片眼が一瞬見えない、そして反対の手足が脱力する―症状が示す内頸動脈起始部狭窄
第102回医師国家試験 I問題 第45問
国試問題にチャレンジ
50歳の男性。半年前に右眼の一過性の視力障害をきたした後,月に1回程度の左上下肢の脱力発作を繰り返している。 脳血管造影写真で想定される病変はどれか。
- a.右総頸動脈閉塞
- b.右内頸動脈起始部狭窄
- c.右内頸動脈終末部狭窄
- d.右中大脳動脈狭窄
- e.右後大脳動脈閉塞
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
片眼が数秒〜数分見えなくなって回復する一過性黒内障は、眼動脈を介した同側内頸動脈系の虚血を示し、その最も重要な原因は同側内頸動脈起始部の動脈硬化性狭窄です。同側の一過性黒内障と対側の一過性片麻痺が組み合わさる場合、眼動脈分岐部より近位の内頸動脈病変を考えるのが合理的で、内頸動脈終末部や中大脳動脈の病変では眼症状は説明できません。後大脳動脈病変の視覚症状は同名半盲であり、片眼の視力障害とは区別します。発症機序にはプラークからのartery-to-artery塞栓と高度狭窄による血行力学的虚血があり、治療は危険因子管理と抗血小板療法を基本に、症候性高度狭窄では頸動脈内膜剥離術やステント留置術を検討します。TIAは脳梗塞の前触れであり、血管解剖に基づいて病変部位を推定し早期に精査・予防につなげる姿勢が重要です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・右眼の一過性の視力障害(半年前):片眼の視力が数秒〜数分間失われ、その後回復するエピソードであり、一過性黒内障(amaurosis fugax)と考えられる。網膜を栄養する網膜中心動脈は眼動脈の枝であり、眼動脈は内頸動脈から分岐する。したがって右眼の一過性黒内障は、右内頸動脈系の血流障害を示唆する。 ・左上下肢の脱力発作を月1回程度繰り返す:対側(左)の片麻痺が一過性に出現しては消えることから、右大脳半球(右中大脳動脈領域)の一過性脳虚血発作(TIA:transient ischemic attack)と考えられる。
病変部位の推定
同側(右)の眼症状と対側(左)の片麻痺が組み合わさっている点が最大の手がかりである。両方の症状を一か所の病変で説明するには、眼動脈の分岐部よりも近位(心臓側)で、かつ中大脳動脈へ向かう血流にも影響する部位、すなわち右内頸動脈の近位部に病変があると考えるのが最も合理的である。 眼動脈より遠位の病変(内頸動脈終末部、中大脳動脈)では眼の症状は説明できず、後大脳動脈の病変では片眼の視力障害は起こらない。
機序
内頸動脈起始部(頸動脈分岐部の直上)は、血流が分岐して乱流が生じやすく、動脈硬化性プラークが最も形成されやすい部位である。ここに狭窄があると、 ①プラーク表面の血栓やコレステロール片が剥がれて末梢に流れ、網膜動脈や中大脳動脈の枝を一時的に詰まらせる(artery-to-artery塞栓) ②高度狭窄により末梢の灌流圧が低下し、血圧低下時などに虚血症状が出る(血行力学的機序) という二つの機序で、一過性黒内障とTIAを繰り返しうる。 以上から、脳血管造影で想定される病変は右内頸動脈起始部狭窄である。
選択肢考察
- ×a. 右総頸動脈閉塞
総頸動脈が閉塞すると内頸動脈・外頸動脈の双方への順行性血流が途絶えるが、前交通動脈を介した対側からの血流、後交通動脈を介した椎骨脳底動脈系からの血流、外頸動脈と内頸動脈の間の側副路などによって患側半球は代償的に灌流される。そのため灌流圧の低下による一過性黒内障やTIAを起こすことは理論上ありうる。しかし総頸動脈閉塞は内頸動脈起始部病変に比べてまれであり、一過性黒内障とTIAを反復する典型的な原因としては内頸動脈起始部狭窄の方がはるかに頻度が高い。本問で「想定される」最も妥当な病変とはいえない。
