StudyMed医師国家試験

片眼が一瞬見えない、そして反対の手足が脱力する―症状が示す内頸動脈起始部狭窄

第102回医師国家試験 I問題 第45問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第45問

50歳の男性。半年前に右眼の一過性の視力障害をきたした後,月に1回程度の左上下肢の脱力発作を繰り返している。  脳血管造影写真で想定される病変はどれか。

  1. a.右総頸動脈閉塞
  2. b.右内頸動脈起始部狭窄
  3. c.右内頸動脈終末部狭窄
  4. d.右中大脳動脈狭窄
  5. e.右後大脳動脈閉塞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、症状の組み合わせから血管病変の部位を推定する問題だ。カギは「右眼の一過性の視力障害」と「左上下肢の一過性の脱力」が同じ患者に起きていること。この二つを一か所の病変で説明できる場所はどこか、血管の解剖をたどりながら考えていこう。まず、片眼の視力が一時的に失われて回復する発作を何と呼ぶかな。
医学生医学生
一過性黒内障、amaurosis fugaxですね。眼科の講義で「上から幕が下りてくるように見えなくなる」と習いました。
ドクタードクター
その通り。網膜の一過性虚血で、網膜のTIAともいえる。網膜を栄養する網膜中心動脈は眼動脈の枝で、眼動脈は内頸動脈から分かれる。だから右眼の黒内障は、右内頸動脈系の血流障害を示唆するんだ。
医学生医学生
左上下肢の脱力は、右大脳半球の症状ですよね。右中大脳動脈領域のTIAかと思いました。
ドクタードクター
正しい解釈だ。では、右眼の症状と右大脳半球の症状、両方を一か所で起こせる場所はどこになる?
医学生医学生
右中大脳動脈の狭窄なら、脱力はぴったり説明できる気がするんですが……。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。中大脳動脈は内頸動脈の終末部から分かれる枝で、眼動脈よりはるかに遠位にある。だから中大脳動脈が狭くなっても眼動脈の血流は保たれ、片眼の視力障害は起こらない。同じ理由で、内頸動脈終末部の狭窄でも眼の症状は説明できないんだ。
医学生医学生
なるほど。眼動脈が分かれるより手前、つまり心臓側に病変がないといけないんですね。
ドクタードクター
その通り。眼動脈は内頸動脈が海綿静脈洞を出てサイフォン部を過ぎたあたりで分岐する。それより近位で、しかも動脈硬化が最も起きやすい場所といえば、頸部の内頸動脈起始部だ。総頸動脈が内頸動脈と外頸動脈に分かれる直後で、血流が乱れてプラークができやすい。
医学生医学生
解剖実習で見た頸動脈分岐部ですね。甲状軟骨上縁の高さだったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。ここが狭くなると、症状が出る仕組みは二つある。一つはプラーク表面の血栓やコレステロール片が剥がれて流れ、網膜動脈や中大脳動脈の枝を一時的に詰まらせるartery-to-artery塞栓。もう一つは高度狭窄で末梢の灌流圧が下がり、血圧低下時などに虚血症状が出る血行力学的機序だ。
医学生医学生
右総頸動脈閉塞でも、眼動脈より手前なので同じ症状が出そうに思えます。
ドクタードクター
理屈の上では起こりうる。ただ総頸動脈閉塞では、前交通動脈や後交通動脈、外頸動脈からの側副路で代償されることも多く、そもそも頻度がまれだ。一過性黒内障とTIAを繰り返す典型的な原因として「想定される」のは、圧倒的に内頸動脈起始部狭窄なんだ。
医学生医学生
後大脳動脈閉塞は、後頭葉の障害なので視覚症状が出ますよね。
ドクタードクター
出るけれど、その視覚症状は両眼の同じ側の視野が欠ける同名半盲で、右後大脳動脈なら左同名半盲になる。片眼だけが見えなくなる黒内障とは性質が違うし、繰り返す左上下肢の脱力も説明しにくい。片眼か両眼の半側か、という区別はとても大事だよ。
医学生医学生
「同側の一過性黒内障と対側の一過性片麻痺」の組み合わせを見たら、眼動脈より近位の内頸動脈病変、ということですね。
ドクタードクター
その通り。臨床では、眼底でHollenhorst斑というコレステロール塞栓が見つかることもある。精査は頸動脈超音波でプラークの性状や狭窄率を評価し、MRAやCTA、脳血管造影で確認する。治療は抗血小板薬やスタチン、降圧、禁煙などの危険因子管理が基本で、症候性の高度狭窄なら頸動脈内膜剥離術、手術リスクが高い例では頸動脈ステント留置術も選択肢になる。
医学生医学生
TIAは症状が消えるので、つい軽く見てしまいそうです。
ドクタードクター
そこが一番の注意点だ。TIAは脳梗塞の前触れで、発症後早期に脳梗塞へ移行する危険が高い。症状が消えていても、頸動脈病変や心房細動などの塞栓源を速やかに調べ、再発予防を始めることが患者を守るんだ。

