換気扇を見つめる4歳児―「オウム返し」と「繰り返し」が語る自閉スペクトラム症
第103回医師国家試験 A問題 第23問
国試問題にチャレンジ
4歳の男児。保育所で他の児に興味を示さないことを指摘され来院した。身長102cm,体重15.6kg。乳児期には母親の後追いをせず,現在も一人で遊ぶことが多い。発語が遅く二語文は話せない。換気扇に異常な興味を持っている。 この疾患でみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.同じ動作を繰り返す。
- b.オウム返しに言う。
- c.人見知りをする。
- d.視線を合わせる。
- e.ごっこ遊びを好む。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
言葉の遅れに加えて、乳児期からの対人的関心の乏しさと特定の物への強いこだわりがそろう幼児では、自閉スペクトラム症を考えます。本症では、同じ動作を繰り返す常同運動や同一性保持、話しかけられた言葉をそのまま返す反響言語(オウム返し)が特徴的にみられます。一方、人見知り、視線を合わせること、ごっこ遊びは正常な愛着形成や想像力・心の理論を反映する定型発達の指標であり、本症ではむしろ乏しくなります。言葉の遅れの鑑別には知的能力障害、難聴、発達性言語障害があり、人への関心が保たれているかどうかが見分けるカギです。乳幼児健診で早期に気づき、療育と家族支援につなげることが、子どもの発達を支えるうえで重要です。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・4歳の男児。身長102cm、体重15.6kgは4歳児としてほぼ標準で、身体発育に問題はない。 ・対人関係の障害: 保育所で他の児に興味を示さない。乳児期に母親の後追いをしなかった(愛着行動が乏しい)。現在も一人遊びが多い。 ・コミュニケーション(言語)の障害: 発語が遅く、4歳で二語文が話せない(通常は2歳ころまでに二語文が出る)。 ・興味の限局・こだわり: 換気扇に異常な興味をもつ(回転するものへの強い関心は典型的である)。
診断へのプロセス
幼児期に言葉の遅れを示す主な疾患には、知的能力障害(知的発達症)、自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)、難聴、発達性言語障害(言語症)がある。 ・知的能力障害: 言葉だけでなく、社会性や身辺自立を含めた発達全体が遅れる。言葉の遅れで受診する児のなかで頻度が高い。 ・難聴: 音への反応が乏しいが、身振りや視線で意思を伝えようとし、人への関心は保たれる。 ・発達性言語障害: 聴力・知的発達・対人関係に問題がなく、言語の発達だけが特異的に遅れる。 本例は言葉の遅れに加え、乳児期からの対人的関心の乏しさ(後追いをしない、他児に無関心)と、特定の物への強いこだわりがそろっている。対人相互関係の障害、コミュニケーションの障害、限定された反復的な行動・興味という3つの特徴(Wingの三つ組)がそろうことから、自閉症(現在の診断名では自閉スペクトラム症)と診断される。男児に多い点も合致する。
設問の考え方
本疾患でみられる症状を2つ選ぶ。自閉症の中核症状である「対人関係の質的障害」「コミュニケーションの障害」「常同的・反復的な行動とこだわり」に当てはまるものを選び、定型発達児にみられる対人的な行動(人見知り、視線を合わせる、ごっこ遊び)は、本症では乏しくなると考える。
選択肢考察
- ○a. 同じ動作を繰り返す。
常同運動(同じ動作を目的なく繰り返すこと)は、限定された反復的な行動様式の代表である。手をひらひらさせる、手をたたく、体を前後に揺らす、その場でぐるぐる回る、つま先歩きをするなどがみられる。物を一列に並べる、同じ道順や手順に固執し変化を嫌がる(同一性保持)といったこだわり行動も同じ領域の症状である。自閉症でよくみられる。
- ○b. オウム返しに言う。
話しかけられた言葉をそのまま繰り返す現象を反響言語(エコラリア)という。「お名前は?」と聞かれて「お名前は?」と返すような即時性のものと、以前に聞いたテレビのせりふなどを後になって繰り返す遅延性のものがある。言葉を相手とのやりとり(コミュニケーション)の道具として使うことが難しいことを反映しており、自閉症の言語の特徴である。ほかに、代名詞の反転(「あなた」と「わたし」の取り違え)、抑揚の乏しい独特な話し方、一方的な独り言などもみられる。
