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肥満の9割は「ただの食べすぎ」?―単純性肥満の病態・治療とCushing症候群の見分け方

第103回医師国家試験 A問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第103回 A問題 第10問

単純性肥満で正しいのはどれか。3つ選べ。

  1. a.全肥満の90%以上を占める。
  2. b.無酸素運動を主体に指導する。
  3. c.スルホニル尿素薬を投与する。
  4. d.血中アディポネクチンが低下する。
  5. e.血中コルチゾールはデキサメタゾンで抑制される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は単純性肥満、つまり明らかな基礎疾患のない肥満についての基本問題だ。着眼点は「どれくらい多いか」「どう治療するか」「体の中で何が起きているか」、そして「二次性肥満とどう見分けるか」の4つ。まずは肥満の分類から整理しよう。
医学生医学生
肥満は単純性肥満と二次性肥満に分かれる、と内分泌代謝の講義で習いました。二次性はCushing症候群や甲状腺機能低下症ですよね。
ドクタードクター
その通り。二次性肥満には内分泌性のほか、視床下部の腫瘍などによる視床下部性、Prader-Willi症候群のような遺伝性、ステロイドや抗精神病薬による薬剤性もある。では、単純性肥満と二次性肥満、割合はどれくらいだと思う?
医学生医学生
二次性肥満もけっこう多い印象があって、7割くらいが単純性でしょうか。
ドクタードクター
実際はもっと偏っていて、肥満の90%以上が単純性肥満、二次性は10%未満なんだ。エネルギーの摂取と消費のアンバランスに、太りやすい体質や生活習慣が重なって起こる。ただ、二次性肥満は原因疾患を治せば改善が見込めるから、頻度が低くてもまず除外を考える姿勢が大切だよ。
医学生医学生
次は運動療法ですね。筋トレで筋肉を増やすのが効きそうなので、無酸素運動でもいい気がしました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。脂肪を燃やしてエネルギーにするには酸素が必要だから、減量の主役はウォーキングや水泳、自転車こぎのような中等度の有酸素運動なんだ。目安は1日30分以上、週150分以上。短距離走のような無酸素運動は主に糖を使い、長く続けられないし、血圧を急に上げるので高血圧や心疾患のある人には負担が大きい。
医学生医学生
じゃあ筋トレは意味がないんですか。
ドクタードクター
いや、筋力トレーニングは筋肉量を保って基礎代謝を維持する効果があるから、有酸素運動に組み合わせる「補助」としては勧められる。あくまで主体は有酸素運動、というのがポイントだ。
医学生医学生
スルホニル尿素薬は糖尿病の薬なので、肥満の治療には使わないですよね。
ドクタードクター
正しい。SU薬は膵β細胞からインスリン分泌を促す薬で、インスリンには脂肪の合成・蓄積を促す作用があるから、むしろ体重が増えやすい。低血糖を防ぐための間食も体重増加につながる。肥満を伴う2型糖尿病では、体重を増やしにくいメトホルミンやSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が選ばれることが多いんだ。
医学生医学生
アディポネクチンは脂肪細胞から出るのに、肥満で低下するというのが生理学で習ったときに不思議でした。
ドクタードクター
そこは面白いところだね。アディポネクチンはインスリン感受性を改善し、抗炎症・抗動脈硬化作用をもつ「善玉」のアディポサイトカインだ。ところが内臓脂肪が増えて脂肪細胞が肥大すると、分泌はむしろ減る。逆にインスリン抵抗性を強めるTNF-α、血栓をできやすくするPAI-1、血圧を上げるアンジオテンシノーゲンといった「悪玉」は増える。このバランスの崩れが、肥満に糖尿病や高血圧、動脈硬化が伴いやすい理由の一つなんだ。
医学生医学生
だから血中アディポネクチンの低下は正しい記述なんですね。減量すれば戻るんですか。
ドクタードクター
減量で再び増加することが知られているよ。最後はデキサメタゾンだ。単純性肥満では、少量のデキサメタゾンを夜に飲ませると翌朝のコルチゾールはどうなる?
医学生医学生
デキサメタゾンがネガティブフィードバックでACTHを抑えるので、コルチゾールも下がるはずです。Cushing症候群だと自律的に作られているから下がらない、とCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。視床下部-下垂体-副腎系の調節が保たれている単純性肥満ではコルチゾールは抑制される。抑制されなければCushing症候群を疑う。つまり正しいのは、9割以上を占めること、アディポネクチンが低下すること、デキサメタゾンでコルチゾールが抑制されること、の3つだ。
医学生医学生
臨床実習の外来で、肥満の患者さんに満月様顔貌や赤色皮膚線条がないか指導医の先生が確認していたのは、Cushing症候群を除外するためだったんですね。
ドクタードクター
まさにそう。中心性肥満に加えて、皮膚のひ薄化、近位筋の筋力低下、高血圧、耐糖能異常がそろえばCushing症候群を疑って検査する。寒がりやむくみ、徐脈があれば甲状腺機能低下症も考える。もう一つ、「肥満」と「肥満症」の違いも押さえておこう。日本ではBMI 25以上が肥満で、そのうち肥満に関連する健康障害があるか、内臓脂肪面積100 cm²以上の内臓脂肪型肥満で、医学的に減量が必要な状態を肥満症とよぶ。
医学生医学生
治療は食事・運動・行動療法が基本で、それでも駄目なら薬や手術ですか。
ドクタードクター
そう。行動療法では食事や体重の記録、早食いの修正などを行う。薬物療法は効果不十分な肥満症で考慮し、近年はGLP-1受容体作動薬なども肥満症に使われるようになった。高度肥満症で内科治療が無効なら、スリーブ状胃切除術などの減量・代謝改善手術も選択肢になる。ただし、どの段階でも生活習慣の改善が土台であることは変わらないよ。

