息を吸うと刺すように痛む―胸膜痛の正体は「壁側胸膜」にあり
第103回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
胸膜炎による胸痛の特徴はどれか。
- a.叩打痛
- b.拍動性疼痛
- c.圧痛点の存在
- d.上肢への放散
- e.深吸気時に増強
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胸膜で痛みを感じるのは肋間神経と横隔神経が支配する壁側胸膜であり、臓側胸膜には痛覚がほとんどありません。そのため胸膜炎では、呼吸で胸膜が引き伸ばされたりこすれ合ったりするたびに神経が刺激され、深吸気や咳で増強する鋭い痛みが生じ、胸膜摩擦音を伴うことがあります。上肢への放散は狭心症・心筋梗塞、拍動性疼痛は片頭痛や歯髄炎、叩打痛は腎盂腎炎や脊椎病変、圧痛で再現される胸痛は胸壁由来の痛みを示唆します。呼吸性に変動する胸痛は気胸、肺塞栓症、急性心膜炎などでもみられるため、随伴所見と合わせた鑑別が必要です。痛みの性状・誘因・放散を解剖学的な理由とともに理解することが、救急外来での胸痛評価の土台になります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
胸膜炎でおこる胸痛(胸膜痛)が、ほかの原因の痛みとどう違うかを問う問題である。
胸膜痛のしくみ
胸膜は、肺の表面をおおう臓側胸膜と、胸壁の内側・横隔膜・縦隔をおおう壁側胸膜の2枚からなる。このうち痛みを感じる神経(体性感覚神経)が分布しているのは壁側胸膜だけであり、臓側胸膜には痛覚がほとんどない。壁側胸膜のうち胸壁部分は肋間神経、横隔膜の中央部は横隔神経(C3〜C5)が支配している。 胸膜炎で壁側胸膜に炎症がおこると、呼吸で胸郭が広がり胸膜どうしがこすれ合ったり引き伸ばされたりするたびに、神経が刺激されて痛む。そのため胸膜痛は、深く息を吸ったとき、咳やくしゃみをしたときに強くなる、鋭く刺すような痛みとして自覚される。患者は痛みを避けようとして呼吸が浅くなり、痛む側を下にして寝たり、胸を押さえたりすることが多い。
解き方
痛みの性状(拍動性か、刺すようか)、誘因(呼吸、体動、労作)、診察所見(叩打痛、圧痛)、放散のしかたは、それぞれ特定の疾患を示す手がかりになる。胸膜痛の最大の特徴は「呼吸で変動する(深吸気で増強する)」ことである。
選択肢考察
- ×a. 叩打痛
叩打痛は、体の表面を拳などで軽くたたいたときに響くように痛む所見である。腎盂腎炎や尿管結石での肋骨脊柱角(CVA: costovertebral angle)の叩打痛、骨転移や化膿性脊椎炎での脊椎の叩打痛などが代表的である。胸膜炎の痛みを特徴づける所見ではない。
- ×b. 拍動性疼痛
拍動性疼痛は、脈を打つのに合わせてズキンズキンと痛むもので、血管の拡張や炎症部位の圧の変動が関わる痛みである。片頭痛、歯髄炎、膿がたまった化膿性病変(ひょう疽など)で典型的にみられる。胸膜痛は脈拍ではなく呼吸に合わせて変動する鋭い痛みであり、拍動性ではない。
- ×c. 圧痛点の存在
圧痛点とは、指で押したときに痛みが強く出る特定の点である。虫垂炎のMcBurney点やLanz点、胆嚢炎のMurphy徴候などが有名である。胸痛の診療では、押したときに同じ痛みが再現されるなら、肋軟骨炎(Tietze症候群など)、肋骨骨折、筋肉痛といった胸壁由来の痛みを考える手がかりになる。胸膜炎の痛みは胸郭の内側の胸膜から生じるため、特定の圧痛点をもつことは特徴ではない。