まとめ

片眼が数秒〜数分見えなくなって回復する一過性黒内障は、眼動脈を介した同側内頸動脈系の虚血を示し、その最も重要な原因は同側内頸動脈起始部の動脈硬化性狭窄です。同側の一過性黒内障と対側の一過性片麻痺が組み合わさる場合、眼動脈分岐部より近位の内頸動脈病変を考えるのが合理的で、内頸動脈終末部や中大脳動脈の病変では眼症状は説明できません。後大脳動脈病変の視覚症状は同名半盲であり、片眼の視力障害とは区別します。発症機序にはプラークからのartery-to-artery塞栓と高度狭窄による血行力学的虚血があり、治療は危険因子管理と抗血小板療法を基本に、症候性高度狭窄では頸動脈内膜剥離術やステント留置術を検討します。TIAは脳梗塞の前触れであり、血管解剖に基づいて病変部位を推定し早期に精査・予防につなげる姿勢が重要です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・右眼の一過性の視力障害(半年前):片眼の視力が数秒〜数分間失われ、その後回復するエピソードであり、一過性黒内障(amaurosis fugax)と考えられる。網膜を栄養する網膜中心動脈は眼動脈の枝であり、眼動脈は内頸動脈から分岐する。したがって右眼の一過性黒内障は、右内頸動脈系の血流障害を示唆する。 ・左上下肢の脱力発作を月1回程度繰り返す:対側(左)の片麻痺が一過性に出現しては消えることから、右大脳半球(右中大脳動脈領域)の一過性脳虚血発作(TIA:transient ischemic attack)と考えられる。

病変部位の推定

同側(右)の眼症状と対側(左)の片麻痺が組み合わさっている点が最大の手がかりである。両方の症状を一か所の病変で説明するには、眼動脈の分岐部よりも近位(心臓側)で、かつ中大脳動脈へ向かう血流にも影響する部位、すなわち右内頸動脈の近位部に病変があると考えるのが最も合理的である。 眼動脈より遠位の病変(内頸動脈終末部、中大脳動脈)では眼の症状は説明できず、後大脳動脈の病変では片眼の視力障害は起こらない。

機序

内頸動脈起始部(頸動脈分岐部の直上)は、血流が分岐して乱流が生じやすく、動脈硬化性プラークが最も形成されやすい部位である。ここに狭窄があると、 ①プラーク表面の血栓やコレステロール片が剥がれて末梢に流れ、網膜動脈や中大脳動脈の枝を一時的に詰まらせる(artery-to-artery塞栓) ②高度狭窄により末梢の灌流圧が低下し、血圧低下時などに虚血症状が出る(血行力学的機序) という二つの機序で、一過性黒内障とTIAを繰り返しうる。 以上から、脳血管造影で想定される病変は右内頸動脈起始部狭窄である。

選択肢考察

  1. ×a.  右総頸動脈閉塞

    総頸動脈が閉塞すると内頸動脈・外頸動脈の双方への順行性血流が途絶えるが、前交通動脈を介した対側からの血流、後交通動脈を介した椎骨脳底動脈系からの血流、外頸動脈と内頸動脈の間の側副路などによって患側半球は代償的に灌流される。そのため灌流圧の低下による一過性黒内障やTIAを起こすことは理論上ありうる。しかし総頸動脈閉塞は内頸動脈起始部病変に比べてまれであり、一過性黒内障とTIAを反復する典型的な原因としては内頸動脈起始部狭窄の方がはるかに頻度が高い。本問で「想定される」最も妥当な病変とはいえない。

