StudyMed医師国家試験

LDLは入らない?―内臓脂肪から読み解くメタボリックシンドロームの診断基準

第103回医師国家試験 B問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第103回 B問題 第1問

メタボリックシンドロームの診断基準に含まれるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.血糖高値
  2. b.血圧高値
  3. c.高尿酸血症
  4. d.低HDL-コレステロール血症
  5. e.高LDL-コレステロール血症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、メタボリックシンドロームの診断基準を問う問題だ。ポイントは、この病態の土台が「内臓脂肪の蓄積」にあるということ。基準の項目はすべて、内臓脂肪から説明できる異常で構成されているんだ。まず、診断基準の全体像は覚えているかな。
医学生医学生
ウエスト周囲径が必須で、そこに血圧・血糖・脂質の異常が重なる、というイメージです。
ドクタードクター
いいね。日本の基準では、ウエスト周囲径が男性85cm以上、女性90cm以上が必須項目。これは内臓脂肪面積100cm²に相当する値だ。そのうえで、脂質異常・血圧高値・空腹時高血糖の3つの選択項目のうち2つ以上を満たすと診断される。
医学生医学生
女性のほうが基準値が大きいのは、ちょっと意外でした。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。女性は皮下脂肪が多いので、同じ内臓脂肪面積100cm²に相当するウエスト周囲径が男性より大きくなるんだ。では選択肢を見ていこう。血糖高値と血圧高値はどうかな。
医学生医学生
どちらも含まれますね。ただ、糖尿病や高血圧の診断基準とは数字が違った気がします。
ドクタードクター
そこが大事なところ。血糖は空腹時110mg/dL以上で、糖尿病の126mg/dLより低い。血圧も130/85mmHg以上で、高血圧の140/90mmHgより低い。つまり、病気と診断される手前の軽い段階から拾い上げる基準なんだ。個々の異常は軽くても、重なることで心血管リスクが相乗的に高まる、という考え方に基づいている。なお、薬で治療中の人も該当として扱うよ。
医学生医学生
脂質の項目は低HDLコレステロール血症ですよね。でも、動脈硬化といえばLDLなので、高LDLコレステロール血症も入りそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
まさにそこがこの問題のひっかけだね。脂質の項目はトリグリセリド150mg/dL以上、かつ/またはHDLコレステロール40mg/dL未満。内臓脂肪から遊離脂肪酸が門脈を通って肝臓に大量に流れ込むと、トリグリセリドが増え、それに伴ってHDLが下がる。これが内臓脂肪型肥満に特徴的な脂質パターンなんだ。
医学生医学生
LDLは内臓脂肪とあまり結び付かない、ということですか。
ドクタードクター
その通り。LDLはそれ自体が強力で独立した動脈硬化の危険因子だけれど、内臓脂肪蓄積との結び付きは弱い。だからメタボリックシンドロームの診断には使わず、高LDL血症があればそれはそれとして別に評価・管理するんだ。
医学生医学生
高尿酸血症はどうでしょう。病棟実習で、メタボの患者さんが痛風も持っていることが多かった印象があります。
ドクタードクター
よく観察しているね。高尿酸血症はインスリン抵抗性と関連して、メタボリックシンドロームにしばしば合併する。でも診断基準の項目ではない。脂肪肝や睡眠時無呼吸症候群、多嚢胞性卵巣症候群も、合併しやすいけれど基準には入らない仲間だ。
医学生医学生
正解は血糖高値、血圧高値、低HDLコレステロール血症ですね。トリグリセリドとHDLがセット、LDLと尿酸は入らない、と整理しておきます。
ドクタードクター
完璧だ。では、なぜ内臓脂肪がそんなに悪さをするのか、病態も押さえておこう。内臓脂肪は皮下脂肪より代謝が活発で、TNF-αやPAI-1といった悪玉のアディポサイトカインを多く分泌し、善玉のアディポネクチンは低下する。その結果、インスリン抵抗性、脂質異常、血圧上昇、血栓傾向が生じて動脈硬化が進むんだ。
医学生医学生
生理学の講義で、脂肪組織は内分泌臓器だと習ったのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその視点が大切だね。臨床的には、ウエスト周囲径は立位・軽呼気時に臍の高さで測る。腹部が大きく臍が下にずれている場合は、肋骨下縁と上前腸骨棘の中点で測る。内臓脂肪面積を正確に知りたいときは臍レベルの腹部CTを使う。
医学生医学生
特定健診、いわゆるメタボ健診もこの考え方に基づいているんですよね。
ドクタードクター
そう。40〜74歳の医療保険加入者を対象に、メタボリックシンドロームとその予備群を見つけて、生活習慣改善の保健指導につなげる仕組みだ。治療の基本も、まずは減量と運動で内臓脂肪を減らすこと。根っこを断てば、血圧・血糖・脂質がまとめて改善しうるのがこの病態の面白いところだよ。

まとめ

メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積を基盤に、脂質異常・血圧上昇・糖代謝異常が重なって動脈硬化性疾患のリスクを高める病態です。日本の基準では、ウエスト周囲径(男性85cm以上、女性90cm以上)を必須とし、トリグリセリド150mg/dL以上かつ/またはHDLコレステロール40mg/dL未満、血圧130/85mmHg以上、空腹時血糖110mg/dL以上のうち2項目以上で診断します。LDLコレステロールは強力な危険因子ですが内臓脂肪との結び付きが弱く、高尿酸血症も合併しやすいものの、いずれも基準には含まれません。背景には、内臓脂肪からの悪玉アディポサイトカイン増加とアディポネクチン低下によるインスリン抵抗性があります。各項目を「内臓脂肪から説明できるか」という視点で整理すると、暗記に頼らず基準を理解でき、特定健診や生活指導の意義もつかみやすくなります。

