StudyMed医師国家試験

まぶたと膝の紫の紅斑―皮膚筋炎のステロイド治療で先に伝えるべきこと

第102回医師国家試験 I問題 第64問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第64問

54歳の男性。全身の皮疹と倦怠感とを主訴に来院した。1か月前から顔面,体幹および四肢に紅斑が出現し,徐々に拡大し,全身倦怠感を伴ってきた。上眼瞼と四肢関節の背面とを中心に紅斑がみられる。膝部の写真(A)と同部の病理組織H-E染色標本(B)とを別に示す。  第一選択の治療を開始する際,患者に伝えておくべき副作用はどれか。2つ選べ。

第102回 I問題 第64問の問題画像
  1. a.胃潰瘍
  2. b.骨髄障害
  3. c.骨粗鬆症
  4. d.腎機能障害
  5. e.アナフィラキシー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚所見から疾患を見抜いたうえで、第一選択薬の副作用を問う2段構えの問題だ。上眼瞼と関節の伸側という紅斑の分布、そして病理像がどんな疾患を示しているかに注目しよう。まず、何を考えるかな。
医学生医学生
まぶたの紅斑はヘリオトロープ疹、関節の背面の紅斑はゴットロン徴候なので、皮膚筋炎だと思います。
ドクタードクター
その通り。膝の写真では膝蓋部に落屑を伴う紫紅色の紅斑があり、膝のゴットロン徴候に合う。H-E染色では表皮が萎縮し、表皮と真皮の境界で基底層が空胞状に変化する液状変性があり、真皮の血管周囲にリンパ球が浸潤している。境界部を中心に炎症が起こるinterface dermatitisという像だ。
医学生医学生
病理実習で、全身性エリテマトーデスの皮膚でも同じような液状変性を見た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。interface dermatitisは皮膚筋炎に特異的というわけではなく、エリテマトーデスでもみられる。だから病理だけで決めるのではなく、ヘリオトロープ疹とゴットロン徴候という特徴的な分布とあわせて診断するんだ。ところで、この問題文には筋力低下の記載がないね。
医学生医学生
筋炎なのに筋症状がなくても皮膚筋炎と言っていいんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だ。筋症状がほとんどない無筋症性皮膚筋炎という病型もある。実際の診療ではCKやアルドラーゼ、筋MRI、筋電図、筋生検で筋病変を確かめ、抗ARS抗体や抗MDA5抗体などの筋炎特異的自己抗体も調べる。では治療に移ろう。第一選択は何かな。
医学生医学生
副腎皮質ステロイド薬の内服です。
ドクタードクター
正解。プレドニゾロンを体重1kgあたり1日0.75〜1mg程度の高用量で始め、数週間続けてから時間をかけて減らしていく。高用量を長く使うことが前提だから、始める前に代表的な副作用を説明しておく必要がある。選択肢の中ではどれが該当するだろう。
医学生医学生
骨粗鬆症は外せないと思います。整形外科の実習で、ステロイドを長く飲んでいた方の椎体圧迫骨折を見ました。
ドクタードクター
まさにそれがステロイド性骨粗鬆症だ。ステロイドは骨芽細胞の働きと寿命を強く抑え、腸からのカルシウム吸収を減らし、尿中への排泄を増やす。骨密度がそれほど低くなくても骨折しやすいのが特徴で、プレドニゾロン換算で1日7.5mg以上を3か月以上使う場合などには、ビスホスホネート製剤などによる予防が勧められている。高用量では大腿骨頭壊死もあわせて説明しておきたい。
医学生医学生
もう一つは胃潰瘍ですね。ステロイドがプロスタグランジンを作りにくくするからでしょうか。
ドクタードクター
そう考えられている。粘液の分泌や粘膜の修復も抑えるので、潰瘍ができやすく治りにくい。ステロイド単独でどれほどリスクが上がるかには議論もあるけれど、NSAIDsと併用すると明らかにリスクが高まる。しかもステロイドは痛みを隠すので、出血や穿孔で初めて見つかることもある。高用量で長く使うならPPIなどの予防投与を検討し、黒色便や腹痛があれば受診するよう伝えておこう。
医学生医学生
骨髄障害は、免疫を抑える薬なので起こりそうに思ってしまいました。
ドクタードクター
間違えやすいところだね。ステロイドは骨髄の造血を抑える薬ではなく、血管壁に付着していた好中球が血流中に出てくるなどして、むしろ白血球は増える。減るのはリンパ球と好酸球だ。骨髄抑制が問題になるのは、効果不十分なときに併用するアザチオプリンやメトトレキサート、シクロホスファミドなどの免疫抑制薬のほうだよ。
医学生医学生
腎機能障害も、ステロイドでむくみや高血圧が出ることから連想しました。
ドクタードクター
鉱質コルチコイド作用でナトリウムがたまり、むくみや高血圧、低カリウム血症が起こることはある。でも腎臓を直接傷つける作用はほとんどない。腎機能障害で注意すべきはタクロリムスやシクロスポリンなどのカルシニューリン阻害薬、NSAIDs、アミノグリコシド系抗菌薬などだ。アナフィラキシーについても、ステロイドはむしろアナフィラキシー治療でアドレナリンの後に補助的に使う薬で、ステロイドそのものへの過敏反応はきわめてまれだ。
医学生医学生
ステロイドの副作用は、感染症、糖尿病、精神症状、白内障・緑内障……と、国試ではまとめて覚えるようにしています。
ドクタードクター
それでいい。この疾患ならではの注意点として、ステロイド筋症がある。治療中に筋力低下が再び悪化したとき、筋炎の再燃なのか薬の副作用なのかを見分ける必要があるんだ。それから、中高年の皮膚筋炎では悪性腫瘍の合併が多いし、抗MDA5抗体陽性例では急速進行性の間質性肺炎を起こすことがある。診断した時点で、悪性腫瘍と間質性肺炎の検索を必ず行おう。
医学生医学生
皮膚を見て終わりではなく、全身の合併症と治療の副作用まで見通して説明するのが大切なんですね。
ドクタードクター
その通り。患者さんが長い治療を安心して続けられるよう、始める前の説明と予防策がとても大事なんだ。