  2. ○b.  右内頸動脈起始部狭窄

    内頸動脈起始部は動脈硬化性狭窄の好発部位であり、眼動脈分岐部より近位にあるため、同側の眼(網膜)と同側大脳半球の両方に虚血を起こしうる。プラークからのartery-to-artery塞栓や高度狭窄による灌流圧低下により、右眼の一過性黒内障と、右中大脳動脈領域の虚血による左上下肢の一過性脱力をともに説明できる。したがって本症例で最も想定される病変である。

  3. ×c.  右内頸動脈終末部狭窄

    眼動脈は、内頸動脈が海綿静脈洞を出た直後(サイフォン部の遠位、前床突起付近)で分岐する。内頸動脈終末部はそれよりさらに遠位で、前大脳動脈と中大脳動脈に分かれる直前の部分である。ここに狭窄があっても眼動脈への血流は保たれるため、左上下肢の脱力は説明できても、右眼の一過性黒内障は説明できない。

  4. ×d.  右中大脳動脈狭窄

    中大脳動脈は内頸動脈終末部から分岐する枝であり、眼動脈よりはるかに遠位に位置する。右中大脳動脈狭窄では左上下肢の脱力(対側片麻痺)は起こりうるが、眼動脈の血流には影響しないため、右眼の一過性黒内障は起こらない。

  5. ×e.  右後大脳動脈閉塞

    後大脳動脈は主に椎骨脳底動脈系から血流を受け、後頭葉・側頭葉内側・視床などを栄養する。右後大脳動脈閉塞では右後頭葉の障害による左同名半盲(両眼の左側視野の欠損)が典型的で、片眼のみの視力障害である一過性黒内障とは異なる。そのほか側頭葉内側障害による記憶障害、視床障害による感覚障害などを生じうるが、繰り返す左上下肢の脱力と右眼症状の組み合わせは説明しにくい。

一過性黒内障(amaurosis fugax)

片眼の視力が突然低下または消失し、数秒〜数分(多くは15分以内)で回復する発作である。「上から幕が下りてくるように見えなくなる」と表現されることがある。網膜の一過性虚血によるもので、網膜TIAともいえる。原因として最も重要なのは同側内頸動脈起始部の動脈硬化性狭窄からの塞栓であり、ほかに心原性塞栓、巨細胞性動脈炎なども鑑別に挙がる。眼底検査で網膜動脈内にコレステロール塞栓(Hollenhorst斑)がみられることがある。

内頸動脈の走行と主な分枝

総頸動脈は第4頸椎(甲状軟骨上縁)の高さで内頸動脈と外頸動脈に分かれる。内頸動脈は頸部では分枝を出さずに頭蓋内へ入り、海綿静脈洞内を走行したのち、サイフォン部の遠位で眼動脈を分岐する。さらに後交通動脈、前脈絡叢動脈を出し、終末部で前大脳動脈と中大脳動脈に分かれる。 → 眼動脈より近位(頸部内頸動脈など)の病変では「同側の眼症状+対側の片麻痺」が生じうるが、眼動脈より遠位の病変では眼症状は生じない。

内頸動脈狭窄症の検査と治療

・検査:頸動脈超音波検査(プラークの性状、狭窄率、血流速度の評価)、MRA、CTA、脳血管造影。 ・内科治療:抗血小板薬、スタチン、降圧療法、禁煙などの危険因子管理。 ・外科・血管内治療:症候性の高度狭窄では頸動脈内膜剥離術(CEA:carotid endarterectomy)が推奨され、手術リスクが高い例などでは頸動脈ステント留置術(CAS:carotid artery stenting)も選択肢となる。

TIAの考え方

TIAは脳梗塞の前触れであり、発症後早期に脳梗塞へ移行する危険が高い。原因精査(頸動脈病変、心房細動などの塞栓源)と早期の再発予防治療が重要である。

POINT

・一過性黒内障は同側内頸動脈系の虚血を示し、最も多い原因は同側内頸動脈起始部の動脈硬化性狭窄である。 ・「同側の一過性黒内障+対側の一過性片麻痺」は、眼動脈分岐部より近位の内頸動脈病変を示唆する。 ・眼動脈は内頸動脈のサイフォン部遠位から分岐するため、内頸動脈終末部や中大脳動脈の病変では眼症状は生じない。 ・後大脳動脈病変の視覚症状は同名半盲であり、片眼の視力障害とは区別する。 ・内頸動脈起始部狭窄の機序はartery-to-artery塞栓と血行力学的虚血の二つ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。