解答・解説

正解はa, b, dです

メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積を基盤として、脂質代謝異常・血圧上昇・糖代謝異常が一人の人に重なって起こる病態であり、動脈硬化性疾患(冠動脈疾患や脳卒中)の発症リスクを高める。個々の異常は軽度でも、重なり合うことで心血管リスクが相乗的に上昇する点に着目した疾患概念である。 日本の診断基準(2005年、日本内科学会など8学会合同)は次の構成になっている。 【必須項目】内臓脂肪蓄積:ウエスト周囲径 男性85cm以上、女性90cm以上(内臓脂肪面積100cm²以上に相当) 【選択項目】以下のうち2項目以上 1. 脂質異常:高トリグリセリド血症(150mg/dL以上)かつ/または低HDL-コレステロール血症(40mg/dL未満) 2. 血圧高値:収縮期血圧130mmHg以上かつ/または拡張期血圧85mmHg以上 3. 空腹時高血糖:110mg/dL以上 したがって、選択項目を構成する「血糖高値」「血圧高値」「低HDL-コレステロール血症」が正解となる。解答のポイントは、脂質の項目に含まれるのがトリグリセリドとHDL-コレステロールであり、LDL-コレステロールは含まれないこと、そして高尿酸血症は合併しやすいものの基準項目ではないことを押さえておくことである。

選択肢考察

  1. ○a.  血糖高値

    空腹時血糖110mg/dL以上が選択項目の一つである。内臓脂肪蓄積に伴うインスリン抵抗性を反映する指標であり、糖尿病の診断基準(空腹時126mg/dL以上)より低い、いわゆる境界域の段階から該当する点が特徴である。なお、糖尿病などで薬物治療を受けている場合も該当するものとして扱う。

  2. ○b.  血圧高値

    収縮期血圧130mmHg以上かつ/または拡張期血圧85mmHg以上が選択項目の一つである。高血圧の診断基準(140/90mmHg以上)より低い値が採用されており、高血圧に至る前の段階から心血管リスクとしてとらえる考え方に基づく。降圧薬で治療中の場合も該当する。

  3. ×c.  高尿酸血症

    高尿酸血症はインスリン抵抗性と関連し、メタボリックシンドロームにしばしば合併するが、診断基準の項目には含まれていない。

  4. ○d.  低HDL-コレステロール血症

    脂質異常の項目は、高トリグリセリド血症(150mg/dL以上)かつ/または低HDL-コレステロール血症(40mg/dL未満)で構成される。内臓脂肪から肝臓へ流入する遊離脂肪酸の増加によりトリグリセリドが増え、それに伴ってHDL-コレステロールが低下するという、内臓脂肪型肥満に特徴的な脂質プロフィールを反映している。脂質異常症の治療中の場合も該当する。

  5. ×e.  高LDL-コレステロール血症

    LDL-コレステロールはそれ自体が独立した強力な動脈硬化の危険因子であるが、内臓脂肪蓄積との結び付きが弱く、メタボリックシンドロームの診断基準には含まれない。したがって高LDL-コレステロール血症の有無はメタボリックシンドロームの診断を左右せず、両者が併存する場合はそれぞれに対して評価・管理を行う。

メタボリックシンドロームの病態

内臓脂肪は皮下脂肪に比べ代謝が活発で、遊離脂肪酸やTNF-α(腫瘍壊死因子α)、PAI-1(プラスミノゲン活性化抑制因子1)などの悪玉アディポサイトカインを多く分泌し、善玉のアディポネクチンの分泌は低下する。これによりインスリン抵抗性、脂質異常、血圧上昇、血栓傾向が生じ、動脈硬化が進展する。

ウエスト周囲径の測定

立位・軽呼気時に臍の高さで測定する。脂肪蓄積が著明で臍が下方に偏位している場合は、肋骨下縁と上前腸骨棘の中点の高さで測定する。女性の基準値が男性より大きいのは、女性は皮下脂肪が多く、同じ内臓脂肪面積100cm²に相当する周囲径が大きくなるためである。内臓脂肪面積の正確な評価には臍レベルの腹部CTが用いられる。

特定健康診査(特定健診)

2008年4月から、40〜74歳の医療保険加入者を対象として、メタボリックシンドロームとその予備群を早期に見つけ、生活習慣改善のための保健指導(特定保健指導)につなげる特定健診が開始された。通称「メタボ健診」と呼ばれる。

合併しやすいが基準に含まれない病態

高尿酸血症、脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患)、睡眠時無呼吸症候群、多嚢胞性卵巣症候群などはメタボリックシンドロームに伴いやすいが、診断基準の項目ではない。

POINT

・必須:ウエスト周囲径 男性85cm以上、女性90cm以上 ・選択(2項目以上):①TG 150mg/dL以上 かつ/または HDL-C 40mg/dL未満、②血圧130/85mmHg以上、③空腹時血糖110mg/dL以上 ・LDL-コレステロール、尿酸は診断基準に含まれない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。