その医療費、誰が払う?―労災だけが「公費」ではない理由
第103回医師国家試験 B問題 第2問
国試問題にチャレンジ
公費医療の対象でないのはどれか。
- a.結核
- b.未熟児
- c.業務上疾病
- d.予防接種の副反応
- e.原爆に起因する傷病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
公費医療は税を財源として国や地方公共団体が医療費を負担する制度で、感染症対策、国家補償、福祉の観点から個別の法律に基づいて実施されます。結核は感染症法、未熟児は母子保健法の養育医療、予防接種の健康被害は予防接種法、原爆に起因する傷病は被爆者援護法に基づく公費医療の対象です。一方、業務上疾病は事業主が保険料を負担する労災保険から給付されるもので、窓口負担がなくても税財源の公費医療ではなく社会保険に分類されます。労災の対象には職業病のほか、過重労働による脳・心臓疾患や精神障害も含まれます。「誰が、どの財源で払うのか」という視点で制度を整理することは、試験対策にとどまらず、患者さんの負担軽減につながる手続きを案内するための実践的な知識になります。
解答・解説
正解はcです
公費医療(公費負担医療)とは、医療費の全部または一部を国や地方公共団体が税財源(公費)で負担する制度である。日本の医療費は原則として医療保険(健康保険・国民健康保険など)で賄われるが、①感染拡大の防止など社会防衛上の必要があるもの、②国家として補償・救済の責任を負うもの(予防接種の健康被害、戦傷病、原爆被爆など)、③福祉的な配慮が必要なもの(生活保護、障害者、小児の特定疾患・未熟児など)については、個別の法律に基づいて公費で医療費が支払われる。 本問では、各選択肢について「どの法律・制度で医療費が支払われるのか」を考えればよい。結核は感染症法、未熟児は母子保健法、予防接種の副反応は予防接種法、原爆に起因する傷病は被爆者援護法に基づく公費医療の対象である。一方、業務上疾病(仕事が原因の病気・けが)は、事業主が保険料を負担する労働者災害補償保険(労災保険)から給付されるものであり、税を財源とする公費医療ではない。
選択肢考察
- ×a. 結核
結核は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」に基づく公費負担医療の対象である。まん延防止のため確実な治療完遂が求められることから、入院勧告・措置による入院医療(第37条)では医療費が公費で負担され(所得に応じた自己負担あり)、一般の外来治療(第37条の2)では医療保険を優先適用したうえで、患者の自己負担が医療費の5%となるよう公費が補填される。公費医療の対象であるため、「対象でないもの」には当たらない。
- ×b. 未熟児
母子保健法に基づく養育医療(未熟児養育医療)により、入院養育が必要と医師が認めた未熟児(出生体重2,000g以下、または生活力が特に薄弱で一定の症状を示す児)の医療費が公費で給付される(世帯の所得に応じた自己負担あり)。実施主体は市町村である。公費医療の対象である。
- ○c. 業務上疾病
業務上疾病(業務に起因する疾病)や業務上の負傷は、労働者災害補償保険法に基づく労災保険から療養補償給付(療養の給付)、休業補償給付、障害補償給付などが支給される。労災保険は事業主が全額保険料を負担する社会保険であり、税を財源とする公費医療ではない。また労災と認定された傷病には健康保険は使えず、労災保険から給付されるため、原則として労働者の窓口負担はない。したがって、選択肢のうち公費医療の対象でないのは業務上疾病である。
- ×d. 予防接種の副反応
予防接種法に基づく定期接種・臨時接種によって健康被害が生じ、厚生労働大臣がその因果関係を認定した場合、予防接種健康被害救済制度により医療費・医療手当、障害年金などが公費で給付される。国の施策として接種を行っている以上、国が救済責任を負うという考え方に基づく。なお、任意接種による健康被害は医薬品副作用被害救済制度(医薬品医療機器総合機構が実施)の対象となる。
- ×e. 原爆に起因する傷病
「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)」に基づき、原爆の放射線に起因すると厚生労働大臣が認定した傷病(認定疾病)の医療費は全額国費で給付される(認定疾病医療)。さらに被爆者健康手帳を持つ被爆者は、認定疾病以外の一般の傷病についても医療保険の自己負担分が公費で負担される(一般疾病医療費)。公費医療の対象である。
主な公費負担医療と根拠法
・感染症法:結核(入院・外来)、一類・二類感染症などの入院医療 ・母子保健法:未熟児養育医療 ・児童福祉法:小児慢性特定疾病医療費、療育の給付(結核児童) ・難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法):指定難病の特定医療費 ・障害者総合支援法:自立支援医療(精神通院医療、更生医療、育成医療) ・精神保健福祉法:措置入院 ・生活保護法:医療扶助 ・予防接種法:予防接種健康被害救済 ・被爆者援護法:認定疾病医療、一般疾病医療 ・戦傷病者特別援護法:療養の給付 ・医療観察法(心神喪失者等医療観察法):入院・通院医療
公費医療と社会保険の違い
公費医療は税を財源とする。これに対し、健康保険・国民健康保険・労災保険・介護保険などは加入者(労災保険は事業主のみ)が支払う保険料を主な財源とする社会保険である。公費医療の多くは医療保険を優先して適用し、自己負担分の全部または一部を公費で補う「保険優先」の形をとるが、原爆の認定疾病や措置入院、予防接種の健康被害救済などでは公費が優先・全額負担となる。
労災保険と過重労働
労災保険の対象は業務災害と通勤災害である。業務上疾病には、じん肺や有機溶剤中毒などの典型的な職業病に加え、長時間労働などの過重な業務による脳血管疾患・虚血性心疾患(いわゆる過労死)や、業務による強い心理的負荷による精神障害も、厚生労働省の認定基準を満たせば含まれる。脳・心臓疾患の認定基準は2001年に長期間の過重業務が評価対象に加えられ、その後2021年にも改正されている。なお、公務員の場合は国家公務員災害補償法・地方公務員災害補償法による公務災害補償制度が適用される。
POINT
・業務上疾病は労災保険(事業主負担の社会保険)からの給付であり、公費医療ではない ・結核=感染症法、未熟児=母子保健法(養育医療)、予防接種の健康被害=予防接種法、原爆=被爆者援護法 ・公費医療は「感染症対策」「国家補償」「福祉」の観点から税で医療費を負担する制度
