その精神症状、薬のせいかも?―神経伝達物質で読み解く薬剤性精神障害
第103回医師国家試験 A問題 第13問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.レセルピンは躁状態を起こす。
- b.抗ヒスタミン薬は焦燥感を起こす。
- c.抗Parkinson病薬はせん妄を起こす。
- d.インターフェロンはうつ状態を起こす。
- e.副腎皮質ステロイドは気分変調を起こす。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
精神症状を診るときは、身体疾患や薬剤による二次的な精神障害をまず考える必要があり、薬が神経伝達物質に及ぼす作用から症状を予測できます。レセルピンはモノアミンを枯渇させてうつ状態を起こし、第1世代抗ヒスタミン薬は中枢のヒスタミンH1受容体遮断により眠気・鎮静を起こします。抗Parkinson病薬はドパミン過剰による幻覚・妄想や、抗コリン作用によるせん妄を、インターフェロンは自殺企図にもつながりうるうつ状態を、副腎皮質ステロイドは用量依存性に躁・うつなど多彩な気分の変化や精神病症状を起こします。対応の基本は原因薬剤の減量・中止・変更で、特に多剤内服の高齢者ではせん妄の誘因として薬剤を常に疑うことが重要です。薬と精神症状の組み合わせを機序とともに理解しておくことは、診療科を問わず安全な薬物療法を行う土台になります。
解答・解説
正解はc, d, eです
本問は、精神疾患以外の目的で使われる薬剤が引き起こす精神症状(薬剤性精神障害)についての知識を問うている。精神症状を訴える患者を診るときは、まず身体疾患や薬剤による二次的なものでないかを確認することが重要であり、原因となりやすい薬剤とその典型的な症状を組み合わせて覚えておく必要がある。 考え方の基本は、薬剤が脳内の神経伝達物質(ドパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、アセチルコリン、ヒスタミンなど)にどう作用するかである。たとえば、モノアミンを減らす薬はうつ状態を、ドパミンを増やす薬は幻覚やせん妄を、ヒスタミンH1受容体を遮断する薬は眠気を起こしやすい。この視点で各選択肢の「薬剤」と「症状」の組み合わせが正しいかを判断すると、抗Parkinson病薬とせん妄、インターフェロンとうつ状態、副腎皮質ステロイドと気分変調の3つが正しい組み合わせである。
選択肢考察
- ×a. レセルピンは躁状態を起こす。
レセルピンはインドジャボクという植物から得られたアルカロイドで、かつて降圧薬として、また一時期は統合失調症の治療薬としても用いられた古い薬剤である。神経終末のシナプス小胞にモノアミン(ノルアドレナリン、ドパミン、セロトニン)を取り込む輸送体(VMAT)を阻害し、モノアミンを枯渇させる。その結果、交感神経の働きが弱まって血圧が下がり、鎮静作用も示すが、中枢のモノアミンが減ることで重いうつ状態を起こすことが知られている。この現象は、うつ病の原因をモノアミンの不足に求める「モノアミン仮説」の根拠の一つとなった。起こすのは躁状態ではなくうつ状態であるため、誤りである。
- ×b. 抗ヒスタミン薬は焦燥感を起こす。
単に抗ヒスタミン薬という場合、通常はヒスタミンH1受容体拮抗薬を指し、蕁麻疹やアレルギー性鼻炎などⅠ型アレルギー疾患に用いられる。脳内のヒスタミン神経系は覚醒を保つ働きをもつため、血液脳関門を通過しやすい第1世代の薬剤(d-クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、プロメタジンなど)は、眠気・鎮静を代表的な副作用とする。このため、脳への移行が少なく眠気の出にくい第2世代(非鎮静性)の薬剤(フェキソフェナジン、エピナスチン、エバスチンなど)が開発された。なお、H2受容体拮抗薬(シメチジンなど)は胃酸分泌を抑えるため消化性潰瘍や逆流性食道炎に用いられる。小児などでまれに興奮(奇異反応)を起こすことはあるが、抗ヒスタミン薬の典型的な精神面の副作用は焦燥感ではなく鎮静・眠気であり、本選択肢は誤りである。
- ○c. 抗Parkinson病薬はせん妄を起こす。
