StudyMed医師国家試験

脂質は「燃やされる」か「溜まる」か―高トリグリセリド血症の原因を機序で見抜く

第116回医師国家試験 F問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第5問

トリグリセリド高値の原因とならないのはどれか。

  1. a.先端巨大症
  2. b.内臓脂肪蓄積
  3. c.アルコール多飲
  4. d.甲状腺機能亢進症
  5. e.インスリン抵抗性増加

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血中トリグリセリド(TG)が高くなる二次性の原因を問う問題だ。「原因とならないもの」を選ぶ形式だから、TGが上がる仕組みを押さえて、一つずつ当てはめていこう。まず、TGは血中でどんな形で運ばれているかな。
医学生医学生
水に溶けないので、リポ蛋白に包まれています。食事由来はカイロミクロン、肝臓で作られたものはVLDLでしたよね。
ドクタードクター
その通り。どちらも毛細血管内皮のリポ蛋白リパーゼ(LPL)で分解され、脂肪酸が筋肉や脂肪組織に取り込まれる。だからTGが上がる機序は大きく2つ。肝臓でのVLDL産生が増えるか、LPLの働きが落ちて分解が滞るか、だ。
医学生医学生
産生の増加と除去の低下ですね。生化学の講義で、脂質代謝の図をひたすら書かされたのを思い出します。
ドクタードクター
その図がここで生きてくるよ。まずインスリン抵抗性から考えよう。インスリンにはどんな作用があったかな。
医学生医学生
LPLを活性化して、脂肪組織での脂肪分解は抑える作用です。だから抵抗性があると、LPLが働かず、脂肪分解も止まらない……。
ドクタードクター
そう。分解が滞るうえに、脂肪組織から遊離脂肪酸が大量に肝臓へ流れてVLDLが増える。2つの機序が同時に働くわけだ。内臓脂肪の蓄積も同じ流れで、内臓脂肪から出た遊離脂肪酸が門脈を通って直接肝臓に入るうえ、アディポネクチンの低下などでインスリン抵抗性も生じる。
医学生医学生
メタボリックシンドロームでTG高値と低HDLが並ぶのはそのためなんですね。アルコールはどうでしょう。
ドクタードクター
肝臓でアルコールが代謝されるとNADHが大量にできて、脂肪酸のβ酸化が抑えられ、逆に脂肪酸とTGの合成が進む。結果としてVLDL分泌が増え、脂肪肝も起こる。
医学生医学生
消化器内科の実習で、高TG血症から急性膵炎を起こした患者さんに禁酒指導をしていました。
ドクタードクター
TGが著明に高いと急性膵炎のリスクが上がるから、節酒・禁酒はとても大事な指導だ。では先端巨大症はどうかな。少し迷うところだと思う。
医学生医学生
成長ホルモンって、脂肪を分解する方向に働くイメージなので、むしろTGは下がりそうな気がします。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。GHは確かに脂肪分解を促すけれど、出てきた遊離脂肪酸は肝臓に運ばれてVLDLの材料になる。さらにGHには抗インスリン作用があるから、インスリン抵抗性を通じてLPL活性も下がる。だから先端巨大症は二次性脂質異常症の原因になるんだ。
医学生医学生
脂肪分解が進んでも、その先で肝臓に材料を供給してしまうんですね。そうすると甲状腺機能亢進症も同じように上がりそうですが……。
ドクタードクター
そこが違うんだ。甲状腺ホルモンは全身の代謝を高め、LPL活性も高めて、TGを含むリポ蛋白の分解・除去を進める。肝臓のLDL受容体も増やす。つまり脂質はエネルギー源としてどんどん燃やされて、コレステロールもTGもむしろ低めになる傾向がある。だから正解は甲状腺機能亢進症だ。
医学生医学生
作られる以上に処理されてしまう、ということですね。逆に機能低下症ではLDL受容体やLPLが減って、脂質が上がるんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。原因不明の脂質異常症をみたら甲状腺機能低下症を除外する、というのは臨床でも基本だ。ほかにも二次性高TG血症の原因として、Cushing症候群、ネフローゼ症候群、ステロイドやエストロゲン製剤、サイアザイド系利尿薬などの薬剤、妊娠を押さえておこう。
医学生医学生
診断基準は空腹時150 mg/dL以上でしたよね。
ドクタードクター
そう、10時間以上の絶食後で150 mg/dL以上。最近のガイドラインでは、随時採血なら175 mg/dL以上という基準も加わった。TGは食事や飲酒の影響を強く受けるから、原則は空腹時で評価するよ。
医学生医学生
TGが上がる2つの機序を軸にすれば、甲状腺だけ逆向きだとすぐわかりますね。