まとめ

上眼瞼のヘリオトロープ疹と関節伸側のゴットロン徴候がそろい、病理で液状変性を伴うinterface dermatitisを認めれば皮膚筋炎を考えます。第一選択治療は高用量の副腎皮質ステロイド薬で、長期使用を前提に、骨粗鬆症(椎体骨折、大腿骨頭壊死)や消化性潰瘍などの代表的な副作用を開始時に説明し、ビスホスホネート製剤やPPIによる予防を検討します。ステロイドでは骨髄抑制は起こらず好中球はむしろ増加し、骨髄抑制や腎障害は併用する免疫抑制薬で注意すべき副作用です。中高年の皮膚筋炎では悪性腫瘍や間質性肺炎の合併検索が欠かせず、治療中の筋力低下ではステロイド筋症と再燃の鑑別も必要です。診断から治療、副作用対策までを一連で考えることが、膠原病診療の基本となります。

解答・解説

正解はa, cです

所見の整理

・54歳の男性。1か月前から顔、体幹、四肢に紅斑が出てしだいに広がり、全身倦怠感も伴っている。 ・上眼瞼の紅斑:皮膚筋炎に特徴的なヘリオトロープ疹と考えられる。ヘリオトロープ疹は、まぶたにみられる紫紅色でむくみを伴う紅斑である。 ・四肢関節の背面(伸側)の紅斑:ゴットロン(Gottron)徴候と考えられる。ゴットロン徴候は、手指の関節(MP関節やPIP関節)、肘、膝などの伸側にできる紅斑で、表面に鱗屑(皮膚のかけら)や角化を伴う。 ・膝部の写真(A):膝蓋部に、落屑(鱗屑がはがれ落ちること)を伴う紫紅色の紅斑がみられる。膝のゴットロン徴候に合う所見である。 ・病理組織(B):表皮が萎縮し、表皮と真皮の境界部には液状変性(基底層が空胞のように変化する所見)がみられる。真皮の血管周囲にはリンパ球の浸潤がある。これは、表皮と真皮の境界部を中心に炎症が起こる「interface dermatitis」と呼ばれる像で、皮膚筋炎の皮膚病変に合う。

