は欠かせないね。
医学生医学生
食物繊維10gは少ないですか。
ドクタードクター
成人男性の目標量はおおむね1日20g以上だから、半分しかない。食物繊維はコレステロールや糖の吸収を穏やかにし、満腹感も得やすくするので、脂質異常症・耐糖能異常・肥満の改善に役立つ。野菜や海藻、きのこ類の摂取をすすめる必要がある。
医学生医学生
残るのは減塩ですね。でも日本人は塩分を摂りすぎていると言われるので、減塩はとりあえず誰にでも勧めるものだと思っていました。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だ。この人の食塩摂取量は7.5gで、日本人男性の平均の10g前後よりかなり少ない。出題当時の目標量は男性10g未満で、それを十分満たしていた。現行の食事摂取基準では男性の目標量が7.5g未満とより厳しくなっているけれど、それでもほぼ目標水準だ。しかも血圧は正常範囲。ほかの問題点と比べると、減塩の必要性が最も低いことになる。
医学生医学生
なるほど。減塩が悪いわけではなく、優先順位の問題なんですね。
ドクタードクター
その通り。保健指導では、あれもこれもと一度に求めると続かないことが多い。基準から外れている項目を見極めて、優先度の高いものから取り組んでもらうのが現実的なんだ。
医学生医学生
この人の場合は、エネルギー過剰・脂質過剰・多量飲酒・食物繊維不足の4つが標的ということですね。臨床実習の外来でも、管理栄養士さんが食事記録を見ながら一つずつ確認していました。
ドクタードクター
まさにそういう作業だ。発展として、脂質異常症の食事療法の要点も押さえておこう。適正なエネルギー摂取で体重を減らし、飽和脂肪酸・コレステロール・トランス脂肪酸を控え、魚のn-3系脂肪酸や大豆製品、食物繊維を増やす。高トリグリセリド血症では、特に節酒と菓子や果糖入り飲料などの糖質制限が効果的だ。
医学生医学生
高血圧や慢性腎臓病がある人なら、食塩はもっと厳しく6g未満を目指すんでしたよね。
ドクタードクター
よく知っているね。つまり減塩の優先度も、その人の病態によって変わる。数字を基準と照らし合わせ、その人にとって何が一番の課題かを考えることが、栄養指導の基本姿勢だよ。

まとめ

健診後の栄養指導では、BMI・腹囲・血圧・血糖・脂質・肝機能と、エネルギー・脂質・食塩・食物繊維・飲酒量を一つずつ基準と照らし合わせて優先順位を付けることが重要です。本例は腹囲と脂質の1項目のみ該当するメタボリックシンドローム予備群で、エネルギー過剰、脂肪エネルギー比率約4割の脂質過剰、純アルコール約50g/日の多量飲酒とγ-GTP上昇、食物繊維不足が是正すべき課題です。一方、血圧は正常で食塩摂取量も7.5g/日とすでに目標水準に近いため、減塩の必要性は相対的に低くなります。メタボリックシンドロームの診断基準や食事摂取基準の目安、純アルコール量の計算法は、保健指導や生活習慣病診療の場で繰り返し使う知識です。一律の指導ではなく、個々のデータから課題を見極める姿勢が、実効性のある生活習慣改善につながります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・体格:BMI(体格指数)=70÷(1.65×1.65)≒25.7で、日本の基準(BMI 25以上)では肥満(1度)にあたる。腹囲88cmは男性の基準85cm以上を満たし、内臓脂肪蓄積が疑われる。 ・血圧128/82mmHg:正常範囲であり、メタボリックシンドローム基準(130/85mmHg以上)にも届かない。 ・空腹時血糖105mg/dL:メタボリックシンドロームの基準(110mg/dL以上)は満たさないが、100mg/dL以上であり特定保健指導上はリスクとして扱われる。 ・脂質:トリグリセリド(中性脂肪)150mg/dLは基準の150mg/dL以上に該当する。HDL-コレステロール40mg/dLは低HDL基準(40mg/dL未満)の境界、LDL-コレステロール145mg/dLは基準上限を超えている。 ・飲酒:ビール大瓶(約633mL)2本/日は、純アルコールに換算するとおよそ50g/日に相当し、「節度ある適度な飲酒」とされる1日平均約20gを大きく上回る。γ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)80IU/Lの上昇は、アルコールの影響を強く示唆する。 ・食事:摂取エネルギー2,800kcal/日は、座位中心の仕事の中年男性としては過剰である。脂質120g/日は約1,080kcalで、総エネルギーの約39%を占め、目標とされる20〜30%を大きく上回る。食塩7.5g/日は日本人の平均(男性で10g前後)より少なく、目標量の水準にほぼ達している。食物繊維10g/日は目標量(成人男性で1日20g程度以上)の約半分しかない。

判断のプロセス

本例は、腹囲が基準以上で、脂質(トリグリセリド)の項目を1つ満たすが、血圧・血糖は基準に達しないため、メタボリックシンドロームの診断基準(腹囲に加え、脂質・血圧・血糖のうち2項目以上)は満たさず、その予備群と位置づけられる。問題点は「エネルギー過剰による肥満」「脂質の過剰摂取と脂質異常」「多量飲酒とγ-GTP上昇」「食物繊維不足」であり、これらを是正する栄養指導が必要となる。

設問の考え方

「必要性が低い」ものを選ぶ問題である。血圧が正常で、食塩摂取量もすでに少なめに抑えられている本例では、他の問題点に比べて減塩の優先度は低い。栄養指導は、数値の中で基準から外れている項目を一つずつ確認し、優先度を付けて行うことが大切である。