- ×c. 人見知りをする。
人見知りは、生後6〜8か月ころから、養育者などの親しい人とそれ以外の人を区別できるようになることで現れる、正常な愛着形成の指標である。自閉症児では人への関心や愛着行動が乏しいため、親しい人と見知らぬ人を区別した反応が現れにくく、人見知りをしない(あるいは乏しい)ことが多い。本例で母親の後追いをしなかったのも同じ背景による。
- ×d. 視線を合わせる。
自閉症では、アイコンタクトなどの非言語的なコミュニケーションが障害されるため、視線が合いにくい。幼児期には、名前を呼んでも振り向かない、抱かれても体を預けてこない、相手の指さした方向を見る(共同注意)ことが乏しい、興味のある物を指さして他者に伝えようとしないといった特徴がみられる。視線が合うことは定型発達の特徴であり、本症には当てはまらない。
- ×e. ごっこ遊びを好む。
ごっこ遊び(見立て遊び・ままごとなど)は、物を別の物に見立てたり、他者の役割を想像して演じたりする遊びであり、想像力や他者の視点に立つ能力(心の理論)を必要とする。自閉症児はこれらの能力が障害されるため、ごっこ遊びや他児との協調的な遊びを好まず、一人で物を並べたり回転させたりする機械的・反復的な遊びにふけることが多い。
自閉スペクトラム症(ASD)の概要
かつては自閉症(自閉性障害)、Asperger障害(Asperger症候群)、特定不能の広汎性発達障害などに分けられていたが、2013年のDSM-5(米国精神医学会の診断基準第5版)でこれらは連続体(スペクトラム)として「自閉スペクトラム症」に統合された。DSM-5では症状を次の2領域に整理している。 ①社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な障害(情緒的な相互関係の障害、視線・身振りなど非言語的コミュニケーションの障害、仲間関係を築くことの困難)。 ②限定された反復的な行動・興味・活動(常同運動・反響言語、同一性へのこだわり、極めて限定された強い興味、感覚刺激への過敏または鈍感)。 症状は発達早期から存在する。男女比はおよそ4:1で男児に多い。原因は遺伝要因の関与が大きい神経発達の障害であり、育て方によるものではない。知的能力障害やてんかんを合併することがある。
早期の気づき
1歳6か月児健康診査などでは、視線が合わない、指さしをしない、呼んでも振り向かない、言葉の遅れ、人見知りや後追いがない、などが手がかりとなる。
治療・支援
根本的な薬物療法はなく、早期からの療育(構造化された環境での支援、行動療法的アプローチ、ソーシャルスキルトレーニングなど)と家族支援が中心である。易刺激性(かんしゃく・攻撃性など)に対しては、リスペリドンやアリピプラゾールが用いられることがある。
近縁の神経発達症との比較
・Asperger症候群(旧分類): 言語発達や知的発達に明らかな遅れがないが、対人相互関係の障害と限局した興味(駅名、時刻表、特定の分野の知識など)がある。一方的な会話や不器用さを伴うことがある。知的障害を伴わない自閉症(いわゆる高機能自閉症)とは、旧分類では幼児期の言語発達の遅れの有無で区別されていたが、現在はいずれもASDに含まれる。 ・注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder: ADHD): 不注意、多動性、衝動性を特徴とする。ASDと併存することも少なくない。薬物療法としてメチルフェニデート徐放薬、アトモキセチン、グアンファシン、リスデキサンフェタミンなどが用いられる。
POINT
・自閉症(自閉スペクトラム症)の三つ組: ①対人相互関係の障害、②コミュニケーションの障害(言葉の遅れ、反響言語)、③こだわり・常同行動(限定された反復的な行動・興味)。 ・みられる症状: 常同運動、反響言語(オウム返し)、同一性保持、視線が合わない、人見知り・後追いをしない、ごっこ遊びをしない、指さしや共同注意が乏しい。 ・人見知り、視線を合わせる、ごっこ遊びは定型発達の指標であり、自閉症では乏しい。 ・男児に多い(約4:1)。DSM-5では自閉スペクトラム症に統合された。 ・言葉の遅れの鑑別: 知的能力障害、自閉スペクトラム症、難聴、発達性言語障害。