診断へのプロセス

ヘリオトロープ疹とゴットロン徴候という特徴的な皮膚症状がそろい、病理組織もこれを支持するため、皮膚筋炎と診断できる。本文には筋力低下の記載がない。筋症状がほとんどない病型(無筋症性皮膚筋炎)もあるため、実際の診療では次の検査を行って確認する。 ・血清クレアチンキナーゼ(CK)やアルドラーゼの測定 ・筋MRI、筋電図、筋生検 ・筋炎特異的自己抗体の測定:抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など)、抗MDA5抗体、抗TIF1-γ抗体、抗Mi-2抗体など また、中高年の皮膚筋炎では悪性腫瘍の合併が多い。抗MDA5抗体陽性例では、急速に進行する間質性肺炎を合併することがある。このため、悪性腫瘍と間質性肺炎の検索も欠かせない。

設問の考え方

皮膚筋炎・多発性筋炎の治療の第一選択は、副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)の内服である。通常は1日あたり体重1kgにつき0.75〜1mg程度の高用量で始め、数週間続けたのち、時間をかけて減らしていく。高用量を長期間使うことが前提となるため、治療を始めるときには、ステロイド薬の代表的な副作用を患者に説明しておく必要がある。選択肢のうち、ステロイド薬の副作用として代表的なのは消化性潰瘍(胃潰瘍)と骨粗鬆症である。

選択肢考察

  1. ○a.  胃潰瘍

    正しい。消化性潰瘍(胃潰瘍)は、ステロイド薬の副作用として古くから知られている。ステロイド薬は、胃粘膜を守るプロスタグランジンを作りにくくする。さらに、粘液の分泌や粘膜の修復も抑えるため、潰瘍ができやすく、治りにくくなると考えられている。ステロイド薬だけでどの程度リスクが上がるかについては議論もあるが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と一緒に使うとリスクは明らかに高くなる。また、ステロイド薬は痛みなどの症状を隠してしまうため、穿孔や出血で初めて見つかることもある。高用量で長く使う場合には、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの予防投与を検討し、黒色便や腹痛が出たら受診するよう説明しておく。

  2. ×b.  骨髄障害

    誤り。ステロイド薬は、骨髄の造血を抑えて汎血球減少を起こす薬ではない。むしろ、血管壁にくっついていた好中球が血流中に出てくるなどの理由で、白血球(好中球)が増える。一方、リンパ球と好酸球は減る。骨髄抑制が問題になるのは、ステロイド薬で効果が不十分なときに併用する免疫抑制薬(アザチオプリン、メトトレキサート、シクロホスファミドなど)である。第一選択薬の副作用としては当てはまらない。

  3. ○c.  骨粗鬆症

    正しい。骨粗鬆症は、ステロイド薬を長く使ったときの最も重要な副作用の一つである(ステロイド性骨粗鬆症)。ステロイド薬は、骨を作る骨芽細胞の働きと寿命を強く抑える。さらに、腸からのカルシウム吸収を減らし、腎臓からのカルシウム排泄を増やす。性ホルモンも低下させる。こうして骨がもろくなり、特に椎体(背骨)の圧迫骨折が起こりやすくなる。骨密度がそれほど低くなくても骨折しやすいのが特徴である。日本のガイドラインでは、プレドニゾロン換算で1日7.5mg以上を3か月以上使う場合などに、ビスホスホネート製剤などによる予防治療を勧めている。なお、高用量のステロイド薬では大腿骨頭壊死も起こりうるため、あわせて説明しておくべき副作用である。

  4. ×d.  腎機能障害

    誤り。ステロイド薬には、腎臓を直接傷つける作用(腎毒性)はほとんどない。ステロイド薬の鉱質コルチコイド作用(アルドステロンに似た作用)により、ナトリウムがたまってむくみや高血圧が起き、カリウムが失われて低カリウム血症になることはある。しかし、腎機能障害は代表的な副作用ではない。腎機能障害に注意が必要なのは、シクロスポリンやタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬や、NSAIDs、アミノグリコシド系抗菌薬などである。

  5. ×e.  アナフィラキシー

    誤り。ステロイド薬は、アナフィラキシーの治療でアドレナリンのあとに補助的に使う薬である。ステロイド薬そのものへの過敏反応はきわめてまれにしか起こらない。例外として、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)の患者では、コハク酸エステル型のステロイド静注薬で発作が悪化することが知られている。しかし、経口ステロイド薬で治療を始めるときに、代表的な副作用として説明する内容ではない。