まとめ

肥満の90%以上は基礎疾患のない単純性肥満であり、エネルギー収支の不均衡に体質や生活習慣が重なって生じます。内臓脂肪が蓄積すると善玉のアディポネクチンが低下し、TNF-αやPAI-1などが増えることで、インスリン抵抗性や動脈硬化が進みやすくなります。治療の基本は食事療法、有酸素運動を主体とした運動療法、行動療法であり、インスリン分泌を促すSU薬はかえって体重を増やしやすく単純性肥満の治療薬ではありません。単純性肥満では少量デキサメタゾンでコルチゾールが抑制されるのに対し、Cushing症候群では抑制されないため、この試験は治療可能な二次性肥満を見逃さないための重要な手段です。頻度・病態・治療・鑑別をセットで理解しておくことが、日常診療で出会う肥満患者への適切な対応につながります。

解答・解説

正解はa, d, eです

問われていること

単純性肥満(原発性肥満)の頻度、治療、病態、そして二次性肥満(特にCushing症候群)との区別について、基本知識を問う問題である。

肥満の分類

肥満は原因によって二つに分けられる。 ・単純性肥満(原発性肥満): 明らかな基礎疾患がなく、食べ過ぎ(摂取エネルギーの過剰)や運動不足(消費エネルギーの不足)によって、余ったエネルギーが脂肪として蓄えられたもの。肥満の大部分を占める。 ・二次性肥満(症候性肥満): 特定の病気や薬が原因でおこる肥満。内分泌性(Cushing症候群、甲状腺機能低下症、インスリノーマなど)、視床下部性(腫瘍、外傷など)、遺伝性(Prader-Willi症候群など)、薬剤性(副腎皮質ステロイド、抗精神病薬など)がある。

考え方

単純性肥満の治療の基本は、食事療法と有酸素運動を中心とした運動療法、および行動療法である。また、内臓脂肪が増えると脂肪細胞から分泌される物質(アディポサイトカイン)のバランスが崩れ、インスリン抵抗性や動脈硬化につながる。 診療では、原因疾患があって治療できる二次性肥満を見逃さないことが大切であり、その代表であるCushing症候群との区別には、デキサメタゾン抑制試験でコルチゾールが抑制されるかどうかを確認する。

選択肢考察

  1. ○a.  全肥満の90%以上を占める。

    肥満の90%以上は明らかな基礎疾患のない単純性肥満であり、二次性肥満は10%未満にとどまる。単純性肥満は、エネルギーの摂取と消費の不均衡に、遺伝的な体質(太りやすさに関わる複数の遺伝子)や生活習慣が重なって生じる。頻度は低いものの、二次性肥満は原因疾患を治療すれば改善が見込めるため、診療ではまず二次性肥満の可能性を検討することが求められる。

  2. ×b.  無酸素運動を主体に指導する。

    減量のための運動療法は有酸素運動が主体である。脂肪を燃やしてエネルギーに変えるには酸素が必要であり、ウォーキング、軽いジョギング、水泳、自転車こぎなど、ある程度の時間続けられる中等度の強さの運動が効率よく脂肪を消費する。目安として、1日30分以上・週150分以上の中等度の有酸素運動が勧められる。 短距離走や重い物を持ち上げるような無酸素運動は、主に糖(グリコーゲン)を使い、長時間続けられないため脂肪の燃焼には向かない。また、急に血圧を上げるため、肥満に多い高血圧や心疾患をもつ人には負担が大きい。ただし筋力トレーニング(レジスタンス運動)は筋肉量を保って基礎代謝を維持する効果があるため、有酸素運動に組み合わせる補助的な運動として勧められる。

  3. ×c.  スルホニル尿素薬を投与する。

    スルホニル尿素(SU)薬は、膵臓のβ細胞に働いてインスリンの分泌を促す糖尿病の治療薬であり、単純性肥満そのものには適応がない。インスリンには脂肪の合成・蓄積を促す作用があるため、SU薬を使うとむしろ体重が増えやすく、低血糖を防ぐための間食も体重増加につながる。肥満を伴う2型糖尿病では、体重を増やしにくいメトホルミン、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬などが選ばれることが多い。 単純性肥満の治療は食事・運動・行動療法が基本であり、薬物療法は高度肥満や健康障害を伴う肥満症などで補助的に考慮される。