- ×d. 上肢への放散
上肢(特に左腕)や頸部・下顎に広がる痛みは、狭心症や心筋梗塞に典型的な放散痛である。心臓からの痛みを伝える神経と、腕の皮膚からの神経が脊髄の同じ高さ(主にC8〜T4付近)に入るため、脳が腕の痛みと取り違えることで生じると説明されている。 胸膜炎の痛みは通常、炎症のある部位の胸壁に限局し、上肢への放散は特徴ではない。なお、横隔膜の中央部をおおう胸膜に炎症が及ぶと、横隔神経(C3〜C5)を介して同じ側の肩や頸部に痛みを感じることがあるが、これは肩への関連痛であり、上肢への放散とは区別される。
- ○e. 深吸気時に増強
胸膜炎の痛みの最も重要な特徴である。深く息を吸うと胸郭と肺が大きく広がり、炎症をおこした壁側胸膜が引き伸ばされたり、臓側胸膜とこすれ合ったりするため、痛覚をもつ壁側胸膜の神経が強く刺激される。同じ理由で咳やくしゃみ、体をひねる動作でも痛みが増し、息を浅くすると和らぐ。 聴診では、炎症で表面がざらついた胸膜どうしがこすれる胸膜摩擦音が聞こえることがある。胸水が増えて2枚の胸膜が離れると、摩擦がなくなり痛みがかえって軽くなることがある。 なお、呼吸で増強する胸痛は胸膜炎に限らず、気胸、肺塞栓症(肺梗塞で胸膜に炎症が及ぶ場合)、急性心膜炎、肋骨骨折などでもみられるため、鑑別が必要である。
胸痛の原因と特徴の整理
・狭心症・心筋梗塞: 胸を締めつける・圧迫されるような痛み。左肩・左上肢・頸部・下顎へ放散。狭心症は労作で誘発され、安静やニトログリセリンで改善する。 ・急性大動脈解離: 突然の引き裂かれるような激痛。痛む場所が背部や腰へ移動する。 ・急性心膜炎: 鋭い痛みで、深吸気や仰向けで増強し、座って前かがみになると軽くなる。心膜摩擦音、心電図での広範なST上昇。 ・胸膜炎: 鋭く刺すような痛み。深吸気・咳で増強。胸膜摩擦音。 ・自然気胸: 突然の胸痛と呼吸困難。呼吸音の減弱。やせ型の若い男性に多い。 ・肺塞栓症: 突然の呼吸困難と胸痛、頻呼吸・頻脈。長期臥床や手術後、下肢深部静脈血栓症が誘因。 ・胸壁由来の痛み(肋軟骨炎、肋骨骨折、筋肉痛): 押すと痛みが再現される(圧痛)。体動で増強。 ・帯状疱疹: 肋間神経に沿った片側の帯状の痛みと、それに続く水疱。 ・逆流性食道炎: 胸やけ、食後や横になったときに悪化。
胸膜炎の主な原因
感染症(細菌性肺炎に伴う胸膜炎、膿胸、結核性胸膜炎)、悪性腫瘍(癌性胸膜炎、悪性胸膜中皮腫)、膠原病(全身性エリテマトーデス、関節リウマチ)、肺塞栓症などがある。胸水が貯まる場合は胸腔穿刺を行い、胸水の性状(滲出性か漏出性か、細胞の種類、ADA〈アデノシンデアミナーゼ〉値など)から原因を調べる。結核性胸膜炎では、リンパ球が多く、ADAが高いのが特徴である。
POINT
・胸膜で痛みを感じるのは壁側胸膜(肋間神経・横隔神経支配)であり、臓側胸膜にはほとんど痛覚がない。 ・胸膜痛は鋭く刺すような痛みで、深吸気・咳・くしゃみで増強する。胸膜摩擦音を伴うことがある。 ・上肢への放散痛 → 狭心症・心筋梗塞 ・拍動性疼痛 → 片頭痛、歯髄炎 ・叩打痛 → 腎盂腎炎(CVA叩打痛)、骨転移・脊椎炎 ・圧痛で再現される胸痛 → 胸壁由来(肋軟骨炎、肋骨骨折など)
