長引く咽頭痛と異型リンパ球―扁桃の白苔が教える伝染性単核球症
第103回医師国家試験 C問題 第16問
国試問題にチャレンジ
17歳の男子。10日前からの発熱,咽頭痛および倦怠感を主訴に来院した。鼻汁,鼻閉および咳嗽はない。両側後頸部リンパ節腫脹と脾腫とを認める。皮疹はみられない。血液検査で白血球12,400,異型リンパ球78%。 口腔内にみられるのはどれか。
- a.後鼻漏
- b.イチゴ舌
- c.Koplik斑
- d.扁桃白苔
- e.咽頭後壁の敷石像
対話形式の解説
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ドクターまとめ
思春期以降の長引く発熱と咽頭痛に、後頸部リンパ節腫脹・脾腫・異型リンパ球の著増が加われば、EBウイルス初感染による伝染性単核球症を考えます。口腔内では腫大した扁桃に白苔がみられますが、溶連菌やアデノウイルスの扁桃炎とも似ているため、全身所見と血液所見を合わせて判断し、VCA-IgM抗体陽性やEBNA抗体陰性で初感染を確認します。イチゴ舌は猩紅熱・川崎病、Koplik斑は麻疹、咽頭後壁の敷石像はアデノウイルス感染症、後鼻漏は副鼻腔炎と、所見と疾患の対応を整理しておくことが鑑別の助けになります。治療は対症療法が基本で、アンピシリンやアモキシシリンによる皮疹、脾腫に伴う脾破裂のリスクには特に注意が必要です。日常診療でよく出会う咽頭炎の中からこの疾患を見抜けるかどうかが、不要な抗菌薬投与や合併症を防ぐことにつながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・17歳の男子(思春期〜青年期) ・10日前からの発熱、咽頭痛、倦怠感:数日で急峻に悪化する細菌性咽頭炎よりも、1週間以上続く経過の長いウイルス感染症を考えさせる。 ・鼻汁、鼻閉、咳嗽がない:いわゆる感冒(上気道炎)のようなカタル症状が乏しい。 ・両側後頸部リンパ節腫脹:前頸部だけでなく後頸部のリンパ節が両側性に腫れるのは、Epstein-Barr(EB)ウイルスによる伝染性単核球症の特徴的所見である。 ・脾腫:伝染性単核球症の半数程度にみられ、肝腫大や肝機能障害を伴うことも多い。 ・皮疹なし:麻疹や風疹など、発疹が主体のウイルス感染症は考えにくい。 ・白血球12,400/μLと軽度増多、異型リンパ球78%:異型リンパ球(活性化した細胞傷害性T細胞が主体)の著明な増加は伝染性単核球症を強く示唆する。
診断へのプロセス
発熱・咽頭扁桃炎・頸部リンパ節腫脹・肝脾腫・異型リンパ球増多がそろっており、EBウイルス初感染による伝染性単核球症(infectious mononucleosis:IM)と診断できる、非常に典型的な症例である。鑑別として、同様に異型リンパ球が増えるサイトメガロウイルス(CMV)感染症(一般に咽頭炎やリンパ節腫脹が軽い)、急性HIV感染症、A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による咽頭炎、急性白血病(異型リンパ球と芽球の見誤りに注意)などが挙がる。確定にはEBウイルス抗体(VCA-IgM抗体陽性、EBNA抗体陰性など)で初感染を証明する。
設問の考え方
伝染性単核球症の主要症状の一つは咽頭扁桃炎であり、口腔内では扁桃の腫大と白色〜灰白色の偽膜様の付着物(白苔)がみられる。ほかの選択肢は、それぞれ別の疾患(副鼻腔炎、猩紅熱・川崎病、麻疹、アデノウイルス感染症など)の特徴的所見であり、疾患と口腔・咽頭所見の対応を整理しておくことが求められる。
選択肢考察
- ×a. 後鼻漏
後鼻漏は、鼻腔や副鼻腔でつくられた分泌物が咽頭側へ流れ落ちる状態で、主に副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などの鼻・副鼻腔疾患でみられ、慢性咳嗽の原因にもなる。本例は鼻汁・鼻閉・咳嗽がなく、鼻・副鼻腔の炎症を示す所見がないため該当しない。
