思春期の陰嚢激痛は時間との勝負―精巣捻転症を疑ったら迷わず手術室へ
第102回医師国家試験 I問題 第44問
国試問題にチャレンジ
14歳の男子。数時間前からの左陰嚢部の激痛を主訴に来院した。体温36.7℃。陰嚢の発赤および腫脹と精巣の腫大とを認める。 対応として正しいのはどれか。
- a.導尿
- b.経過観察
- c.陰嚢穿刺
- d.精巣生検
- e.緊急手術
対話形式の解説
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ドクターまとめ
思春期男子に突然の陰嚢部激痛が起こり、発熱を伴わず精巣自体が腫大している場合は、まず精巣捻転症を疑います。精索のねじれで精巣への血流が途絶えるため、おおむね発症6時間以内の整復が精巣温存のカギとなり、否定できなければ検査で時間を費やさず緊急手術で捻転を解除し精巣を固定します。背景にあるbell clapper deformityは両側性が多いため、対側の精巣も予防的に固定します。発熱や膿尿を伴いやすい精巣上体炎、無痛性の陰嚢水腫などとの違いを押さえ、経過観察・穿刺・生検は選択しないことを理解しておきましょう。男児の腹痛では陰嚢を診る習慣と「疑ったら手術」という判断の速さが、患者の精巣を守ることにつながります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・14歳男子(思春期)。 ・数時間前から始まった左陰囊部の激痛(急性発症の強い痛み)。 ・体温36.7℃で発熱はない。 ・陰囊の発赤・腫脹と精巣の腫大がある。
鑑別診断へのプロセス
急に痛みを伴って陰囊が腫れる状態を急性陰囊症といい、代表的な原因は精巣捻転症(精索捻転症)、精巣上体炎・精巣炎、精巣垂・精巣上体垂の捻転である。痛みの乏しい陰囊腫大(精巣腫瘍、陰囊水腫、鼠径ヘルニアなど)はこの経過には合わない。 ・精巣上体炎:尿路・性感染症として起こり、発熱や膿尿を伴うことが多く、痛みは比較的緩やかに強まる。性活動期の若年成人(クラミジア・淋菌)や中高年(大腸菌などの一般細菌)に多く、思春期前後では少ない。 ・精巣炎:ムンプス(流行性耳下腺炎)に続発することが多いが、耳下腺腫脹などの記載はない。 ・精巣垂・精巣上体垂捻転:学童期に多く、精巣上極に限局する圧痛や青い点状の変色(blue dot sign)が手がかりだが、臨床的に精巣捻転症との区別は難しいことが多い。 本例は、好発年齢である思春期に突然の激痛で発症し、発熱がなく、精巣自体が腫大していることから、精巣捻転症を最も疑う。
設問への考え方
精巣捻転症では精索がねじれて精巣への血流が途絶え、時間とともに精巣が壊死する。発症から整復までの時間が精巣温存の成否を決め、おおむね6時間以内(遅くとも10〜12時間以内)に血流を回復できれば温存できる可能性が高いが、24時間を超えるとほとんど救済できない。すでに発症から数時間が経過しており、精巣捻転症を否定できない以上、確定診断を待たずに緊急手術(陰囊を切開して捻転を解除し、精巣を固定する)を行う。手術で捻転がなかったとしても、診断をつける意味で許容される判断である。
選択肢考察
- ×a. 導尿
導尿は尿閉などで膀胱内の尿を排出する処置である。本例に排尿障害の記載はなく、陰囊内の血流障害に対して何の治療効果もない。
- ×b. 経過観察
精巣捻転症が疑われる状況で経過をみると、その間に虚血が進行し精巣が壊死して摘除を余儀なくされる。精巣捻転症は時間との勝負の泌尿器科救急疾患であり、否定できない限り経過観察は選択されない。経過観察や保存的治療が許されるのは、超音波などで精巣上体炎や精巣垂捻転と確実に診断でき、精巣の血流が保たれていることが確認できた場合に限られる。