皮膚筋炎・多発性筋炎の概要

自己免疫の働きによって、体の中心に近い筋肉(体幹や四肢の近位筋)が左右対称に弱くなる炎症性筋疾患である。特徴的な皮膚症状を伴うものを皮膚筋炎という。発症のピークは小児期と中高年の2つで、女性に多い。

特徴的な皮膚症状

・ヘリオトロープ疹:上眼瞼の紫紅色の紅斑で、むくみを伴う。 ・ゴットロン徴候:手指関節・肘・膝の伸側にできる紅斑で、鱗屑を伴う。手指関節伸側の丘疹はゴットロン丘疹と呼ぶ。 ・Vネックサイン、ショールサイン:前胸部(Vネック部)や、肩から上背部にかけての紅斑。 ・機械工の手(mechanic's hand):指の側面が硬くなり、ひび割れる。抗ARS抗体陽性例に多い。 ・爪囲紅斑、爪上皮の出血点、むち打ち様紅斑。

検査所見

・筋原性酵素の上昇:CK、アルドラーゼ、AST、LDH、ミオグロビン。 ・筋電図:筋原性の変化。 ・筋MRI:炎症がある筋肉がT2強調像やSTIR像で高信号となる。 ・筋生検:炎症細胞の浸潤と筋線維の変性がみられる。皮膚筋炎では筋束の周辺部の筋線維が萎縮する(筋束周囲性萎縮)。

筋炎特異的自己抗体と臨床的特徴

・抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など):間質性肺炎、関節炎、機械工の手、発熱を伴いやすい(抗合成酵素症候群)。 ・抗MDA5抗体:筋症状が乏しいことが多く、急速に進行する間質性肺炎を合併しやすい。予後不良である。 ・抗TIF1-γ抗体:成人では悪性腫瘍の合併が多い。 ・抗Mi-2抗体:典型的な皮膚症状を示し、ステロイド薬がよく効く。

合併症

・間質性肺炎:予後を大きく左右する。 ・悪性腫瘍:特に中高年の皮膚筋炎に多く、胃癌、肺癌、卵巣癌、乳癌などがある。診断時には全身の悪性腫瘍を探す必要がある。 ・嚥下障害、心筋障害。

治療

・第一選択:高用量の副腎皮質ステロイド薬。 ・効果が不十分な場合、再燃した場合、ステロイド薬の量を減らしたい場合:免疫抑制薬(メトトレキサート、アザチオプリン、タクロリムス、シクロスポリン、シクロホスファミド)を追加する。大量免疫グロブリン静注療法(IVIG)も用いられる。 ・急速進行性の間質性肺炎:初めから多くの薬剤を組み合わせた強力な免疫抑制療法を行う。

ステロイド薬の主な副作用

・感染症(日和見感染を含む) ・骨粗鬆症、大腿骨頭壊死 ・消化性潰瘍 ・糖尿病(ステロイド糖尿病)、脂質異常症 ・高血圧、むくみ、低カリウム血症 ・満月様顔貌、中心性肥満 ・精神症状:不眠、多幸感、抑うつ ・白内障、緑内障 ・ステロイド筋症:筋炎の治療中に筋力低下が再び悪化したとき、筋炎の再燃と区別が必要になる。 ・副腎不全:急にやめると離脱症状が起こる。 ・皮膚の萎縮、ざ瘡(にきび) ・小児の成長障害

POINT

・上眼瞼の紅斑(ヘリオトロープ疹)と関節伸側の紅斑(ゴットロン徴候)がみられたら、皮膚筋炎を考える。 ・皮膚筋炎・多発性筋炎の第一選択治療は、高用量の副腎皮質ステロイド薬である。 ・長期のステロイド治療で説明すべき代表的な副作用は、骨粗鬆症、消化性潰瘍、感染症、糖尿病、精神症状、白内障・緑内障、大腿骨頭壊死などである。 ・ステロイド薬では骨髄抑制は起こらず、むしろ好中球が増える。骨髄抑制は、併用する免疫抑制薬で注意が必要である。 ・中高年の皮膚筋炎では、悪性腫瘍と間質性肺炎の合併を必ず調べる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。