強すぎる陣痛が赤ちゃんを苦しめる―遅発一過性徐脈に「まず」打つべき一手
第103回医師国家試験 A問題 第21問
国試問題にチャレンジ
38歳の経産婦。妊娠41週。陣痛発来と破水とを主訴に来院した。入院3時間後の内診で子宮口は6cm開大。胎児心拍数陣痛図で,陣痛周期は1分30秒,持続時間は60秒,心拍数基線は160bpm,基線細変動は10bpm,遅発一過性徐脈を示している。 まず投与するのはどれか。
- a.インドメタシン
- b.塩酸リトドリン
- c.オキシトシン
- d.プロスタグランディンF2α
- e.硫酸マグネシウム
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
遅発一過性徐脈は子宮収縮に遅れて始まり遅れて回復する徐脈で、子宮胎盤循環不全による胎児の低酸素を示します。陣痛周期が短い過強傾向の子宮収縮が原因であれば、陣痛促進薬の中止、母体の側臥位、輸液などの子宮内胎児蘇生とともに、速効性のあるβ2刺激薬リトドリンで子宮収縮を抑え、胎盤血流を回復させることがまず行うべき対応です。改善しなければ帝王切開などの急速遂娩に移れるよう、並行して準備を進めます。オキシトシンやプロスタグランジンF2αは収縮を強めて悪化させるため禁忌で、インドメタシンは胎児動脈管の早期閉鎖や羊水過少を起こすため妊娠後期には用いず、硫酸マグネシウムは主に子癇の予防・治療薬として位置づけられます。一過性徐脈の種類から原因を推定し、原因に応じた処置を選ぶ考え方は、分娩管理で胎児を守るための基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・38歳の経産婦、妊娠41週(正期産。過期産は42週以降)。陣痛発来と破水で入院し、3時間後に子宮口6cm開大 → 分娩第1期の活動期にある。 ・陣痛周期1分30秒、持続時間60秒: 陣痛の強さの目安として、子宮口4〜6cmの時期では平均周期が1分30秒以内になると過強とされる。本例は周期が短く、子宮収縮が過強傾向にある。 ・胎児心拍数陣痛図(cardiotocogram: CTG): 心拍数基線160bpm(正常域110〜160bpmの上限)、基線細変動10bpm(正常は6〜25bpm)、遅発一過性徐脈あり。
病態の考え方
遅発一過性徐脈は、子宮収縮の開始より遅れて心拍数がゆるやかに下がり、収縮の最強点より遅れて最下点となり、収縮が終わった後に回復する徐脈である。子宮収縮のたびに胎盤への母体血流(子宮胎盤循環)が一時的に減り、予備能の低下した胎児が低酸素状態になることを反映している。本例では、子宮収縮の頻度が高すぎるために収縮と収縮の間に胎盤循環が十分回復せず、胎児への酸素供給が不足していると考えられる。すなわち、過強陣痛傾向に伴う胎児機能不全(non-reassuring fetal status: NRFS)の状態である。基線細変動は保たれているので、現時点で胎児の状態は完全には破綻していないが、放置すれば胎児のアシドーシスが進行するおそれがある。
まず行うべきこと
胎児機能不全に対しては、まず子宮内胎児蘇生(胎児の酸素化を改善する処置)を行う。具体的には、陣痛促進薬を使っていれば中止し、母体の体位変換(側臥位)、輸液、必要に応じた酸素投与を行い、原因が過強な子宮収縮であれば子宮収縮抑制薬を投与して胎盤血流の回復を図る。同時に、改善しなければ急速遂娩(本例は子宮口6cmで経腟分娩がすぐには見込めないため帝王切開)を行えるよう準備を進める。設問は「まず投与する」薬物を問うており、速効性のある子宮収縮抑制薬を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. インドメタシン
インドメタシンは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で、シクロオキシゲナーゼを阻害してプロスタグランジン産生を抑えるため、子宮収縮を抑える作用はある。しかし胎児ではプロスタグランジンが動脈管の開存を保っているため、投与により胎児動脈管が収縮・早期閉鎖し、胎児の右心不全や胎児死亡を起こす危険がある。胎児腎血流の低下による羊水過少も起こりうる。特に妊娠後期の妊婦には用いない。また効果の発現も急性期の子宮内胎児蘇生には向かない。
- ○b. 塩酸リトドリン
リトドリンはβ2受容体刺激薬で、子宮平滑筋のβ2受容体に作用して細胞内cAMPを増やし、子宮筋を弛緩させる。点滴静注では投与後すみやかに子宮収縮を抑えることができる。本例の遅発一過性徐脈は、頻回な子宮収縮によって胎盤循環が障害されていることが原因と考えられるため、まず子宮収縮を抑えて胎盤への血流を回復させることが胎児の酸素化の改善につながる。そのうえで胎児心拍の推移を観察し、改善がなければ帝王切開に移る。副作用として母体の頻脈・動悸、振戦、低カリウム血症、高血糖、肺水腫、まれに無顆粒球症や横紋筋融解症などがあるため、投与中は母体の状態を監視する。
- ×c. オキシトシン
オキシトシンは下垂体後葉ホルモンで、子宮筋を強く収縮させる子宮収縮薬である。微弱陣痛に対する陣痛促進や分娩誘発、分娩後の弛緩出血の予防・治療に用いる。本例のように子宮収縮が過強傾向で胎児が低酸素に陥っている状況で投与すると、胎盤循環がさらに悪化し胎児機能不全を増悪させるため禁忌である。オキシトシンを投与中にこのような所見が出た場合は、ただちに減量・中止する。
- ×d. プロスタグランディンF2α
プロスタグランジンF2α(PGF2α、ジノプロスト)も子宮筋を収縮させる薬物で、分娩誘発・陣痛促進などに用いられる。子宮収縮を強めて胎盤循環をさらに悪化させるため、本例には禁忌である。なお、気管支を収縮させる作用があるため気管支喘息の患者にも用いない。
- ×e. 硫酸マグネシウム
硫酸マグネシウムは、Mg2+がCa2+と拮抗して子宮筋の収縮を抑える作用をもち、切迫早産の子宮収縮抑制に用いられる。また子癇発作の予防・治療の第一選択薬であり、早産児の脳保護を目的に投与されることもある。しかし、急速な子宮収縮抑制の効果ではβ2刺激薬であるリトドリンが優先され、本例でまず投与する薬物としてはリトドリンが適切である。本例には妊娠高血圧症候群や子癇を示す所見もない。高マグネシウム血症(腱反射消失、呼吸抑制など)に注意が必要な薬物でもある。
一過性徐脈の種類
・早発一過性徐脈: 子宮収縮とほぼ同時に始まり、収縮の最強点と同時に最下点となる。児頭圧迫による迷走神経反射で起こり、通常は病的意義が乏しい。 ・遅発一過性徐脈: 子宮収縮に遅れて始まり、最下点も収縮の最強点より遅れる。子宮胎盤循環不全による胎児の低酸素を示す。 ・変動一過性徐脈: 15bpm以上の急激な心拍数低下で、子宮収縮との時間関係が一定しない。臍帯圧迫によることが多い。 ・遷延一過性徐脈: 15bpm以上の低下が2分以上10分未満続くもの。
胎児心拍数陣痛図の正常所見
・心拍数基線: 110〜160bpm。 ・基線細変動: 6〜25bpm(中等度)。細変動の減少・消失は胎児の中枢神経の抑制やアシドーシスを示唆し、重要な危険サインである。 ・一過性頻脈がある: 胎児が元気であることを示す(reassuring)。 日本では、基線、細変動、一過性徐脈の種類と程度を組み合わせてレベル1〜5に分類し、それぞれに対応する処置を定めている。
胎児機能不全に対する対応(子宮内胎児蘇生)
①陣痛促進薬を使用中なら減量・中止する。 ②母体の体位変換(側臥位にして下大静脈圧迫を解除する)。 ③輸液(母体低血圧の是正)、必要に応じて酸素投与。 ④子宮収縮が過強・頻回であれば子宮収縮抑制薬(リトドリンなど)を投与する。 ⑤改善しなければ急速遂娩(分娩の進行度に応じて鉗子分娩・吸引分娩、または帝王切開)。
子宮収縮抑制薬と子宮収縮薬の整理
・子宮収縮抑制薬: β2刺激薬(リトドリン)、硫酸マグネシウム、(NSAIDsのインドメタシンは胎児への影響のため国内では通常用いない)。 ・子宮収縮薬: オキシトシン、プロスタグランジンF2α、プロスタグランジンE2(経口)、麦角アルカロイド(メチルエルゴメトリン。分娩後の子宮収縮に用いる)。
POINT
・遅発一過性徐脈 = 子宮胎盤循環不全による胎児低酸素のサイン。 ・過強陣痛に伴う胎児機能不全では、まず子宮収縮抑制薬(速効性のあるリトドリン点滴)で胎盤循環を回復させ、同時に急速遂娩(帝王切開)の準備をする。 ・オキシトシン、PGF2αなどの子宮収縮薬は胎児機能不全を悪化させるため禁忌。使用中なら中止する。 ・インドメタシンは胎児動脈管の早期閉鎖・羊水過少を起こすため妊娠後期には用いない。 ・硫酸マグネシウムは子癇の予防・治療の第一選択薬。子宮収縮抑制作用もあるが、急速な収縮抑制ではリトドリンが優先される。