- ×c. 陰嚢穿刺
陰囊穿刺は陰囊水腫(精巣鞘膜腔に液体がたまる状態)で貯留液を抜くときなどに行われる処置である。陰囊水腫は通常無痛性で、透光性のある腫大を示し、本例の激痛・発赤とは合わない。精巣捻転症の血流障害を解除する効果はなく、治療を遅らせるだけである。
- ×d. 精巣生検
精巣生検は主に男性不妊症で造精機能を評価する目的で行われる。精巣腫瘍が疑われる場合でも、陰囊から針や切開で組織を採取すると腫瘍細胞の播種やリンパ流路の変更を招くため行わず、高位精巣摘除術で診断する。急性の激痛を伴う本例に行う検査ではない。
- ○e. 緊急手術
精巣捻転症が疑われる場合は、速やかに陰囊を切開して精巣を観察し、捻転を解除して血流の回復を確かめたうえで精巣固定術を行う。血流が回復せず壊死していれば精巣摘除術となる。精巣捻転症の多くは先天的な固定異常(鐘の舌様変形:bell clapper deformity)を背景とし、反対側にも同様の異常があることが多いため、健側の精巣も予防的に固定する。発症から時間が経つほど温存率が下がるので、手術をためらわないことが重要である。
精巣捻転症(精索捻転症)の概要
精索が軸方向にねじれ、精巣動静脈の血流が障害される疾患である。好発年齢は新生児期と思春期(12〜18歳頃)の二峰性で、思春期例では精巣重量の急増が誘因とされる。睡眠中や早朝、運動後に発症することが多い。 ・鞘膜内捻転:思春期に多い型。精巣が鞘膜腔内で固定されず、振り子のように動きやすい先天的な形態異常(bell clapper deformity)が背景にある。この異常は両側性であることが多い。 ・鞘膜外捻転:新生児・周産期に多く、精巣と鞘膜ごとねじれる。
症状・身体所見
突然の陰囊部激痛(下腹部痛として訴えることもあり、陰囊の診察を忘れないことが大切)、悪心・嘔吐。患側精巣は腫大し、挙上して横向きになる。精巣挙筋反射(大腿内側をこすると同側の精巣が挙上する反射)は消失することが多い。精巣を持ち上げると痛みが和らぐ所見(Prehn徴候陽性)は精巣上体炎を示唆し、精巣捻転症では痛みが軽減しない(Prehn徴候陰性)が、鑑別の信頼性は高くない。
検査
カラードプラ超音波検査で患側精巣の血流低下・消失や、精索のねじれ(whirlpool sign)を確認できることがある。ただし初期や不完全捻転では血流が残ることもあり、検査で否定できなくても臨床的に強く疑われれば手術を優先する。検査のために手術を遅らせてはならない。
治療
・手術:陰囊を切開して捻転解除 → 血流回復の確認 → 精巣固定術(対側も固定)。壊死していれば精巣摘除術。 ・用手整復:手術までの間に、陰囊の外から精巣を回して整復を試みることがある。捻転は内側向きに起こることが多いため、通常は外側へ回す(本を開くように回す)方向で行う。整復に成功しても再捻転を防ぐため、後日あるいは引き続き固定術が必要である。発症から時間が経って腫脹が強い場合は整復が難しい。
時間と精巣温存率
発症から6時間以内に整復できれば大部分が温存できるが、12時間を超えると温存率は大きく低下し、24時間以上経過するとほぼ救済できない。この時間的制約から、疑った時点で泌尿器科への緊急コンサルトと手術準備を進める。
POINT
・思春期男子の突然の陰囊部激痛で発熱がなければ、まず精巣捻転症を疑う。 ・精巣捻転症を否定できなければ、検査で時間を費やさず緊急手術(捻転解除+精巣固定)。 ・温存のゴールデンタイムはおおむね発症後6時間。 ・背景にbell clapper deformityがあり両側性のことが多いため、対側精巣も予防的に固定する。 ・精巣上体炎は発熱・膿尿を伴い、性活動期の若年成人や中高年に多い。