まとめ

血中トリグリセリドは、肝臓でのVLDL産生増加か、リポ蛋白リパーゼ(LPL)活性低下による分解の遅れによって上昇します。インスリン抵抗性や内臓脂肪蓄積は両方の機序でTGを上げ、アルコール多飲はNADH増加による肝での脂肪酸・TG合成促進で、先端巨大症はGHによる遊離脂肪酸の肝流入増加と抗インスリン作用でTGを上昇させます。一方、甲状腺機能亢進症では代謝亢進とLPL活性上昇により脂質が盛んに消費され、TGやコレステロールはむしろ低下傾向となり、機能低下症では逆に上昇します。高TG血症は空腹時150 mg/dL以上(随時175 mg/dL以上)で、著明高値では急性膵炎のリスクにも注意が必要です。TGの「産生」と「除去」の2軸で二次性の原因を整理する考え方は、脂質異常症の診療で背景疾患を見逃さないための基本となります。

解答・解説

正解はdです

テーマ

トリグリセリド(TG:中性脂肪)は、グリセロールに3分子の脂肪酸が結合した脂質で、エネルギーの貯蔵と運搬を担う。血中では水に溶けないため、リポ蛋白に包まれて運ばれる。 ・食事由来(外因性)のTG:小腸で吸収され、カイロミクロンとしてリンパ管・胸管を経て血中に入る。 ・肝臓で合成される(内因性)TG:VLDL(超低比重リポ蛋白)として血中に分泌される。 いずれも毛細血管内皮にあるリポ蛋白リパーゼ(LPL)によって分解され、遊離した脂肪酸が筋肉や脂肪組織に取り込まれる。

TGが高くなる仕組み

血中TGが上がる機序は大きく二つに分けられる。 1. 産生の増加:肝臓に流れ込む遊離脂肪酸が増える、あるいは肝臓での脂肪酸合成が促進されると、VLDLの産生・分泌が増える。 2. 分解・除去の低下:LPLの活性が低下すると、カイロミクロンやVLDLの中のTGが分解されにくくなり、血中に停滞する。

解き方

各選択肢がこのどちらかの機序でTGを上昇させるかを考える。先端巨大症、内臓脂肪蓄積、アルコール多飲、インスリン抵抗性はいずれも二次性高TG血症の原因となる。一方、甲状腺機能亢進症では代謝が亢進し、脂質の分解・利用が進むため、血中の脂質はむしろ低下する方向に働く。したがって、TG高値の原因とならないのは甲状腺機能亢進症である。

選択肢考察

  1. ×a.  先端巨大症

    先端巨大症は、主に下垂体腺腫からの成長ホルモン(GH)の過剰分泌によって起こる。GHには脂肪組織での脂肪分解を促す作用があり、血中に放出された遊離脂肪酸が肝臓に運ばれてVLDLの材料となるため、TGが上昇する。さらに、GHはインスリンの作用に拮抗するため(抗インスリン作用)、インスリン抵抗性や耐糖能異常を招き、LPL活性の低下を通じてもTGを上げる。先端巨大症は二次性脂質異常症の原因の一つである。

  2. ×b.  内臓脂肪蓄積

    腹腔内の内臓脂肪は脂肪分解が活発で、そこから放出された遊離脂肪酸は門脈を通って直接肝臓に流れ込み、VLDLの産生を増やす。また、肥大した内臓脂肪細胞からは、インスリン感受性を高めるアディポネクチンの分泌が低下し、炎症性サイトカイン(TNF-αなど)の分泌が増えるため、インスリン抵抗性が生じてLPL活性も低下する。こうした機序でTGが上昇し、HDLコレステロールは低下する。内臓脂肪蓄積を基盤に、高TG血症や低HDL血症などが重なった状態がメタボリックシンドロームである。