選択肢考察

  1. ○a.  減塩

    血圧は128/82mmHgと正常範囲であり、食塩摂取量も7.5g/日と日本人の平均を下回っている。本問出題当時の食事摂取基準の目標量(成人男性10g/日未満)を十分に満たしていた。現行の食事摂取基準では、成人男性の目標量は7.5g/日未満とさらに厳しくなっているが、それでもほぼ目標水準にある。ほかの選択肢と比べて、減塩を指導する必要性は最も低い。

  2. ×b.  節酒

    ビール大瓶2本/日(純アルコール約50g/日)を27年間続けており、多量飲酒にあたる。AST・ALTはほぼ正常だがγ-GTPが上昇しており、アルコールによる肝への影響が考えられる。また、アルコールは中性脂肪を上げる要因となる。さらに、ビール大瓶2本で約500kcalになり、エネルギー過剰の一因でもある。節酒の指導は必要である。

  3. ×c.  低脂肪食

    脂質120g/日(1g=9kcalとして約1,080kcal)は総エネルギーの約4割に相当し、目標とされる脂肪エネルギー比率(20〜30%)を大きく超えている。適正なエネルギー量で換算すると、脂質はおおむね50〜70g/日程度が目安となる。高LDLコレステロール血症と高トリグリセリド血症があり、肥満もあるため、脂質、特に飽和脂肪酸を減らす低脂肪食の指導が必要である。

  4. ×d.  野菜摂取の奨励

    食物繊維の目標量は成人男性でおおむね1日20g以上であり、10g/日はその半分程度しかなく明らかに不足している。食物繊維には、腸管からのコレステロールや糖の吸収を穏やかにする作用や、満腹感を得やすくする作用がある。そのため、脂質異常症・耐糖能異常・肥満の改善に役立つ。野菜・海藻・きのこ類などの摂取をすすめる必要がある。

  5. ×e.  摂取エネルギー量制限

    事務職のような身体活動レベルの低い30〜40歳代男性の推定エネルギー必要量は、おおよそ2,300kcal/日前後である。2,800kcal/日はこれを大きく上回り、BMI 25.7・腹囲88cmの肥満の原因になっていると考えられる。肥満者の減量では、標準体重(22×1.65²≒60kg)に25〜30kcal/kgを掛けた量(約1,500〜1,800kcal/日)を目安にエネルギーを制限することが多い。エネルギー制限の指導は必要である。

メタボリックシンドロームの診断基準(日本)

必須項目:腹囲(臍の高さ)男性85cm以上、女性90cm以上(内臓脂肪面積100cm²以上に相当) これに加えて、以下の3項目のうち2項目以上を満たすもの。 ・脂質:トリグリセリド150mg/dL以上、かつ/またはHDL-コレステロール40mg/dL未満 ・血圧:収縮期130mmHg以上、かつ/または拡張期85mmHg以上 ・血糖:空腹時血糖110mg/dL以上 本例は腹囲と脂質(トリグリセリド150mg/dL)の1項目のみ該当するため、予備群にとどまる。

特定健康診査・特定保健指導

「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、2008年度から40〜74歳の医療保険加入者を対象に、医療保険者が実施している。腹囲やBMIで内臓脂肪蓄積を判定する。そのうえで、血糖(空腹時100mg/dL以上など)、脂質、血圧、喫煙歴といった追加リスクの数に応じて、「動機付け支援」または「積極的支援」に階層化する。事業者による一般健康診断は「労働安全衛生法」第66条に基づく義務であり、健診後の事後措置として保健指導や就業上の配慮を行う。

食事摂取基準のおおまかな目安(成人男性)

・エネルギー:身体活動レベルに応じた推定エネルギー必要量(身体活動の少ない30〜49歳男性で約2,300kcal/日)。肥満者では減量を目的に、これより少ない量に設定する。 ・脂質:総エネルギーの20〜30% ・食塩:目標量7.5g/日未満(高血圧・慢性腎臓病の重症化予防には6g/日未満) ・食物繊維:目標量 約20g/日以上 ・アルコール:「節度ある適度な飲酒」は純アルコールで1日平均約20g程度。生活習慣病のリスクを高める飲酒量は、男性で1日40g以上とされる。 純アルコール量(g)は、飲酒量(mL)×アルコール度数(%)÷100×0.8(アルコールの比重)で求める。ビール大瓶1本(633mL、5%)は約25gに相当する。

脂質異常症の食事療法の要点

・適正なエネルギー摂取で体重を減らす。 ・飽和脂肪酸・コレステロール・トランス脂肪酸を減らす。 ・魚(n-3系多価不飽和脂肪酸)、大豆製品、野菜・海藻などの食物繊維を増やす。 ・高トリグリセリド血症では、特に節酒と、糖質(菓子・果糖入り飲料など)の制限が重要である。

POINT

・栄養指導の問題では、BMI・腹囲・脂質・血糖・血圧・肝機能の各数値と摂取量を一つずつ基準と照らし合わせる。 ・本例の問題点はエネルギー過剰、脂質過剰、多量飲酒(γ-GTP上昇)、食物繊維不足である。血圧は正常で、食塩摂取量も少なめである。 ・メタボリックシンドロームは、腹囲(男85cm・女90cm以上)が必須で、さらに脂質・血圧・血糖のうち2項目以上を満たすもの。 ・脂肪エネルギー比率の目標は20〜30%。食物繊維の目標量は成人で約20g/日以上。 ・γ-GTPの単独上昇はアルコール摂取を示唆する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。