もぐもぐ、まさぐり、覚えていない―自動症が教える複雑部分発作
第102回医師国家試験 I問題 第51問
国試問題にチャレンジ
10歳の男児。異常な発作を何度か起こしたため母親に伴われて来院した。数か月前から,急に視線が固定し口をもぐもぐと動かし,無目的に服のボタンをまさぐったり,部屋の中を歩き回ったりする発作が数回起こっている。しばらくすると回復するが,発作のことは全く覚えていない。神経学的所見に異常を認めない。 診断はどれか。
- a.熱性けいれん
- b.点頭てんかん
- c.複雑部分発作
- d.ナルコレプシー
- e.Lennox-Gastaut症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
動作停止・凝視に続いて口部自動症や身振り自動症、歩き回るといったまとまった動作が出現し、回復後に発作中の記憶がない場合は、意識障害を伴う部分発作である複雑部分発作(焦点意識減損発作)を考え、特に側頭葉起始が示唆されます。数秒で終わり過呼吸で誘発され3Hz棘徐波複合を示す欠神発作とは、持続時間、前兆、発作後もうろう状態の有無で区別します。熱性けいれんは乳幼児の発熱時、West症候群は乳児期のてんかん性スパズムとヒプスアリスミア、Lennox-Gastaut症候群は幼児期の多彩な発作と遅棘徐波、ナルコレプシーは意識が保たれる情動脱力発作と日中の眠気が特徴です。抗てんかん薬は発作型に基づいて選ぶため、発作の症候から型を正確に見極める力は、適切な治療と患者・家族への説明の土台となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・10歳の男児、数か月前から同じ型の発作を数回繰り返している(常同的・反復性) ・急に視線が一点に固定する(動作停止と凝視) ・口をもぐもぐ動かす(口部自動症)、無目的に服のボタンをまさぐる(身振り自動症)、部屋の中を歩き回る ・しばらくすると回復するが、発作中のことを全く覚えていない → 発作中に意識(周囲への反応性・記憶)が障害されている ・発熱の記載なし、発作間欠期の神経学的所見は正常
診断へのプロセス
自動症とは、意識が障害された状態で本人の意図とは無関係に行われる、ある程度まとまった動作のことである。口をもぐもぐさせる、舌なめずりをする、衣服をまさぐる、歩き回るといった動作が典型で、側頭葉(特に内側側頭葉の海馬・扁桃体)に起始する発作によくみられる。 つまり本例は、脳の一部(焦点)から始まる発作であり、かつ意識障害を伴う発作、すなわち複雑部分発作と判断できる。数分以内に回復し、発作のことを覚えていない(健忘)点もこれに合う。発作間欠期に神経学的異常がないことは、てんかん全般に共通する特徴である。
鑑別のポイント
学童期の「ぼんやりして反応がなくなる発作」として、欠神発作(小児欠神てんかん)との区別が重要である。欠神発作は全般発作で、持続は数秒〜十数秒と短く、前兆や発作後のもうろう状態がなく、過呼吸で誘発され、脳波で3Hzの全般性棘徐波複合を示す。一方、複雑部分発作は持続が1〜数分と長めで、発作前に前兆(上腹部から込み上げる不快感など)を伴うことがあり、発作後にしばらくもうろう状態が続くことが多い。本例のように歩き回るなどのまとまった自動症を伴い、「しばらくすると回復する」経過は複雑部分発作を示唆する。
選択肢考察
- ×a. 熱性けいれん
熱性けいれんは、主に生後6か月から5歳ごろまでの乳幼児に、38℃以上の発熱に伴って起こる発作で、髄膜炎・脳炎などの中枢神経感染症や代謝異常など明らかな原因によるものは除く。発熱の原因は上気道炎などのウイルス感染が多い。多くは全身性のけいれんで数分以内に止まり、予後は良好である。本例は10歳で発熱の記載がなく、けいれんではなく自動症を伴う発作であるため当てはまらない。
- ×b. 点頭てんかん
点頭てんかん(West症候群)は主に生後1年以内、特に生後3〜11か月ごろに発症するてんかん性脳症である。頭部を前屈させ四肢を屈曲・伸展させる短いてんかん性スパズムが数秒〜数十秒おきに繰り返し出現(シリーズ形成)し、脳波で高振幅徐波と多焦点性の棘波が無秩序に混在するヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)を示し、精神運動発達の停止・退行を伴う。原因は周産期の低酸素性虚血性脳症、結節性硬化症、脳形成異常などさまざまである。治療には副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)療法やビガバトリン(特に結節性硬化症に伴う例)が用いられる。10歳で発達に異常のない本例とは年齢も症状も合わない。
