静脈路が取れない!―気管チューブから入れてよい薬、いけない薬
第103回医師国家試験 B問題 第33問
国試問題にチャレンジ
気管内投与できるのはどれか。2つ選べ。
- a.ジゴキシン
- b.リドカイン
- c.アドレナリン
- d.塩化カルシウム
- e.重炭酸ナトリウム
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
心肺停止で静脈路が確保できず気管挿管されている場合、気管チューブから薬剤を注入し肺胞・気道粘膜から吸収させる気管内投与が可能で、代表的な薬剤はリドカイン、アドレナリン(エピネフリン)、アトロピン、ナロキソンの「LEAN」です。投与時は吸収が不安定なため静注量の2〜2.5倍を5〜10mL程度に希釈して注入し、陽圧換気で行き渡らせます。塩化カルシウムや重炭酸ナトリウムは組織傷害性が強く、ジゴキシンは治療域が狭く蘇生薬でもないため、気管内投与は行いません。現行ガイドラインでは静脈路が困難なら骨髄路を優先し、気管内投与は最後の手段とされています。「吸収されて効くか」「組織を傷つけないか」という視点で投与経路を考える習慣は、救急の現場で安全に薬を使う基礎になります。
解答・解説
正解はb, cです
気管内投与とは
心肺停止などの緊急時、薬剤は本来、末梢静脈路から投与する。しかし静脈路がどうしても確保できず、すでに気管挿管がなされている場合には、気管チューブを通して薬剤を気管・気管支内に注入し、肺胞や気道粘膜の毛細血管から吸収させる方法がある。これを気管内投与という。
気管内投与できる薬剤の条件
気道粘膜から吸収されて効果を示すこと、そして気道・肺組織を傷害しないことが条件である。代表的な薬剤は、リドカイン(Lidocaine)、アドレナリン(Epinephrine)、アトロピン(Atropine)、ナロキソン(Naloxone)の4つで、英語の頭文字から「LEAN」と覚えることが多い(かつてはバソプレシンを加えて「NAVEL」とも覚えた)。
投与方法
気管内からの吸収は静脈内投与より少なく不安定であるため、静脈内投与量のおよそ2〜2.5倍量を用い、生理食塩水または蒸留水で5〜10mL程度に希釈して、気管チューブ内(またはチューブ先端より深部に届くカテーテル)から注入する。注入後は数回の陽圧換気を行って薬剤を末梢気道へ行き渡らせる。 本問では、選択肢のうちリドカインとアドレナリンが気管内投与可能な薬剤に該当する。
選択肢考察
- ×a. ジゴキシン
気管内投与は行わない。ジゴキシンはNa+/K+-ATPaseを阻害して心筋収縮力を高め、房室伝導を抑制するジギタリス製剤で、心不全や心房細動の心拍数調節に用いられる。投与経路は内服または静脈内投与であり、治療域が狭く血中濃度の管理が必要な薬剤でもあるため、吸収量が不安定な気管内投与には適さない。また心肺蘇生の場面で使う薬剤でもない。
- ○b. リドカイン
気管内投与が可能である。リドカインは局所麻酔薬であると同時に、Naチャネルを遮断するクラスIb群の抗不整脈薬であり、電気的除細動に反応しない心室細動・無脈性心室頻拍などに用いられる。気道粘膜から速やかに吸収され、組織傷害性も問題にならないため、静脈路が確保できないときは気管チューブから投与できる。
- ○c. アドレナリン
気管内投与が可能である。アドレナリンはα・β受容体を刺激するカテコールアミンで、心肺蘇生ではα1作用による末梢血管収縮で拡張期大動脈圧を上げ、冠動脈や脳への灌流圧を高める目的で使用される(成人の静脈内投与は1mgを3〜5分ごと)。通常は静脈内・骨髄内に投与し、アナフィラキシーでは筋肉内投与が第一選択であるが、静脈路・骨髄路とも確保できない心停止では気管内投与も選択肢となる。
- ×d. 塩化カルシウム
気管内投与は行わない。塩化カルシウムは組織刺激性が強く、血管外に漏れただけでも組織壊死を起こすほどであり、気道粘膜や肺組織に直接注入すると重篤な傷害を招く。心肺蘇生では高K血症、低Ca血症、Ca拮抗薬中毒など特定の状況に限って静脈内投与する。なお、名称の似た塩化カリウムとの取り違えは致死的な医療事故につながるため注意を要する。
- ×e. 重炭酸ナトリウム
気管内投与は行わない。重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム、重曹)はアルカリ性・高浸透圧の薬液で、気道粘膜を傷害し、肺胞表面の界面活性物質(サーファクタント)を失活させるおそれがある。代謝性アシドーシスの補正や高K血症、三環系抗うつ薬中毒などに対して静脈内投与で用いるが、心肺蘇生での routine な使用は推奨されていない。
心肺停止時の薬剤投与経路の優先順位
現在の心肺蘇生ガイドライン(JRC蘇生ガイドライン、AHAガイドライン)では、第一に末梢静脈路、それが困難な場合は骨髄路(脛骨近位部などに骨髄針を刺入する経路)が推奨される。骨髄路は静脈路とほぼ同等の薬物動態が得られ、ほぼすべての薬剤・輸液を投与できる。気管内投与は吸収量が予測しにくく、アドレナリンでは低用量で吸収されるとβ2作用による血管拡張で血圧がかえって下がる可能性も指摘されており、静脈路・骨髄路のいずれも確保できない場合の最後の手段と位置づけられている。
気管内投与できる薬剤:LEAN
・L:リドカイン(抗不整脈薬) ・E:エピネフリン=アドレナリン(血管収縮薬・強心薬) ・A:アトロピン(抗コリン薬。徐脈に用いる。なお心静止・無脈性電気活動に対するルーチン使用は現在は推奨されていない) ・N:ナロキソン(オピオイド拮抗薬)
気管内投与できない薬剤の例
塩化カルシウム、重炭酸ナトリウムは組織傷害性があり、気管内には投与しない。アミオダロンも気管内投与は行わない。
POINT
・気管内投与できる薬剤は「LEAN」=リドカイン、アドレナリン(エピネフリン)、アトロピン、ナロキソン。 ・投与量は静脈内投与量の2〜2.5倍を生理食塩水などで5〜10mLに希釈して注入する。 ・塩化カルシウム、重炭酸ナトリウムは組織傷害性のため気管内投与しない。 ・現行ガイドラインでは、静脈路が困難なら骨髄路を優先し、気管内投与は最後の手段である。
