指先の光は何を見ているのか―パルスオキシメーターの原理から読み解くSpO2の落とし穴
第103回医師国家試験 B問題 第32問
国試問題にチャレンジ
経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉と動脈血酸素飽和度〈SaO2〉とが乖離を示した。 原因として考えにくいのはどれか。
- a.脱水
- b.低体温
- c.高血糖
- d.マニキュア
- e.一酸化炭素中毒
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
パルスオキシメーターは、赤色光と赤外光の2波長の吸光度比と、心拍に同期する拍動成分から動脈血の酸素飽和度を推定する装置です。そのため、脱水・低体温・ショックなどで末梢の拍動が弱い場合や、マニキュア・外光・色素で光の吸収が乱される場合には、SpO2が実測のSaO2とずれることがあります。一酸化炭素中毒では一酸化炭素ヘモグロビンを酸化ヘモグロビンと区別できず、SpO2が見かけ上正常に近く表示されるため、CO-オキシメーターによる実測が不可欠です。一方、高血糖は拍動にもヘモグロビンの吸光特性にも影響しないため、乖離の原因とは考えにくいといえます。測定原理を理解しておくと、誤差要因を暗記に頼らず判断でき、ベッドサイドで数値を過信しない姿勢にもつながります。
解答・解説
正解はcです
パルスオキシメーターの測定原理
パルスオキシメーターは、指先や耳朶に赤色光(波長約660nm)と赤外光(波長約940nm)を当て、透過(または反射)してくる光量を測る装置である。酸素と結合したヘモグロビン(酸化ヘモグロビン、O2Hb)は赤色光をあまり吸収せず、酸素を放した還元ヘモグロビン(脱酸素化ヘモグロビン、HHb)は赤色光をよく吸収する。一方、赤外光では両者の吸収差の傾向が逆になる。この2波長の吸光度の比から、O2Hbの割合を推定して表示した値が経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)である。 さらに装置は、心拍に同期して変動する吸光度成分(拍動成分)だけを取り出して計算している。静脈血や組織は拍動しないため一定の吸収(非拍動成分)として差し引かれ、動脈血の情報だけが残る仕組みである。
乖離が生じる条件
以上の原理から、SpO2が動脈血ガス分析で実測した動脈血酸素飽和度(SaO2)とずれるのは、大きく次の2つの場合である。 1. 拍動成分がうまく拾えない場合:末梢循環不全(脱水・ショック・低体温・寒冷による血管収縮など)、体動、不整脈など。 2. 光の吸収が本来とは異なる要因で変化する場合:マニキュアや付け爪、強い外光、色素(メチレンブルーなどの静注色素)、そして2波長では区別できない異常ヘモグロビン(一酸化炭素ヘモグロビン、メトヘモグロビン)の増加など。 本問は「原因として考えにくいもの」を選ぶ問題である。血糖値は末梢の拍動や光の吸収特性に影響しないため、高血糖は乖離の原因にならない。
選択肢考察
- ×a. 脱水
乖離の原因になりうる。脱水で循環血液量が減ると、末梢血管が収縮して指先の血流と拍動が弱くなる。パルスオキシメーターは拍動成分を検出してはじめて動脈血の吸光度を算出できるため、拍動が小さいと信号とノイズの区別がつかず、測定不能や不正確な値の表示につながる。
- ×b. 低体温
乖離の原因になりうる。低体温では熱を逃がさないように皮膚・末梢の血管が収縮し、指先の灌流と脈波が小さくなる。脱水と同様、拍動成分が十分に得られないため、SpO2の値が信頼できなくなる。測定部位を温める、耳朶や額など別部位で測るなどの対応がとられる。
- ○c. 高血糖
乖離の原因として考えにくい。血液中のブドウ糖濃度が高くても、赤色光・赤外光に対するヘモグロビンの吸光特性は変わらず、末梢の拍動も直接には損なわれない。したがってパルスオキシメーターは通常どおり作動し、SpO2とSaO2の乖離は生じない。なお、ヘモグロビンの糖化を反映するHbA1cの上昇も、SpO2測定に臨床上問題となる影響は及ぼさない。
- ×d. マニキュア
乖離の原因になりうる。爪に塗られた塗料(特に青・黒・緑など濃い色)は測定光そのものを吸収・散乱し、ヘモグロビン由来の吸光度の比を狂わせる。その結果、実際と異なる値が出たり測定できなくなったりする。測定前にはマニキュアや付け爪を除去するか、別の指・耳朶で測定する。
- ×e. 一酸化炭素中毒
乖離の原因になる代表例である。一酸化炭素はヘモグロビンに酸素の200倍以上の親和性で結合し、一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)をつくる。COHbは赤色光の吸収がO2Hbと同様に小さいため、2波長しか使わない一般的なパルスオキシメーターはCOHbをO2Hbと区別できず、酸素を運べないCOHbまで『酸素化されている』と数えてしまう。このため実際の酸素飽和度が低くてもSpO2は見かけ上高く(正常に近く)表示される。正確な評価には、多波長で各ヘモグロビン分画を測定できるCO-オキシメーター(血液ガス分析装置に付属)でSaO2とCOHb濃度を実測する必要がある。
SpO2の基準と臨床的意味
健常者のSpO2はおおむね96〜99%である。酸素解離曲線はS字状で、SpO2 90%がおよそPaO2 60Torr(呼吸不全の基準)に相当する。SpO2 90%を下回ると曲線の急峻な部分に入り、PaO2がわずかに下がるだけで飽和度が大きく低下する。
SpO2が不正確になる主な要因の整理
・末梢循環・拍動の問題:ショック、脱水、低体温、寒冷、血管収縮薬の使用、測定側での血圧測定(カフ加圧)、体動、不整脈 ・光学的な問題:マニキュア・付け爪、強い外光(手術灯・日光)、プローブの装着不良、色素の静注(メチレンブルー、インドシアニングリーンなどでSpO2は見かけ上低下) ・異常ヘモグロビン:一酸化炭素ヘモグロビン(SpO2は過大評価)、メトヘモグロビン(SpO2は85%前後に収束しやすい) ・その他:高度の貧血では精度が落ちることがある。また、皮膚の色素が濃い人ではSpO2が高めに出やすいことが近年指摘されている。
一酸化炭素中毒での注意点
一酸化炭素中毒では酸素の運搬能が低下しているのに、PaO2(溶存酸素の分圧)は正常のことが多く、SpO2も見かけ上正常である。血液ガス分析装置が算出するSaO2がPaO2からの計算値である場合も同じく正常に見えるため、CO-オキシメトリーによるCOHb濃度の実測が診断に不可欠である。治療は高濃度酸素投与であり、重症例では高気圧酸素療法を考慮する。
POINT
・パルスオキシメーターは2波長(赤色光・赤外光)の吸光度比と拍動成分からSpO2を算出する。 ・末梢循環不全(脱水、低体温、ショック)、マニキュア、体動、外光は測定誤差の原因となる。 ・一酸化炭素中毒ではCOHbをO2Hbと区別できず、SpO2は実際より高く表示される。 ・高血糖はSpO2測定に影響しない。