  3. ×c.  アルコール多飲

    肝臓でアルコールが代謝される過程で、NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が大量に生じる。これにより脂肪酸の分解(β酸化)が抑えられ、脂肪酸とTGの合成が促進されるため、肝臓からのVLDL分泌が増え、血中TGが上昇する。同じ機序で脂肪肝(アルコール性脂肪肝)も起こる。高度の高TG血症は急性膵炎の原因にもなるため、高TG血症の患者には節酒・禁酒が重要な生活指導となる。

  4. ○d.  甲状腺機能亢進症

    甲状腺ホルモンは全身の代謝を高め、脂肪分解を促すとともに、LPL活性を高めてTGを含むリポ蛋白の分解・除去を進める。また、肝臓のLDL受容体を増やしてLDLコレステロールの取り込みを促す。このため甲状腺機能亢進症(Basedow病など)では、血中の脂質はエネルギー源として盛んに消費され、総コレステロールやTGはむしろ低値となる傾向がある。よってTG高値の原因とはならない。対照的に、甲状腺機能低下症(橋本病など)ではLDL受容体の減少やLPL活性の低下により、コレステロールやTGが上昇する。

  5. ×e.  インスリン抵抗性増加

    インスリンにはLPLの活性を高める作用と、脂肪組織での脂肪分解(ホルモン感受性リパーゼの働き)を抑える作用がある。インスリン抵抗性が生じると、LPL活性が低下してTGの分解が滞るとともに、脂肪分解が抑えられずに遊離脂肪酸が肝臓へ大量に流入し、VLDL産生が増える。この二つの機序が重なってTGが上昇する。2型糖尿病やメタボリックシンドロームで高TG血症と低HDL血症がよくみられるのはこのためである。

高トリグリセリド血症の診断基準

日本動脈硬化学会のガイドラインでは、空腹時(10時間以上の絶食)採血でTG 150 mg/dL以上を高TG血症とする。近年の改訂で、随時(非空腹時)採血では175 mg/dL以上を高TG血症とする基準も加えられた。TGは食事や飲酒の影響を強く受けるため、評価は原則として空腹時採血で行う。

二次性高TG血症の主な原因

・生活習慣:過食、肥満(特に内臓脂肪型)、アルコール多飲、運動不足 ・内分泌・代謝疾患:糖尿病(インスリン抵抗性・インスリン作用不足)、甲状腺機能低下症、Cushing症候群、先端巨大症 ・腎疾患:ネフローゼ症候群、慢性腎臓病 ・肝・胆道疾患:脂肪肝、閉塞性黄疸 ・薬剤:副腎皮質ステロイド、エストロゲン製剤、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬、レチノイド、一部の抗精神病薬や抗HIV薬など ・その他:妊娠

TGが低値となる主な病態

・甲状腺機能亢進症、Addison病、下垂体機能低下症 ・肝硬変などの重症肝障害(合成能の低下) ・吸収不良症候群、低栄養、悪液質 ・先天性:無βリポ蛋白血症など

臨床的な意義

・高TG血症は、レムナントリポ蛋白(カイロミクロンやVLDLの分解途中の粒子)や小型で高密度のLDLの増加を伴いやすく、動脈硬化のリスク因子となる。 ・TGが著明に高い場合(おおむね1,000 mg/dL以上)は急性膵炎のリスクが高まる。

POINT

・TGを上げる二大機序は「肝でのVLDL産生増加」と「LPL活性低下による分解低下」である。 ・二次性高TG血症の原因:肥満(内臓脂肪蓄積)、アルコール多飲、糖尿病・インスリン抵抗性、甲状腺機能低下症、Cushing症候群、先端巨大症、ネフローゼ症候群、ステロイドなどの薬剤。 ・甲状腺機能亢進症では代謝亢進によりコレステロール・TGは低下傾向となり、機能低下症では上昇する(対比で覚える)。 ・高TG血症の基準は空腹時150 mg/dL以上(随時175 mg/dL以上)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。