Parkinson病では中脳黒質のドパミン神経が脱落し、線条体のドパミンが不足する。治療の中心はドパミンの前駆物質であるレボドパ(L-dopa)で、末梢での分解を防ぐためドパ脱炭酸酵素阻害薬(カルビドパ、ベンセラジド)との合剤として使われる。そのほか、ドパミン受容体作動薬(ブロモクリプチン、プラミペキソールなど)、ドパミン放出を促すアマンタジン、抗コリン薬(トリヘキシフェニジル)、ノルアドレナリンの前駆物質であるドロキシドパ(L-threo-DOPS)などがある。ドパミン作動性の薬剤は中脳辺縁系のドパミン活動を過剰にして幻覚(特に幻視)や妄想を起こしやすく、抗コリン薬は脳内のアセチルコリンの働きを妨げて記憶障害やせん妄を起こしやすい。高齢者や認知機能の低下した患者では特に起こりやすく、正しい記述である。
- ○d. インターフェロンはうつ状態を起こす。
インターフェロン(IFN)はウイルスの増殖を抑えるサイトカインで、α、β、γの型がある。IFN-αやβはB型・C型慢性肝炎、腎細胞癌、慢性骨髄性白血病などに、IFN-βは多発性硬化症にも用いられてきた。主な副作用として、発熱や倦怠感などのインフルエンザ様症状、間質性肺炎、血球減少などとともに、抑うつが重要である。うつ状態は投与開始後数週〜数か月で現れやすく、重い場合は自殺念慮・自殺企図に至ることがあるため、うつ病の既往がある患者への投与には注意が必要で、投与中は精神状態の観察が欠かせない。正しい記述である。なお、C型慢性肝炎の治療は現在、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)が主流となり、IFNが使われる場面は大きく減っている。
- ○e. 副腎皮質ステロイドは気分変調を起こす。
副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾンなど)は抗炎症薬・免疫抑制薬として広く使われる。精神面の副作用として、多幸感や軽躁・躁状態、うつ状態、不眠、易刺激性、さらには幻覚妄想状態やせん妄まで多彩な症状がみられ、まとめてステロイド精神病(ステロイド誘発性精神障害)とよばれる。投与量が多いほど起こりやすく(プレドニゾロン換算でおおむね1日40mg以上が目安とされる)、投与開始から比較的早い時期(数日〜数週)に出現することが多い。ここでいう「気分変調」は、特定の病名ではなく、気分が高揚したり落ち込んだりする気分の変化を指していると読める。また、長期投与後に急に中止すると副腎不全や離脱症状(倦怠感、関節痛、悪心など)を起こすため、減量は徐々に行う。正しい記述である。
薬剤性精神障害の主な例
・うつ状態: レセルピン、インターフェロン、副腎皮質ステロイド、β遮断薬(プロプラノロールなど、関連は議論あり)、経口避妊薬、一部の抗てんかん薬など。 ・躁状態・多幸: 副腎皮質ステロイド、抗うつ薬(双極性障害の患者で躁転)、レボドパなど。 ・幻覚・妄想: 抗Parkinson病薬(レボドパ、ドパミン受容体作動薬、アマンタジン)、覚醒剤、副腎皮質ステロイドなど。 ・せん妄: 抗コリン薬、抗Parkinson病薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、オピオイド、H2受容体拮抗薬(高齢者や腎機能低下例)、副腎皮質ステロイドなど。高齢者では複数の薬剤の組み合わせで起こりやすい。 ・眠気・鎮静: 第1世代抗ヒスタミン薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、抗精神病薬など。
せん妄とは
急に発症し、1日の中で変動する軽い意識障害に、注意の障害、見当識障害、幻覚(特に幻視)、興奮などを伴う状態である。夜間に悪化しやすい。高齢、認知症、手術、感染、脱水、薬剤などが誘因となる。原因の除去(原因薬剤の中止・減量を含む)が治療の基本である。
対応の原則
薬剤性の精神症状が疑われたら、原因薬剤を可能な範囲で減量・中止または変更し、必要に応じて対症的に向精神薬を用いる。
POINT
・レセルピン → うつ状態(モノアミン枯渇)。躁状態ではない。 ・第1世代抗ヒスタミン薬 → 眠気・鎮静。 ・抗Parkinson病薬 → 幻覚・妄想・せん妄(ドパミン作動薬、抗コリン薬)。 ・インターフェロン → うつ状態(自殺企図に注意)。 ・副腎皮質ステロイド → 躁・うつなど多彩な気分の変化、精神病症状(用量依存性)。