- ○b. 右内頸動脈起始部狭窄
内頸動脈起始部は動脈硬化性狭窄の好発部位であり、眼動脈分岐部より近位にあるため、同側の眼(網膜)と同側大脳半球の両方に虚血を起こしうる。プラークからのartery-to-artery塞栓や高度狭窄による灌流圧低下により、右眼の一過性黒内障と、右中大脳動脈領域の虚血による左上下肢の一過性脱力をともに説明できる。したがって本症例で最も想定される病変である。
- ×c. 右内頸動脈終末部狭窄
眼動脈は、内頸動脈が海綿静脈洞を出た直後(サイフォン部の遠位、前床突起付近)で分岐する。内頸動脈終末部はそれよりさらに遠位で、前大脳動脈と中大脳動脈に分かれる直前の部分である。ここに狭窄があっても眼動脈への血流は保たれるため、左上下肢の脱力は説明できても、右眼の一過性黒内障は説明できない。
- ×d. 右中大脳動脈狭窄
中大脳動脈は内頸動脈終末部から分岐する枝であり、眼動脈よりはるかに遠位に位置する。右中大脳動脈狭窄では左上下肢の脱力(対側片麻痺)は起こりうるが、眼動脈の血流には影響しないため、右眼の一過性黒内障は起こらない。
- ×e. 右後大脳動脈閉塞
後大脳動脈は主に椎骨脳底動脈系から血流を受け、後頭葉・側頭葉内側・視床などを栄養する。右後大脳動脈閉塞では右後頭葉の障害による左同名半盲(両眼の左側視野の欠損)が典型的で、片眼のみの視力障害である一過性黒内障とは異なる。そのほか側頭葉内側障害による記憶障害、視床障害による感覚障害などを生じうるが、繰り返す左上下肢の脱力と右眼症状の組み合わせは説明しにくい。
一過性黒内障(amaurosis fugax)
片眼の視力が突然低下または消失し、数秒〜数分(多くは15分以内)で回復する発作である。「上から幕が下りてくるように見えなくなる」と表現されることがある。網膜の一過性虚血によるもので、網膜TIAともいえる。原因として最も重要なのは同側内頸動脈起始部の動脈硬化性狭窄からの塞栓であり、ほかに心原性塞栓、巨細胞性動脈炎なども鑑別に挙がる。眼底検査で網膜動脈内にコレステロール塞栓(Hollenhorst斑)がみられることがある。
内頸動脈の走行と主な分枝
総頸動脈は第4頸椎(甲状軟骨上縁)の高さで内頸動脈と外頸動脈に分かれる。内頸動脈は頸部では分枝を出さずに頭蓋内へ入り、海綿静脈洞内を走行したのち、サイフォン部の遠位で眼動脈を分岐する。さらに後交通動脈、前脈絡叢動脈を出し、終末部で前大脳動脈と中大脳動脈に分かれる。 → 眼動脈より近位(頸部内頸動脈など)の病変では「同側の眼症状+対側の片麻痺」が生じうるが、眼動脈より遠位の病変では眼症状は生じない。
内頸動脈狭窄症の検査と治療
・検査:頸動脈超音波検査(プラークの性状、狭窄率、血流速度の評価)、MRA、CTA、脳血管造影。 ・内科治療:抗血小板薬、スタチン、降圧療法、禁煙などの危険因子管理。 ・外科・血管内治療:症候性の高度狭窄では頸動脈内膜剥離術(CEA:carotid endarterectomy)が推奨され、手術リスクが高い例などでは頸動脈ステント留置術(CAS:carotid artery stenting)も選択肢となる。
TIAの考え方
TIAは脳梗塞の前触れであり、発症後早期に脳梗塞へ移行する危険が高い。原因精査(頸動脈病変、心房細動などの塞栓源)と早期の再発予防治療が重要である。
POINT
・一過性黒内障は同側内頸動脈系の虚血を示し、最も多い原因は同側内頸動脈起始部の動脈硬化性狭窄である。 ・「同側の一過性黒内障+対側の一過性片麻痺」は、眼動脈分岐部より近位の内頸動脈病変を示唆する。 ・眼動脈は内頸動脈のサイフォン部遠位から分岐するため、内頸動脈終末部や中大脳動脈の病変では眼症状は生じない。 ・後大脳動脈病変の視覚症状は同名半盲であり、片眼の視力障害とは区別する。 ・内頸動脈起始部狭窄の機序はartery-to-artery塞栓と血行力学的虚血の二つ。