  4. ○d.  血中アディポネクチンが低下する。

    アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカイン(脂肪細胞が出す生理活性物質)の一つで、インスリンの効きを良くする作用(インスリン感受性の改善)、抗炎症作用、動脈硬化を防ぐ作用をもつ「善玉」の物質である。 脂肪細胞から出る物質であるにもかかわらず、内臓脂肪が増えて脂肪細胞が肥大すると、その分泌は逆に減り、血中濃度は低下する。一方で、インスリン抵抗性を強めるTNF-α(腫瘍壊死因子α)、血栓をできやすくするPAI-1(プラスミノゲン活性化抑制因子-1)、血圧を上げるアンジオテンシノーゲンなどの「悪玉」の物質の分泌は増える。このバランスの崩れが、肥満に糖尿病、脂質異常症、高血圧、動脈硬化が伴いやすい一因である。減量によってアディポネクチンは再び増加する。

  5. ○e.  血中コルチゾールはデキサメタゾンで抑制される。

    デキサメタゾンは強力な合成副腎皮質ステロイドで、正常では下垂体からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌を抑え(負のフィードバック)、その結果、副腎からのコルチゾール分泌も低下する。単純性肥満ではこの調節系が正常に保たれているため、少量(1 mg)のデキサメタゾンを夜に内服させると、翌朝の血中コルチゾールは十分に抑制される。 これに対し、Cushing症候群ではコルチゾールが自律的に過剰に作られているため、少量のデキサメタゾンを投与してもコルチゾールは抑制されない。したがってデキサメタゾン抑制試験は、Cushing症候群を単純性肥満から見分ける代表的な検査である。なお、単純性肥満でも尿中のコルチゾール代謝物が軽く増えることがあるが、日内変動や抑制試験への反応は保たれている。

肥満と肥満症(日本の基準)

・肥満: BMI(体重kg÷身長mの2乗)25以上。BMI 35以上を高度肥満とよぶ。 ・肥満症: 肥満のうち、肥満が原因または関係する健康障害(耐糖能障害・2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞、非アルコール性脂肪性肝疾患、月経異常、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症など)があるか、健康障害をおこしやすい内臓脂肪型肥満(CTでの内臓脂肪面積100 cm2以上)であって、医学的に減量が必要な状態。

内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満

内臓脂肪型肥満(上半身肥満、りんご型)は、皮下脂肪型肥満(下半身肥満、洋なし型)に比べ、インスリン抵抗性を基盤とした代謝異常や動脈硬化性疾患をおこしやすい。日本のメタボリックシンドロームの診断では、ウエスト周囲径(男性85 cm以上、女性90 cm以上)を内臓脂肪蓄積の目安とし、これに血圧・血糖・脂質の異常のうち2項目以上を満たすものとする。

二次性肥満の見分け方

・Cushing症候群: 中心性肥満、満月様顔貌、赤色皮膚線条、皮膚のひ薄化、近位筋の筋力低下、高血圧、耐糖能異常。少量デキサメタゾン抑制試験でコルチゾールが抑制されない。 ・甲状腺機能低下症: 寒がり、むくみ、便秘、徐脈。TSH上昇、FT4低下。 ・視床下部性肥満: 過食、頭痛・視野障害などの腫瘍症状。 ・Prader-Willi症候群: 乳児期の筋緊張低下、幼児期以降の過食と肥満、低身長、性腺機能低下、知的障害。 ・薬剤性: 副腎皮質ステロイド、抗精神病薬、インスリン・SU薬など。

単純性肥満の治療

1. 食事療法: 摂取エネルギーを制限し(目安として標準体重1 kgあたり25 kcal以下など)、栄養のバランスを保つ。 2. 運動療法: 有酸素運動を主体に、筋力トレーニングを組み合わせる。 3. 行動療法: 食事や体重の記録、早食いやまとめ食いの修正など。 4. 薬物療法: 食事・運動療法で効果が不十分な肥満症で考慮する。高度肥満に対する食欲抑制薬(マジンドール)のほか、近年は健康障害を伴う肥満症に対してGLP-1受容体作動薬などが用いられるようになった。 5. 外科療法: 高度肥満症で内科治療が無効な場合、減量・代謝改善手術(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術など)を検討する。

POINT

・肥満の90%以上は単純性肥満、二次性肥満は10%未満。ただし治療可能な二次性肥満の除外が重要。 ・減量の運動療法は有酸素運動が主体(筋力トレーニングは補助)。 ・SU薬はインスリン分泌を促し体重を増やしやすい。単純性肥満の治療薬ではない。 ・内臓脂肪が増えるとアディポネクチン(善玉)は低下し、TNF-α・PAI-1(悪玉)は増加する。 ・単純性肥満ではデキサメタゾンでコルチゾールが抑制される。抑制されなければCushing症候群を疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。