- ×b. イチゴ舌
イチゴ舌は、舌乳頭が腫大して赤く隆起し、イチゴの表面のように見える所見である。溶連菌感染症(猩紅熱)、川崎病、毒素性ショック症候群などで知られる。伝染性単核球症の特徴的所見ではない。
- ×c. Koplik斑
Koplik斑は、麻疹のカタル期の終わり頃、発疹が出る直前に臼歯に対向する頬粘膜に現れる、赤い縁取りを伴う小さな白色斑である。カタル期後にいったん熱が下がり、再び高熱とともに発疹が出現する時期の前後にみられ、麻疹の早期診断に役立つ。本例は鼻汁・咳嗽などのカタル症状も皮疹もなく、麻疹とは合わない。
- ○d. 扁桃白苔
伝染性単核球症では、ほぼ必発に近い頻度で咽頭扁桃炎が起こり、腫大した扁桃に白色〜灰白色の偽膜様の白苔が付着する。この所見は溶連菌性扁桃炎やアデノウイルス感染症の扁桃炎と外見上よく似ており、見た目だけでは区別しにくい。したがって、扁桃白苔がある場合でも、後頸部リンパ節腫脹・肝脾腫・異型リンパ球増多などの全身所見と合わせて判断することが重要である。
- ×e. 咽頭後壁の敷石像
咽頭後壁のリンパ濾胞が腫れて、石畳(敷石)を並べたように見える所見である。主にアデノウイルス感染症(咽頭結膜熱など)でみられる。慢性咽頭炎でもみられる。伝染性単核球症を特徴づける口腔内所見としては扁桃白苔が適切である。
伝染性単核球症の概要
・病原体:EBウイルス(ヒトヘルペスウイルス4型)の初感染が大部分である。唾液を介してうつるため「kissing disease」とも呼ばれる。乳幼児期の初感染は無症状または軽症で済むことが多く、思春期以降に初感染すると典型的な症状が出やすい。 ・潜伏期:約4〜6週間と長い。明らかな季節性はない。 ・主要症状:発熱(1〜2週間以上続くことも多い)、咽頭扁桃炎(扁桃白苔)、頸部リンパ節腫脹(特に後頸部)、肝脾腫。その他、眼瞼浮腫、口蓋の点状出血などがみられることがある。 ・検査:白血球増多、リンパ球増多(リンパ球50%以上)、異型リンパ球増多(10%以上)、AST・ALTの上昇。 ・血清診断:VCA-IgM抗体陽性、またはVCA-IgG抗体陽性かつEBNA抗体陰性であれば初感染を示す。EBNA抗体は回復期以降に遅れて陽性化する。乳幼児ではIgM抗体が陽性になりにくいことがあり、複数の抗体や時期を変えた検査を要することがある。
治療と注意点
・基本は安静・解熱鎮痛薬などの対症療法である。 ・アンピシリンやアモキシシリンを投与すると高率に全身性の皮疹が出るため、溶連菌感染症と誤って投与しないよう注意する。 ・脾腫があるときは脾破裂の危険があるため、数週間はコンタクトスポーツなど激しい運動を控えさせる。 ・扁桃腫大による上気道閉塞、血球貪食症候群などの合併症に注意する。
口腔・咽頭所見と疾患の対応
・扁桃白苔:伝染性単核球症、溶連菌性扁桃炎、アデノウイルス感染症 ・イチゴ舌:溶連菌感染症(猩紅熱)、川崎病、毒素性ショック症候群 ・Koplik斑:麻疹 ・咽頭後壁のリンパ濾胞腫脹(敷石像):アデノウイルス感染症 ・軟口蓋の小水疱・潰瘍:ヘルパンギーナ(コクサッキーウイルスA群など) ・後鼻漏:副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎
EBウイルス関連のその他の疾患
慢性活動性EBウイルス感染症、EBウイルス関連血球貪食症候群、移植後リンパ増殖性疾患、Burkittリンパ腫、上咽頭癌などがある。
POINT
・発熱+咽頭扁桃炎(扁桃白苔)+後頸部リンパ節腫脹+肝脾腫+異型リンパ球増多 → 伝染性単核球症(EBウイルス初感染)。 ・扁桃白苔は溶連菌・アデノウイルスでもみられ、見た目だけでは鑑別できない。全身所見と血液所見で見分ける。 ・伝染性単核球症にアンピシリン・アモキシシリンを投与すると皮疹が出やすいため禁忌とされる。 ・イチゴ舌=猩紅熱・川崎病、Koplik斑=麻疹、咽頭後壁の敷石像=アデノウイルス、後鼻漏=副鼻腔炎。