- ○c. 複雑部分発作
複雑部分発作は、大脳の一部から始まる部分発作(焦点発作)のうち、意識障害を伴うものである。動作停止と凝視で始まり、口部自動症や身振り自動症、歩き回るといった自動症を呈し、1〜数分で回復するが発作中の記憶はない。本例の、視線の固定、口をもぐもぐさせる、服のボタンをまさぐる、歩き回る、回復後に健忘を残すという特徴はすべてこれに一致し、特に側頭葉起始の発作が考えられる。脳波では発作間欠期に側頭部の棘波・鋭波がみられることがある。現在の国際抗てんかん連盟(ILAE)の分類では「焦点意識減損発作」と呼ばれる。
- ×d. ナルコレプシー
ナルコレプシーは、てんかんではなく過眠症の一つで、視床下部のオレキシン(ヒポクレチン)神経の脱落が関与する。耐えがたい日中の眠気と居眠り、笑いや驚きなどの強い情動をきっかけに筋緊張が突然失われる情動脱力発作(カタプレキシー)、入眠時幻覚、睡眠麻痺(いわゆる金縛り)を四徴とする。情動脱力発作中も意識は保たれており、本例のような自動症と健忘を伴う発作とは異なる。
- ×e. Lennox-Gastaut症候群
Lennox-Gastaut症候群は主に幼児期(1〜8歳、特に3〜5歳)に発症する難治性のてんかん性脳症で、West症候群から移行する例もある。強直発作(特に睡眠中)、非定型欠神発作、脱力発作など複数の発作型をもち、脳波では発作間欠期に2.5Hz未満の遅棘徐波複合、睡眠中に速律動がみられ、知的障害を伴う。発作の抑制は困難で予後不良である。本例は単一の型の発作で、発達や神経学的所見に異常がないことから否定的である。
てんかん発作の分類
発作が脳の一部から始まるか、はじめから両側大脳半球全体が巻き込まれるかで、部分発作(焦点発作)と全般発作に大別される。 ・単純部分発作:意識が保たれる部分発作(ILAE 2017年分類では焦点意識保持発作)。一側上肢のけいれん、感覚異常、上腹部の不快感などの前兆など。 ・複雑部分発作:意識障害を伴う部分発作(焦点意識減損発作)。 ・二次性全般化発作:部分発作が両側に広がり強直間代発作となるもの(焦点起始両側強直間代発作)。 ・全般発作:欠神発作、ミオクロニー発作、強直間代発作、強直発作、脱力発作など。
側頭葉てんかんの特徴
・成人・年長児で最も多い焦点てんかんで、原因として海馬硬化症が代表的である。乳幼児期の熱性けいれん重積の既往をもつことがある。 ・前兆として、上腹部から込み上げてくる感覚、既視感(デジャヴ)、恐怖感、異臭などがみられる。 ・発作は動作停止・凝視で始まり、口部自動症(口をもぐもぐ、舌なめずり)や手の自動症を伴い、1〜数分続く。発作後にもうろう状態を残すことが多い。 ・薬物療法に抵抗性の内側側頭葉てんかんでは、てんかん外科手術(前部側頭葉切除術など)で発作が消失する例が多い。
前頭葉てんかんとの違い
前頭葉起始の発作は持続が短く(数十秒程度)、睡眠中に群発しやすく、激しく手足を動かす過運動や姿勢の異常を示し、発作後の回復が速いことが多い。
治療
部分発作に対する抗てんかん薬として、カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタムなどが用いられる。抗てんかん薬の選択は発作型に基づいて行うため、発作型を正確に診断することが重要である。一般に、非誘発性の発作が2回以上起これば治療開始を考慮する。
POINT
・自動症(口をもぐもぐ、衣服をまさぐる、歩き回る)+意識障害・健忘 → 複雑部分発作(焦点意識減損発作)、特に側頭葉てんかんを考える ・欠神発作との違い:欠神発作は数秒〜十数秒と短く、過呼吸で誘発、3Hz棘徐波複合、発作後もうろうなし ・West症候群:乳児期、てんかん性スパズム、ヒプスアリスミア、発達退行 ・Lennox-Gastaut症候群:幼児期、強直発作・非定型欠神、2.5Hz未満の遅棘徐波 ・熱性けいれん:主に6か月〜5歳、38℃以上の発熱に伴う ・ナルコレプシー:日中の眠気、情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺
