薬が切れると何が起こる?―「作用の裏返し」で読み解く睡眠薬の離脱症状
第103回医師国家試験 A問題 第12問
国試問題にチャレンジ
睡眠薬依存の離脱症状として出現するのはどれか。2つ選べ。
- a.過食
- b.不安
- c.強迫
- d.誇大妄想
- e.けいれん発作
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ベンゾジアゼピン系やバルビツール酸系などの睡眠薬はGABA-A受容体を介して催眠・抗不安・抗けいれん・筋弛緩作用を示し、長期使用で耐性と身体依存を形成します。急に中断すると抑制が外れて中枢神経が過剰に興奮し、作用の裏返しとして不眠、不安・焦燥、振戦、けいれん発作が、さらに発汗や頻脈などの自律神経症状、重症ではせん妄が出現し、その性質はアルコール離脱とよく似ています。過食、強迫、誇大妄想は他の精神疾患でみられる症状で、離脱の典型ではありません。予防には急な中止を避けて段階的に減量することが原則で、長時間作用型への置換も選択肢となります。離脱症状を「薬理作用の裏返し」として理解しておくと、入院中の内服中断などの臨床場面でも異変にいち早く気づけます。
解答・解説
正解はb, eです
睡眠薬として、かつてはバルビツール酸系薬剤(フェノバルビタール、アモバルビタールなど)が使われていたが、現在はベンゾジアゼピン系薬剤や、構造は異なるが同じ受容体部位に作用する非ベンゾジアゼピン系薬剤(いわゆるZ薬: ゾルピデムなど)が中心である。これらはいずれも、脳の主要な抑制性神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)が結合するGABA-A受容体の働きを強め、神経の興奮を抑えることで、催眠・抗不安・抗けいれん・筋弛緩などの作用を示す。 これらの薬剤を長く使い続けると、脳は薬による抑制が常にある状態に適応し(耐性の形成)、薬がないと正常に働けない状態になる(身体依存)。この状態で急に服薬を中止したり大きく減量したりすると、抑えられていた中枢神経系が一気に過剰に興奮し、離脱症状が出現する。性質はアルコールの離脱と非常によく似ている。 離脱症状は「薬の本来の作用の裏返し」として考えると理解しやすい。催眠作用の裏返しとして不眠、抗不安作用の裏返しとして不安・焦燥、抗けいれん作用の裏返しとしてけいれん発作、筋弛緩作用の裏返しとして振戦や筋攣縮が出る。重症では意識障害を伴うせん妄に至る。この考え方で選択肢をみると、不安とけいれん発作が該当する。
選択肢考察
- ×a. 過食
睡眠薬の離脱では、中枢神経の過剰興奮に伴って悪心・嘔吐や食欲不振がみられることはあるが、過食は典型的な離脱症状ではない。過食は神経性過食症(過食症)やむちゃ食い障害、うつ病の非定型な病像、また一部の抗精神病薬の副作用(体重増加)などでみられる症状である。
- ○b. 不安
ベンゾジアゼピン系・バルビツール酸系薬剤はGABA-A受容体を介して抗不安作用をもつ。長期使用で身体依存が形成された後に中断すると、抑制が失われて不安、焦燥、いらいら、落ち着きのなさ(不穏)が出現する。不眠、発汗、動悸、悪心・嘔吐、手指振戦などとともに、離脱の比較的早い段階から現れる代表的な症状である。元の不眠や不安が再び出てくる「反跳(リバウンド)」として、もともとの症状より強く現れることもある。
- ×c. 強迫
強迫とは、不合理とわかっていても頭から離れない考え(強迫観念)や、やめられない繰り返しの行為(強迫行為)のことで、強迫症(強迫性障害)の中核症状である。睡眠薬の離脱で典型的にみられる症状ではない。
- ×d. 誇大妄想
誇大妄想は、自分の能力や地位、財産などを実際よりはるかに大きく確信する妄想であり、双極性障害の躁状態、統合失調症、神経梅毒(進行麻痺)などでみられる。睡眠薬の離脱では重症例でせん妄を生じ、幻視などの幻覚や錯覚を伴うことはあるが、誇大妄想は典型的な離脱症状ではない。
- ○e. けいれん発作
ベンゾジアゼピン系・バルビツール酸系薬剤は抗けいれん作用をもち、てんかんの治療やけいれん重積の停止にも用いられる。身体依存がある状態で急に中断すると、脳の興奮性が高まり、全身性のけいれん発作が起こりうる。特に大量・長期に使用していた場合や、作用時間の短い薬剤を急に止めた場合に起こりやすく、中断後数日の時期に注意が必要で、脳波でも棘波(スパイク)が出やすくなる。けいれんは離脱の中でも危険な症状であり、これを防ぐために睡眠薬は急に中止せず、段階的に減量することが原則である。
鎮静催眠薬(ベンゾジアゼピン系・バルビツール酸系)の依存
・精神依存(薬を欲する強い渇望)と身体依存(中断で離脱症状が出る状態)の両方を形成し、耐性も生じる。アルコールと交差耐性があり、依存の性質もよく似ている。 ・常用量であっても長期連用で依存が形成されることがある(常用量依存)。
離脱症状の経過
・中断後、比較的早い時期(短時間作用型では半日〜1日程度)から、不安、焦燥、不眠、悪心・嘔吐、発汗、頻脈、手指振戦、筋の線維束攣縮などが出現する。 ・続く数日間はけいれん発作が起こりやすい時期である。 ・重症例ではその後にせん妄(意識混濁に幻覚、興奮を伴う状態)を呈することがある。 ・長時間作用型の薬剤では、症状の出現が遅れ、やや穏やかに経過する傾向がある。 ・知覚過敏(光や音に過敏になる)や離人感などがみられることもある。
ベンゾジアゼピン系薬剤の作用と副作用
・主な作用: 抗不安、鎮静・催眠、抗けいれん、筋弛緩。 ・主な副作用: 眠気の持ち越し、ふらつき・転倒(特に高齢者)、前向性健忘、奇異反応(かえって興奮する)、呼吸抑制(アルコールやオピオイド併用時に注意)。 ・過量服薬時の拮抗薬はフルマゼニルである。ただし、長期使用者に投与すると離脱症状やけいれんを誘発することがある。
治療・予防
・急な中止を避け、数週間〜数か月かけて少しずつ減量する。 ・短時間作用型から長時間作用型の薬剤に置き換えてから漸減する方法もある。 ・バルビツール酸系は依存性が強く、過量で致死的な呼吸抑制を起こしやすいため、現在は睡眠薬としてはほとんど用いられない。
POINT
・睡眠薬(ベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系)は精神依存・身体依存・耐性を形成し、アルコール依存と似る。 ・離脱症状は薬理作用の裏返し: 不安・焦燥、不眠、振戦、けいれん発作、重症ではせん妄。 ・自律神経症状(発汗、頻脈、悪心・嘔吐)も伴う。 ・予防には急な中止を避け、漸減する。
